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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
最強はだれだ!?王位決定戦!
84/88

魔王リリ!?

 

 準決勝が無事終了した翌日。

 

「…こんなにのんびりしていてもいいのでしょうか?」

「いいんじゃないですか?私たちの戦い方は変わらないですし、一日特訓してどうこうできる相手じゃないですよ。リリとトトちゃんは。だからまったり体力を蓄えましょう」

 

 一日休日を挟んで、明日が決勝戦だ。


 準決勝のアラタくんとおじいちゃんとの試合は時間こそ短かったけど、たぶん人生で一番集中した一分間だった。

 

 それだけに体力の消耗が思った以上に大きかったのだ。

 だから今日はベッドの上でルル様と二人きりでのんびりしている。

 

 私は背中に枕を置いて長座位の姿勢。

 そしてルル様は、私の足と足の間にすっぽりと収まり、そのルル様を後ろから抱き抱えてまったり過ごしている。

 

 ルル様が話しかけてくるたびに上目遣いで振りむいてくるのが可愛すぎる。

 

「今日はリリちゃんたち遊びに来ませんねー」

「明日戦いますからね。遊びには来ないでしょう。でも、この後会う予定がありますけどね」

「…緊張します~」

 

 リリとどんな用事で会うかというと、夕食後にルル様のお父様…つまり現王に呼び出しを受けているのだ。

 

 明日の決勝戦後、そのまま王が交代するからたぶんそれ関連の話だろう。


 ちなみにルル様は王様と戦った日に少し話をした以来、一度も王様と会話をしていないらしい。

 そのせいかルル様はかなり緊張している様子。


「はぁ…幸せ…」

「(そわそわ)」


 私はルル様を後ろから抱きしめているおかげでみるみる幸せゲージが上がっているけど、ルル様は心ここにあらずだ。


「あのぅ…クロさん?じっとしていると緊張しちゃうので、お散歩にでも行きたいのですけど…」

「えぇ…嫌だなぁ…このままがいいなぁ…」

「リラックスしすぎですよ!?」


 だってねぇ…私はこのまま一日過ごしたら、絶対明日を最高のコンディションで迎えられると思うんだよね。

 でもやっぱりそれだとルル様が可哀想なので外に出ることに。


 部屋着から外着に着替える。


「…ルル様。そのサングラスはどうしたんですか?」

「これですか?コロちゃんから借りました!」

「ええ…」


 ルル様がいかついサングラスをかけて、決めポーズをキメている。


 聞くと、コロさんが村にこっそりと潜入するときに使っているものらしい。


 …あの見た目(オールバック+長身)でサングラスつけるとか完全にヤクザだ。

 しかも村の人口は少ないんだからすぐにバレるだろうに。角とか尻尾とか生えているし。



 まぁそこは置いておいて、ルル様がコロさんに街で目立ってしまうと相談した時に貸してくれたみたいだ。


 口調や見た目は怖いけど意外と優しいコロさん。


「どうですか!?私だって一見わかりませんよね!?」

「そうですね…たぶん?」

「クロさんのもありますよ!」

「えぇ…」


 笑顔でサングラスを渡してくるルル様。

 私サングラスは苦手なんだけどな…なんか見づらくて。


 でもせっかくのルル様の行為を無下にはできないので付けてみる。


「似合ってますよクロさん!」

「嬉しくないですね」


 ともあれ、変装しないと外に出ずらくなるまで有名になったのは良いことだ。


「さて!行きましょう」

「はい」


 いざ街へ。


 城を出て大通りを歩いていく。


「それで、どこに行きたいのですか?ルル様」

「予定は未定です!」

「そうですか。ではぶらぶら歩きましょう」

「はい!」


 二人でお店を眺めたり道行く人を観察したりしながら練り歩く。


 そうしてデートを満喫していると、公園を見つけたので入ってベンチに座る。


「たまにはこうやって予定なしに歩くのも楽しいですね!」

「そうですね。この国がどんな国か見えてきますよね」


 道端で筋トレをやっている人が多いこと多いこと。

 あとは飲み屋の前で喧嘩している人も多いし、タンクトップが多い。


 短気な筋肉マンばかりだ。きっと人口の9割くらいそんな感じ。


「でも、明日の決勝戦で王様が変わりますからね!こんな風景もなくなるかもです」

「ルル様が王様になれば確実に変わりそうですね」


 ルル様の目指す国は「誰もが幸せに暮らせる国」だ。


「力こそ正義」の今の国とは方向性が180度違う。


 当然、国民の暮らし方、考え方も少しづつ変わっていくのだろう。


「リリちゃんがどんな王様を目指すのかわからないですけどね。もし私たちが負けて、リリちゃんが王様になったらクロさんはどうしますか?」

「どうもしませんよ。私はルル様に従うだけです。ルル様がリリのことを手伝うというのであれば手伝いますし」

「リリちゃんの手助けはしたいですねぇ」

「それがルル様の理想とはかけ離れていてもですか?」

「はい」

「…そうですか」

「可愛い妹ですからね!クロさんもサポートよろしくです!」

「わかりました」


 明日どちらが勝つにせよ…私は新しい国造りの仕事をしないといけなくなりそうだ。

 忙しそう。




 それからは世間話をしたり、歩いている人を観察したり、ぼーっとしたりしてのんびりと過ごした。


「ルル様。日が暮れてきましたしそろそろ帰りましょう。起きてください」

「…ふわぁ。いつの間にか眠ってしまっていたのですね」


 私の肩に寄りかかって眠っていたルル様を起こしてお城に帰る。

 帰るころにはすっかり辺りも暗くなっていた。


「一日が過ぎるのがあっという間ですね」

「ですね。まだ王様と会う予定がありますが」

「は!?忘れていました!」


 急にそわそわしだすルル様。


 

