決着!従者対決
トトちゃんVSルーの試合は、ルーの多彩な攻撃で常にトトちゃんが劣勢の試合展開だったが、トトちゃんがまさかの口寄せの術を発動。銀狼フェリルを召喚し勝負は後半戦へ。
「トトちゃんの召喚した魔物さんはとっても強そうですねえ」
「はい。並々ならない存在感です」
「その通りよ二人とも!フェリルはトトの切り札にして最強の魔物よ!」
「リリちゃん?どうしてここに?」
「暇だからこのあたしが解説してあげる!」
どうやらリリはあの魔物のことを知っているようだ。
何故リリが私たちのいる場外近くにいるのかというと…本来はタッグマッチなのだが、今回はトトちゃんとルーに試合が委ねられたためにリリとネネ王女も観戦する形となったからだ。
ネネ王女まで私たちの傍まで近づいてきた。
「私も知りたいわね。あの魔物が私のルーの脅威に成り得るのかを」
「いいわよ。ネネ姉様にも特別に教えてあげる!フェリルは、トトの家系を代々守っているご先祖様らしいわ。現役のね」
「はえ~。長生きさんなんですねぇ」
ルル様が感心している。
トトちゃんのご先祖ってことは、狼じゃなくて犬なのか。体格が五メートルくらいあるからわからなかった。
更にリリの説明が続く。
「ただ、呼び出していい時は限られているの」
「どんな時なんですか?」
「不可能を成し遂げようとするとき。みたいね!」
「不可能を成し遂げる…」
「つまり、トトはこの勝負、自分の力だけでは勝てないと判断したようね」
「いい判断ですわ。生半可な力では私のルーに勝てないのは当然ですから!」
ネネ王女が自慢げに頷いている。まぁ納得の強さだけれど。
近距離の弓の技術は一級品、それに加えて自由に動き回る剣フラガラック、遠距離で無双できる銃タスラムと隙が無く、間違いなく今大会屈指の猛者だ。
「それで、肝心の強さはどれくらいなんですのよ?リリ」
「それがあたしにもわからないのよね。気軽に呼び出せないらしいから、あたしも見るのはこれが初めてなの」
「つまり、どれくらい強いかはこれから見るしかないってことですね!注目です!」
四人の視線がフェリルへと向かう。
そのフェリルが早速動き出した。
「………」
「正面から来るのですか。自信満々なのですよこのボスキャラ!」
まっすぐルーに向かっていったフェリルをフラガラックが自動迎撃する。
それを無視して突撃しようとするが…
「タスラム!」
「!」
ルーがタスラムの弾を撃ち、フェリルが回避する。
銃を見てから避けた!?
一旦トトちゃんのところまで後退し、フラガラックに傷つけられた箇所を確認するフェリル。
「む…我に傷をつけることが出来るとは思わなかったぞ」
「あの剣に傷つけられると回復しないようなので、気を付けてくださいですぞ。フェリル殿」
「ほう。通りで再生の兆しがないわけだ。確かに、あの者に勝つのは容易ではなさそうだ」
「はいですぞ」
「我も少々本気で相手をせねばならんようだ」
そうフェリルが口にした直後、威圧感が一段と増す。
「おぉ…これはルーもますます気を引き締めない…とぉ!!??」
「遅い」
フェリルがまるで瞬間移動でもしたかの如く、ルーの目の前まで一瞬で移動する。
それに咄嗟に反応し槍を突き出すルー。
だがその槍をフェリルはなんと歯で噛みつき、そのままルーを空中に放り投げる。
「うわ!なのですよー!」
「【煉獄弾】」
「ルー!避けて!」
フェリルが口から真紅の火炎弾をルーに向けて吐き出す。
空中では回避もままならないだろう。ネネ王女が思わず叫ぶ。
その叫びに応えるように、ルーが地面に槍を投げ…
「【アスィヴァル】!!」
『なんとルー選手!空中に放り出され回避不可能かと思われましたが、槍を地面に突き立て、使用者を槍の場所まで瞬間移動させる【アッサルの槍】の特性を上手く活かして回避に成功したぁ!!』
「タスラム!」
ルーならではの方法で空中からの回避に成功し、そのまま弾丸をフェリルに打ち込むが、それすらも歯で受け止め噛み砕くフェリル。
「な!?」
「ふん。不味いな」
「…当然ですよー。いろいろ調合して作った自家製の弾丸なのですから」
フェリルがペッと口から噛み砕いた弾丸を吐き出し、ルーがそれを呆れた目で見ている。
ハイレベルな戦いだ。
「はぁ…凄い戦いですねぇ。あの攻撃を回避するルーさんも凄いですけど、目で追うのもやっとな弾丸を噛み砕いちゃうフェリルさんもとっても強いです」
「ですね。それにしても…トトちゃんはかなり疲弊しているようですね」
