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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
最強はだれだ!?王位決定戦!
73/88

王様とルル様。そしてお母様。

 王位決定戦の本選一回戦の半分が消化された。

 本来ならば一日で一回戦全てを消化する予定だったのだが、ルル様のお金返金騒動の暴動を鎮圧するのに時間を要してしまい、半分しか終えることが出来なかったのだ。


 だからお城に戻った後もルル様に対する説教は続けていた。


「ルル様はもっと反省してください」

「わかってますよぅ」

「本当よ!あたしの華麗な活躍の場が持ち越しになったじゃないの!」

「あんなことになるなんて思ってもみなかったんですよ~!」




 「王様の優勝に賭けた分のお金はお返しします!」なんて言ったもんだから、観客のほとんどが試合終了後に捨てた券を再び拾い集めた。

 それだけならまだよかったのだが…拾った券の金額が返金されるため、少しでも高額の券を全員が探し出し、喧嘩もいたるところで起こった。


 ある意味これまでで一番盛り上がっていた。




 ただ、その発想自体は悪いものではなかったと思う。もう少しやりようはあったと思うけど。

 お金を戻すと宣言したことによりルル様を憎む人はほとんどいなくなっただろう。むしろ会場では羨望の眼差しを向けられていた。


 問題はどれくらいのお金が必要になるのかという不安だけど…それは優勝してから考えよう。そもそも強敵ばかりのこの大会で優勝するのは相当難しいし。


 ちなみに今日の残りの試合を戦った知り合いは新くんとおじいちゃんペアだけだったけど、二人ともあっけなく勝っていた。


 新くんが勝ち抜いた予選は剣帝を始め数多くの強敵がいる魔のブロックだったから、あれを経験して更に強くなったようだ。このまま勝ち進めば新くんと戦うことになるだろう。




 そして明日の第一試合はリリたちの試合だ。

 今もルル様の部屋に遊びに来ているけど、全く緊張はしていない様子。


「二人とも明日の試合は自信あるの?」

「当然よ!あたしは優勝しか興味がないの!一回戦なんてちょちょいのちょいよ!」

「拙はリリ殿を信用していますからな。故に緊張とは無縁ですぞ」

「さすがです!私なんて緊張で足がガクガクだったのに!」

「お姉ちゃんとは違うわよ」

「むぅ。試合前に急に緊張しても知りませんよ~!」


 まぁリリの実力ならば問題ないだろう。

 …と言いたいところだけど、リリたちの次の対戦相手は他の相手とは少し毛並みが違う。


 予選では特に目立ったことはしていないのに、あのアラタくんたちが戦い抜いた激戦の勝者だからだ。


 インタビューでは自分たちはとびきり運が良いのだと言っていた。だから相手がどんなに強くても勝手に自滅してくれることが多いのだと。


 リリは確かに一騎打ちでは無類の強さを誇る。多分あの王様にだって引けを取らない。

 だけど、搦め手を使ってくる相手は苦手だ。リリはちょっとアホの子だから…


 しかし運が良い相手の対策なんてどうすればいいのかわからないし、やれることと言ったら体調を万全にするくらいだろう。


「リリ。今日は早く寝て明日に備えたほうがいいよ。何があるかわからないからね」

「あたしのことが心配なの?まぁたくさん寝るのはいいことよね!暗くなってきたし、寝ましょうかトト」

「はいですぞ」

「おやすみなさ~い」

「明日を楽しみにしておくことね!じゃ!」

「おやすみなさいですぞ」


 リリとトトちゃんが部屋を出ていく。

 どうやらトトちゃんはお城の中でもリリと一緒に寝ているらしい。何でもリリの抱き枕代わりにされているのだとか。


