Aブロック姉妹対決! リリVSネネ前編
「ついに始まりました王位決定戦!司会は私、世界のアイドルうっちーと?」
「解説の魚ちゃんうお」
ルル様と一緒にリリの戦いを見るために観客席に移動するとやはり聞き覚えのある声が。
その正体は北の街の大食い対決でも司会をしていたうっちーと魚ちゃんさんだった。
「うっちーさんと魚ちゃんさん!どうしてここにいるのでしょうか?」
「おそらく…うっちーさん達の真の目的は強者を【黒鮫大海賊団】にスカウトすることです。この大会は強い人が多そうですからね。目ぼしい人を海賊団に招き入れる為でしょう」
「なるほどー」
アイドルであるうっちーはあくまでも表の顔。彼女たちの本業は海賊団幹部として大陸にいる強者をスカウトすることなのだ。だからここにいてもおかしくはない。
「ともかく今はリリちゃんの応援です!ふんす!」
「ですね」
闘技場に目を向ける。
50組…つまり100人のバトルロワイヤルが始まろうとしている。
それぞれが得意な武器、凶器を携え周囲を威嚇しているマッチョたち。そんな中で異色なのはやはりリリだ。
腕を組み、中央で仁王立ちのまま目を瞑っている。手には何も持っていない。
その存在感は圧倒的で…誰も近づけないのだろう。リリの周りだけぽっかりと空間ができている。
しかし…そんなリリの前に弓を携えた女性と、それに付き従う槍を持った女性が現れる。
リリがゆっくりと目を開ける。
「あら。ネネ姉様」
「リリ。こんなに早くあんたと戦うことになるとはね」
どうやら弓を持っている女性がルル様とリリの姉らしい。金髪のツインテールでいかにも気が強そうだ。
リリの威圧に物怖じした様子はない。やっぱりリリの家系だけあって強いのかな?ネネが弓を前に出してリリを挑発する。
「私の弓はあなたを貫くわ。せいぜい気をつけなさい」
「それはどうかしら?あたしは速いわよ?当たるかしら?」
「すぐに思い知るわ。…行きますわよ。ルー」
「はい」
「トト。槍使いはあなたが抑えなさい。あたしは姉様を倒すわ」
「わかりましたぞ」
どうやらAブロックはリリとその姉のネネのペアが飛び抜けて強いようだ。他に個性的な人は見当たらないし。
そんな考察をしているとうっちーが開幕の合図をする。
『さぁさぁルールの確認だよ!魚ちゃんお願い!』
『50組のバトルロワイヤル。勝ち残りは2組だけうお。あと戦闘不能になる以外にも闘技場の外に落ちたら失格になるから注意するうお。健闘を期待するうお』
『みんなわかったかなーー!?それではそろそろ始めましょう!準備はいいかなーー!?』
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
『それでは王位決定戦Aブロック!バトル開始ーー!』
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
うっちーのゴングと共に動き出す選手たち。周りは全員敵。どう立ち回るかも重要だ。
しかし…立ち回りなんて考える必要のない強者は別。
「はあああああ!!!」
『おおっと!早速今大会の優勝候補!リリ選手が暴れているぞ~!周囲の選手を文字通り吹き飛ばしている~~!!』
『武器や道具を使わない、純粋な自分の力だけで大の大人を吹き飛ばしているうお。末恐ろしいうおね』
『その姿は狂戦士!この怪物少女を止められる奴はいるのか~~!?』
リリが開始と同時に暴れ出した。近くにいる参加者を片っ端から殴り蹴り、どんどんと数を減らしていく。このまま決着がつくのでは?と思わせるほどの力の差だ。
しかしリリが突然動きを止める。
「どうしたんでしょうか?」
「リリが何か握っていますね」
「あれは…矢でしょうか?」
リリが矢をへし折り左に視線を向ける。
リリの視線の先を確認すると…いた。
闘技場の端…つまりリリから最も離れた位置から矢を放った体制のネネが。
「あの距離からリリちゃんに命中させたのですか!?」
「そのようですね」
リリとネネの間には他の参加者も多数いる。つまりその参加者の間を縫って矢をリリに届かせたことになる。弓に詳しくない私でもそれが相当な技量であることくらいはわかる。
しかしこれでリリに位置がバレた。
リリがネネに向かって猛スピードで駆け出す。しかし…
「…あれ?いない!?」
「後ろですリリ殿!」
「くっ!」
先程までネネがいた場所は既にもぬけの殻だった。そしてリリの後ろから迫りくる矢にいち早く反応したトトちゃんが忍者刀で矢を打ち落とす。
上から見ていてもネネは消えたように見えた。スッと他の参加者の陰に紛れ、いつの間にかリリと位置が入れ替わるように中央に出現し弓を放ったのだ。
そして矢を放ち終えるとネネがまた参加者に紛れる。
『リリ選手の猛攻を止めたのは第二王女のネネ選手だ!姉の威厳を見事に保ったぁ!』
『ネネ選手も最有力候補の一人うお。予選でこのカードを見られるのは運がいいうお』
『近距離タイプのリリ選手と遠距離タイプのネネ選手!どちらに軍配が上がるのでしょうか!!』
リリは接近さえできれば決着をつけられるだろう。
だけどその接近をネネは許さない。油断なくリリを注視している。
『他の参加者がいて紛れることが出来るネネ選手が優勢かー!?』
『情報戦ではネネ選手がリードしているうおね』
「流石は姉様。全然どこにいるかわからないわ。あたしはね」
「ふん。所詮は周囲にどれだけ持て囃されても妹は妹!これで終わりよ!…!」
ネネが再びリリの右側に移動し、弓を放とうとした刹那。
ネネの後ろからトトちゃんが無音で忍び寄り忍者刀を振るう。
トトちゃんの姿が見えないと思っていたけど、この機会を伺っていたのか!
