必中之矢
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これからもポンコツ姉妹をよろしくお願いします!
王の長女として生まれた私は強く在らなければいけなかった。
だけど私は弓を使うことを決めた。幼き頃見たエルフの弓の美しいを忘れられなかったからだ。
ターゲットに向かって真っすぐ進む放物線。遠距離から一方的に蹂躙する征服感。
私の国では弓は不人気で、家族からも反対されたけど強引に押し切って使うことにした。
「よろしくお願いしますわ。エルフの…」
「エリンだ」
「エリンね。早速弓を教えてちょうだい」
「いいだろう」
銀髪で蒼い瞳が特徴的なそのエルフはエルフの中でも変わり者で、里の生活が合わずに大陸の各地を渡り歩いているようだ。
そして流れ着いたのがこの国で、弓の技量を評価されて城に招待されていた。
「ネネフレールよ。君は弓を使ってどんな戦いを望む?」
「一方的な蹂躙よ!」
「それをつまらないと思わないのかい?」
「勝利以外は何もいらないわ」
「…いいだろう。私の弓のすべてを君に教えよう」
そうして私はエリンから弓を教わり、数年の修業を経て国でも有数の弓術師になった。
「ルー。私は遠距離で相手を必ず貫く。だからあなたは私に近づく火の粉をすべて払いなさい」
「わかったよ。ルーはネネ様の槍だからね」
物心つく前から私に仕えてくれているルーと2人で王位決定戦で優勝する。それが私の目標だ。
そしてエリンから最終試験を言い渡される。
「この試験に合格したならば、君の弓は更なる飛躍を見せるだろう」
「ふん。どんな試験なのかしら?」
「キミの兄上。ギギ王子に一矢当ててみせろ。それが最終試験だ」
「兄様に…」
「キミの目標を達成するにはいずれ越えなければならない壁だ。それが少し早まるだけのこと」
「…いいでしょう。やってみせますわ」
「うん。ではギギを連れてこよう」
そんなやり取りがあってからどれだけの月日が経っただろうか…
毎日数時間、兄様に付き合ってもらいひたすら私は兄様に向かって弓を引いた。その間兄様は一切攻撃はしない。
それなのに兄様には一向に当たる気配はない。
「こんなに難しいとは…思いもしませんでしたわ!」
「そう簡単に私に当てられると思うな」
兄様のスピードはどんな獣、魔物よりも早かった。鳥さえも撃ち落した私の矢が通用しない。
兄様は弓を放ってから兄様に届くまでの僅かな時間で全く違う地点に移動している。つまり動きを先読みしないと絶対に当たらないのだ。
「このまま闇雲に放っていても当たりませんわね…」
「ネネ様…頑張るのですよ」
兄様が動く未来を予知しないと命中しないのなら…そう考えた時に一筋の光の線が見えた。
「?…いまのは…」
すぐに光の線は消えてしまったが…直後にその線の先を兄様が通過した。
もし光の線が見えた時に矢を放っていれば兄様に命中していたかもしれない…そんな予感がした。
それから集中すると光の線が見える回数が増えていき…ついに兄様を捉える事が出来た。
「見える!見えますわ!」
「見事」
光の軌道に乗った矢は寸分違わず兄様の心臓に向かった。直前で掴まれたけど、試験は無事に合格した。エリンが拍手で私を称える。
「素晴らしい!どうやらキミは新しい次元に到達したようだ」
「ええ。これが私の必中の矢ですわ!」
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「そう!私の矢はリリ!あなたがどれほど速くても関係ありませんわ!【必中之矢】!」
「そんなの反則よ!」
王位決定戦予選Aブロック。相手は妹のリリ。光の線が数本見える。
その線に沿って放った矢はどんなにリリが動いても必ず当たるようになっている。
そのほとんどはリリに防がれているが…何本かは防ぎきれずにダメージを与えている。
リリのパートナーの犬人も隙を見ては攻撃してきているけどルーが完璧に抑えてくれている。
『どれほど速く動いても!どれほど不規則に動いても!正確無比な矢がリリ選手に迫る~!』
『まるで未来が視えているかのよううお』
『さぁリリ選手どうするのか!』
リリは突然加速したり不規則に動いたりして避けようとしているようだけど関係ないわ。このまま決着をつける!
