オッズ差1万倍!?ポンコツ娘VS王
『さぁいよいよ王位決定戦本選が始ます!司会は引き続き世界のアイドルうっちーと?」
『魚ちゃんでお送りするうお』
『それでは本選第一試合を飾る選手達に登場していただきましょう!ルルフレール&クロネペアとテオフレール選手でーす!』
「「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」」
うっちーの合図で入場する。
闘技場に入った途端に大歓声が全身を包み込む。
隣にいるルル様も予選の時よりも多い歓声に驚いている様子だ。
「うわ~。予選よりもお客さんが多いですねー」
「満員ですね」
本選だけ見に来るお客さんもいるのだろう。
『さぁ第一回戦はなんとオッズ倍率が正反対の2組だ!1、1倍VS1万倍!本来なら勝負にならないはずの圧倒的な人気差!しかししかし予選で見せたルル&クロネペアの実力は本物でした!予選で見せたジャイアントキリングを今回も見せてくれるのか!?要注目です!』
…オッズ差1万倍って改めて聞くと笑っちゃうほどの差だね。ヤ〇チャとフ〇ーザが一騎打ちするようなものか。
観客のほとんどは王様に賭けていそうだ。私たちに賭けているのは私くらいなものだろう。
『解説の魚ちゃんはこの試合、どう見ますか?』
『そううおね…クロネ選手は典型的な魔法重視タイプなので、魔法を無効化するテオフレール選手とは致命的に相性が悪いうお。そしてルルフレール選手も召喚魔法を使うことから、これもまた無効化されてしまううお。そして2人とも接近戦は得意ではなさそうなことから…かなり厳しい戦いを強いられるうお』
『つまりオッズ通りの展開になってしまう可能性が高いと!この逆境を跳ね返してくれるのでしょうか!?まもなく試合開始です!』
魚ちゃんの言った通り不利なのは明らかだ。だけど可能性がないわけじゃない。
相手の王様は目を瞑っている。話しかけてくる様子はなく、ルル様とは目を合わせようともしない。
「「「………」」」
『それでは…試合開始ー!』
「【大召喚】!」「【水弾】!」「【ガルバテイン】!」
3人同時に魔法と能力を発動。
私が選択したのは自分の使える魔法中最速の【水弾】。水龍神の加護が付与されているから攻撃力も申し分ない魔法だ。
6つの水弾は狙い違わず王様に吸い込まれるように向かっていく。
「無駄だ」
「そのようですね…ですが」
案の定王様を中心に広がっていく魔法無効化の膜に接触した瞬間に水弾が掻き消える。
しかし、ルル様の召喚は私たちの予想通りに無効化されることなく成功していた。
謎かけの怪物スフィルクスさん。水龍神の娘ミツキさん、竜人コロさん、九尾のコルナさんとコリナさん…いずれも王様に引けを取らないであろう強者が集結した。
『クロネ選手の魔法が消滅してしまったー!しかしなんだこの光景は!?闘技場に見たこともない稀少な魔物がいつの間にか大量に出現しているぞ!?』
『ルル選手の召喚魔法うお!どの魔物もとてつもない存在感うお…しかもこれだけの魔物を同時に召喚するために必要な魔力量…想像もつかないうお」
『ルル選手の本領発揮だー!』
「おいおいアレ…竜人じゃねえか?」
「飛んでるのは…キメラか?あんな強そうなのを召喚したってのか…?あの無能と言われていた王女が…」
「あの魔物たちを制御できるんならとんでもねえぞ」
「誰だよ無能だのガラクタだの言ってた嘘つきは?こんなこと誰にも出来やしないぜ」
突然現れたそれぞれが一騎当千の魔物たちに観客が慌てふためいている。ある人は恐怖を。ある人は興奮を。ある人は唖然と…その光景を眺めていた。
そして対戦相手の王様もまた…呆気に取られている。
「これをルルがやってのけたというのか…?」
「!!そ、そうです!私がやりました!」
「…そうか」
ルル様が嬉しそうに手を上げて主張している。もしかしたらこれが初めての会話だったのかもしれない。初めて…ルル様と王様の視線が交差する。
「これがお前の力なのか」
「…私自身は弱いんです。だから友達と一緒に戦います!…これはずるいですか?」
「いや。優秀な味方に恵まれることもまた良き王の素質の一つ。見ない間に…立派になったものだ」
「!!」
ルル様が驚き…多分本人に自覚はないだろうが涙をこぼしていた。
親に認められる。そんな普通なら当たり前のことを、ルル様はやっと言葉にして伝えてもらったのだ。嬉しくないわけがないだろう。
「あ、あの!私…!」
「どうやら私も本気で戦わないといけないようだ」
「「!!」」
王様が臨戦態勢に入る。
ルル様が何か伝えたかったようだけど…私たちもコルナさんとコリナさんに騎乗し、いつでも動けるようにする。すぐにでも王様が攻撃してきそうな雰囲気だったからだ。
そんな一触即発の中、空中を飛んでいたスフィルクスさんが王様に話しかける。
『人間の王…やはり貴様のことだったか」
「あなたは…スフィルクス…」
