満月の教室で
小学五年生の教室の窓からは、満月が青白く輝いている。机を窓に引き寄せて、窓硝子を全開にして二人で身を乗り出しながら、この綺麗な月光をたっぷりと浴びた。
お互いの顔を見つめ合うと、いつもとはまるで違う表情に見える。昼間の健康的で紅潮している肌の色が、鋭い影の血の気を失った色に変化している。手を差し出して相手の頬にそっと触れると、冷たい体温を感じた。
「はるかちゃんの手は暖かいね」
誰もいない学校に、二人だけで忍び込んだ。共に居場所がないこの場所は、この時間だけが唯一の幸せになった。
「ねぇ、見て」
机の上に立ち上がると、全身が窓の外の月明かりに浮かび上がる。白いポロシャツと黄色い半ズボンの綺麗な影が、細い手足の女の子を妖しく輝かせている。
「はるかちゃんが一緒に来てくれるなら、許してあげるよ」
ゆっくりと月を指差していく。
「あそこに行きたいね。海と山があるよ。うさぎさんに見えるのが海。静かの海って名前、素敵じゃない?」
月を見上げている真白の顔を見詰めている私は、心にぽっかりと穴が開いてしまっている。昼間の私は、この女の子に本心に偽ったまま接している。それなのに私を受け止めてくれていた。
「ましろちゃん――」
私は真白が立っている机に昇った。
「一緒に月に行こうよ」
私は真白の肩を抱き寄せて呟いていた。
「うん」
真白の眼の下にホクロが並んでいる。真っ直ぐに並ぶ五つのホクロが、満月に向かって天駆ける。私はそれを追って飛翔する。
月光が輝く中で、月だけが二人の姿を見守ってくれていた。
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