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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
ポンコツ姉妹と異世界旅!
37/88

ポンコツ姉妹のビーチバレー!

 2対2のビーチバレー対決。

 ボクのチームにはひげもじゃと海パンが全くマッチしていないじいさん。黒音のチームには運動音痴疑惑のあるルルさんがそれぞれのペアだ。


 現在はルルさんのサーブミスで1-0。こちらのサーブから再スタート。


「じいさんはサーブミスしないよね」

「黒音が言っていた通りにすればいいんじゃろ?そりゃ」


 じいさんがアンダーサーブを成功させ、山なりの軌道で黒音の正面にボールが落ちる。

 黒音が上手くレシーブし、ルルさんの真上にボールが飛ぶ。そのボールを顔面で受け止め、ぽとぽと転がるボール。


「「「「「………」」」」」

「………てへぺろ?」

「タイムで」


 黒音がたまらずタイムを要求し、練習させてくれと申し出てきた。確かにこれでは試合が成立しないためボクとじいさんはコートに出て、代わりにリリとトトがコートに入る。

 待ってる間は何してようかな?と思っていると黒音がマジックバッグから釣り道具を2セット取り出しこっちに持ってきた。


「これで暇つぶししていてください」

「釣り道具?」

「良いものを持っておるのう黒音。いくぞアラタ」

「んー」


 じいさんがウキウキしながら釣り場を求めて歩き出したのでついていく。

 後ろを振り返るとルルさんがサーブの練習から始めている。…あの調子だと結構かかりそうだな。


 地元の魚人に釣り場を聞いて(最初は魔物かと思った)釣りを始める。


「こんな大きな海で釣りをするのは初めてじゃ。何が釣れるか楽しみだのう」

「釣り自体はしたことあるんだ」

「小さい川とかでな。人間国には海なんてないからのう。アラタはどうじゃ?」

「ボクは…小さい頃に父親とやったことあるかな」

「ほう。お主から家族の話は聞いたことが無かったが…いい父親だったのじゃな…」

「そんなわけないさ」


 まだボクが小さい頃は両親も家にいた。でも小学校に上がってからは共働きの両親は家に帰ってさえ来なくなった。銀行のカードを渡されて毎月好きに使っていいお金が振り込まれるだけでボクには一切構わなくなった。ボクが女装をしていることすら知らないだろうし、もしかしたらいなくなっていることも知らないかもね。

 だから釣りをした記憶はあるけど顔までは思い出せない。そんな親だ。

 そんな嫌なことを思い出したせいで苦い顔になったボクを見て、何を思ったのかは知らないけど辛そうな顔をして聞いてくるじいさん。


「アラタよ…元の世界に帰りたいとは思わんのか?その…ご両親とかにもな…」

「別に?親の顔なんて覚えてないし、親しい友達もいなかったし。こっちの世界のほうが楽しいよ」

「そうか…」


 じいさんはよくわからないけど異世界人を召喚したことをずっと悔いているらしく、たまにしおらしくなってさっきのような質問をしてくる。子どもたちの人生を奪ったと考えているらしい。


 別にじいさん1人で召喚したわけでもないし、国の命令で何十人もの魔法使いが参加していたらしいからじいさんは悪くないとは思うけど。


「ところで、クロネに会ってみてどうじゃった?」

「黒音?普通の女の子だね」

「そうじゃろう。なら戦う意味なんてないのではないか?」

「意味はある」


 学校では勉強でも、可愛さでも、強さでも一番だった。それくらいしないと人と違う自分は世界からつまはじきにされると思った。その考えは今でも変わらない。ボクは一番であり続けなくちゃいけない。


