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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
最強はだれだ!?王位決定戦!
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異世界人最強決定戦(2回目) 

アラタ視点



「遂にこの時が来た!黒音と再戦する日が!!」

「燃えておるのう」

「そりゃそうさ。今度こそボクが勝って、異世界人最強を証明するんだ」


 借宿で闘志を燃やす。

 今日はいよいよ王位決定戦の準決勝。


 その準決勝でボクの戦う相手が宿敵黒音なのだ。



 以前に海の街でボクたちは戦い…結果は惨敗。

 だけどあの頃は【三倍身体強化サード】すら満足に扱えなかったのだから当然の結果だったかもしれない。


 しかし今は…


「勝てそうかの?アラタよ」

「当然!」


 準備運動をしながらじいさんに答える。

 予選での彼女たちの戦いは常に確認して、自分だったらどう動くか脳内でシミュレーションも行った。


 その上での意見だけど、彼女たちは…やっぱ強い。


 黒音の強力な魔法は勿論、ルルさんの召喚魔法も厄介極まりない。

 しかも召喚してくる魔物はどれも強力なのに、それを同時に召喚してくるのだ。


 その強力な魔物の内の一体である九尾に黒音は乗って戦うため、魔法使いの弱点である近距離戦を克服している。


 なのでボクとしては召喚される前の一瞬で勝負を決めたいけど…悔しいことにルルさんの召喚魔法の展開スピードはボクの身体強化魔法の発動よりも速い。



 だから短期決戦に持ち込むのは難しい。

 …それでも、ボクの活路はそこにしかないんだ。


「…やれるさ」


 腰に差している剣…バルハルクに手を掛ける。

 魔を払う「魔剣」。剣帝との戦いでも刃こぼれ一つしなかったこの剣で、黒音の魔法を全て叩き切ってやる。


「行こう。じいさん」

「おうとも」


 じいさんと共に部屋を出る。

 今日で黒音の天下も終わりだ!





 クロネ視点



『皆さんお待たせしました!いよいよ準決勝の日がやってきたぞー!!』

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

『実況解説はいつもの二人で行いまーす!』

『よろしくうお』

『それでは早速準決勝第一試合目の選手に入場していきましょう!まずはあの三十年間無敗だった王、テオフレール選手に一回戦で見事な戦術を駆使して勝利し、その勢いのまま破竹の勢いで勝ち上がってきた最低オッズの最強ペア!ルル・クロネペア~!!!』

「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 闘技場のリングに上がると応援の声が体中に響く。


 ほとんどは優勝して金をくれ…みたいな身も蓋もない応援ばかりだけど、中には純粋に応援してくれる方も徐々に増えてきている。


 この応援の数を増やして、ルル様を王様にしたときに反発が少ないようにしないと。

 その為にも、残りの試合で私たちの強さをしっかりと観客に見せつけなければいけない。


『対するは~!!優勝候補が数多くひしめいていた魔の予選Sブロックを見事に勝ち抜き、あの剣帝とも真正面から互角の戦いをしたアラタ・ガンドペア~!!!』

「うおおおおおおおおおお!!!」

「可愛いいいい!!」

「結婚してくれーーー!!」

「だからボクは男だっての」

「おお!ようやくゴミを投げてくる輩がいなくなったぞ!やっとワシの実力も認められてきたかのう」


 私たちの反対側から現れる二人組。新くんとおじいちゃん。


 おじいちゃんは観客の反応に感動している様子で、新くんは私をガン見してくる。

 うわ…やっぱり私は新くんに敵視されているみたいだ…


 観客の声援を聞きながらお互い会話ができる距離まで近づく。


「やぁ。この時を待ちわびていたよ。黒音と再戦できるこの日をね!」

「まさか新くんがこの大会に出場するとは思ってなかったよ」

「そうかい?」

「うん」


 この大会はこの国の王様を決める戦いだ。

 ルル様と関係のある私はともかく、異世界人の新くんがそんな戦いに参加するとは思っていなかった。


「確かに、この国の王様に興味はない。ただ、自分を強くするためと、黒音と戦うこと以外は何も考えていなかったよ。…そして、その両方の望みが叶った。出場した甲斐はあったさ」

