ランチタイムに作戦会議!
リリのリクエストで焼肉のお店にやってきた。
ランチセットを頼んでから本選についてリリが訪ねてくる。
「それで?お父様対策は考えたの?」
「まだ何も…」
「考えてないですね…」
「え?あんた達1日中何してたのよ」
「「…膝枕」」
「「…………」」
リリとトトちゃんが呆れている。まぁ私も多分同じことを言われたら病院行けと言うだろう。
それからリリに説教をされる。
「あのねぇ。あと2日しか時間がないのよ?勝つ気あるの?」
「頑張ろうとは思った」
「はい!私にいい考えがあります!」
「何ですか?ルル様」
「お父様が魔法無効化の領域を作る前に倒してしまうのはどうでしょうか?」
「それは私も考えました」
魔法を使えなくされるのなら、その前に倒してしまえばいい。簡単な話だ。
だが果たしてその簡単な考えを実行されたことがないのか?…そんなことはないだろう。
案の定リリがその作戦を行った人の話をしてくれる。
「お姉ちゃんは前回の大会見てなかったの?」
「はい。ずっとお家にいました!」
「自慢げに言うことじゃないわよ。しょうがないから前回の決勝戦の話をしてあげる!」
そうリリが話し出した内容は、まさに私が初めに実行しようと魔法による速攻。
前回の決勝戦は王様VSギギ・エリンペアの親子対決だったそうだ。
そしてエルフであるエリンは魔法の弓を使う弓術師。つまり魔法を封じられると長所を取り除かれてしまう。
そんなエリンはやはり試合開始と同時に攻撃を仕掛けたようだ。
エリン最速の”青の矢”は狙い違わず王様に命中したかに見えたが…
「その矢はお父様の目の前でぱしゅっと消えてしまったわ。たぶんだけど…お父様は【ガルバテイン】を発動しなくても魔法を消すことができるのよ。その後は魔法を無効化されたエリンが普通の矢で応戦してたけど倒されてしまって、最終的にギギ兄様と一騎打ちになってお父様が優勝したわ」
「補足致しますと、エリン殿の攻撃は正に最速でしたぞ。あの魔法の矢を防がれると言うことは…恐らくどんな魔法も同じ結果になるでしょうな」
「そんな…」
せっかくルル様が思いついた作戦はやはり通用しないようだ。
だけど私はリリの説明を聞いて光明が少し見えた。
「リリ。確認したいことがあるんだけど」
「なにかしら」
「エリンさんの魔法の矢は防がれたようだけど…発動は出来ていたんだね?」
「…そうね。それがどうかしたの?」
「つまりだよ?攻撃魔法は王様に当たる直前で無効化されるけど、召喚魔法は王様に近づかなければ使用できる」
「「「…ああ!!」」」
そう。王様が魔法無効化の領域を作る【ガルバテイン】を発動する前に召喚魔法を使えば、恐らく妨害はできない。チャンスは試合開始の数秒だけだと思うけど、ここ数週間でルル様は素早く召喚魔法を発動する訓練を一生懸命行っていた。
予選で王様が見せた構築速度なら…ルル様の召喚魔法のほうが速い。私は何度もルル様の傍で見てきたから確信を持って言える。
3人も私の言いたいことが伝わったのか頷いている。
「お姉ちゃん次第ってわけね!」
「可能性が出てきましたな」
「わ、私次第!?」
「たぶん私にできることはありません。ルル様だけが頼りです!」
「あばばば…」
頼られることに慣れていないルル様が変な動きをしているけど、今回ばかりはルル様に頑張ってもらう他ない。
ちょうどランチが来たので食べながら作戦会議を続ける。
「それで次の問題ですが、ルル様は一度にどれくらい召喚できるのでしょうか」
「数は大事ね!どうせなら今まで契約した相手全員召喚しちゃいなさいよ」
「一度の同時召喚は試したことがないですね。まずは召喚してもいいか聞いてみないと」
「善は急げ!ですぞ」
「聞いてみます!むむむ~」
このルル様の出演交渉は勝敗を分ける重要な要素だ。スフィルクスさんなんかは気難しいからなぁ。一緒に戦ってくれれば心強いけど。
ルル様が交信している間に焼けたお肉を口に運んであげる事しばし。交渉が終わったルル様がふぅと息をつく。
「どうでしたか?」
「コロちゃんを除いた全員が了承してくれました!」
「はぁ!?コロ断ったの?なんでよ!?」
「人間社会のいざこざに俺を巻き込むんじゃねえと断られてしまいました。その通りなのでしょうがないですね!」
