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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
最強はだれだ!?王位決定戦!
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カニ料理を堪能しよう!

引き続きアラタ編。

 試練の逆さ塔を無事100階まで踏破し、宿に帰ってくるとこの国の第一王子が訪問してきた。


「第一王子が何用ですか?」

「うむ。私は100階層まで到達した者には必ず会うことにしているのだ」

「へぇ」

「まさか女性とは思わなかったが」

「だから男だってば」

「いやだがどう見ても…」

「まぁどう思われてもいいけど」


 いちいち証明するのも面倒だし。

 第一王子のギギは疑問に思いながらも特にそれ以上追及してくることはなかった。


 とりあえず入り口の前で立ち話するのも失礼かと思い部屋に案内する。

 ギギ王子が持ってきた飲み物やおつまみをテーブルに置く。

 王族だけあって高級そうなものばかりだ。


「ボクお酒飲めないよ」

「安心しろ。私も飲めない。これは筋力上昇などの副作用があるドリンクだ」

「何それ怖い」


 体力増加のドリンク、筋力増加のドリンク、速度増加のドリンクなど一つ一つ説明してくれる。試しに一つ飲んでみると意外においしい。ジュースみたいだ。


「結構いける」

「そうだろう。置いていくから飲んでくれ」


 どうやらお土産として持ってきてくれたようだ。ありがたく受け取る。

 そして時間を気にしながらギギ王子が話し始める。


「それでは本題なのだが…試練の逆さ塔についてだ」

「はぁ」

「現在100階に到達しているものは参加者の1割未満。だから情報も少ない。当然死のリスクも増す」

「…」

「そこで、私の知識を少しでも君に教えておこうと思ってな」


 どうやらこの第一王子はお人好しのようだ。この人は確か140階まで到達していたはず。塔の知識も人一倍蓄えているのだろう。だけど…


「そんなことを教えたら、ボクに抜かされちゃうかもしれないよ?いいの?」

「私が好きなものは強い者だ。自分より強い人間に抜かされたのならば、自分がより強くなればいいだけのこと。悪感情など持つはずもない」

「へえ」


 さすがはこの国の王子様だ。人間ができてる。

 そんなギギ王子によると101階からは塔内部がかなり様変わりするらしい。


 今まではどの階も円形の外周で石造り、直径は…1キロくらい。そしてその中にいる魔物を殲滅すれば次の階に行けた。


 しかし101階から110階は森らしい。


「森?」

「そうだ。だから全体を見渡すことができない。…しかもだ。転移石がどこにあるのかもわからない」

「毎回違う場所にあると?」

「ああ。外壁のどこかだが…右にある時もあれば左側に現れることもある。この危険性がわかるか?」

「…危なくなっても転移で逃げることができない?」

「そうだ」


 今までの階層は魔物にどうしても勝てないときには奥にある脱出用の転移に触れれば逃げることができた。しかし101階からはそれができない。


 勝てない敵に遭遇してしまった場合は完全に撒くか、逃げながら脱出用の転移石を探す必要があるのか。


「きつそうですね」

「そうだ。私は将来有望な若者が101階以降で死ぬのを何人も見てきた。だから転移石を見つけるまでは戦闘を避けることを勧める」


 安全確保は重要だ。ソロは特に。これは素直に忠告を聞こう。


「貴重な情報をありがとうございます。転移石を見つけるまでは無用な戦闘を避けることにします」

「ああ。だが嬉しい変化もある。今後は赤い転移石をその階層の敵を全滅させなくとも使うことができる」

「そうなんですか」

「ああ。だから5階毎にいるボス以外は基本無視しても大丈夫だ」


 それはかなり良い情報だ。戦闘を回避できればその分体力を温存できる。


「大きな変化はこれくらいか。他にも細かい危険はあるが…」

「兄様!どこですか!」

「む。もう来たか」


 ギギ王子が追加情報を話そうとしたとき、外から王子を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

 兄様と呼んでいたことから肉親なのだろう。


「妹が探しているのでこれで失礼する。また今夜逢おう」

「はい」

「ではな。…いて」


 ギギ王子が帰るときに扉に頭をぶつけて痛がりながら帰っていく。耳を澄ますと書類仕事が溜まっていますと妹に小言を言われているのが聞こえてくる。

 じいさんがテーブルに置かれていった謎ドリンクを手に取りながらつぶやく。


「変わった奴だったのう」

「そうだね。でもいい人だ」

「そうじゃの」


 試練の逆さ塔のパンフレットには100階以降の情報が少ない。

 ギギ王子の助言は非常に助かるものばかりだった。


 夜の会食にも参加すると言っていたから改めて後でお礼を言おう。




「さて。王子が来る前にワシに何か見せたかったようじゃが…何だったのかの?」

「そうだった!」


 王子の登場ですっかり話しそびれてしまったが、じいさんに帰ったら杖を渡そうと考えてたんだった!


