アラタ編 最強国家の試練の逆さ塔
アラタ視点です。
「ふぅ。やっと着いたね」
「もう二度と来たくはなかったのじゃが…」
ボクの名前はアラタ。名前からもわかる通り異世界人。
自分で言うのもなんだけどボクは何でも1番だった。可愛さでも強さでも何でもだ。それは日本でも異世界でも変わらなかった。
しかし数週間前に同郷の日本出身者である黒音と1対1の勝負をし、自分でも笑っちゃうくらい圧倒的な力の差を見せつけられて敗北した。
そしてボクは再戦を誓い、強くなるためにこの異世界の最強国家【ノウキングダム】に戻ってきたのだった。
「ほら。入るよ」
「ちょっと待て!心の準備をさせてくれ!」
なぜ一緒に同行しているじいさんがこの国に入ることを嫌がっているのかは…すぐにわかる。
逃げようとするじいさんを捕まえて入国すると、人々がじいさんを見てざわめく。
「うわ…何だあの格好…」
「ママー!あの気持ち悪いおじいちゃんなにー?」
「しっ!見ちゃいけません!」
「どうしてあいつは魔法使いのコスプレをしているんだ?いじめられたいのか?」
「きっとMなんだよ。察してやれ」
子どもにまで罵詈雑言を浴びせられ、出店を横切ると店員から塩を撒かれる始末。
「…相変わらず酷い言われようじゃ…もう心が折れそうなのじゃが…」
「あはは。せめて帽子だけでも外せば?」
「仕方がないのう。魔法使い=弱いというイメージを払拭できればいいのじゃが」
強さこそが正義であるこのノウキングダムでは、前衛に守ってもらいながら戦う魔法使いは不人気なのだ。それにこの世界の魔法使いは総じて弱い(黒音を除いて)。使える魔法も、掌くらいの火の玉を出すのが精一杯な魔法使いがほとんどなのだ。だからこの国の住民が嫌うのもわからなくはない。
「それより宿屋を探さないと。だからじいさんには服を着替えてもらうよ」
「この服だと泊めさせてくれんか…世知辛いのう」
路地裏でじいさんが文句を言いながら村人のような服に着替える。
さっきまでは古老の魔法使いという出で立ちで様だったが、一般的な服に着替えたことでただの髭もじゃヨボヨボ爺になった。
「あはは。モブ感が凄いよじいさん」
「屈辱じゃ…」
落ち込んでいるじいさんを適当に慰めて大通りに戻る。するとじいさんに注目する人はいなくなった。やっぱり見た目は大事だね。
馬を預けることができる厩舎がある宿屋を探し、無事にチェックインをして部屋に入り荷物を降ろす。
長旅で疲れていたのだろう。じいさんが座り込んでこれからの予定を聞いてくる。
「それで?これからどうするんじゃ?アラタ」
「黒音に勝つための修業をするよ」
「正直あの結界を人の身で破ることは困難だと思うのじゃが…そもそもこの国で修業できるものなのか?」
「今のボクは身体能力を3倍まで上げるのが限界だ。でも5倍…いや、10倍まで上げることができれば突破できるはず」
今は3倍に引き上げるだけで解除した後に体中が悲鳴を上げるけど、ここが限界じゃないはずだ。
「ふむ。それはわかったが。この国に来た理由は?」
「たぶんだけど…この国には修業できる何かがあるはずなんだ」
「えらく抽象的じゃのう。何か根拠でもあるのか?」
「もちろん」
じいさんにボクの考えを纏めて話す。
このノウキングダムは異世界の中心地だ。四方は村や国に囲まれている。
そしてそのせいかはわからないけど、この国の周辺では弱い魔物しか確認できなかった。スライムとかゴブリンとか。
つまり、他国のように魔物を狩ることで強くなる。という方法はこの国では取れないのだ。弱い魔物をいくら狩ったところで成長は見込めない。
そんな環境にも関わらず、この国の兵士は世界最強の練度と強さを誇っている。一人一人が一騎当千のこの国の兵士の強さは、単純な訓練で強くなったとは考えにくい。何か強くなる方法がこの国にはある。
ここまでをじいさんに話すと、しばらく考え込んで納得した表情を見せた。
「なるほどのう。言われてみればその通りじゃ。この国には冒険者はいないだろう。にも拘らず皆強い。探ってみる価値はあるかもしれないの」
「でしょ?だから明日は聞き込みしよう」
「わかったぞ。今日は疲れたから寝てもいいか?」
「ボクも久しぶりのベッドでゆっくり寝たいし賛成」
ということでその日は疲れを取るためにも十分な休息を取り、後日に大通りに出て聞き込み調査を行うことになった。
そして翌朝。宿を出て大通りで聞き込みをすると情報はすぐに集まった。みんなが声を揃えて話す場所があったのだ。
「そりゃあんた。大抵の住民は試練の逆さ塔に潜ってるからなぁ。強くなるのも当たり前だぜ」
「「試練の逆さ塔?」」
「なんだなんだ。そんなことも知らないとは…あんたたち観光客だな?中央広場に受付があるから詳しい話はそこで聞いてくれ」
どうやらその試練の逆さ塔は国の中心地にあるようで、広場に向かってみる。
「あれじゃな」
「うん」
広場には他とは比べ物にならないほどの大きな建物があり、看板に試練の逆さ塔と書かれている。
「塔ではないような気がするが…」
「とりあえず入ってみよう」
じいさんと二人で建物の中に入る。すると目に入るのは長蛇の列と受付だ。列の先頭を確認すると、屈強な男が赤い石に触れ、その瞬間消えた。その次の人もしばらく経ってから石に触れいなくなる。
