迷子のトトちゃんと竜谷に住まう竜。
「トトちゃーん!いるなら返事してくださーい!」
「トトー!早く戻ってきなさーい」
「……近くにはいないようですね」
エルフの里の近くにあった村で仲間のトトちゃんが迷子になってしまった。
実はトトちゃんは目を離すとすぐにどこかにいなくなってしまう。
そして迷子になったら最後、自力で戻ってくることはない。
しかも今回は触れているだけで透明になることのできる透明カメレオンも一緒だ。そのため透明になっているのなら目視での確認はできない。
なので声をかけながら捜索しているのだが、そうすると当然目立つ。
村人たちの視線が集まり、その中でも優しそうなおじいさんが話しかけてきた。
「旅の方ですかな?どうされたのですか?」
「仲間の一人が迷子になってしまって…探しているところです」
「おや…それは大変ですな。特徴を教えていただければお手伝いしますが」
「本当ですか!?いや…でも…」
「どうされましたか?」
トトちゃんを探してくれるのはありがたいのだが、トトちゃんは全裸なのだ。もし私たち以外に声をかけられても姿を現さないだろう。
「お気持ちはうれしいですが大丈夫です。私たちで何とかしますので」
「そうですか」
「その代わりこの周辺の情報を教えてもらってもいいですか?危ないところなどあれば…」
「そうですね…ここから東に行くと迷いの森という恐ろしい森があります。噂ではどれだけ進んでも同じ場所に戻ってしまう。それにどこからか誰もいないのに攻撃を受ける…など恐ろしいところのようです」
「ああ…」
もう行って大変な目に逢いました。
「それに、南には竜谷があります」
「竜谷ですか?」
「はい。竜の谷と書いて竜谷。文字通り竜が住んでいると言われています。遭遇したことはないのですが、時折咆哮が聞こえますので、月に一度食物を谷に落とすことでこの村を守ってもらっています」
「竜!!竜だって!ねえねえ行きましょ!」
「行きたくないし、トトちゃんを見つけるのが先決だよリリ」
「それはわかってるけど!でも竜よ!?一度は戦ってみたいじゃない」
「そんなこと思う女の子はリリだけだよ」
なぜこうも危険に足を踏み入れたがるのか。
おじいさんにお礼を言ってその場を離れるが、リリは竜谷の話で興奮している。
「早くトトを見つけて竜谷に行きましょ」
「いつもならリリちゃんの大声で見つかるんですけどねー」
トトちゃんの聴覚はかなりいい。
よっぽど離れていない限り、呼びかければトトちゃんは戻ってくる。
でも今回は全く音沙汰がない。もしかしたら村の外に出てしまったのかも?
迷子になって村を出てしまうとか訳が分からないが、迷子って予想もつかないところに行くから迷子になるのだ。
「とりあえず村を出ようか」
「そうですね」
「ええ」
トトちゃんを探しに村を離れる。
早く服を着させてあげないと風邪を引きそうで心配だ。
「どこを探そうか。それとも手分けして探しちゃう?」
「南に行ってみましょう?」
「それ竜谷行きたいだけじゃん」
ちぇーと言いながらも諦めた様子のないリリ。
でも知らずに竜谷に向かっている可能性もあるんだよね…何か良い案ないかな?
「…そうだ。ルル様の召喚でトトちゃんが抱えている透明カメレオンを呼び出すことはできないんですか?」
「なるほど!その手がありましたか!」
ルル様は透明カメレオンと意思疎通が取れる。
もしトトちゃんが持っているカメレオンを呼び出すことができれば場所が特定できる。
「え~と…トトちゃんに貸したのはレオン君ですね」
「カメレオンに名前を付けてるんですか?」
「そうですよ?」
私にはどれも同じ顔に見えるんだけどルル様は違うのだろうか?にしてもレオンって無駄にかっこいいな!爬虫類に付ける名前じゃないでしょ。
「レオン君召喚!」
ルル様の前に召喚の魔法陣が出現し、カメレオンが姿を現す。
すると同時に遠くから見覚えのある声と畏怖を感じさせる咆哮が響き渡る。
「ぎゃああああああああああああですぞおおおおおおおお」
「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
「トトちゃん!?」
「竜谷の方角よ!急いで向かいましょう!」
トトちゃんと透明カメレオンを引き離したのはまずかった!
おそらくいきなり透明化が解除されたトトちゃんが竜に見つかったのだろう。
早く向かわないと!!