「異世界人最強はこのボクだ。それを証明するためにも彼女とは戦う」

「…難儀な性格じゃのう」

「知ってる」


 それから会話はなくなり水面をボーっと眺める時間が続いた。

 そして数時間後…ルルさんが走ってきた。


「はぁ…はぁ…お待たせしました!もうばっちりです!」

「長いよ!どんだけ待たせるんだよ!」

「それで、サーブくらいは入るようになったのかのう?」

「はい!3回に1回は入るようになりました!」

「…微妙だね!」


 これだけ練習したのにそれは逆にすごい。

 ともあれまともに対戦は出来ると豪語するルルさんを信じてコートに戻った。ちなみに魚は全く釣れなかった。


「待たせてしまってごめんね」

「いいけどさ。さっさと始めよう」


 じいさんのサーブから再スタート。


「ほい」


 ボールは敵陣に入り、今度はルルさんのところに落ちた。


「はい!」

「ナイスですルル様」


 ルルさんのレシーブは形にはなっていた。お世辞にもうまいとは言えないが…黒音の方向にボールが飛ぶ。


 本来は3回までタッチできるから、もう一度黒音がボールを上げてルルさんがアタックすることが理想だけど黒音はそのままこちらにボールを飛ばしてくる。


「じいさん頼んだ」

「上にあげるだけでよいのじゃな。ほい」

「よしきた!」

「くっ」


 じいさんには事前にとにかく高くトスを上げるように伝えてあった。多少ボールが逸れようとボクの運動神経ならどうとでもなるからだ。

 じいさんのトスをアタックして黒音が弾き得点ゲット。


「やるね」

「こんなもんじゃないよ」

「ふぅ。歳を取ると腕を上げるのも楽ではないのう」


 次もじいさんのサーブで始まるが、今度は距離が足りずサーブミス。2-1で相手のサーブになる。


「はい」

「むむっ!?」


 黒音のサーブは生意気にも無回転サーブでじいさんがレシーブをミス。


「ボールが突然落ちたぞ」

「無回転のサーブは不規則にボールの軌道が変わるからボクが受けるよ。それにしても、よくそんなサーブできるね。もしかして元バレー部?」

「いや。昔遊びで練習していただけ。まさか役に立つ日が来るとは思ってなかった」

「へえ。一方的じゃつまらないし、面白くなってきたね!」


 次のサーブも無回転サーブだった。完全にモノにしてるな。

 なんとかレシーブに成功してじいさんに繋げる。そのまま空高く上げてもらいアタックを決める。これで3-2。


 次はボクのサーブだ。狙うはもちろんサービスエース。相手はあくまで黒音だから黒音のところに飛ばす。


「受けられるかなっ!!」

「おお!ジャンプしました!」

「うわ」


 ボールを高く上げてジャンプサーブを決める。黒音は反応しきれずにボールを逸らした。


「4-2ですぞ」

「どんどんいくよ。そら!」

「くっ。ルル様お願いします!」

「とりゃーーー!って届きませーん!」


 2度目はなんとか黒音がボールを上げるも、ルルさんが走っても追いつけない場所に飛んで行ってしまったため失敗。


 3回目のサーブはボクが外してしまった。

 その次のルルさんのサーブは豪快に空振りしてミス。もはや誰も何も言わない。


 それからもほとんど全員がサーブミスをしてカウントは9-6。

 まぁいきなり全員がサーブをぽんぽん入れられる程簡単なスポーツでもないし。


「最後は私ですか…プレッシャーが半端じゃないです!」

「早く次にいきたいのでさっさとやらかしてくださいルル様」

「私だってやる時はやるんですよ!必殺!むかいてんさーぶ!」


 ぽて。


「「「知ってた」」」

「10-6でアラタチーム1セット先取ですぞ」


 なんとも締まらない終わり方になってしまったが…ともあれボクたちの勝ちだ。

 それにしてもルルさんは運動下手な人だったか。見た目がおっとりタイプだけど自信満々だったからもしやと思ったけど…見たまんまだった。


「うぅ~!リリちゃん!私の仇を取ってください!」

「次はあたしの出番ね!お姉ちゃんとの格に違いをあの生意気な子に見せてあげるわ!」


 腕をぐるぐる回しながらコートに入ってくる金髪美少女。

 見た目で言うと、このリリって子は出来るタイプの子だ。目がギラギラしてるし、体の動かし方にも無駄がない。黒音もここからが本番とでも言うように準備運動をしている。


「さぁ!早く始めましょう!サーブはあたしにやらせてちょうだい!」

「いいけど。はい」


 リリにボールを渡すと嬉しそうに両手で掴んでコートの後ろに向かう。


「第2セット始め!ですぞ」

「あんたのジャンプサーブってやつ?真似させてもらうわね!」


 リリがボールを空高く上げる。たっか!

 空を見上げるほどに高くボールを上げたリリ。


「な!?」

「これが本物のジャンプサーブよ!」


 そのジャンプ力も規格外で2メートルは地面から離れている。

 そのままこっちにボールを打ち付けてくるとしたらとんでもない破壊力だ。


 ボールとリリの手が接触する。


「え?」


 インパクトの瞬間、ビーチボールがパンっと破裂音とともに割れる。

 そのまま地面に落ちてくるリリと破裂したボール。全員が衝撃で沈黙してしまう。


「えーと…この場合どうなるのかしら?」

「アラタチームの得点になるのではないですかな?」

「そもそもボールが無くなってしまったのですが…予備とかは?」

「ないよ」

「ですよねー」

「な、なんかごめんなさい」

「いやいいんだ。そもそも…このビーチバレーで黒音に勝ってもそれはボクの勝利じゃない」

「え?いまさら?」


 そうだ。2対2の勝負に勝ったとしてもボクが黒音よりも上であることの証明にはならない。だから…


「だから、ボクと1対1で真剣勝負しよう。黒音」

「結局この流れになるの…」

「わかりやすいでしょ?拒否しても戦ってくれるまで追いかけるよ」

「はぁ…わかりました」


 黒音がコートの端に置いてあった、いかにも魔法使いが使用しそうな杖を持つ。

 ボクも対人用の木刀を取り出す。


 結局これがシンプルで、勝ち負けがはっきりしている。

 異世界人最強はこのボクだ!


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