「これをじいさんに渡したかったんだ。いつもお世話になってるし」

「む…こ、これは!?」

「100階のキングシェルクラブを倒したときに出てきた宝箱に入ってたんだ。ボクは杖なんて使わないし」

「アラタ!…初めは生意気な小童かと思っていたが、成長したのう」


 そんなこと思われてたのか!心外な。

 じいさんは杖を受け取り感心しながら様々な角度で杖を眺めている。気に入ってくれたようで何よりだ。


「何の杖か知ってるの?」

「ああ。これは天翼の杖。使用する魔力量が半減する貴重な杖じゃ」

「へえ。結構凄いんじゃない?」


 魔力量が半減するなら言い換えれば倍の魔法を撃てるようになるってことだ。


「買うなら金貨1000枚はくだらんな」

「1000!!はぁ…金箱のアイテムは凄いな」

「アラタの腰に差している剣も金箱から出たのであったか。もしかしたら想像以上の業物かもしれんな」

「かもね」


 刀はじいさんも門外漢だからわからないと言っていた。

 でも杖がこんなに高性能ならこの剣も期待できる。





 それからはじいさんの服を買いに行ったりして時間を過ごし、夜になってから試練の逆さ塔の建物に向かう。


「こんな格好をしてまで行かないといかんのか」

「じいさんは顔が割れてんだからこれくらいしないと」


 じいさんの服装はアロハシャツにサングラスと、どこの仙人だと突っ込みたくなるような外見だ。まぁボクがチョイスしたんだけど。


 しかしじいさんはこれくらいしないと唾を吐かれるからなぁ。


「さ。そろそろ着くよ」

「こんな格好してまで行くんじゃ!今日は腹いっぱい食うぞ!」

「おおー」


 試練の逆さ塔の建物に入っていく。すると中にいた受付のお姉さんが出迎えてくれる。人もいつもより多い。


「お待ちしておりましたアラタ様。おじい様。もうすぐご用意できますので少々お待ちください」

「わかりました」


 建物の中はいつもの簡素な受付と魔力石しかない空間とは違い、テーブルが用意されていた。テーブルの上には飲み物や軽食がすでに置かれていて立食パーティーの会場のようだ。


「もう飲み食いを始めておるようじゃのう」

「ボク達も食べよう」


 テーブルに置かれている野菜やパンなどを盛り付けて食事をとる。

 するとたくさんの人に声をかけられた。どうやら100階を突破したのがボクだと知られているようだ。


 適当に挨拶しつつ食事を楽しむ。

 そうして時間を過ごしていると受付のお姉さんが蟹料理を持ってくる。どうやらメインが来たようだ。


「お待たせしました!本日はアラタ様が100階層を突破し、キングシェルクラブを回収していただいたので私たちスタッフが料理を提供します。皆さん今日は楽しんでください」

「「「「「おおおおおお!!」」」」」

「それではアラタ様。一言だけいただいてもよろしいですか?」

「ボク?いいよ」


 お姉さんに名指しされたので前に出る。

 全員から注目されるがそういうのは慣れてる。特に何も思わない。


「ボクは最強を目指してる!塔に潜ってるのは強くなるためだ。だからこれからも満足するまで上り詰める!」

「「「「「おおおおおおお!!」」」」」

「いいぞ嬢ちゃん!」

「これからも頑張れよ!」


 野次を貰いながら下がる。

 お姉さんが入れ違いで話し始める。


「それではキングシェルクラブの料理を堪能しましょう!まずは蟹の刺身です!」

「「「おお」」」


 剥き出されたカニが大量にワゴンに乗せられて登場する。


 ボクのイメージしているカニ料理は自分で殻から身を引っ張り出してそのまま食べるのだが、キングシェルクラブは普通のカニの100倍くらい太い。だからそのまま食べるのは難しく、今回の料理も事前に切り分けられている。それでも十分美味しそうだ。


