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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
ポンコツ姉妹と異世界旅!
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クロネの過去 前編

「ん…あれ…?」


 いつもの平日、いつもの時間に起きたはずなのにまだ私は夢を見ているようだ。

 たくさんの人が私を見ながら口々に何事か話している。喜んでいる人、疲れたのか倒れている人、睨んでくる人…でも何語かわからないので何を言っているのかもわからない。夢ってたまによくわからないから、困る。


 同じ服を着た人がたくさんいるんだけど、その中で一人だけ服装が違う偉そうな人が私の前に来て話し出した。


「〇×▽………」

「えーと…何を言ってるのか分かんないです。ごめんなさい」

「?」

「?」


 相手も私が何をしゃべったのかわからなかったのだろう。お互い疑問符が浮かぶ。

 それから偉そうな人の後ろにいた老人が何事か言い、偉そうな人はため息をついて出ていった。


 それから私は別室に案内されて…

 なかなか夢は覚めず。その日から謎言語のお勉強をひたすらさせられることになる。




「エート…ツマリココはイセカイッテコト?」

「そうじゃ。わし等の勝手な都合でお主をこの世界に召喚してしまった。君にも生活があったろうに…申し訳ない」

「ハア…」


 私が夢だと思っていたことは夢ではなく、お城で何か月も過ごすことになった。

 その間に意思相通が出来ないと始まらないので、とにかく必死に語学を勉強した。そのおかげで何とか話せるようになったし、相手の言いたいことはわかるようになった。


 あれだね。学校で何年も英語を勉強していたのに全く理解できなかったのは、必死さが足りなかったのかもしれない。


 意思疎通をある程度取れるようになり、わかったことはここが地球ではないということ。簡単には信じられなかったけど、突然手の上に火の玉を出したおじいちゃんを見て納得させられた。


 この世界はレインスマルブという名前で、私が居る場所は人間国に位置しているようだ。人間が暮らしている。まぁ横にいるおじいちゃんも普通の人にしか見えないし。


 召喚された人間は何かしらの高い能力を持つと書かれていたらしく、私の身体を調べたところ…人間ではありえないくらいの魔力量を持っていたらしい。

 その結果を知って国の連中はたいそう喜んでいるとおじいちゃんが悲しそうに説明してくれた。




 会話もスムーズにこなせるようになってきた時期に王様とも謁見した。

 そこでそもそもなぜ私を召喚したのかを聞かされた。長ったらしく説明されたけど…どうやら魔族と戦ってほしいかららしい。魔族は狡猾で残忍、人よりも高い魔力を持っており、人間を食べるらしく、このままでは人間が滅ぼされてしまう。

 そこで神が記したと言われている召喚書を最後の希望として使ったところ、私が召喚されたのだという。


 正直期待されても困る。私はただの学生として今まで生きてきたのに、そんな突然言われてもね…




 でも魔法は楽しそうだったのでおじいちゃんからたくさんのことを学んだ。


 まず、魔法を使える人は総人口のわずか10%くらい。ただし、ほとんどの魔法使いはファイヤ(手のひらサイズ)とか、ウォーター(蛇口ひねって出てくる水くらいの勢い)とかそんなレベルらしく、戦闘できるレベルの魔法使いはその更にその10%しかいないらしく、私はその戦闘ができるレベルに入るようだ。