トトちゃんはフェリルを召喚してから顔色が悪い。
立っているのもやっとという状態に見える。リリも若干心配そうな声色だ。
「そうね。トトは魔力が多いわけじゃないから、口寄せの術は全魔力を使うようなものなのかもしれないわね!」
「ああ。魔力を全部使い果たすと私も倒れこみたくなるよ」
体内魔力を増やす方法が「全魔力を使い切る」ことなので、私も吸魔石と呼ばれる、その名の通り魔力を吸い上げられる石を使って週に一度全魔力を使い切る訓練をしているけど…それをした後は立っていられなくなるほど疲弊する。要領が掴めない時は気絶してしまうこともしばしだった。
だからリリに言われて改めてトトちゃんを見ると納得できた。
あれは間違いなく魔力切れの時と同じ状態だ。
「ふぅ…はぁ…まだまだいけますぞ」
「…ふん。そろそろ決着をつけるか」
フェリルがトトちゃんをちらりと一瞥してからルーに向き直る。
そして相変わらずの体格に見合っていないスピードでルーの後ろに回り込み前足で薙ぎ払う。
今度の攻撃は先ほどよりもさらに速く、ルーでさえ反応が遅れる。
「がはっ…」
「これで終わりだ」
「…【フラガラック】!」
「チッ…」
ルーが真後ろから攻撃をもろに受け吹き飛び、更に追撃をかけようとしたフェリルがフラガラックの剣を見て攻撃を中断する。
それでもルーは大ダメージだ。立ち上がりはしたけど満身創痍。
「ルー!!」
「大丈夫ですよネネ様…まだ戦えるのですよー」
「かなり重たい一撃でしたね…これはもう…」
「…ルーは負けませんわ!」
ネネ王女が反論してくるけどどう見ても重症だ。
緑のマントはよっぽど特殊なものなのか破けてはいないけど、足はガクガク震えているし吹き飛んだ衝撃で体中が傷ついている。
それに比べてフェリルはまだノーダメージで本気を見せてすらいない。
ここからの逆転は難しいように思える。
しかし、ネネ王女と…そしてルーはまだ諦めていなかった。
「ふ…ここまで一方的にやられてそんな目が出来るとはな。ルーと言ったか。悪くない相手だった」
「まだ終わってないのですよ…!」
「ふん…ここから何か出来るとは思えないがな」
フェリルが余裕の表情で挑発するが、ルーはそれを無視してマントを翻した。
「とっておきはこんな時の為に取っておくものなのですよー!」
ルーがマントから取り出したのはピンが付いている大きな玉だった。
説明もなくすぐさまルーがピンを外してフェリルの足元に投げる。
「ふん…そんな遅い攻撃が我に…!?」
「きゃ!!目が見えません!!」
フェリルが機敏な身のこなしでルーの投げた玉から遠ざかったが、玉は爆発するのではなく、目を開けていられないような光を発する。
フェリルだけではなく近くで観戦していた私たち四人の視界も奪われるほどの光量だ。
私の目も見えなくなり、視界が白一面に染まる。
「クロさーん!大丈夫ですか!?」
「はい。ルル様も大丈夫そうですね」
「眩しいわね~。トトは大丈夫かしら?」
「…」
しばらくして徐々に視力が回復してくる。
あの玉は閃光玉ってやつだったのかな。
「見えてきましたね…」
「失明しちゃったのかと思いましたよ!」
「勝負は…凄いことになっているわね」
視界がクリアになり、状況を確認する。
まず目に飛び込んできたのは…信じられないことにフェリルの胴体に槍を突き刺しているルーの姿。
「がは…不覚…」
「ふぅ…強敵だったのですよ」
フェリルが吐血し、そのまま消える。どうやら召喚される前にいた場所に帰ったようだ。
「視界を奪ってルーが上手いことやったのでしょうか」
「私が教えてあげますわ。何が起こったのかをね」
「ネネ姉様は平気だったの?」
「ルーのやることはすべてお見通しよ。事前に目を塞ぐことくらいわけないわ」
ネネ王女が自慢げに詳細を教えてくれる。
まずフェリルの視界を奪ったルーがタスラムで撃った。
しかしこれをどうやったのかフェリルが回避したらしい。
だけどそのタスラムの弾丸は囮で、ルーの狙いは回復不可能のフラガラックでの攻撃だった。
フェリルの後ろに回り込み攻撃をしたフラガラックだったけど…なんとフェリルは振り返りフラガラックを噛み砕いた。目を瞑った状態でだ。
「視界を奪われていたんですよね!?フェリルさんの感知能力は高いのですねぇ」
「それで、最終的にフラガラックさえも囮にしたルーの槍の一突きで勝ったの!」
「なるほど。それでフラガラックが真っ二つになっているのですか」
