四つ巴の攻防②
剣の技術では…負けていないはずだ。
でもボクは剣帝相手に手も足も出なかった。
「魔剣の少女よ。その剣術はどこで習った?」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「答える余裕もないか?まぁいい。お前の技術は大したものだ。一切無駄のない足運び、打ち込みの正確さ、適切な返し技…闘気も十分感じる…が、殺気が無い。俺とお前の一番の差はここだけだ」
「殺気…」
「お前の剣は…温い。故に剣が軽い。こんな風になッ!!」
「ぐっあ…ッ!」
掬い上げるような下段から上段への振り上げを防御したら力技で剣を弾かれる。
上体を無理矢理逸らされて正面ががら空きになってしまった。
本来ならここでボクは切り捨てられていただろう。だが…
「っち。またか」
「…」
剣帝がボクに止めを刺そうとする瞬間。いつもその隙を狙って暗殺者が剣帝に攻撃を仕掛ける。
今もボクに剣を振り抜く刹那に背後から短刀が飛んできたため剣帝は回避せざるを得なかった。
後方で鎌の柄頭に顎を乗せ、ぼーっとしている弟子にガンを飛ばす剣帝。
「レイナァ!弟子なら師匠の背中くらい守れ!!」
「師匠の真剣勝負に水を差すのも悪いので、レイナは手を出さないって決めたっす!」
「結果的に水差されまくってるぞおい!暗殺者だけでも見張ってろ!」
「難しいっすよぉ。全然姿現さないっすもん」
彼らは攻撃するとき以外は全く姿を現さない。そのため対応することは難しそうだ。
剣帝は暗殺者の不意打ちを警戒してボクとの戦闘以外にも神経を使わなければいけないようだった。
そう。暗殺者は剣帝だけを狙っている。まるでボクと剣帝の戦いを互角に調整するように。
理由はわからないけど…そのおかげでボクはまだ無傷だ。
だけど…打ち合ってわかった。
ボクが十数年習ってきた剣道だけではこの剣帝を絶対に倒すことが出来ない。
剣帝の言うように技術で劣っているわけではないはずだ。数百年の歴史の中で研鑽されてきた剣道の技は…この異世界最強の剣士の技にも後れを取らない。
にも関わらず打ち負けてしまうのは対人での意識の差…なのかもしれない。
剣帝の剣は一太刀一太刀で相手を殺す為に振っている。それは対面しているボクが一番感じている。もし対応を間違えたら命を刈り取られるであろう恐怖。そんな恐怖に駆られてどうしても攻めに転じることが出来なかった。
「やっぱり素の力じゃあなたには勝てないか」
「ん?素の力だと?」
「そうだよ。こっからが本当のボクの力だ。【三倍身体強化】…」
「アラタ~!助けてくれ~!!」
「!」
身体強化の魔法で形勢逆転!と発動させたところでじいさんからヘルプが入る。
…そう言えばじいさんのこと守らなきゃいけないんだった!
「勝負はお預けだ剣帝!」
「は?おい!」
その場を後にしてじいさんのもとに向かう。全てのステータスが三倍になっている為すぐにじいさんの下に到着できた。そのままじいさんを囲っていた参加者を蹴散らす。
「ごめんじいさん!じいさんのこと忘れてた!」
「ごめんで済むかアホ!危なく爺狩りに遭うところじゃったぞ!」
全くやっと術式に集中できるわい…とぶつぶつ言いながら魔法陣が展開される。
周囲の敵を倒してからじいさんに近づくと、透明な魔法陣を構築していた。
「それはどんな魔法なの?」
「これか?これは追跡の魔法じゃ」
「追跡の魔法…暗殺者をあぶり出すってこと?」
「察しがいいのう。その通りじゃ」
じいさんの【追跡魔法】は魔法陣に触れた相手の位置がわかるようになる魔法で、これを使って常に潜伏している暗殺者を見つけ出そうというものだった。
「けど、魔法陣を必ず踏むとは限らないよね?それに他の誰かが知らずに踏んじゃうかもしれないし」
「うむ。じゃが、かなりの確率で暗殺者が手を出すところがある」
「へえ。どこ?」
「あそこじゃ」
じいさんが指をさした場所…それは先刻暗殺者によってダメージを負わされた最強の矛・ナプティスだった。
「あの人に魔法陣を仕掛けるってこと?」
「そうじゃ。言い方は悪いがトラップとして利用させてもらう」
確かに暗殺者が今一番狙いやすいのは負傷しているナプティスだろう。
そして暗殺者が止めを刺そうとしたところで【追跡魔法】が発動。隠れられなくなった相手をボクが倒すと。
「作戦としては悪くないと思う」
「じゃろう?だからアラタ。お主はもう片方のハルハイムとやらの注意を惹き付けてくるのじゃ」
「…まぁそうなるか。じいさんは大丈夫?」
「アラタが大方片付けてくれたからな。あとはなんとかなるじゃろ」
「オッケー。それじゃ行ってくる!」
最強の盾ってのがどれくらい強いのか興味もあるし!