『左様』
どうやらスフィルクスさんはまだ旅をしていたころの王様に、私たちと同じように謎かけをしたらしく、その時に戦闘になったようだ。
結果はスフィルクスさんが勝ったようだけど、将来性の高さを感じて見逃したと言っていた。
この話はルル様がスフィルクスさんに父親と戦うときに協力してほしいと要請した時に教えてくれた。 王様もスフィルクスさんのことを覚えていたようだ。
『あれからどれほど成長したか…確認させてもらおう』
「…あの頃の私ではないぞ」
スフィルクスさんが空中から襲い掛かる。
王様は後ろに下がることで前足の攻撃を回避し、カウンターに斧で攻撃するが、スフィルクスさんは冷静に鷲の翼で風を起こし王様を吹き飛ばそうとした。けれど…
「甘い!」
『…!』
突風を受けるもその場に踏みとどまった王様が攻撃に成功し、スフィルクスさんの前足に傷をつけた。
スフィルクスさんが自分の傷ついた前足をチラリと確認して王様に笑いかける。
『なるほど。確かに成長しているようだ』
「…」
「私たちも攻めましょう!クロさん!」
「そうですね。行きましょう。コリナさん」
「承知」
コルナさんとコリナさんにも戦闘に参加してもらう。
本来なら騎乗している私が魔法で援護するのが基本スタイルなのだけど、王様の領域の中なので魔法は使えない。
だから私はコリナさんの死角をカバーして何かあれば伝える。
というか、それくらいしかやることがない。
「かっかっか。あのムキムキマッチョがルルの父親かえ。全然似てないねえ」
「コルナ姉さん失礼…倒せばいいの?」
「はい。倒すか、場外に落とすか、斧をどうにか出来れば」
「倒すのが手っ取り早そうだねえ」
「スピードで翻弄」
コルナさんとコリナさんが王様を中心にぐるぐると回り隙を伺う。
しかし王様は微動だにせずに斧を構えているだけだ。
たったそれだけなのにプレッシャーが強い。
もしこのまま何も考えずにあの斧の間合いに入ってしまったらたちまち真っ二つにされそうな…そんなビジョンが頭に浮かんでくる。
「…隙が無いねぇ」
「強い」
コルナさん達も同様なのか、中々攻撃できないでいる。そんな時にルル様が何やら口元を抑えて顔色が悪くなっていく。そしてついに耐え切れなくなったのか涙目でコルナさんにタップし始める。
「うぷっ…コルナさん!吐きそう!私吐きそうです!」
「はぁ!?…しょうがない子だねぇ」
ルル様がキラキラの何かを出す前に撤退する。
そして私とコリナさんだけで攻めても効果は薄いと判断し、私たちも後退した。
王様…じっとしているだけで私たちの包囲網を解除させるなんて…やりおる。
「ルル様…大丈夫ですか?」
「…」
ルル様が無の表情をしている。
吐き気が収まるまで微動だにしないでやり過ごすルル様の十八番だ。
しばらくは動けないなこれは…
そんな様子を呆れながら後方で見ていたコロさんが王様に向かって歩き始めた。
「次は俺が戦うぜ。誰も手を出すんじゃねえ」
「頑張ってくださいねぇ」
「ミツキ!これが終わったらお前とも戦うからな。覚悟しておけよ」
「嫌ですぅ」
「無理矢理にでも付き合ってもらうからな!」
「…竜の仲間が出来たのは嬉しいのですけどぉ、面倒くさい竜ですねぇ」
ミツキさんがため息をついてコロさんの後ろ姿を胡乱気に見つめている。
コロさんとミツキさんは昨日が初対面だったんだけど、自己紹介の時にミツキさんが水龍神の娘であることを知ったコロさんは何かとミツキさんに絡んでいるようだ。
どうやら竜の格上の存在が龍神で、その娘のミツキさんに対抗意識を燃やしているようだ。
ミツキさんはミツキさんでずっと海の中で生活していたから家族以外の竜を見たのが初めてで、最初は嬉しかったみたいだけど…コロさんの態度がアレなので今は辟易している様子だ。
そんな誰に対しても基本喧嘩腰のコロさんが単独で王様の前まで歩いていく。
「よぉ。お前さんが世界最強を名乗っているんだってなぁ!」
「…そんな覚えはないのだが」
「30年間無敗なんだろ?」
「否定はしない」
「それさえ合ってればいい。これから俺が、初めての敗北の味を教えてやるぜ!わかりやすく殴り合いの勝負をしようぜ」
「…いいだろう」
王様が斧を背中に戻す。どうやら殴り合いをするらしい。
男と男の拳の勝負!ってやつなのかな?
身長が同じくらいの2人がファイティングポーズを構える。
うっちーも興奮しながら実況している。
『王様と竜人の一騎打ちだ!雄と雄の意地のぶつかり合い!相手を見下ろすのは果たしてどちらか!?』
『魔法も武器も使わない…つまり地力が勝負を決めるうお。そんな状況で竜を相手にするなんて正気じゃ無いうおが、テオフレール選手ならもしや…という凄味があるうお」
コロさんが王様にお互いの拳が届く距離まで近づいていく。そして…
「オラァ!」
「ハァ!!」
お互いの頬に拳がクリーンヒットし、壮絶な殴り合いが幕を開けた。