 運がいいのか、私は魔法を簡単に使うことが出来た。おじいちゃんのできることはすぐに全部覚えたし、自分で魔法を開発したりもできた。


 今はその魔法の練習中。

 何をしているのかというと、身体強化で聴力だけを部分強化して、城中の会話を盗み聞きしている。


 言葉や文化を知ったりすることが目的だ。

 実際この魔法を使ったおかげで分かったことがたくさんある。

 例えば私以外にも何人も異世界人を召喚していたようだ。聞かされてなかったけど。


 でもほとんどの人はこの世界の住人と能力は大差なかったので町や村で暮らしてもらうことになったとか。私は運が良かっただけみたいだ。


 それでも何人かの異世界人は私のように城で暮らしているらしい。別にどうでもいいけど。話を聞くと男の子っぽいし。


 それに、魔族が聞いた話と違う。友好的な魔族もたくさんいるそうだ。だけど人間国の主張は人間の繁栄で、それ以外の種族は淘汰するべしという教義らしい。なんじゃそりゃ。


 でもその教義は全員納得のものではないらしく、現王と宰相が言っているだけらしい。そのせいで2人の評判はすこぶる悪い。

 王様は傲慢で嫌いだとか、宰相もいけ好かないよねーとかをよくメイドさんたちが話している。


 そういった城で交わされている話をラジオ代わりに聞く。盗み聞きは本来ならよくないけど、自分勝手に私を召喚したのだから、これくらい悪さしても罰は当たんないでしょ。


「どこの世界でも同じようなもんだなー」


 誰と誰が付き合ってるだの、誰々はこんなひどいことをしているだの…会話の内容なんて、他人の悪口か噂話が大半だ。

 あ。そうだ。嫌われている王様の素の会話も聞きたいな。

 玉座の間にいるらしく遠いから除外してたけど、ちょっくら盗み聞きしにいこう。


 庭を散歩するふりをして玉座の間に近い場所まで移動する。よし。ここなら聞けそうだ。

 ちょうど王様と宰相の嫌われ者トップ1、2が話し合っているところに居合わせることが出来た。

 聴覚を鋭くして2人の会話を聞く。




「異世界人共の様子はどうだ?」

「微妙ですね。あまり我々と大差ありません。2人を除いては」

「ほう。誰だ?」

「クロネとアラタです。最初と最後に召喚に成功した」

「知らんな。どんな人間だ?」

「謁見したではないですか…ごほん。クロネはまだ少女ですが、魔法の才能が桁違いです。老師を世話役に付けていますが、すでに実力は老師以上です。アラタは剣の才能に秀でており、魔法もある程度使えます。ただ…こちらは性格に難がありますが」

「それは素晴らしいな。すぐにでも前線に送らせればよかろう」

「それが、老師がクロネはまだ戦場に行くには早いと渋っております。アラタは喜んで行くでしょうが…」

「老師か…ふん。情でも湧いたか。腑抜けたな」

「ですな」

「…………」

「……」

「…」


 途中から会話は耳に入ってこなかった。

 でも確かなことはこの城に居たらまずいということ。


 今の私のフットワークは軽い。ここは知り合いが誰一人としていない世界なのだから。

 だからその日のうちに城を出ようと思った。

 戦場とか…無理だ。




 しかし行くとこない…どころか右も左もわからないので不安だけど、ここにいるよりはマシだと思うことにして城を後にする。


 

 警護が薄い夜に慎重に行動しなんとか門まで到着する。すると、門の近くにおじいちゃんがいた。

 咄嗟に隠れる。もしかして気付かれてた?だとしたらマズい。


「隠れなくともよい。出ておいで」


 その声は優しかった。そういえば…宰相はおじいちゃんが私を戦場に出すのは反対したと言っていた。

 …おとなしく出ることにした。


「…」

「城を出るのか」

「…はい」

「そうか…よかった…」


 おじいちゃん…?


「ワシたちの勝手でこの世界で生きることになり、本当に申し訳ない。そればかりか、ここにおってはいずれ戦いに駆り出されるじゃろう。ワシが時機を見て逃がそうと思っておったが…君はワシが思っている以上に抜け目なかったようじゃな」

「お世話になりました」

「ああ…これを持っていくがいい」

「これは?」


 おじいちゃんからバッグを渡される。


「マジックバッグという。重量制限はあるが多くのものが入る優れモノじゃ。その中に旅で必要なものやお金も入っている。ワシにはこれくらいしか出来ぬが…君が穏やかに生活できることを祈っておる」

「おじいちゃん…」

「それと、国を出るのなら北に向かって歩くと良い。ノウキングダムという王国があるのじゃが、そこなら人間のお主でも比較的安全に過ごせるじゃろう。ただ、魔法を使う者を下に見ておるから、むやみに使わんようにな」

「…わかりました。ありがとうございます」


 おじいちゃんめっちゃいい人…名前覚えてなくてごめんなさい…

 たくさんのことを教わったし、学ばせてもらった。

 いつの日か…この優しいおじいちゃんに恩返ししよう。


「もう行くといい。いつまでもここにおったら城の連中にバレてしまう」

「はい。いつか必ずこの恩はお返しします」

「いいんじゃよ。老い先短いワシのことなど考えずともよい」


 そう言い笑いながら城に戻るおじいちゃん。

 名前聞きそびれた…




 こうして私は城を後にした。人間国はなんだか薄気味悪かったので、おじいちゃんの助言に従ってノウキングダムという国を目指すことにした。


 そして旅の途中で用意してもらったマジックバッグにたくさん助けられながらおじいちゃんのことを考える。

 私が居なくなったら責任を取らされるのはおじいちゃんだろう。


 召喚というものは簡単ではないらしく、何十人もの優秀な魔法使いが命を懸けてやっと成功できるくらいの危険な術らしい。

 そんな多大なリスクを背負って召喚した私が何の貢献もしないで逃げたのだ。面白いわけがない。だから私のお目付け役だったおじいちゃんに処罰が下されることは間違いない。


 そのことに思い至ったのは旅を始めて数日経ってからだった。恩を返すと言っておきながらさっそく仇にして返してしまっている。もう少し城を去るにしてもやりようがあったのではないかと最近はいつも考えている。


 いつだって私は気付くのが遅い。全て終わった後にいつも後悔するのだ。


 でも今は、それでも前を向いて歩いていかなければならない。

 頼れる人はもう近くにいないのだから。


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