「まずはアラタさんに食べてもらいましょう」

「いただきまーす!………うま!」


 目の前で皿ごと渡されたので手でつかみ食べると…弾力が凄い!しかもなぜか甘い。カニって甘かったのか!間違いなく人生で食べたカニの中で一番うまい。


 会場の人たちも誰かがごくりと唾をのみ、それを皮切りに我先にとカニに殺到する。

 そして食べた人全員がそのおいしさに叫びを上げる。


「うめえええええ!」

「酒に合うな!」

「やっぱキングシェルクラブは最高だぜ!」

「これは良いものじゃのう」


 じいさんも普段は小食なのに珍しく手を休めることなくパクパク食べている。

 あっという間に無くなりそうだったのでボクも次のカニに手を伸ばすと、お姉さんがカニ味噌の入った甲羅を渡してくる。


「このカニ味噌に付けて食べるとまた絶品ですよ」

「美味しそうですね。いただきます」


 勧められるがままカニの先端に味噌を絡めて食べる。

 すると先程とはまた違い…カニの甘みに濃厚な味噌の少し苦いコクが加わり、何とも言えない多幸感に包まれる。


「最高の組み合わせですね!おいしいです」

「そうでしょう。でもカニ味噌は少ないのでアラタさんだけ特別です」


 お姉さんが小声で話し、ウインクしてくれる。いいお姉さんだ。

 そしてすぐにカニの刺身は完食されてしまったが、次の料理がすぐにやってきた。


「続いては茹でたものと焼いたものの2種類です。味の違いを堪能してください」

「「「「「おおおおおお!!!」」」」」


 茹でたカニはより色合いが鮮やかに。焼いたカニは身がふっくらと膨らみ少し焦げ目がついているのがたまらない。早速交互に食べてみる。


「ん~!両方うまい!茹でたほうはカニの旨味が濃縮されてて、焼いたほうはより甘いね!」

「うむ。どちらも甲乙つけがたい」


 ボクは蟹はそのままでしか食べたことが無かったけど、味が変わってどれもこれもおいしい。


 個人的に茹でた蟹が一番気に入ったのでそればかり食べていると、今度は鍋が出てきた。カニ鍋だ。


「皆さん、今夜は鍋で締めましょう」

「「「「「おおおお!!!」」」」


 最後に運ばれてきたのは巨大な鍋だ。その横には細長く切られた蟹が大量に並べられている。


「横にある蟹を少しだけ鍋にくぐらせて食べてみてください」

「かにしゃぶ!」

「これまた美味そうじゃ」


 かにしゃぶも食べたことがない。日本では高級料理だったからなぁ。

 鍋の中には野菜などは入っていなく、昆布のようなダシとシェルクラブの甲羅だけが入っていた。


 蟹を手に取り鍋の中にさっと入れる。お姉さんに数秒しゃぶるだけでいいと言われたので5秒数えてから口に入れる。


「うん。美味いなぁ」

「腹一杯なのについ手が蟹を求めてしまうのう」


 そうなのだ。これまでの料理でもうお腹一杯なのに、いつの間にか手に蟹を握っている自分がいる。これが蟹の魔力か…


「楽しんでいるようだな」

「ギギ王子。さっきぶりです」

「ああ。…む。中々うまそうだな。私も貰うとするか」


 蟹しゃぶを堪能しているとギギ王子がやってきた。どうやら今到着したようで蟹をおいしそうに食べている。


「キングシェルクラブを食べるのは久しぶりだ。それこそリリ以来か」

「リリとは…妹様ですか?」

「そうだ。中々のおてんば娘でな。手を焼いている。この試練の逆さ塔もまだ早いと私は反対したのだが勝手に入ってしまってな。だがあっという間に100階を突破したかと思うとそのままトップに躍り出てしまった」

「へえ。凄い妹様ですね」

「才能はピカイチだ。後はもう少し思慮深くなれば…」

「それは兄様も同様です」

「む…もう来たのか…」


 ギギ王子の後ろを確認すると腰に手を当てて怒っている女性がいた。宿でも同じ声を聴いたが、どうやらこの女性が第二王女のようだ。


 金髪ツインテールのつり目でいかにも気が強そう。ただし背は低い。


「どうしていつも城を抜け出すの!?私だって塔に潜りたいの我慢して頑張ってるのに!!」

「ネネよ。これでも食べて落ち着け」

「むぐ…もぐもぐ…美味しい…って勝手に口の中に入れないでよね!」


 ギギ王子が妹様の口の中にしゃぶった蟹を放り入れ、一瞬幸せそうな顔をした後にまたすぐぷりぷり怒り出した。


「リリの捜索も全然進まないし、兄様は書類仕事全然してくれないし、どうしてこの国は戦う以外のことが何もできないの!!」

「リリについては心配ない。直に戻ってくるさ。あれが控えているからな」


 あれ?何のことだろう?

 疑問に思っているとギギ王子が説明してくれる。


「君にも関わりのある話だ。実は…近々王位決定戦というこの国の最強を決めるトーナメントが始まる。それに君もぜひ出場してもらいたいのだ」


 王位決定戦…?タイトルに疑問を覚えるけど…最強を決める戦いと聞いては黙っていられない。


 もちろん二つ返事で了承した。


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