お酒を飲んだ店で
「ハルカってば、どうしたの? 何だかこちらに来てから人が違ったみたいだね」
ハルカは肉をせっせと焼いて、僕の口に直接放り込んできた。熱いじゃないか。慌ててお茶を飲み込んだ。
「あはははは、ごめんねぇ」
余計な事を言うんじゃないよ、ハジメくん。さぁ、お酒が来たよ。そんな感じだ。
「乾ーー杯ーー」
初めて飲むこちらの世界の酒。甘さ控えめで、殆どアルコールを感じない。梅ジュースを飲んでいるみたいだった。
僕は無感動で飲んでいる。あれ? ハルカは酒が初めてなのかな。
「美味しいね。やっぱりさ。仙台の牛タンだね」
焼いては食べて、食べては焼いて。梅酒ソーダと牛タンで、僕たちのお腹は大満足していた。
「ねぇ、もう一杯飲んでいい。店員さぁん、梅酒ソーダおかわり二つねぇ」
酔っ払っている。ハルカは酔うってこんな感じなんだと楽しんでいる。
「あと十日で私たちは死ぬかもしれないね。だから、乾杯しょ」
本当に楽しいのだろうか。そうだ。ハルカが言うように、あと十日だ。
ハルカの本心は怖いと思っている筈だ。泣き出したいくらいに怖い筈だ。それなのに馬鹿丸出しで自分をさらけ出している。それで僕に嫌われるならそれでいいと思っているのか。ハルカは弱い女の子なんだ。嫌ったりするものか。
僕だから安心してくれている。酒に酔っても、僕といるから心配なんかしていない。ハルカはぐるぐる回る目をして、ふらふらの足取りで炭焼き牛タン屋を出た。
「らいじおーふ、らいじおーふ」
「どこが大丈夫なんだよ」
僕は呆れているけれど、ちゃんと君を支えているよ。
だから、もっと甘えてくれよ。
「らぁって、ハジメくんがぁ、らいすきらから」
「はいはい、ありがとう。そういうことは、酔ってない時に言ってくれよ」
「言えなぁいあよ。あたしわぁ、おんらのこぉれすよぉ」
「はいはい。何だか知らないけど、はいはい、分かりました」
「わははは、ハァジメくん。はぁいわぁ、一回れぇいいんれすよぉ」
どこかに休まないと、ハルカの酔いは最高潮になっていた。わはははと下品に笑っている。女の子を自覚しているハルカは、そんな笑い方を嫌っているから絶対にしない。それは僕の独りよがりなのだろうか。
ホテルの部屋には、ベッドが二つあった。
ハルカがそこに飛び込むと、ふかふかのマットレスに体が沈み込んだ。
気持ちがいいのが分る。気分も目もぐるぐる回ったままで――
ハルカの意識が飛んでしまった。