 夕食中も気が気でない様子だった。


 そしてついに王様との約束に時間に。

 部屋で固まっているルル様を催促する。


「ほらルル様。そろそろ行かないと」

「……」

「聞いてますかー?」

「聞こえてますよ!でも心が部屋から出たくないと叫んでいるんです!」

「意味不明なことを言っていないで行きますよ」

「ああああああああ!!」


 ルル様の手を引いて部屋を出る。

 ガチガチに緊張しているのかロボットのようになっているルル様を連れて庭園に出ると、すでにリリとトトちゃんは到着していた。


「遅かったじゃないの!」

「ルル様が駄々をこねていたからね」

「ちょ!クロさん!妹に私のダメなところを教えないでください!」

「「「何を今さら」」」

「ひどい!」

「…騒がしいぞ。一応夜なのだからもう少し静かに話せ」

「「お父様!」」


 四人でいつものように話していると後ろから王様がやってきた。

 やっぱり大きくて、なんというか貫禄がある。


 四人一列になり自然と姿勢もよくなる。特にルル様は足がガクブルしている。


「そう気を張るな。すぐに終わるからな」

「「「はい」」」

「…(無理ですよぅ)」

「それでお父様?何の用かしら?」

「ああ。察しはついていると思うが…王位決定戦についてだ」


 このタイミングだとそれしかないだろう。王様が続ける。


「明日の決勝戦の勝者がそのまま王になる。つまり私の後継だ。そこで…今一度問いたい。お前たちに王になるという責務を全うできるのか」


 王様がルル様とリリを交互に見る。

 リリは毅然と、ルル様はおろおろしながら。けれども同じ言葉を話す。


「あるわ!」

「あ、あります!」

「ふむ…では、王になった暁には、どんな国を作りたいと思っている?」


 王様がルル様を促す。

 頑張れルル様!


「わ、私は!誰もが幸せに暮らせる国を目指します!」

「ほう。リリはどうだ?」

「ふふん。私は最強国家をつくるの!そして全ての国を統一するわ!人間国も、獣人国も、魔国領も、海もすべて手に入れるの!!」


 おおぅ…リリが目をキラキラさせながら夢を話す。


「あと四天王とか八人衆とか十勇士とかの役職を作って、その肩書をかけて国民全員を戦わせるの!どう!?とっても素敵な世界じゃない!?」

「「「「………」」」


 あかん…明日私たちが負けると魔王が誕生してしまう…

 王様も引いている。


「…ゴホン。まぁ各々未来のことをきちんと考えているようで安心…したぞ…いや、安心できないが…」

「トトちゃん。ご主人様が危険な思想を持っているんだけどどうなの」

「拙は…やりすぎた時だけ諫めるつもりですぞ」

「結構肯定的なんだ…」


 ヤバい…明日負けられない…戦争始まるやつだコレ。


「うむ。リリとはあとでゆっくり話し合いをするとして…とにかく私が今日言いたかったことは、どちらが勝つにせよしばらく私が王の仕事を全面的にサポートするということと、負けた二人も協力してほしいと言うことだ。特にリリが優勝したら…ルル、クロネ。お前たちがしっかり制御するんだ。わかったか?」

「「はい」」

「あたしは簡単には制御されないけどね!」

「…とにかく明日はお互い正々堂々とな。私からは以上だ」


 そう言うなりさっさと帰ってしまう王様。

 相変わらずそっけない王だ。


 そして王様の姿が見えなくなった後、リリが手を出してくる。


「明日は本気で戦いましょう?」

「うん」

「わかりました!」

「はいですぞ」


 四人で手を握り合う。

 最後に戦うのがずっと一緒に旅をしていた仲間だとはね…でもそんな気はしてた。


「それじゃあね!次に会うのは決戦の場よ!トト。行きましょ」

「はいですぞ」

「…私たちも帰りましょうか」

「はい。しっかり寝て明日に備えましょう!」


 リリとトトちゃんが帰っていくので、私たちも部屋に向かうことにした。


 リリたちとは国に戻る前に一度戦っている。

 その時は決着がつかなかったけど、リリは本気を出していなかった。


 そのリリが明日は本気でやると言ったのだ。あの時よりも気合を入れないとあっという間に負けてしまうかもしれない。


 あとリリの考えを今日初めて聞いたけど…アレは本気だ。

 もしリリが勝ってしまったら…この国はルル様とは正反対の覇道を歩むことになるだろう。


「ルル様…明日は絶対勝ちましょうね」

「はい!」


 この国の未来が決まる決戦の日が目前まで迫っていた。

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