よくわからないけど…受付に並んでいる人はいなかったので受付のお姉さんのところに向かう。
美人のお姉さんがボクたちを見るなり笑顔で接客してくれる。
ちなみにじいさんはこの国の人と話すことにトラウマを抱えているのかボクの後ろでこそこそしている。
「初めて見る顔ですね。どうされましたか?」
「試練の逆さ塔の噂を聞いてきたのですが、ここは何か教えてほしくて…」
「この国に来るのは初めてですか?」
「二度目ですが以前はすぐに去ってしまったので。もしかしてこの国の人しか利用できないですか?」
「そんなことはないですよ。この国では強さが正義なので。誰であっても強くなりという心があるのなら大歓迎です」
「強くなりたいです!」
「ふふ。いい返事です。ではこの試練の逆さ塔についてご説明します」
お姉さんが詳細に教えてくれる。
この試練の逆さ塔は地下へと無限に伸びている塔で、各階に魔物が出現し、殲滅すると次の階に進める…という場所のようだ。
特徴としては下へと降りるにつれて魔物の強さが上がっていく。5階毎にボスが出現する。塔に入る事ができるのは一人だけ。などなど。
「なるほどのう。個人でしか入れなのなら魔法使いは成長できんな」
「ああ。それでこの国には魔法使いがいないんだ」
魔法使いは前衛がいて成り立つ(黒音は例外)。だからこの塔に魔法使いが入ったところでどうしようもないのだろう。
お姉さんも何年も受付をしているが、魔法使いは見たことがないそうだ。
「何か質問はありますか?」
「下の階層からどうやって戻ってくるのじゃ?」
「並んでいる人たちの先頭にある石が見えますか?」
「ああ。触れたら人が消えたのう」
「あれはこの試練の塔にしかない石で、私たちは転移石と呼んでいます。文字通り触れると転移する石で、あの石に触れると塔の地下1階に移動します。同様に各階には転移石が2種類あります」
「次に進む石、戻ることのできる石ですか?」
「正解です。青い石に触れるとここまで転移することができます。赤い石は先に進みます」
「なるほどのう」
石は各階層の最奥にあり、危なくなったら魔物を回避して石に触れれば脱出することができるようだ。ちなみに脱出用の青い石はいつでも使えるが、赤い石は魔物を全滅させないと使用できない。
「死んだ場合はどうなるんですか?」
「塔に吸収されます」
「ほう」
万が一魔物に殺されてしまった場合は塔に吸収され、何も残らないらしい。
「また、5階毎に出現するボスを倒すと宝箱が出現します」
「宝箱?」
「はい。中にはランダムで武器や食料、マジックアイテムなどが入っています」
「それはすごいのう」
説明を聞いて納得できたが、これがこの国を最強にしている理由なのだろう。
魔物を倒して経験を得ることができるし、強くなるアイテムも手に入る可能性がある。それに1人でのアタックなので信じられるのは自分の力だけだ。
「よくわかりました。丁寧に教えていただいてありがとうございます」
「参加したいのであれば列に並んでください。ちなみにここは24時間営業しているので深夜や早朝に来てもらうと人が少ないのでお勧めですよ」
「わかりました。ちなみに…誰が一番進んでいるのかとかはわかるんですか?」
「もちろんです。各階層のボスは必ず同じモンスターなので、最深部のボスの一部を持って来てもらうことでどこまで進んだか把握しています」
5階のボスはキングゴブリン。10階のボスはオーガ…と出現するボスは固定なので、例えば5階まで到達したらキングゴブリンの盾や剣、角などを持ってくれば到達の証明になるし、売ることで金銭に交換できる。
「それで、1位の人は何階まで到達しているんですか?」
「トップは150階まで到達している、第四王女のリリフレール・ランペルジュ様ですね。最近はアタックしていませんが…一時期は破竹の勢いで突き進みあっという間にトップに躍り出ました。2位は第一王子のギギフレール・ランペルジュ様の140階ですね」
「150!!凄いな!」
「クリアした階層から続けることができるのか?」
「いえ。一度戻ってくるとまた最初からやり直しです」
「マジか…」
つまりその第四王女は150階層まで孤独に突き進んだのか。どれだけの精神力、強さがあれば成しえることができるのか。
聞けばその王女は現在行方不明らしく、試練の逆さ塔にも顔を出していないようだ。
行方不明のノウキングダムの王女…?
確か黒音がこの国の王女を誘拐したとかなんとか…そういえば連れの子をリリと呼んでいた。ボールをスパイクして破裂させていた女の子だ。
後ろで黙って話を聞いていたじいさんにアイコンタクトするが、黙って欲しいとジェスチャーで返される。まぁこの国の事情に首を突っ込むのは面倒だから別にいいけど。
とにかく聞きたいことは聞けたので一度建物から出る。
するとじいさんが意外そうな顔をして聞いてきた。
「お主のことだからてっきり挑戦するのかと思ったが」
「話しを聞いた限りだと食料とかの準備もしなきゃだからね。並んでいる人の荷物も結構しっかりしてたし」
「ほう。よく見ておるのう」
「だから準備してから明日の早朝に一回目のトライをしてみるよ」
「うむ。無理はするなよ」
「わかってるさ」
一人だと無茶はできない。けど目指すはトップの150階だ!