「やばいやばい!!」
「何やら危険なようだねぇ」
「手伝う」
「コルナさん!コリナさん!」
3人で全力疾走しているとコルナさんとコリナさんが後ろから追走してきた。
どうやら事情は察してくれているようで背中に乗せてくれる。
「飛ばすよ!」
「しっかり掴まって」
「うわああああああ!!」
全速力の2人(2コン?)の早さは尋常じゃなかった。
飛ばされないように必死に毛を掴む。
「見えてきたねぇ」
「竜谷」
「あれが竜谷ですか」
前方に山と山に挟まれた低い谷があった。川が流れているから渓谷か。
それにしてもかなり深い。1キロくらい下まで続いている。
そんな谷にコルナさんとコリナさんはスピードを緩めずに進み、なんとそのまま谷を落下するように降りていく。
「わああああああ!?」
「あはははは!楽しいわ!」
「…!(声が出ない)」
「声のした方向はもう少し先だ」
「…見えた」
落下する恐怖感にようやく慣れたころに谷底に到達し、そこで竜に追われているトトちゃんを発見する。
トトちゃんは泣きながらもなんとか追いつかれないで必死に走り続けている。
…なんで服を買いに来たのに竜に追い掛け回されているのだろうか?
ともあれトトちゃんに近づき、コリナさんが回収してくれる。
「皆さん!助かりましたぞ!!」
「回収完了」
「このまま逃げるかの?」
「何言ってるのよ!あたしとクロネだけでも降ろしなさい!」
「本気?ってか巻き込むな」
「援護頼んだわよ!」
「ちょ!」
リリがそういうなりトトちゃんと入れ替わりで谷に降り立つ。ああ!何でそう短絡的なの!
私もコルナさんに降ろしてもらい急いでリリに結界を展開する。
「いっくわよーーー!!」
「GAAAAAAAA!!」
その竜はまさに私の想像通りの竜で、茶色の肌に巨大な翼。獰猛そうな瞳で私たちを見下ろして飛行している。
全長は大きすぎて判断しづらいけど…100メートルくらいはあると思う。
そんな竜に向かってリリは信じられない跳躍をし接敵する。そしてそのまま拳を振るうが…竜は前足で冷静に対処する。
「はあああああああ!!」
「GAAAAAAAA!!」
リリとのパンチと竜の前足がぶつかり、一瞬拮抗した後お互いが吹き飛ぶ。
「リリちゃん!」
「…よっと」
ルル様の心配をよそに、リリは空中で器用にくるくると回りバランスを取った後綺麗に着地する。
「中々強いわね!」
「その度胸はどこから来るんだか…」
「不利そうじゃが勝てるのかのう?」
「撤退するべき」
竜と攻撃力が互角なのは凄いけど…コルナさん達の言う通り不利そうだ。
それは地形もそうだし、相手は飛行しているからこちらの攻撃手段は限られている。さっきは竜も迎撃してきたけど、私ならもう少し高く飛んでリリが届かないところから一方的に攻撃する。
実際竜はさっきのリリの跳躍では届かないところで滞空しながらこちらを睨んでいる。
「GAAAAA…」
「どうするのじゃ?今なら距離が開いているからわっちらなら逃走できるが」
「もうちょっとやらせてよ」
「…これ以上戦うというならわっちたちは戦闘領域から離れるぞ?竜に喰われるのはごめんじゃからのう」
「さっきの前足攻撃で私の結界紙切れみたいに壊されたんだけど。帰ろうリリ」
「勝てない相手じゃないわ!もうちょっと!もうちょっとだけ!」
リリ以外の全員は撤退を推すがリリはどうしても戦いたい様子。これだから脳筋は厄介だ。
きっと一人でも残って戦うのだろう。
「…はぁ。ルル様とトトちゃんはコルナさん達と少し離れてください」
「戦うんですか!?あれと?」
「ちょっとでもリリが怪我したらすぐに撤退する。これが守れるなら。どうする?」
「守るわ!」
「命知らずじゃのう」
「頑張って」
コルナさんとコリナさんは了承してくれて後方に待機する。
私の結界が通用しない以上、ルル様たちを守りながら戦うことは難しいので助かる。
リリと二人きりになったところで戦略を話し合う。
「どうするの?さっきみたいな攻撃はもう通用しないと思うけど」
「飛んでるのが厄介よね。あたしの攻撃も直線的になるし」
「…足場があればリリの身体能力なら戦いになるのかな」
「どういうこと?」
「こうする」
私たちと竜の間に無数の四角い結界を展開する。
バスケットボールサイズの無数のブロックを配置し、リリに説明する。
「あの結界を足場にして竜と戦ってみれば?」
「ブロックを使いながらの空中戦!?…あんた天才ね!」
いや。漫画の知識なんだけど。
ともあれ事情を知らないリリは私をひとしきり褒めた後、試しに近くに配置した結界に飛び乗り、そのまま次のブロックに飛び移る。
「うん。いい感じね!やってみましょうか!」
「落ちたら助けるけど、これ以上のサポートはしないよ」
「十分!!」
リリがブロックからブロックに飛び移りながら竜に近づく。