「うわぁ…やっぱりそんな理由だったんだ…」


 新くんは決勝戦には興味はないのだろう。

 だからきっと、この試合に全てをぶつけてくるはずだ。


「ちなみにおじいちゃんも王様には興味ないんですか?」

「ないのう。老い先短いワシが王になっても迷惑じゃしの。それに、この大会に出たことでやっと大手を振って街を歩くことができるようになったのじゃ。それだけでワシは満足じゃよ」


 顎髭をさすりながら呟くおじいちゃん。

 なるほど。おじいちゃんも優勝に興味はないと。

 それならやっぱりこの勝負…負けられないな。


「私たちには負けられない理由があります。だからこの勝負。勝たせてもらいますね!」

「…そういうことです。ルル様のためにも、また勝たせてもらうよ。新くん」

「そうこなくっちゃ!全力のキミを倒すことでボクがナンバー1だと証明できるんだ!」

「やれやれ。無茶はくれぐれもするでないぞ。アラタよ。それにクロネもな」


 それは保証できないなぁ。

 もし無茶しないと勝てないようなら、私は喜んで無茶をする。それは新くんも同じだろう。


 そのことが伝わったのか、おじいちゃんは私たちを見てやれやれと呟きながら後方に下がっていく。


 そして一人残された新くんが指を一本立ててこう宣言してきた。


「1分だ。1分で決着をつける(てかそれが限界)」

『おおっと!アラタ選手の1分以内での勝利宣言だーーー!!!これは盛り上がってまいりました!皆さん!一秒たりともこの戦いを見逃してはいけませんよーー!!それでは始めましょうか!両ペア、準備はいいかなーー!?』

「「はい!」」

「「ああ」」

『それでは準決勝第一試合!試合開始ーー!!』



 60


「大召喚!」「十倍身体強化ディカプル!」


 ルル様と新くんが同時に魔法を発動。

 九尾のコルナさん、コリナさん。魔獣スフィルクスさんに水龍神の娘のミツキさん。竜人コロさんが召喚陣から現れる。


 今回の作戦はこうだ。

 まず私とルル様はスフィルクスさんに乗り、新くんの攻撃が届かない上空まで移動する。おじいちゃんの魔法は私がシャットアウトして、あとは新くんの身体強化魔法が切れるまでコロナさん達に相手をしてもらう。


 シンプルだけど効果的なはずだ。


「ルル様!」

「クロさん!」

「させるか!!」

「「!!」」


 スフィルクスさんの背中に私とルル様が飛び乗ったところで、猛スピードでこちらに向かってきた新くんがスフィルクスさんにしがみついてきた。


 58


 マズイ。もしこのまま上空に飛び立ってしまえば、私とルル様では新くんをどうすることもできなくて負けてしまう。支援が無くなる上空で新くんと接近戦をするよりは…


「降りましょう。ルル様」

「…わかりました!」


 当初考えていた作戦はパーになってしまうが仕方がない。

 二人でスフィルクスさんから飛び降り、コルナさんたちと合流する。


 56


 私はコリナさんの背中に乗り、魔法の準備を始める。


「プランB?」

「はい。いつも通りコリナさんたちのお力を借ります」

「わかった」

「【結界魔法】!」

『出ました!クロネ選手の十八番【結界魔法】!闘技場中に立体的に配置し、その四角い結界を利用して動き回る九尾はまさに縦横無尽!』


 100以上もの結界を展開し、相手の動きを阻害するとともにこちらは動きやすくなる私の魔法。この王位決定戦では何度もお世話になっている利便性の高い魔法だ。早速おじいちゃんが結界に頭をぶつける。


