野球部の練習場で
カッキーーーンッ
金属バットが小気味良い音を立てていた。打球は目で追わなくても、音だけでホームランだと分かった。グラウンドの向かい側から女子たちの大歓声が上がる。二年生の野球部レギュラーが、ガッツポーズを決めながら走者を一掃させていた。
マウンドで両膝を突いて力を失っている投手は、天を仰ぎ己の実力を思い知らされていた。会心の一投が、いとも簡単に下級生に打たれたのだ。仕留めるつもりが、逆に野球人生の終止符を打たれる結末となった。
「終わったな」
「ああ、終わった」
「これで高橋も未練はないだろうさ」
こちら側の人影の少ない応援席で、クラスの男子たちが当然の結果だといった調子で拍手をして見送っていた。
「ゲン。帰ろうぜ」
「そうだ。敗者に対するそれが礼儀って言うもんだ」
北野と柴本が冷たく言っている。でもその表情は何故だか温かかった。それなら高橋を元気付けてあげればいいじゃないか。俺はそう思ったが、皆にはそのつもりはないらしい。
「可哀そうに思わないのか?」
俺はそう言った。
「でも、慰められる方が、もっと可哀そうだって思わないか」
「慰めて欲しい時は、誰だってあるんじゃないのか」
「高橋はそんなことをされたくないよ。あいつはそういう男だ」
「そう言う男だって? そう言う男って何だよ?」
「いいから、帰ろうって言ってるんだ」
俺は高橋が可哀想でならない。小中高、ずっと野球一筋だったと知っている。投手として頑張って来たのに、何か一言でも声を掛けてあげて、少しでもその悲しみを共有してあげたかった。
そうしようと思っているのに、強引に俺は肩を掴まれてグラウンドを後にさせられた。容赦なく学校から連れ出され、駅前まで連れて来られた時やっと解放された。
ここまで連れて来られては、俺ももう戻る気は無くなっている。高橋だって今更来られたって仕方ない筈だ。こんなことになるのなら、あいつらを誘わなければ良かったと後悔した。高橋からむさ苦しい応援なんかいらないと言われていたのに、俺が一方的に連れて行くように仕向けてしまったのだ。責任を感じてしまった。