「トトちゃん凄い!」
「決まった?…いや」
だけどその攻撃はネネに届くことはなかった。ギンッと忍者刀と槍がぶつかる音が響き渡る。
ネネのパートナーである槍使いがトトちゃんの攻撃を防いだのだ。
「なんと!」
「あなたの相手はルーが任されている。ネネ様の邪魔はさせないよ」
『そう!この戦いはタッグマッチ!1対1ではないのだーー!』
『トト選手の奇襲は見事でしたが、それを防いだルー選手も素晴らしいうお』
ルーが槍を引き、目にも止まらぬ連突きをトトちゃんに向けて放つ。
トトちゃんは撤退せざるを得ない。そのままリリのところまで後退する。
「すみませんリリ殿。作戦失敗ですぞ」
「気にしなくていいわ。ネネ姉様をそう簡単に討ち取れるわけがないもの」
トトちゃんの失敗を気にも留めていないリリ。2人で話している間もリリはどんどんと参加者を殴って減らしている。
「リリちゃんは凶暴ですね~」
「これで参加者は半分くらいまで減りましたね」
リリに殴り飛ばされた選手が場外で山積みになっていく。
闘技場に残っている選手は50人を切った。…つまりそれはネネが隠れる障害物が減ってきていることを意味する。
『さぁさぁAブロックは早くも半分が脱落!見晴らしもよくなってきました!』
『ついにリリ選手がネネ選手を捉えたうお』
『ネネ選手ピンチ!この窮地をどうするのかーー!?』
「やあっと見つけたわよ姉様。あたしから逃げ切れるかしら?」
リリはまっすぐネネを見ている。参加者が減ったことでリリの索敵の網に引っかかったのだ。
これまでのようにリリから逃げつつ弓で攻撃するのは至難の業になるだろう。
しかしネネに焦っている様子はない。
「あなたから私が逃げるですって?冗談でしょ?…来なさい」
「言われなくても!」
リリがまっすぐネネに向かって走り出す。途中にいる参加者は交通事故にあったかのように吹き飛んでいく。
ネネはその間に矢を次々と放つが…リリが手の甲で全ての矢を弾く。リリの皮膚は鋼鉄かなにかなのだろうか?
「大丈夫?ネネ様」
「ふん。問題ないわ。あなたはあの犬人にだけ注意してなさいな」
「わかったよ」
槍使いのルーがネネから離れたところにリリが突撃してくる。
そしてネネはなぜか空中に矢を1本放ってからリリを迎撃。
「いくわよ姉様!」
「遊んであげるわリリ!」
リリが高速の右ストレートを放つ。ネネはそれを防御するのではなく右に回避し、そのまま至近距離で弓をつがえる。
しかし攻撃は間に合わないと判断したのか矢を放ちはせずに後ろに後退。その後すぐにネネが立っていた場所をリリの蹴りが通過する。
「やるわね姉様」
「ふん。私が近距離苦手だと思った?舐めないでよね」
「それでこそあたしの姉様!どんどんいくわよ!」
リリが次々と攻撃を繰り出す。しかし冷静にネネは対処しているため当たらない。
「凄いですね。ネネ姉様は。リリちゃんの攻撃をあんなに躱せるなんて」
「そうですね。ですが回避だけで反撃はできないようです」
ネネは回避だけに専念している。最初の攻防以降はまるで攻撃の意志がない。それはリリの攻撃がどんどん苛烈になっていることもあるだろう。
…けどあの笑みはなんだ?まるで勝ち誇っているような…
そうだ。もしすでに攻撃をしていたとしたら…?
ネネは戦闘に入る前に矢を空中に撃っていた。急いで空を確認すると、信じられないことに矢はリリに向かって墜落していた。
リリはネネに攻撃することに夢中で気づいていない!
思わず観客席から立ち上がり声を荒げる。
「リリ!上!!」
「え?…!!」
「っち。誰よ?邪魔したの!」
間一髪リリは矢を回避した。でもこれってルール上問題ないのだろうか?リリを助けちゃったけど…
恐る恐るうっちーさんを確認すると、目が合いニコっと笑ってくれる。
『会場からの応援に見事応えたリリ選手!死地を脱したぞーー!』
『まさか戦闘前の一矢が致命の一撃に繋がるなんて思いもしないうお。ネネ選手は未来予知でも出来るのかうお!?』
会場が今日一番の盛り上がりを見せる。誰も私を見てはいない。
「ふぅ…どうやらリリが失格になることはなさそう」
「あはは。クロさんの大きな声を久しぶりに聞きました」
「…」
「いひゃいれふ!やめへふらはい!!」
ニヤニヤして見てくるルル様がうざったいのでほっぺたを引っ張る。
「ともかく、お姉さんは想像以上に強いですね」
矢を放った方向にうまく誘導したのだろうけど…そんなことが可能なのか?




