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三番目の淫魔姫  作者: 素浪臼
PROLOGUE
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001 前世は眠りて、そして ~Hush-a-bye Before~

 二つの掌の上に溢れんばかりに咲き乱れた真っ赤な花――それがオレが最期に見た光景だった。


 どうしてこんな事になってしまったのだろう、オレは……ボクは――


貴方あなた、このままだと碌でもない最期を迎えてしまうわよ」


 そう言って何年も前から、あの子たち・・・・・に何度も忠告されていたのにも拘わらず、運命には逆らえないまま予告されたとおりオレの人生は――ここで終わってしまう、らしい。


 網膜に映し出した、真っ赤に染まった両手を見つめながら感じたのは――とても大きな痛み、そうとても大きな痛みだった。

 その痛みとは、全身を引き裂くような激しい身体の痛みだけではなかった。もう一つは、心の痛み――後悔? 罪悪感? 悲しみ? 果たしてそれが何なのかは忘れてしまったが、それは色んな感情が綯交ぜになった心の痛み、だった。その心の痛みと共に、親しくしてくれた人たちの顔が次々と思い浮かぶ。

 

(ああ、そんな×××××××▲▲、×××××××××だから。××××××に×××××××××××オレの××××。

 ××××××××ゴメンよ●●、やっぱり×××××××××? ××××××××××いるの? オレは×××××××。ハハハハ、こんなの×××××××? 

 ★★よ、お前が××××××××××××。ハハハハ、ホント×××××××。×××××に××××××××だよ。

 ◆◆×××……××××××××で×××××××に×××××××ゴメンな。××××××××××も×××××××かも××××××、君と××××××××××だよ)


 それから――


(ゴメンよフィリア。せっかく君たち・・・が忠告してくれていたって言うのにさ。オレは×××××××××××××××××××××××だよ……)


 そして――


(×××××××、◎◎よ。×××オレを××××××ありがとう。そして、さよなら……)


 そうして一通り反省と謝罪を終えると、心の何処かで「ボクはこの空虚で苦しいだけの生から、やっと解放される」という身勝手な安堵の気持ちを抱きながら、意識が途絶えたのだった……。


 これがオレが覚えている生きていた時の最期の記憶だ。



 そうしてオレだった・・・・・ものは肉体を離れ――

 闇へ闇へと、

 深く深く、

 果てしなくどこまでも、 

 何処かへと深く堕ちて、

 沈んで行く――

 

 魂があったのは意外だった。だがやはり、あの世なんか無かったらしい。こうして個としての魂は意識が段々と消えて行き、その魂もやがて無に帰するのだろうか。

 そこはいつの間にか、闇から無色透明な空間に変わっていた。静寂(しじま)が支配する、水底のようなこの世界で揺蕩たゆたって、かつてオレだった・・・・・ものの意識は漂白されながら、やがて消えて――ってあれ? おかしいなまだ意識があるぞ?


 未だに意識を維持したまま俺の魂は、揺蕩たゆたいながら無限の底無し沼へ沈んでいたかと思いきや、今度は光の大河の濁流に飲み込まれて何処か遠くへと流されて行く。

 オレだった・・・・・ものは、光の濁流に身を任せて、意識を残したまま悠久とも思える刻を過ごしているにも拘わらず、肉体的欲望から解放されたからなのか、退屈感を抱くことはなかった――っていうかオレの存在(意識)っていつになったら消えるんだろうか? もういい加減さっさと永眠させて貰いたいのだが。


 長かった光の濁流から抜けると、そこは再び闇の世界だった。そこでもオレの存在は残ったままだったが、しかし何故だろうか、そこはとても安らげる場所だった……そして溢れる光が俺を包み込み――


 半ば眠ったままの状態でオレは、そこで声を聞いていた――


 

 Dormi, dormi, Un bambino carino,

 Abbracciato dal petto di tua mamma,

 Ascolta una canzone dolce,

 Facciamo un bel sogno in una culla.


 それは歌だった――


 Dormi, dormi, abbracciare l'amore,

 Avvolto nelle braccia di tua mamma,

 Senza dormire tutta la notte,

 Sarò il tuo guardiano dei tuoi sogni.


 とても温かくて――


 Dormi, dormi, gli occhi e vai a dormire,

 cosa meravigliosa ti aspetta la mattina.

 I bei gigli stanno fiorendo,

 Per favore Mostrami un bel sorriso.