竜も周囲の異変に気付いたのか近くのブロックを破壊しようとする。
当然竜の力の前では結界は紙切れ同然で破壊されるがそれは想定内だ。
壊される分より多くの結界をどんどん生産していく。
竜の周囲には全方位に結界を配置。
リリも慣れてきたのか弾丸のようなスピードで不規則に移動。
「GUUUUUUU…」
完全に竜はリリの動きを目で追い切れていない。
そうして竜の周りをピンボールのように動き、完全に後ろに回り込んだリリの蹴りが炸裂する。
「もらい!」
「GAァッ!!!」
巨体であっても無防備な背中にリリの攻撃は効くのか、仰け反りながら悲鳴を上げる竜。
その後もリリの攻撃は止まらない。竜の周りを縦横無尽に駆け回り隙を突いては攻撃を加える。
たまらず竜が更に高度を上げるがその周囲には纏わりつくように結界がついて回り、その結果リリを引き剥がせない。
「GUUUUUUU…」
竜は初めの堂々とした態度はどこへやら。すでに逃げ腰で空中をうろうろしているだけだ。それではリリを相手にはできない。
「これで!!」
「GYAAAAAAA!!」
リリが最高速度で竜の頭上にあるブロック踏み込み、重力に従ってそのまま竜に踵落としをお見舞いする。
その威力は絶大で竜が錐揉みしながら地上に墜落する。
竜は地面に叩きつけられ、大ダメージを受けている様子だ。
それでもリリの追撃は止まらない。
竜を追いかけるようにリリも地面にスカイダイビング。
「終わりよ!」
「…ちょっとタンマ!負け!俺の負けだから!!」
止めの一撃を加えんとリリが殴りかかろうとすると、竜がみるみる小さくなっていき人の姿に変わる。そして両手をリリの前に出し降参のポーズを取っている。
リリもさすがに降参した相手を叩きのめす趣味はないのか、空中からの攻撃をストップし、いくつもの結界を利用して減速し地面に着地する。
私も竜人?とリリに近づくと、竜はかなり怒った様子で話しかけてくる。でもリリにはビビっているようで腰が引けている。
「まったく何だお前は!バケモンか!?こえーーよ!急に襲ってきやがって!」
「はぁ!?あんたがあたしのかわいい部下を襲ってたんじゃないの!」
「ひっ!そ、そりゃ急に俺の目の前に現れたんだ!やられる前にやるのは当然だろうが!」
聞けばいつものように散歩していると前触れもなくトトちゃんが目の前に出現し、危険を感じた竜はつい襲い掛かったらしい。
トトちゃんは運悪く竜と遭遇してしまったところでカメレオンが突然いなくなったようだ。
戦闘が終わってトトちゃんとも合流したので話を擦り合わせる。
「村に向かっていたはずなのですが…いつの間にか目の前に谷があったので向かってみたのですぞ」
「…いや引き返そうよ!」
「そうしたら突然竜が目の前に現れて、カメレオンも消えてしまって驚きましたなぁ」
「まったくもう。でも無事でよかった。あ。これトトちゃんの服ね」
「おお!!助かりますぞ!」
トトちゃんに服を渡す。
忍者服は売っていなかったので可愛い系の服を選んだ。
「どうですかな?このような服を着るのは初めてなので気恥ずかしいのですぞ」
「うんうん。かわいい」
「キュートです!」
「あたしの見立ては間違ってなかったわね!」
トトちゃんは忍者服姿しか見たことがなかったので新鮮だ。
竜はそんな私たちの様子を見ながら悪態をついている。
「ったく。そいつ迷子かよ。で、おまえらは探しに来て俺を見つけたから攻撃してきたと。そんなしょうもない理由で俺は殺されかけたのか…」
「はぁ!?」
「ひっ!!だからその脅すような声で話しかけてくるのやめろよ!こえーーよ!」
竜は完全にリリに怯えているのか足がガクガクしている。
改めて竜を見ると、2メートルくらいの人型でオールバック。しかし完全な人間の姿ではなく、頭には角が生えていて尻尾もついている。顔は若いヤクザみたいだけど完全に怯えているので怖くはない。
リリもリリで戦闘の高ぶりからかオラついているので完全に上下関係ができている。
「それであんた名前は?」
「…人間に名乗る名前なんて」
「はぁ!?」
「名前はないっす!必要なかったので!!」
「ふ~ん。それってあたしが名前付けてもいいってこと?」
「なんでそうなるんだよ!?」
「だって呼び方ないと面倒くさいでしょ」
「まぁかっこいい名前ならいいけどな…」
「コロなんていいんじゃないかしら?」
「だっせえなおい!」
「あ?」
「もうやだこいつ!誰か止めて!?」
「でもコロちゃんはかわいいですね」
「でしょ?」
ポンコツ姉の後押しで結局コロに決まってしまった。
落ち込んでいるコロ。
「ついでにコロ?あんたお姉ちゃんと契約しておきなさい。いつでも召喚できるように」
「契約だぁ?人間とか」
「何よ?文句あるの?あ?」
「ないっす!」
怒涛の展開だけど…
迷子を捜していたら竜をテイムしました。まる。