そろそろ止めを。そう思った時、不意にリリが動きを止める。
「諦めたのかしら?リリ」
「ええ。避けるのは諦めたわ」
そうリリが口にした瞬間。言いようのない不安が体中を駆け巡る。
そしてリリが動き出そうとしたその時…
『カンカンカーン!Aブロック予選しゅーりょー!勝ち残りはネネ&ルーペアとリリ&トトペアの2組でーす!』
「「え?」」
私とリリが予想外のアナウンスに動きを止める。
周囲を確認すると、ルーが私たち以外に生き残っていた最後の一人を槍で倒していることがわかる。
「ルー?あなたがやったの?」
「はいですよ」
「余計なことを…!」
「すみません。攻撃してきたのでつい」
「ちぇ。勝負はお預けね。姉様」
「…そうね。次こそは完璧に私が勝つわ!」
消化不良でしたけど、決勝トーナメントには進めるので良しとしましょう。でもルーにはあとでお仕置きね。
どんなお仕置きがいいかしら…
「ネネ様」
「なあに?ルー。今夜は寝かさないわよ?」
「うへぇ。それは嬉しいような嬉しくないような…それよりもネネ様に確認したいことがあるのですよ」
「何かしら」
「もしネネ様の矢を無視して攻撃してくるような相手が現れた時…ネネ様はどうやって対処するのですか?」
「そんなことは決まっているわ」
「決まってるんですか?」
「ええ。そのような無作法な相手はルー。あなたが全て蹴散らしなさい!それがあなたの仕事よ」
「ルー任せですか!」
「そうよ。あなたが防衛している間に私は距離を取って追撃の矢を与えるわ。完璧でしょう?」
私が弓で戦うことを決意できた理由の一つは、私を絶対に守ってくれるルーの存在があったからだ。 ルーがいるから私は余計なことを考えずに弓を引き続けることが出来る。
ルーはしばらく呆けた後に、頭をポリポリと掻いて恥ずかしそうに頭を下げた。
「…ルーは余計なことをしてしまったようです。お仕置きは甘んじて受けるのですよ!」
「最初からそのつもりよ」
そう。私たちは2人で完璧な勝利を得る。優勝は私たちが頂くわ。
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「お疲れ様。リリ」
「ええ。ちょっと暴れたりなかったけどね!」
「姉君は強敵でしたな」
「リリちゃんもネネお姉ちゃんも凄かったです!」
あのリリを正確に打ち抜く弓の技量には驚かされた。
それにルーという小柄な槍使いの少女も状況判断が的確だった。もし最後、ルーが試合を終わらせていなければ…矢を無視して突撃しようとしていたであろうリリに苦戦を強いられることになったはずだ。
「ともあれリリたちの勝利を祝って、お昼ご飯食べに行く?」
「そうね。クロネたちはEブロックだから…多分午後からよね」
「リリちゃんたちの試合を見ていたらドキドキでお腹が空きました~」
パンフレットを確認してみる。Bブロックで知っている人はいないし、Cブロックでは第一王子のギギが出場するみたいだけど。
「ギギ王子の試合は見る?」
「そうねぇ。試合前に会った時はかなり自信満々だったから、気にはなるわね」
「それでは屋台で食べたい物を買って、観客席で食べるのはどうでしょうか!」
「いいですね」
王位決定戦開催中は闘技場の周りに屋台がたくさんある。
大陸中の人々がこの戦いを見学しに集まるから収益はかなりのものになるだろう。
そんなわけで4人で屋台巡りをしてそれぞれが食べたい物を買う。
私とルル様はサンドイッチで、リリは串焼きやフランクフルトなどを大量に購入。トトちゃんは焼き魚。
「やっぱりいつもよりお高めですね~」
「多少高くても買ってしまいますからね」
「あ。Bブロックの試合が終わったみたいですよ!」
屋台巡りをしていると闘技場から歓声が聞こえてくる。
そしてうっちーが勝者の名前を宣言する。
「竜騎士と死霊使い(ネクロマンサー)ですって!」
「空を飛べるなら場外負けがないので強みになりますね」
「ネクロマンサーはどう戦うのか気になるわね」
ノーマークのBブロックだったけど見ればよかったと少し後悔する。流石は最強を決める戦い…個性的な人が多そう。
「Cブロックの試合が始まるわよ!急ぎましょ!」
「リリちゃん置いてかないで~!」
Cブロックはギギ王子が出場する。オッズは2,1倍でリリと同率2位だ。
リリと同評価…いったいどれほどの強さなのだろうか?




