業火の渦の中心で
本章の完結話です。
真白が業火の渦を全周囲に放った。空気の分子を燃やし、微粒子さえも残さず焼き尽くしていった。アイが操る風の媒体を失って窮する中、私たちは業火の渦に巻き込まれ逃げ場を失ってしまった。
アイが暴風のごとき息を吐き出して、業火を吹き飛ばそうとしているが、渦の勢力は強力で私とハジメの肌をじりじりと焼き焦がしていくのだった。
「熱い」
スカートの裾から煙が出ている。髪がちりちりと縮んでいく。息を吸う度に喉が焼けるような激痛がした。
悠然と構えている真白は、業火の渦の中心で次の攻撃を開始する。右手を高く掲げたその上空に、地上から土石が舞い上がり巨大な岩塊を作り出していた。
「佐藤さん。あれっ」
私は岩塊を指差して、危機を知らせたのだけれど、アイは業火を防ぐのに精一杯で、これ以外に構ってはいられなかったみたい。
土石が固まった岩塊は丸い形になっている。その大きさがあるものを破壊したものと一致していることに、私は気付いた。あの本殿を丸く削り取り、遠くの山まで破壊の痕を残したものと同じだった。
「あれが隕石の正体なのね」
岩塊が自転を始めている。破壊力を増すために回っているのだった。あれを防ぐことは出来ないのだと思った。そうでなければ、本殿は破壊されていない筈だから。
逃げることさえ出来ない状況にいる。業火の渦に取り囲まれて、押し流されないように留まっているだけでも容易ではなかったのだ。
「もう、防ぎ切れない。――ハルカさん。絶対にハジメさんを放さないでくださいね。この渦に飲み込まれても、しっかりと抱き締めていてください」
アイが苦しげに伝えてくる。力尽きようとしている表情は、それだけを言うのが精一杯らしく、励まそうとしてくれている笑顔も歪んでいた。
嘘!
私は信じられない言葉を聞いた気がした。アイは、風の精霊なのでしょう。精霊とは、この世界の最高位に存在しているのではないのか。絶対的な力を有していて、世界を作っているのではないのか。
しかし、それならば真白はいったい何なのだろうか。アイと同じく精霊なのだろうか。精霊同士でも力の差があって、戦い合うものなのだろうか。
突然私は業火の渦の圧力を受けて吹き飛ばされた。全身がバラバラになってしまう。まるで洗濯の脱水機の中に入った感じがした。業火が全身を包むが、アイが一緒にいて防いでくれているのが分った。
ハジメだけは放さない。手足がバラバラになろうとも、絶対に放さない。命懸けで私を助けてくれたハジメを、今度は私が救ってあげるんだ。そう決意していた。
真白の岩塊が移動する。まるでバットでボールを打ったみたいに飛び出した。巨大な塊が、考えられない加速度で向かってきたのだった。
高速自転する岩塊が業火の渦に接触すると、その炎を吸い込み表面をマグマのように溶かして突き進んで来る。私は地獄の光景を見ている気がした。
ごめんね、ハジメくん。
助けてあげるって誓ったのに。
ごめんね。
ガガガガガドドドーーーーーンンンンンッッッッ・・・・
真っ赤に焼けた岩塊が地上に炸裂した。激しい爆発が巨大な陥没口を作り出して、その衝撃が地震となって周辺地域を広く破壊し尽くしていった。
破壊の後は何も残さない。虚無でしかない。
―――――
「逃がしたか」
真白が苦々しく叫んでいる。核兵器の爆発があったかのように、キノコ雲が立ち上がっている。それを背景にして、真白が全身を震わせて悔しがっているのを、私は間近で見ていた。
まるで大画面の映画を見ているように。まったく違う場所から、私は世界の破壊と、それを実行した真白を見ているのだった。
「もう大丈夫です。あちらの世界の中岡真白は、こちらの世界には来られない」
アイが大画面の前で言った。
「こちらの世界?」
「そうです。ここは、ハルカさんの世界です」
大画面の映画が消えていく。
そして、私の目の前に現れたのは、人々が行き交う摩天楼の世界だった。
次章は、ハルカの心が揺れ動きます。