地面には刀身の真ん中でぱっきりと折れたフラガラックが転がっていた。
そして疲労困憊ながらも勝利したルーが、今度は本命のトトちゃんに鋭い視線を向ける。
「…ふぅ。これで障害は無くなったのですよ。あとはあなたを倒すだけ…なのですよ」
「…まさかフェリル殿を倒すとは思わなかったのですぞ」
「タスラムの弾丸も尽きたから、ルーには槍しか残ってないのですけどね。でもこれさえあれば勝負になるのですよー」
「拙も魔力切れですからな…あとは自分の力で絶対に勝つのですぞ…!」
ルーが槍を、トトちゃんが忍者刀を構える。
お互い立っているのもやっとの状態。だけど…お互いに負けられない理由があるのだ。
「トト!やっちゃいなさい!」
「ルー!決めなさい!」
「「はああああああああ!!!」」
主を勝利に導くために。
最後の力を振り絞り二人が同時に前に出る。
槍と刀がぶつかり合い、激しい接近戦が行われる。
『ここまで来たら後は意地のぶつかり合いだぁ!勝利を手にするのは果たしてどちらか!!』
「はあああ!!」
「…くう!!」
『近接戦の技量はルー選手のほうが高いよううおね』
魚ちゃんの言うようにルーの槍の技術はやはり高かった。
そもそもリーチに差がありすぎてトトちゃんは攻撃できる距離に近づくこともできない。それでも必死に忍者刀を逆手に持ち槍を凌ぐトトちゃん。
「とっとと、倒れるといいのですよーー!!」
「まだまだ!」
ルーの猛攻を凌ぎ続けるトトちゃん。
長い、長い時間を耐え…ついにトトちゃんに好機が訪れる。
「うっ…!?」
「!!ここですぞ!」
ルーの足が突然ガクンと崩れる。
攻撃する側の体力の消耗は大きい。ましてやフェリルとの激戦を経ての連戦だ。その疲労はピークまで達しているに違いない。
それでも槍の威力は衰えていなかったが、トトちゃんが勝負どころと見て前に出る。
首すれすれの突きを忍者刀の腹で逸らし、一気に近づく。
「これで…終わりですぞぉ!!」
「終わりなのは…そっちですよ!」
「な…!?」
ルーが槍を手放し…そしていつの間にかタスラムの銃を持っていた。
そうして至近距離でトトちゃんに向けて発砲。
タスラムの弾丸はトトちゃんの腕に当たり、その衝撃で倒れこんでしまう。
ルル様が悲鳴を上げ、ルーに抗議する。
「さっき弾はもうないって言っていたのに!あれは嘘だったんですか!?」
「そうですよー。でも、勝負に卑怯も何もないのですよ」
…あの言葉はブラフだったのか。
そもそも、わざわざトトちゃんにもう弾は無いなんて白状するメリットはどこにもない。あれはタスラムはもう使えないと思い込ませるための策略だったんだ。…やられた。
勝ちを確信したのだろう。ルーが安堵の表情でしゃべる。
「安心してくださいですよー。腕をかすめただけです。それでも相当痛いですけど。治療できる怪我ですよ」
「……」
トトちゃんは微動だにしない。観客席も静まり返っている。
ネネ王女がガッツポーズを取りながらルーを褒める。
「よくやったわルー!私たちの勝利よ!」
「…」
「リリ?いい勝負だったわ。途中までひやひやしたけれどね」
「リリちゃん…」
リリはじっとトトちゃんを見つめている。
私は…リリに話しかけることが出来なかった。
そしてリリがトトちゃんから視線を外し…ネネ王女に向き直る。
「ネネ姉様」
「なんですの?言いたいことがあるのかしら」
「ええ。あるわ。この勝負…あたしたちの勝ちよ!」
「は?」
リリがそう宣言した瞬間。トトちゃんがボン!と煙を立てて消えてしまう。
観客も、私たちも、ルーでさえ。リリ以外のすべての者がその光景に唖然とし…
ルーの首元に忍者刀を突き立てているトトちゃんを見て驚愕する。
「動くな…ですぞ」
「な…」
『なんとーーーーーー!!!ルー選手の勝利で試合が終了したかに思えたが!!なぜか倒れていたトト選手がルー選手の背後にピタリとくっついている~~~!!!!』
「どうして…」
「嘘をついていたのはお互い様だったということですな。拙は身代わりの術を一度だけ使えるだけの魔力を温存していたのですぞ」
「…そんなのズルですよー」
「卑怯は忍者の特権ですぞ!」
『勝負あり!勝者トト・リリペア!』
「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」
最後の最後でどんでん返しを決めたのはトトちゃんだった。
こうして決勝進出はルル様と私、そしてリリとトトちゃんに決定した。




