爆弾に囲まれる空で
爆弾が空気を切り裂きながら、私たちに向かって来た。ハジメが翼を羽ばたかせて、爆弾の隙間をかわして逃げ続けた。
しかし、―――
ドッカーーーーンッッッ・・・
避けた筈の爆弾が私たちのすぐ近くで爆発して、それに誘発して他の爆弾も一斉に火を噴いた。
ズドドドーーーーーンンンンンッッッッ・・・・
私はもう死ぬんだなって観念した。周囲が炎に包まれて、前後左右上下。どこにも逃げ場がなかったんだから、ハジメも観念したんだって思った。
だけど、そう思ってしまったのは、私だけだったんだ。ハジメは大きな翼を私に巻き付けて、私の全身を包み込んでくれていた。自分を犠牲にして、私を救ってくれようとしている。
駄目だよ、ハジメ。私にはそんなことをしてもらう価値がないんだよ。
「諦めるな、ハルカ。君は元の世界に帰るんだろ」
炎の中を私たちは落下して行った、火の海になっている境内に向かって。半分残っていた本殿も、今は跡形も無くなってしまっている。瓦礫が無残に残っていて、建物がそこにあったことを証明していた。
地上に落ちる寸前で、ハジメは大きく翼を広げて、呪文を唱えた。翼はどこもかもが羽が焼けてしまっていて、もう飛べる状態にはなかったのだ。
飛翔術の呪文は、私をまた助けてくれた。翼が無くても呪文で飛べるのだった。ハジメにとっては呪力の消耗になってしまっていた。
「あいつらが襲って来たんだ」
ハジメが拝殿とは反対方向を向いて言う。そこには、十人くらいの人がスケートボードみたいなものに乗って空中に浮いていた。
「逃げよう」
本殿の奥の破壊の爪痕が残る山を目指して飛んだ。翼とは違う飛翔術は、とても速い。風を切って、耳鳴りがした。
「駄目だ。追いつかれる」
爆弾が手を伸ばせば手が届く位置まで近付いている。爆弾というよりも、ミサイルみたいだった。実物なんて見たことはないげれど、映画で見たようなミサイルがお尻から火を噴出させて飛んでいた。
「ハジメくん。右から来るよ」
「分かってる」
「次は左だよ」
「右、右」
「左よ」
私たちはきり揉みをしながら、ギリギリでミサイルを避け続けた。でも、それにも限界がある。いつまでも逃げ続けるのは不可能だった。ハジメの呪力にも限りがあるのだけれど、近くでミサイルが爆発する度に、私たちは確実に全身を負傷していたんだ。
二人でいては助からない。二人で飛んでいては逃げ切れない。でも、ハジメ一人だったら助かる。ハジメ一人だったら、もっと速く飛べる。こんなミサイルなんかよりも、もっと速く飛べるはず。だから、私はここでお仕舞いです。ハジメには絶対に助かって欲しいから。
「ありがとう、ハジメくん。キミだけは絶対に助かってね」
私はハジメの背中に回していた腕を放した。地上へと落下して行く私は、十人の破壊者たちに捕獲された。
私はこれでいいと思った。だって、ハジメは逃げられたんだから。これで十分だよ。こんな私の為に、ここまでしてくれたハジメに会えて幸せだったと感じたんだからね。ありがとう、ハジメ。もう一人の男の子の私。
十人の破壊者たちが私を取り囲む。厳つい甲冑に身を包んだ無骨な男たちのようだった。遠くの空には、ハジメが旋回して私を心配してくれているのが見えた。この男たちは私を捕まえて、ハジメには何もしないと分かったので、私はホッとした。これで良かったんだと安心した。
男たちに取り囲まれたまましばらく経った時、もう一つの人影が天空に見えた。この人は男たちとは違って甲冑を付けていなかった。長い髪と豊かな胸。女が空からやって来た。
男たちが揃って頭を下げると、その女を迎え入れた。
「久しぶりだね、ハルカ」
女の眼の下には、耳に向けて均等に並ぶ五つのホクロがあった。
―――