 あの怪力で絞められるのでいい修行ですぞ!って言っていたけど、トトちゃんよく無事でいられるな…


「クロさん!私たちも寝ませんか?今日はたくさん動いたので身体中がイタイタです」

「あ~。そのことなんですが…ちょっと私は用事があるので出かけます」

「え?こんな時間にですか?」

「はい。人と会う約束があるので」

「…じー」

「な、なんでしょう」

「いえ!なら私は先に寝ますね!」

「はい。明日はリリの応援を一緒にしましょう」

「はい。おやすみなさい!」

「おやすみなさい」


 ルル様が布団に入ったので部屋を出る。

 行く場所はこのお城の庭園だ。


 お城の外に出て、月明かりに照らされ美しく光る庭園を歩いていく。

 そして少し歩きベンチがある場所に行くと、仁王立ちでじっと庭を見ている筋肉ムキムキのおじさんが佇んでいた。


「…来たか」

「約束通り教えてもらいますよ。王様」


 そう。私が会う約束をしていたのは今日戦ったルル様のお父さんだ。

 私たちは戦う前に、もし王様の膝をつかせることが出来たら、ルル様を疎外する理由を教えてくれるという約束をしていた。


 結果は膝をつかせるどころか勝利したのだ。文句はあるまい。


「では教えてください。ルル様とあなたの関係を」

「その前に、このことは他言無用だ。いいな?」

「…それはルル様に対してもですか?」

「そうだ」

「…」

「それが出来ないのならばこの話は無かったことにしてほしい」

「そんな…いえ。わかりました」


 それだとルル様のお父さんに対する気持ちは変わらない。でも話を無しにされるのだけはダメだ。

 仕方ないけど納得する。


「では話そうか…私とルル。そして私の妻、ララフレールについて」

「………」


 王様の話は…悲しい話だった。




 昔まだ王ではなかった頃、テオフレールは世界中を旅していた。

 旅の目的は強くなることだった。当時から無類の強さを誇っていたテオフレールは周囲の環境に満足していなかった。だから生まれた地を離れ、強者を求めて旅を始めた。


 世界には自分の常識が通用しない強者が数多く存在していた。

 山と見紛う程の大きさのゴーレム。群れを成して徹底的に相手を叩き潰す狼。圧倒的強者のドラゴン。そんな強敵たちとテオフレールは毎日のように戦い、自分を磨いていった。


 そしていつしかテオフレールは強者のみを探し、それ以外は一切興味が無いバトルジャンキーとなっていた。


「当時は強さこそが全てだった。だからより強い相手を求め、自分が強くなっていく快感に酔いしれていた」

「リリみたいですね」

「ふ…リリは良き友に恵まれているようだがな、私は常に一人だった。そんな時だ。ある一人の女性に出会った」

「それが…ララフレールさんですか」

「そうだ」


 強者が集うと噂になっていたノウキングダムにテオフレールは流れ着き、そこで最強を決める王位決定戦で優勝を果たし…彼はその国の王となった。


 王の経験など当然ないテオフレールは試行錯誤しながら、家臣にも恵まれたこともありなんとか国を統治できていた。


 そして一年が過ぎ、国の様子をこっそり視察していた時にララフレールに出会った。


「強風が吹いて看板が落ちてきたんだ。そこにララフレールがいて、私は助けた」

「…ツイてないですね」


 助けた時の第一印象は「弱者」だった。細い手足、大きな胸。どれも武道で不要な要素ばかりの女。


 テオフレールが気にも掛けたことが無い弱者の象徴のような女性だった。


 当然テオフレールに関心などあるはずもなくその場を後にしようとしたが、その女性は王位決定戦を観戦していてテオフレールのことを知っていた。そして、城で働かせて欲しいと願い出てきたのだった。


