わたしがいる場所で
「ごめんなさい、折角のお二人だけの旅行なのに。ハルカさん、一大事です」
ホテルの部屋の一角に広がって、空気を震わせて歪んでいく。その中にアイが現れていた。
「大変なんです。あちら世界への通り道が開いているんです」
アイの血相が変わっている。それは想定外の出来事だったのだ。
「どうして? あれはアイにしか開けられないんでしょ」
「そうです。私にしか出来ません。でも、完全に閉まっていなかったから、開けられてしまったんです」
「閉まってなかったって」
「何かがこちらとあちらを繋げていたんです。私はそれに気付かなかった」
「何かが?」
「あっ!」
僕は重大な失態を冒してしまっているのに気付いた。
「僕だ。僕が魔法で、ハルカをあちらの世界と繋げたままだった」
「そうだわ。あの時のおまじないなのね。ハジメくんが私の為にしてくれたのに」
無事に大鳥居に戻れるように、見えない糸でハルカと鳥居を結んだままだったのだ。
「すみません。僕のせいだ」
「私が気付くべきだったんです。自分の力を過信していたのが悪いんです」
「待ってよ。今はそんな事を言っている時ではないでしょ。通り道が開いていると、どうなるの?」
「中岡真白の部下がこちらに来ています。私たちを探して消滅させる為に」
「私たちって、この『わたし』たちってこと?」
ハルカは自分自身を指差して言った。
「それとも、もう一人の『わたし』たちなの?」
「あっ!」
僕とアイは同時に戦慄していた。こちらの世界には、もう一人の清水ハルカと佐藤姉妹がいる。そのどちらかを狙われたら、僕たちは万事休すだ。
「アイ。『わたし』のところに連れて行って」
「う・・・ん」
アイの歯切れが悪い。アイにとっては、このハルカが唯一の存在なのだ。決戦で必要となるのは、あのハルカではなく、このハルカだったのだ。
「分かりました。行きましょう」
空間が再び歪む。ホテルの部屋の壁に穴が開き、山林の向こう側に木造校舎の学校の風景が広がっていた。それはハルカにとって見慣れた景色なのだろう。懐かしそうな表情をして、ハルカは穴の中の山林へと渡って行くのだった。




