親友の世界で
「久しぶりだね、ハルカ」
それは少し大人になった中岡真白の声だった。
「真白。生きていたんだ」
幽霊になった筈の真白が目の前にいる。こんなに嬉しいことはない。図書館にいた幽霊なんかではない。本当に生きている生き生きとした真白がそこにいた。
「ハルカ。ここで死になさい」
私にはその言葉の意味が、すぐには理解できなかった。懐かしい真白の言葉は、私の思いとは全く逆の怒りに満ちたものだった。
目を細めて真白が笑うと、十人の甲冑の男たちに合図を送った。私を取り囲んでいる全員が一斉に腰に提げた分厚い拵えの剣を抜く。
「真白。嘘だよね。これって冗談だよね」
喉元に突き出されている十の剣先に、私は身動きも出来ない。少しでも動けば、鋭い刃に肌が切り裂かれてしまいそうだった。
「嫌よ。止めさせてよ、真白。殺す筈ないよね」
殺人なんて有り得るわけがない。ここへ来て多くの人が爆発によって死んでいる。それを目の当たりにしていたのだけれど、私には現実味が無かった。心の中で別世界の出来事だと軽んじていたのだ。
「お願い、真白。この人たちを止めさせて」
いつまでも目を細めたままで笑っている真白。私が懇願しているのが聞こえないかのようだった。
「魔族がこの地に入るは、死を以て償うべし!」
甲冑の男たちが揃って言い放った。決して越えてはならない境界を越えた罪なのである。私は観念するしかなかった。抵抗するにも、何の力も持たないひ弱な女の子でしかなかったのだから。
真白が顎を上げて、私を見詰めている。まるで虫けらでも見ている眼つきだ。どうしてそんな目をしていられるのだろうか。私をハルカと呼んでくれた友達ではないのか。それなのにこの仕打ちは余りに信じられなかった。
「真白。これがこの世界での、あなたなのね」
唇を噛み締める歯に血が滲んだ。こんな所で死んでしまう私が許せない。元の世界に戻る筈ではなかったのか。その為に――
「ハルカーーーーッッ」
頭上からハジメの声が聞こえたと感じた次の瞬間、目の前で男たちに立ちはだかるハジメの後ろ姿を見た。全速力でハジメが私の前に天空から降り立ってくれたのだった。
「君を助けるって誓ったんだ。だから絶対に僕は諦めない」