もふもふ!もふもふです!
草原で倒れていた女性を助けたら、なんとその正体は人間に化けた狐だった。
全身の毛は白く、全長は3メートル以上はあるだろう。姉妹なのは本当のことかもしれない。2人(2狐?)ともそっくりな見た目をしている。
そしてこれが重要なことなのだが…私たちがテイムしたいと思っていた魔物の条件と合致しているのだ。すなわち…
「モフモフ!」
「強そう!」
「レア!」
「速そう」
「な、何じゃお主たち…わっちたちを見る目が怖いのだが…」
あのフワフワしていそうな毛に掴まれば乗ることもできるだろう。是非テイムしたい。
そもそも、ケガしていたことは嘘だったのだろうか?すごく元気そうだけど…
「譲渡毒はどうなったのでしょうか?」
「…あれは嘘。騙していてごめんなさい」
「わっちたちは人間観察が趣味でな。面白そうな輩を見つけてはいたずらしているのだ。もちろんいい反応をしてくれたら相応の礼はしておるぞ?ただの迷惑ものではないのだぞ?」
「そうだったんですか!ご無事で何よりです!」
「…やっぱりお主は面白いのう」
ルル様がつまらないわけがなない。
それから今までいたずらしてきた人間について教えてくれた。
「大体の人間は関わり合いになりたくないのか、倒れているわっちを無視するのだ。次に多いのが下心丸出しの奴だな。どいつもこいつも胸ばかり見よってからに…そんなわけで人間は大概つまらんと思っておったのだが。いやはややっと面白いやつに巡り合えたわい」
「譲渡毒の話を聞いて迷わず助けると言ってくれたのはあなたたちが初めて。騙したお詫びに何でも言うことを聞いてあげる」
ん?なんでも?
ルル様と素早くアイコンタクトをし、伝わったのか笑顔でサムズアップするルル様。
「ではモフモフさせてください!」
「違うでしょルル様。テイムですよテイム」
「モフモフならお安い御用だが、テイムとな?」
「どういうことでしょうか」
彼女たちはテイムについて知らないらしく、首を傾げているので説明をする。ルル様が魔物をテイムできること。テイムした魔物はルル様と精神が繋がり、召喚できるようになること。力の強い魔物とは契約の形を取り、契約した魔物の能力の恩恵を受けることができるようになることを説明する。
「ふむ。つまり契約するとわっちたちの能力の一部をお主たちが使えるようになるのだな?」
「はい。水龍神の娘様と契約した時は水に関するステータスが上がりました!」
「水龍神の娘とな!これまたすごいのと契約しておるのだな」
「やっぱり面白人間」
「スフィルクスさんの恩恵は…よくわかりませんね!」
「謎の多い方ですからね」
分かりやすい恩恵ではないのかもしれない。
「それでどうでしょうか?私と契約してくれますか?」
「いいじゃろ。…痛くないよな?」
「はい。手を重ね合わせて魔力を送るだけですので」
「ふむ。こうか?」
「どうぞ」
コルナさんとコリナさんがルル様に手を差し出す。そうしてルル様の契約が始まる。
炎のような明るい光が輝き、ルル様の手の甲に尻尾の模様が浮かび上がり消えていく。
「これで契約完了です!」
「ふむ。どうやらお主たちへの恩恵は性別を変化させることができるようになることじゃな」
「男性になることができるのですか?」
「うむ。試しにやってみてはどうじゃ?」
「やってみます!」
ルル様が変身!と叫ぶと段々と大きな胸のふくらみが無くなり、金髪も短髪になり身長も少し伸びた。
どこからどう見ても外国のイケメン王子だ。ルル様の面影はあるが。
ルル様が全身をくまなく確認して手で顔をペタペタと触っている。
「おお!?これがルル男性バージョンですか!」
「かっこいいですね。服を変えれば完璧に男の子でしょう」
「ふ~ん。あたしもやってみようかしら」
リリも変身できるようで徐々に変化していくが、胸がぺったんこのせいかルル様よりは変化が少ない。
しかしいたずら好きそうな中世的な少年へと確かに変わった。
「リリは可愛い系か」
「面白いですなぁ」
「わっちたちはなんにでも変化できるのだがな。お主たちはそれが限界のようじゃ」
「十分すごいですけどね」
性別を変えることができるなんてとんでもない能力だ。追手はこれでごまかせるかもしれないし、何よりルル様とこの能力を使ってやりたいことがたくさんある。…ぐへへ。
「クロさんが悪い顔になってます!あれは悪いことを考えている顔です!」
「どんな顔ですか…」
「ともかくこれで契約は完了したようじゃな。わっちたちは機嫌がいいからもう少しお願いを聞いてやってもよいぞ」
「何でも言っていい」
「では今度こそもふm…」
「エルフの里まで私たちを乗せていって欲しいのですがどうでしょう?」
「エルフの里かえ。そりゃまた珍しいところをな」
ルル様の要望を遮り、本来の目的を話すと姉のコルナさんは驚き、妹のコリナさんは相変わらずの無表情といった反応を示す。だけど両方ともエルフの里の心当たりはあるようだ。
「あんな所に行って何をする気かえ?」
「魔法を教えてもらおうと思いまして」
「なるほどの。エルフは魔法に長けていると聞いたことがある。人間よりかは詳しいだろうの」
「納得」
「では?」
「途中までなら送ってあげられるの」
途中まで?どういうことだろうか??
