希望の地で
「姉ぇ。切りが無いよ」
砦に近付くほどに数が増しています。いいえ、周囲で戦っている精霊たちに比べて、明らかに多くの甲冑兵に取り囲まれていたのです。すぐ近くで火の下位精霊が火焔呪力で群がる甲冑兵を倒すのに追い回されています。
「藍! 後ろっ!」
戦闘機が錐揉みをして火の精霊との間を割って入って来ました。撃墜されたのか胴体が弾け飛んで煙を上げていたのです。
その隙を突かれて、甲冑兵に雪崩れ込まれてしまいました。私は咄嗟に後退をして、それでも攻撃の手だけは休めることはしませんでした。
バグァァアアンンンンーーーーーー!!!
突然、轟音と共に周囲に火花が閃光のように散ったのです。私も姉もすべてが、その火花の中で視界を失ってしまうほどの激しさでした。何が起こったのか。すぐには、私たちは状況が分りませんでした。
砦の瘴気が消えている。不気味な紋章で封印されている門が、私たちの前にはっきりと現れていたのです。恐怖を引き起こすおぞましい気が、直接に浴びせ掛けられる気持ちの悪さを感じます。この嫌な気分を放つものが月の魔人ヘカテなのでしょうか。実に禍々しく、実に不吉な感じがしました。
門への一斉攻撃が始まりました。
地・水・火・風・空の上位精霊が同調して呪文を唱えた時、核爆弾に匹敵するほどの爆発が起こりました。もちろん周囲を防御しているので、爆発の影響は周りにはありませんでした。
こんな光景を見てしまって、私は怖気づいてしまいます。いったいどれ程強力な敵を相手にしているのでしょうか。五人の上位精霊が揃ってしても、今まで勝てないのです。
「風の精霊たちよ」
天頂から声がしました。何度もそう呼び掛けられていたのかもしれません。茫然自失していて気付かなかったようでした。
「風の精霊たちよ」
その人は、風の精霊の頂点に立つ大精霊でした。
「聞け。今、月の食は開始された。我らに与えられた皆既の時はごく僅かだ。その時までにすべての門を破壊し待っておる。お前たちは必ずや、清水玄を連れて来るのだ」
そうなのです。ハルカさんを連れて来なければいけない。水平線から昇って来ている月を見ると、月食が始まっています。急がなければなりません。
しかし。
そうです。
しかし、なのです。
ハルカさんであってくれればいいのです。
しかし、もしもゲンさんであったなら。
清水ゲンさんであったなら―――
そんなことは考えてはいけません。
私はハルカさんを信じます。
信じています。
だから、必ず清水玄さんは来てくれる。
来てくれるのです―――
「翠姉ぇ。行こう」
私は力強く言いました。不安を払拭する為に。
砦の攻防は一層激しさを増してきています。絶え間なく閃光と轟音が続いているのです。そこを離れて、再び風の本殿がある神社に戻らなければなりません。皆の期待を背負って、この戦いを終わらせると、私たちは必ずやり遂げてくれると皆に信じられているのです。