ルルの夢。クロネの決意
「白熱した試合でしたね!」
「そうですね」
準々決勝最後の試合は、最後までどちらが勝つかわからないシーソーゲームだった。
ルル様の家族は本当に全員強い。
「ネネ姉様が次の相手ね。燃えてきたわ!」
「ルー殿もかなり油断ならない相手だとわかりましたな」
「私たちの相手はアラタくんとおじいさんですね!」
「明日の試合も大変そうですね」
そう。これで準決勝の対戦相手がそれぞれ決まったのだ。
私とルル様の相手は、同じ異世界出身の新くんと、私に魔法を教えてくれたおじいちゃん。
リリとトトちゃんの相手は弓使いでありリリの姉でもあるネネと、様々な武器・アイテムを駆使して戦うルー。
間違いなくそれぞれが優勝の可能性を秘めている強者。
…その中に私とルル様がいることが不思議だけどね。
日程は明日が準決勝。そして一日休日を挟んでから決勝戦を執り行う。
決勝戦の勝者=この国の新王の誕生を意味するので、国が一番盛り上がる日と言っても過言ではないだろう。どうやら新王のお披露目でパレード、スピーチも予定されているみたいだし。
「とりあえず、今日の試合はこれで終わったしお城に帰りましょう!」
「そうね!美味しいものを食べて明日に備えましょ!」
「明日も大変そうですしね」
明日戦うアラタくんはなぜか同郷の私を敵視しているみたいで、以前も一度戦いを挑まれたことがある相手だ。
その時は結界魔法が大活躍して勝つことが出来たけど、アラタくんはこの王位決定戦を通じてあの頃とは比べ物にならないくらい強くなっていた。きっと同じようにはいかないだろう。
そしてそのパートナーのおじいちゃんも、人間国で一番の魔法使いと言われている意外にも有名な人物なのだ。
基本の属性魔法を使うことはもちろん、相手の位置を常に把握できる魔法や、継続回復のような変わり種の魔法も好んで使う厄介なおじいちゃんだ。機動力の高いコルナさんたちを相手にどんな魔法を使ってくるのか…正直読めない。
それに、おじいちゃんのように見た目が完全に魔法使いである人物がこの大会を勝ち抜いているおかげで、この国の「魔法使いは役立たず」 というネガティブな印象を払拭する役も買ってくれている。
私にとってはありがたい存在だ。
私も大会初日に魔法使いであることが完璧にバレて白い目で見られていたけど、今ではその視線はかなり薄まっている。
思えばこの大会は魔法を使う選手が多かった。
近接戦闘・肉弾戦が大好きなこの国も変わりつつあるのかもしれない。着実にルル様が生きやすい国になっているようでなにより。
『お帰りの際は足元に気を付けてくださいねー!』
『明日も喧嘩の無いよう仲良く試合観戦するうお』
終了のアナウンスが会場に響き、観客たちが立ち上がり帰っていくので、流れに逆らわずに私たちも会場を後にし、城まで四人で戻る。
その帰り道…
「リリ様!サインください!」
「いいわよ」
「ルル様!優勝してください!(お金が返金されるから)」
「応援ありがとうございます!頑張ります!」
「…城に帰るのにも一苦労ですね」
「ですなぁ」
明日準決勝を戦う四人が固まって歩いているのだから目立ってしまうのも仕方ないことなのかもしれないけど、人だかりに阻まれてしまい中々前に進むことが出来ない。
特にリリの人気はまるで超有名人のようで、握手やらサインを求める声が本当に多い。
どうしてこんなちっぱいがここまで人気が出るのか私には謎だ。
そんなことを考えながらリリを見ていると、リリがサインを書いている途中で突然周囲を確認し始めた。
「ハッ!?何か馬鹿にされたような気がしたわ!」
「気のせいじゃない?そんなことよりリリ。全員に対応しなくてもよくない?日が暮れちゃうよ」
「ダメよ!民を無下には出来ないわ!」
「そうですよクロさん!せっかく応援してくれているんですから、しっかり応えないといけません!」
「ルル様に群がっているのは借金まみれの人たちばかりなんですけど…」
「そうなんですか!?」
じっとルル様の周囲にいるおっさんたちを睨みつけると全員が目を逸らす。
まぁそんなこともあり城に到着する頃にはすっかり日が沈んでしまっていた。
だからその足で食堂まで行き、城でいつもの肉料理を堪能してリリたちと別れてから部屋に戻る。
「はふぅ。お腹いっぱいですぅ」
「いつもよりたくさん食べていましたね。ルル様」
「だっていよいよ明日は準決勝ですよクロさん!当然気合の入り方も違います!!」
「…そのことなのですが。ルル様にご相談があります」
「…なんですか?」
「………」
…正直かなり言いづらい。私は負けてもいいと思っているなんて。
でもここの意識の違いは絶対に試合に影響する。今日のうちに伝えておかないと後悔することになるかもしれない。意を決してルル様に向き直る。
「ルル様はここまでかなり頑張りました。昔のようにルル様を馬鹿にするような輩はもういません」
「そう…かもしれないですね」
「だから、私はもう満足しているんです」
「どういう…ことでしょう」
「明日、負けてもいい。そう私は思っています」
「!!」
「………」
「本気で…言っているのですか?」
「はい」
私はルル様が王様になるなんて無理だと思っている。
ドジだし。でも頑張り屋だからきっと苦労して。それでもたぶん良いことなんてきっとない。
それなら現状に満足して、あとは他の誰かに任せて私たちはのんびり暮らすのが性に合っている。
そんなことを掻い摘んでルル様に説明する。初めは信じられないというような目で私を見ていたルル様だが、徐々に理解の色が出てくる。
「クロさんの言いたいことはわかりました。冗談ではないことも」
「わかってくれましたか?」
「はい。…ですがそれでも私は勝ちたいです」
「!!」
「いえ。勝たなくちゃいけないんです」
「………」
…ルル様にここまで真っ向から反対意見をぶつけられたのは初めてだった。
だからその衝撃も大きくて、一瞬何を言われたかわからなかった。
ルル様は試合に勝ちたい…?