 当時の城は新しい王の誕生で猫の手も借りたいほどに忙しかった。だからテオフレールはその女性を城で働かせることに決めたのだった。


「私の城で働いて、少しはその痩せ細った身体をなんとかしろ。食べ物は存分に与えてやる」

「わかりました!」




 だが、その女性を働かせたことをすぐに王は後悔することになった。


 その女性…ララフレールが部屋を掃除すればなぜか掃除前よりも部屋が荒れ、割れ物は絶対に割る。食欲だけは一人前。とはっきり言って…ポンコツだった。


 そんなララフレールを…次第に王は無視できなくなっていた。


「あ!王様!」

「ララ…何度も言うが雑巾はちゃんと絞れ。お前が通った道が水浸しだ…」

「全力で絞ったんですけどね!」

「…貸せ」

「…わぉ!水がまだこんなに残っていたなんて!」

「はぁ…これから何かするときは私の見えるところでやってくれ。やらかす前に止めることが出来るからな」

「どーゆーことですかーー!!」

「はっはっは」


 初めて弱者に興味を持った王様は…次第にララフレールに惹かれていった。


「だが、この国は強き者が正義。その正義の象徴である私がララフレールのようなポンコツを娶るのは許されることではなかった。だから、私たちは密かに愛し合っていた」

「…」

「そして私とララフレールの子が産まれた。当然母親は誰かと騒ぎになったが…私はララのことを秘匿した」

「…え?」


 当時からララフレールは城で働く者たちに疎まれていた。もしララフレールが王の子を授かったと知られれば危害を及ぼすものが現れる。そう確信できる程に。


 だからララフレールの子どもが私の子だと知っているのは信用できる僅かな人間だけに留めた。


「そしてララは…元々身体が弱かったこともあり、四人目の…リリを産んだ時に死んでしまった」

「………」

「さて本題だ。なぜ私がルルを避けているのか聞きたいとお前は言ったな。答えは単純だ。ルルは…私が愛したララと瓜二つだからだ」

「そう…だったんですか」

「あの子を見るたびに私はララを思い出す。そして知らずに涙が出てしまう。私は王だ。他人に弱さを見せたくはない。だから私はルルと距離を置いていた。…これで満足したか?」

「…理由は、わかりました。そして、私のような見ず知らずの者にここまで教えてくれて、ありがとうございます」




 …簡単に触れていい話題ではなかった。だけど王様は包み隠さず私に話してくれた。

 そのことに感謝すべく深くお辞儀をする。


「…ルルを、これからも守ってやってくれ」

「はい。必ず」

「うむ。話は終わりだ」

「ありがとうございました」


 もう一度礼をして庭園を後にする。

 王様は…ルル様を嫌ってはいなかった。そのことが分かっただけでも救われた気がした。


 王様にこの話は他言無用と言われたけど、王様はルル様のことを想っている。そのことだけは伝えよう。


「クロさん」

「ああルル様。丁度話したいことが…ってなぜここに!?」

「話はすべて聞いてしまいました。ごめんなさい!」


 庭の木の後ろに隠れていたのか、突然現れたルル様が泣きながら謝ってくる。

 え…?全部話を聞いていた…?


 後ろを振り返り王様を確認すると、気まずそうに頬を掻いている。


「お父様…盗み聞きしてしまってごめんなさい!クロさんが心配で後をつけてたんです」

「ルル…」

「あ!待ってください!」


 ルル様の顔を見ないように城へと戻ろうとした王様を止めるルル様。


「私は…いらない子ではなかった…のですか?」

「そんなわけないだろう。生まれてくれて…ありがとう」

「…う…ぐすっ…よかったでず…ずっと怖くて聞けなかったから…」

「…私は城に戻る。お前たちも早く寝ろ。ではな」


 そそくさと帰る王様。

 残された私たちはルル様が泣き止むまで待ち、部屋に戻って…再びルル様へ説教タイム。


「ルル様。何度も言いますが、何かするときはもっと考えて動いてください。そしてまず私に聞く!こっそり行動しようとしない!…聞いてますか!?」

「うぇへへへ」

「駄目だコイツ…」


 どれだけ怒ってもどこ吹く風で思い出し笑いをするルル様。


 …まぁ今日はこれくらいにしておいてあげるか。


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