彼らに近づくと、未だ負傷で立ち上がることが困難なナプティスにハルハイムが処置を施しているところだった。少々気が引ける。
「…やはり回復薬でも毒消しでも血が止まらないか…奴等め、刃に特殊な毒を塗っていたか」
「ハルハイム…私のことはもういい。それよりもお客さんが来たぞ」
「戦場だからな…先に倒しやすい相手から片付けるのは常道。…アラタ君。キミか」
「大変そうですが…ボクに付き合ってもらいますよ」
「私のことは気にするな。ハルハイム」
「…いいだろう。来い」
「【三倍身体強化】!」
ハルハイムが少しナプティスから離れ、自身を覆い隠す程の大盾を構える。
ボクは切っていた身体強化の魔法を再度発動。あの大盾を躱して攻撃するにせよ、盾の上からダメージを与えるにせよ強化魔法は必須だと直感したからだ。
三倍の速度になったことで初見の相手は必ずボクを見失う。そう考えハルハイムの後ろに回り込み剣を振ろうとするが…
「甘い」
「うっ…!?」
ボクが剣を振り抜くより前に、ハムハイムが後ろ回し蹴りを見舞ってくる。まさかカウンターが来るとは思ってなかったために反応できず、もろに蹴りを食らってしまう。
『あああっと!!アラタ選手に後ろ蹴りが直撃ィィィ!これはダメージが大きそうだ!』
『アラタ選手の突然の加速に見事に反応したハルハイム選手。見事うお』
「ゲホ…ガハ…うぅ…効いたぁ」
「ほう。立ち上がるか。見た目に反して丈夫だな」
「…どうしてボクの攻撃にカウンターを合わせられたの?結構ショックなんだけど」
「ふ…簡単な話だ。キミのようなスピード自慢が私の大盾を見て最初に選択する行動は限られている…それだけだ」
「…へえ」
経験則による攻撃だったわけね。潜り抜けてきた場数が違うってわけだ。
はぁ…こんなに強い人が多いなんて…自信無くすなぁ。
経験が足りない自分が彼らに勝つには…無茶しないといけない。
五倍…やろう。と思ったら視界の隅で動きがあった。
蹴りでボクが飛ばされたことにより戦闘領域がナプティスから離れてしまったのだ。そこを暗殺者が見逃すはずもなく…
「…!!??」
「掛かったぞ!」
暗殺者がナプティスに止めを刺すべく攻撃を仕掛けた瞬間。魔法陣が突然現れ暗殺者に纏わりつく。驚いた暗殺者がすぐに飛び退き撤退しようとするが、時すでに遅し。
じいさんの杖から光る糸が出ていた。その糸の先はフードを被った暗殺者に繋がっている!
『なんとガンド選手の魔法が暗殺者ペアの片割れをロックオォォン!すかさずアラタ選手がバトルを中断して暗殺者に迫る迫る!』
「…!」
「逃がすか!」
リングの端まで追い詰め、観念したのか立ち止まる暗殺者。
フードを深く被っているため顔は確認できないが、体格は本当に小さい。
「………」
「さ。おとなしくギブアップするなら痛い目には合わないけど?」
「アラタ君。少し待ってくれないか」
「え!?あんた…」
後ろから声を掛けてきたのは背中から血が流れ続けているナプティスだった。
さっきまで動くこともままならなかったのにここまで来れたのはなにがしかの強い想いがあるからか。
その鬼気迫る表情に思わず道を譲ってしまう。ナプティスが小さくありがとうと呟いて暗殺者と向き合う。
「お前に聞きたいことがある」
「…」
「2か月前、私の部下5人が命令を無視してお前たちを検挙しに向かったはずだ。彼らはどうなった」
「…」
「答えろ!」
思わずボクが問われたわけじゃないのにビクッとなった。それくらいの迫力だ。
暗殺者がしばらく沈黙してから口を開く。
「彼らは健康だったからいい値段で売れたヨ」
「…何だと?」
「良い臓器だった。と言ったんダ」
「…貴様ァ!喝ァッッ!!!」
「ぐはっ…」
『おああっと!暗殺者ケイ選手が場外の壁に叩きつけられダウン!これで暗殺者ペアはティー選手のみとなりました!』
「くそっ!やはり彼らはもう…」
ええっと…よく話が呑み込めないけど…要はナプティスの血気盛んな部下が暗殺者のアジトに殴り込みに行って返り討ちにあったのかな?
ナプティスは悲壮感が漂っていて非常に話しかけにくい。そんなナプティスの背後にまるで空気を読まない少女が近づいてくる。
「はいはーい!あなたはそこまでっす。血を流しすぎっすよ」
「な…!?」
鎌を持った少女が落ち込んでいるナプティスを前蹴りで押し出す。怪我を負っていたナプティスは踏ん張りが効かずにそのまま場外へと落ちてしまい、そのまま気絶してしまった。
「ありゃ~。暗殺者のアンサーは精神的にもダメージが大きかったようっすね」
「あんたは…」
「師匠がキミにフラれたんで、今度はレイナが遊びに来たっすよ」
レイナが鎌を構える。顔は戦闘する気満々だ。
「レイナの鎌にも構ってくださいっす」
暗殺者を追い詰めたと思ったら今度は剣帝の弟子か。次から次へと…イベント盛りだくさんだな!