でもその理由が私にはわからない。
「理由を聞いてもいいですか?」
「はい。…クロさんの考え方には、この王位決定戦を始める前だったら…私は賛成していたかも…いえ。していました」
「………」
「でも今は負けられない理由があるんです」
「それは?」
「もし私が負けたら、多くの人がお金を失って苦しい想いをします。でも私たちが勝つことが出来れば、クロさんが賭けてくれた私たちの優勝賞金を使ってみんなのお金を補填することが出来ます。だから私たちは勝たなくちゃいけないんです」
「それが理由ですか?」
「はい」
…確かに最近はそんな声をよく聞く。王様にはほとんどの人が賭けていたけど、私たちが大番狂わせで勝利したために全ておじゃんになったと。
でもルル様がみんなの前で、自分が優勝したら損をしたお金を返金すると宣言したことで多くの国民がルル様のことを見直し、応援するようになったのだ。
実際今日の準々決勝もかなり応援の声があった。
そのことに関しては私も嬉しい。
けど、それは彼らの自業自得だ。自分で賭け事をして外れたんだからそれはどうしようもないこと。
その責任をルル様が負う必要なんて一切ない。そりゃあんなことを言った手前、負ければ反感は買うだろうけど。
それは仕方のないことだ。
「ルル様が気にすることではないです。もし私たちが負けて苦情が来るようでしたら私が一手に引き受けます」
「それは違います!私が言い出したことなんです。だから責任は私が負うべきですし、優勝すれば問題ない話なんです!」
「でもですね…優勝するということは、王様になるということと同義なんです。ルル様は女王になる覚悟があるのですか?」
「それは…」
「もし深く考えていないようなら絶対になるべきではないです。半端な気持ちでなっていいものではありませんから」
少し強めの口調で言う。ルル様の為だと思うから。
だけどルル様は怯まなかった。
「私はずっと考えていました。もし私が王様になったら何をしたいのか…」
「…」
知らなかった。ルル様がそんなことを考えていたなんて。
「恥ずかしくて誰にも言えなかったんですけど…」
そんな前置きをしてルル様は教えてくれた。
「私はどんな人でも楽しく暮らすことのできる国を作りたいです」
「今もこの国は多種多様な人が暮らしていますけど…」
ノウキングダムは国籍は関係ない。強いものならウェルカムなので人間はもちろんエルフやらドワーフ、リザードマンなどが暮らしている。
「でも、弱い人に対してはこの国は冷たいです」
「それは…そうですね」
「だから、弱い私が王様になることで…弱い人でも楽しく生きていけるんだよって伝えていけたらなって。弱くても、魔法使いでも、ポ、ポンコツでも…誰もが楽しめるような!そんな国を私はつくりたい!」
「………」
「でも私一人だと不安なので…クロさんにも傍にいて欲しいなぁ。なんて」
「…」
「ど、どうでしょうか…?」
不安そうな瞳で私の顔を覗いてくるルル様。
…私はルル様のことなら何でも知っていると自負していたけど、まだまだだったみたいだ。
「ルル様」
「は、はい!」
「私でよければ、ルル様の国づくりを手伝わせてください」
「…わぁ!!」
「だから、明日は私も全力で戦いますね」
「はい!宜しくお願いします!クロさん!」
ルル様が手を握ってきたので強く握り返す。
…明日は負けてもいいかな。なんてバカな考えは吹き飛んだ。
全身全霊でルル様を勝利に導いて、そしてルル様の夢を傍で支え続けるんだ。