「それよりもよくスフィルクスさんからオッケーもらえましたね」
「スフィルクスさんは最近刺激が無いから丁度いいと言っていました。それにお父様のことも知っている様子でしたねー」
「へー」
「スフィルクス殿は物知りですなぁ」
これでかなりの戦力アップだ。嬉しい誤算が続く。
しかしみんなで喜んでいる中、リリだけが納得いかない様子で怒っている。
「ちょっとお姉ちゃん?コロをここに呼び出してちょうだい」
「えぇ…他の皆さんは来られるのだからいいんじゃないですか?」
「それで負けたら後悔するわよ!出来ることは全部やっておかないと!ほら早く!」
「…わかりました!」
ルル様が再度コロさんに交信する。
そしてリリの横にコロさんが召喚された。
相変わらずの長身オールバックのヤクザのような風貌の竜人だ。
隣にリリがいることを確認して凄いビビっている。相変わらずリリには頭が上がらないようだ。
「げぇ!リリ!」
「久しぶりね。事情はお姉ちゃんに聞いているわね?協力しなさいよ」
「嫌だね面倒くせえ。それにお前は戦わねえんだろ?なんでお前が頼んでんだよ」
そう。リリはむしろライバルだ。助ける道理は本来ならない。
でもリリは単純な損得勘定では動かないのだ。
「だって、あのポンコツお姉ちゃんが、この国最強のお父様に勝つなんてことになったら…とっても面白そうでしょ?」
「ポ…ポンコツ…妹にポンコツって言われました…」
「…最強だと?そいつは聞き捨てならねえな」
コロちゃんが最強という単語に反応した。こっち路線で攻めてみるか…?
「そうです。明後日戦う相手は30年間無敗のこの国…いえ。世界最強の相手なのです」
「ちょっと待てよ。世界最強はこの俺だ」
「あたしに負けたじゃん」
「ちっげーよ!あれはあれだ。本来の実力の半分も出してねー。本気出せばお前なんて瞬殺よ」
「は?ちょっと表に出なさいよ」
「いやいや…人間に迷惑掛かんだろうが!」
人の心配をする竜。
「ともかく!俺を差し置いて最強を名乗っているのは許せねえ!仕方ねえから俺も参加してやる」
「「「「やった!」」」」
これで戦力としては申し分ないだろう。
彼らならば魔法が無くてもその圧倒的な身体能力で優位に立てるはずだ。
あとは王様の斧をどうにかして手放させられれば…勝てるかもしれない。
そんな充実したお昼の作戦会議が過ぎ、その日の夜。
「ふわぁ…どこに行くんですか?クロさん」
「お手洗いです」
そろそろ日付が変わるという時間帯で、私はルル様の部屋を出た。
目的は王様に会うためだ。
あの王様はこの時間になると庭に行くという情報を聞いたので庭へと向かう。
「(いた…)」
「………」
庭に行くとあっさり見つけることが出来た。
何もせずにただ立って庭を眺めている王。護衛はいない。なぜなら王を害せる存在はいないから。
その王に隠れるような真似はせずにゆっくりと近づく。
「…誰だ」
「ルル様の護衛をしている黒音と言います。聞きたいことがあって来ました」
「…なんだ?」
「ルル様のことをどう思っているのでしょうか?」
「キミには関係のないことだ」
「あります。私はルル様をお慕いしていますので」
「……」
関心が無いだけならばそれでもいい。
…だけどルル様は、城の中では自由に過ごせている。それは昔からだ。食事も用意してもらっているし、洋服もいつの間にかロッカーに新しいものが入っているそうだ。
実の娘を無視するのは信じられないけど、何か理由があるのなら…そんな一抹の希望を抱いた。
王様はしばらく私のことを見つめて…嘆息した。
「はぁ…次の王位決定戦」
「…」
「もし私に膝をつかせることが出来れば…教えてやろう。ありえないが」
「膝をつかせるだけでいいんですか?」
「ああ」
「わかりました。失礼します」
「………」
もう話すことはないとばかりにそっぽを向かれた。
御辞儀をしてその場を後にする。
…もしルル様に興味が無いだけなら、何かを教える必要なんかない。
「やっぱり王様とルル様は…秘密がある?」
それが何かはわからない。
わからないけれど…この王位決定戦を通じて和解してほしい。だってあんなにも切ない顔で親の背中を見るルル様を見るのは辛いから。
そしてそれぞれの思いを胸に…戦いの日がやってきた。