「いて!これ以上老化が進んだらどうするつもりじゃ」

「じいさんは杖が振りやすい位置に移動したほうがいいよ」

「そのようじゃ」


 私たちは王位決定戦が始まる前に、かなり結界展開からの移動を訓練したから動きにくさはない。

 けど、相手にとっては透明な見えづらい箱がいたるところに設置されているのだ。面倒くさいだろう。


 52


 だが、その結界も成長した新くんに破られてしまう。


「バルハルク!はあああああ!!!」

「やっぱり…壊してきますよね!」

「前のボクはどうしたって破壊することはできなかったけど…今のボクならやれる!!」

『アラタ選手が物凄い速さで次々とクロネ選手の結界を破壊していく!!クロネ選手も結界を生み出していますが追いついていない状態だ!!』


 私の結界が黄金の剣でまるで豆腐のように切られていく。

 その速さは私の目では追えないほど速い。

 十倍の身体強化は私の予想をはるかに上回る性能だった。


「コロさん!お願いします!」

「言われなくてもなぁ!こんだけ活きのいい人間を前にして戦わないほうがおかしいぜ!」


 49


 結界を壊して回っている新くんにコロさんが接近する。

 それに気づいた新くんが破壊活動を中断してコロさんに斬りかかる。


「邪魔をするなああああ!!!」

「うお!!その剣…ヤバい匂いがプンプンするな!」

「はあああああああああ!!!」

「っち…はええな!!」

『竜人相手に怒涛の攻めを見せるアラタ選手!』

『制限付きとはいえアラタ選手のポテンシャルは相当なものがあるうお』


 近接戦闘が得意なコロさんを全く寄せ付けない強さを発揮している新くん。

 あの新くんの振るっている剣・バルハルクはコロさんにとっても脅威になるもののようだ。

 細心の注意を払って避けるので精一杯らしい。


 38


「ダメだ!埒が明かねえ!ミツキ!援護してくれ!」

「わかりましたぁ。【水弾】~」

「させんよ…!【風弾】!」


 ミツキさんが水魔法で新くんを攻撃しようとするが、おじいちゃんがその水弾を阻むように風魔法を発動させる。


 おじいちゃんの魔法力ではミツキさんの魔法を完全に防ぐことはできない。


 だが、水魔法の弱点魔法である風魔法を使用したこと、そしてここが水が少なくミツキさんの魔法効果が十全に発揮できない環境であったこともあり、ほとんどの水弾を無効化することに成功していた。