「それはどういう?」
「エルフの里に向かうには迷いの森…正確にはエルフの結界を突破しなければならんことは知っておるかえ?」
「はい。確か悪意ある者はその結界に永遠に囚われるって…まさか…?」
「うむ。お恥ずかしい話じゃがの。以前わっちたちがこっそりその森に入ったら見事に囚われたのだ!あっはっは」
…それって悪意満々だったってことだよね?コルナさんは豪快に笑っているけどコリナさんは顔を赤らめている。
「よくご無事でしたね」
「入ることはできんかったが、帰ることは無理矢理出来たのでな。じゃから迷いの森の入り口までなら送ってやることはできるぞ」
「どうする?」
「はい。それでお願いします」
「ふむ。では好きなほうに2人ずつ乗るがいい」
「ありがとうございます!」
というわけで私とルル様はコルナさんに。リリとトトちゃんはコリナさんの背中に跨ることになった。
「フワフワですね~!モフモフですね~!」
「癖になりそうですね」
背中に乗るために足の付け根から登っているのだけど、どこを触ってもふわっふわだ。思わず立ち止まりうつ伏せになって全身でモフモフを味わいたい気持ちに駆られるが、自重して背中の中心部まで向かう。
背中の中心部は平らで乗りやすかった。
「どうかえ?乗り心地は?」
「とってもいいです!ここに永住したいくらいです!」
「あっはっは!気に入ってくれたようで何よりじゃ。あっちも準備できたようだから動くぞ。しっかり掴まっておれ」
「わかりました!」
最初はゆっくりで徐々に速くなっていくコルナさん。私たちの後ろにはコリナさんが追従してくる。そのスピードは今までに体感したことの無い速さで、あのスフィルクスさんに乗った時よりも断然早い。景色は速すぎてぼやけ、息つく暇もない。何よりもルル様がこの速度で振り落とされないか心配すぎる。
「…!…ルル…様…!大丈夫ですか!?」
「あはぁ。もふもふ天国ですぅ」
「…え?」
ルル様を確認するとコルナさんのもふもふ毛がルル様を全身包み込み、その中で至福の表情を浮かべているルル様。
ちょ!?なんで私と待遇が違うんでしょうか!?抗議するようにコルナさんの毛を上下に引っ張る。すると察してくれたようにコルナさんが話しかけてくる。
「あはは。すまんな!その子は絶対落ちると思ったから措置を取った!でも風を全身で感じるのも気持ちいいだろう?だから主にはそのままの体験をしてほしくてな」
「そんな…余裕ありませんから!恐怖しか感じてないです!」
「そうか?残念だのう。それではルルのところに入るがよい」
え!?ルル様と密着しろと!?
「コルナさん最高ですね」
「お主やっぱりそっちの趣味か。良きかな良きかな。ふっふっふ」
言われるがままルル様が包まれている最高級毛の中に入っていく。私一人分の空白をコルナさんが作ってくれていたのですっぽり収まった。
「はえ?クロさんがとっても近いですぅ」
「お邪魔します…」
うおおおお…!ルル様とピッタリ密着している…!
しかもコルナさんの毛が風を遮ってくれているのか無風状態でぬくい。まるで高級ベッドの中みたいだ。いや、それ以上か。
「あ…!クロさん足が…」
「すみません!ちょっと狭くて」
コルナ神の采配か…毛の中は微妙に狭く1.5人分位のスペースしかない。これがどういうことかというと…
お互いの足が絡まり、両腕で抱きしめ吐息を感じられるほどの距離感で見つめ合っている状況なのである。
さすがのモフモフハンターであるルル様もこの状況ではモフモフを満喫できないようで、顔を真っ赤にしながら上目遣いでこちらを見てくる。
「あはは…狭いならしょうがないですね」
「はい。しょうがないのです。足が絡まっても仕方のないことなんです」
「うう…だからってすりすりする必要はあるのでしょうか…?」
「ちょうどいいポジションが見つけられなくて…もう少し探させてください」
「あんっ…あ!今のは聞かなかったことにーーー!」
ここは天国か?今後はコルナ神と呼ばせてもらおう。
………
……
…
「そろそろ着くぞ」
「え?早すぎですよコルナ神。もう一周回ってください」
「何を言っておるのじゃお主は…」
「そうですよぉ!このままだと私、恥ずか死してしまいます!」
「ちぇ~」
「キャラがぶれておるぞ…」
幸せな時間というのはなぜこうも早く過ぎ去ってしまうのだろうか?体感3分未満だった。
私たちを包み込んでいた毛が広がり、太陽が見えるようになる。眩しい。
2人で手を取り地面に降りると、目の前には森林が広がっていた。これが迷いの森か。
「わっちたちはこれ以上進めんのでな。帰るときは呼んでくれ。わっちたちを召喚できるのだろう?」
「はい」
「ではわっちたちはまた面白人間探しに戻るのでな」
「面白かったよ。いつでも呼んで」
「はい!ありがとうございました!」
コルナ神とコリナさんが去っていく。
「風が気持ちよかったわね!」
「最初は息ができませんでしたが、慣れると楽しかったですな!そちらも大丈夫でしたか?」
「…///」
「ルル殿?顔が赤いですぞ?」
「ななな!何でもないです!」
「???」
「とにかく先に進みましょ。エルフの里なんて魔法使いの巣窟はあたしがぶっとばしてやるわ!」
「おい悪意丸出し少女自重して」
魔法使い嫌いのリリが迷いの森に入って大丈夫なんだろうか?
「悪意」には分類されないと思うけど…ここまで来てなんだけど急に不安になってきた…
ともかくリリがさっさと行ってしまったので私たちはエルフの結界が張ってある通称「迷いの森」に足を踏み入れたのだった。