 優しさに満ちていて――


 そんなとても慈愛溢れる歌声を聞きながら、オレの心は安らぎ眠気を覚える……。


(ああ、これで本当に永眠出来ねむれるんだな)


 長い長い魂の旅を終えたオレは、こうしてやっと深い眠りについたのだった――


 そして時は再び流れて――



    ★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★



「――って、どーゆーことだよっ……!!」


 愛らしいその声でオレは目醒めた――


 最初にオレが見たのは見知らぬ天井だった…………だなんてことは無かった。

 そこはオレが目覚める直前に、あの子たちから・・・・・・・基礎知識スターターキットとして送られた記憶・・・・・・で以って、よく見知った光景なのであった。

 そんでもってこの体・・・が眠っていたのはふかふかな褥台ベッドの中だった。

 それにしてもなんとまぁ不思議な感覚だよな。直接自分が経験した訳でもないのに、実際に体験したことのように見知らぬ記憶を自分のものとして知っているなんてさ……。


 先ず確認の為、我が両手を見てみた。

 小さな手だった――キズ一つない白い手のひらと、繊細な指先とよく手入れのされた爪……生まれてこの方、スプーンやフォークよりも重たい物を持ったことがないと言われたら信じてしまいそうな程、とても華奢で綺麗な手だった。


 次にオレは掛布(デュベット)毛布(ブランケット)――二枚掛けされた肌触りのいいそれを撒くりながら、ゆっくりと上半身を起こすと、きょろきょろと辺りを見回す。

 ふーんなるほどねぇ……ここがあの子・・・ベッドルーム(閨房)って訳か。

 オレが眠っていたところは、もの凄く豪華なレースカーテン&天蓋付き褥台ベッドの中だったりする。

 それにこの褥台ベッド自体の大きさも異常だ。夜のプロレス(2P)どころか、余裕でバトルロワイアル(複数乱交プレイ)が可能な程にデカい。


 こんだけ褥台ベッドが大きいと、毎日のシーツの取替えや洗濯、ベッドメイキングをするのもかなり大変だろうなぁ、などと思ってしまうのは決してオレが貧乏性だったからではないと思いたい。

 とは言え、かすかに覚えている前世のオレが住んでいたところって、確か築五〇年のボロアパートの狭い1Kだったハズなんだ。多分この褥台ベッドだけでも軽くあの部屋の面積よりもデカいんじゃね?


 さらにこの超豪華な天蓋付き(お姫様仕様)褥台ベッドが置かれた部屋も途轍もなく広そうだ。これって果たして何LDK分あるんだろうか。

 バトルロワイアル(複数乱交プレイ)どころか、何十人と入り乱れての場外乱闘(乱パ)が出来そうだな。防音もしっかりしてそうだし嬌声上げ放題だろうな……ん? なんだろう、なんか心に引っかかるが……ま、いっか。



 さーてと……こんなところでいつまでも呆けていても始まらない。取り敢えず褥台ここを出よう。

 オレは体をのそのそするすると横滑りさせて――っていうかこの褥台ベッドでか過ぎて端までが遠いんですけど! そんなこんなでなんとか端まで辿り着いて褥台ベッドを降りると、裸足のままの両足をちょこんと床に付けて立ち上がる。


 褥台ベッドの回りを見回すと――部屋の中には西洋骨董品(アンティーク調)っぽいもの凄く高価そうな家具や調度品がいっぱい飾られている。白い漆喰と大理石の壁と、ふかふかモフモフの絨毯カーペット

 ドアの側の左右には石膏像を載せるような石柱型の台座があり、その上には門番よろしく色違いのうさぎのヌイグルミが二体鎮座していた。


 高い天井にはシャンデリアがあり……ん? 明かりが点いていない? 

 しかも窓辺には分厚いカーテンが掛かっていて外光を遮っているってことは、今ここって暗いんだよな? なるほど、どうやらこの体は夜目が利くらしいな。


 褥台ベッドの脇に目を向けると、そこには三面張りの姿見が置かれていた。

 オレはそこへとトコトコトコと数歩前進して鏡の前に立った――


 泡雪のように白い肌に細い手足、腰まで伸びた青みを帯びた銀髪プラチナブロンド、すっぴんなのに光沢のある潤いを含んだ唇、ハシバミ色ヘーゼルナッツの左眼と、スミレ色の右眼という左右色違いの瞳。確か虹彩異眼オッドアイと言ったか。


 そこに映っていたのは見た目は人間ニンゲンでいうところの十二、三歳で……精巧な芸術品のように怜悧な美貌の少女だった――人形と言えば、かつてオレはデートで現代芸術人形展に行ったことを思い出した。この少女のその相貌とその肢体は、あの時見た球体間接人形を彷彿させる美しさだ。


 この人形然とした少女は――それは正にかつてオレが夢の中で何度も会ったことのある、よく見知った……いや一部特徴に差異はあるものの、鏡の中から凛とした眼差しでこちら見つめ返す、その少女は間違いなくあの・・フィリアだった……。



 この長い夢路を終えて――


 この新たな肉の身体うつわを得て――


 この次なる苦界へと帰還を果たしたその瞬間――


 オレが三番目のフィリア(オレ)として目覚めた、この時――


 ここから淫魔姫ラスト・プリンセスの物語は始まったのである。

掲載した詩:シューベルト作曲/作詞者不明『Wiegen(ヴィーゲン)lied (リード)

イタリア語訳詞:Google先生



次回ステータスオープン! 乞うご期待!!


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