 残りの飛んできた水弾は新くんが余裕で対処する。

 これにはミツキさんも驚いたようで口に手を当てている。


「あらぁ」

「ワシもただの爺ではないのじゃぞ。はっはっは」

「使えねえな!ミツキィ!」

「うるさいですねぇ。ご老人が優秀なんですよ」

「ハアアアア!!」

「ぐおっ…」


 34


 ミツキさんと言い合いをしていたコロさんが斬られる。

 たまらず後退するコロさん。


「いってぇええ。やっぱ俺の鱗を突破してきやがった」

「いえ。十分時間を使ってくれました。コロさんは休んでてください」


 10秒以上コロさんが時間を稼いでくれた。

 このハイスピードの戦闘での10秒は…長い。


 そしてミツキさんは先程のおじいちゃんの攻撃でやる気が出たのか、笑顔で魔法を唱え始める。


「やられっぱなしは嫌ですからねぇ。これはどうですかぁご老人?【大水波】~」

「…これは無理じゃ!?アラタあああ!!助けてくれーー!!!」

「しょうがないなぁ」


 ミツキさんが発動した巨大な波を見て、おじいちゃんが魔法で対抗することを諦める。

 新くんが喚いているおじいちゃんを御姫様抱っこしてその場から離れる。


「逃がしませんよぉ」

「っち…頼むバルハルク!!」

「おおぉ…素晴らしいですねぇ」


 波の進む先を操作して二人を追い詰めていたミツキさんの魔法だが、振り切るのが困難だと判断した新くんが振り返り波を斬った。


 大波は真っ二つに割れ、見事に突破する新くん。


 26


「ごめんなさい。やられちゃいましたぁ」

「あとはわっちらで何とかするしかないようじゃのう」

「頑張ります!」

「ルル様は落ちないようにしっかりコルナさんを掴んでいてくださいね」

「はい!」

「すぅ…はぁ………いきます。【多重結界】」

「!!」


 新くんを結界に閉じ込める。

 その結界の外側にさらに結界を、その外に更に結界を…そうして計二十もの結界で新くんを完全に閉じ込める。


 22


「結界は重ねることでより強固に、頑強なものとなります」

「確かに、生半可な力では突破できなさそうだ。…だけど!!」

「「「「!!」」」」


 一撃では結界を壊されることはなかった。だけどどんどん私では目で追いきれない斬撃で結界を破壊していく。


 そうして…



 バリィィィィィィィン




 全ての結界が壊され、結界のかけらが宙を舞う。その中心で息を切らしながらも、しかし脱出に成功した新くんがドヤ顔で私に目を向けてくる。


「はぁ…はぁ…はぁ…どうだ!」

「…脱帽ですね」


 10


 昨日までの私なら、この新くんに敬意を表して、諦めていただろう。

 きっとリタイアを宣言していたはずだ。


 昨日までの私なら。


「コリナさん。やれますか」

「うん」

「あと一息です。がんばりましょう」

「うん」


 この数十秒でわかったけど、コリナさんの速度よりも新くんは速い。

 だからここから先は…意地の鬼ごっこだ。


 8


「いくぞ」

「コリナさん!【土壁】!」

「しっかり掴まって」


 呼吸を整え終えた新くんが攻めてくる。

 私とルル様は違う方向に逃げるが、案の定私のほうを追ってきたので土の壁で妨害しながら逃げに徹する。


「バルハルク!」

「【土壁】【土壁】【土壁】!」


 壊されてもほんの少しの時間が稼げればそれでいい。

 私のできる最高の魔力を練り上げて土壁を作成していく。


 更にルル様が追われていないことを確認し、立ち止まってコルナさんに指示を出してくれる。


「コルナさん!クロさんの援護をお願いします!」

「わかったぞよ!【狐火】!」

「!!」



 5…4……3………



 一秒が長い。まだ新くんの能力は切れないのだろうか?

 彼の瞳は全く揺るがずに私だけを見ている。


 彼の持っている剣が今にも私に届いてきそうな…そんな気迫を常に感じる。


 コルナさんの狐火を避けながら、私の土壁を壊しながら、着実に私に近づいてくる。



 ………2………………1………………



「アラタ!!頑張れえええい!!!」

「クロさん!頑張ってください!!!!」

「ハアアアア!!!」

「……!!止まって…!!」

「…マズイ。追いつかれた。クロネ。飛び降りて…」

「捕まえたぞ…!!」


 コリナさんの尻尾を新くんが握りしめる。

 動きが止まるコリナさん。


 私はその場から飛び降り…


 先読みしていた新くんが目の前に現れる…!!


「!」

「クロさんっ!」

「これで…!!っ……!!」

「アラタ!!」


 私に剣を振りかかろうとしたその時、突然新くんの身体が痙攣し、膝をつく。

 おじいちゃんが急いで新くんに駆け寄り、回復魔法を発動させる。


「ぐ…あああああ…!!」

「アラタ!!【ヒール】!…スマンがクロネよ!力を貸してくれ!」

「は、はい。【ヒール】!」


 反動が一気にきたのだろう。汗をだらだら掻き、苦しそうに呻いている新くんに私も回復魔法をかける。


 そうしてしばらく経ち、静かになる。

 痛みで気を失ってしまったのだ。


「………すぅ…すぅ…」

「ふぅ。ひやひやさせおって…あれほど無茶するなと言うたのに」

「あはは。…それで、まだやりますか?」

「ワシ一人でどうにかなるわけがないじゃろ?棄権じゃよ。残念じゃがな」


 おじいちゃんが両手を上げて手をひらひらさせる。


『ガンド選手のリタイア宣言を確認しました!試合終了でーす!!勝者ルル・クロネペア!」

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」

「クロさん!やりましたね!」

「はい。ギリギリでしたけど」


 あと数秒…いや一秒あれば私は倒されていた。

 それくらい追い詰められていたのだ。心臓がまだバクバクしてる。


「わーい!クロさん!」

「うわっ。抱き着かないでください。やるならお城でしてください」

「えへへ~」


 ルル様に後ろから抱き着かれ、柔らかな物体を押し付けられて疲れが吹き飛ぶ。

 …この感触だけでご飯三杯イケる。


 そんな至福の時間を過ごしているとおじいちゃんが近づいてきた。


「クロネよ」

「はい?」

「お主があそこまで真剣な顔をしているのを初めて見たぞ。成長したな」

「…そうでしょうか?」

「うむ。人間国にいた時とは別人じゃ」

「…大切な人ができたから…ですかね?」

「はっはっは。そうか。通りで強いわけじゃ。(アラタには教えられんな)」


 納得した様子で顎をさすりながら笑っているおじいちゃん。

 そのまま新くんを担いでさっさと闘技場を出て行ってしまった。


「これで後は決勝戦だけですね!」

「はい」


 予想以上の強さだった新くん。

 だけど…なんとか勝てて本当に良かった…!


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