追跡者との遭遇①
「どうしてスフィルクスさんが?」
『最近ルルの精神が不安定だから様子を確認した』
「そんなことがわかるのですか?」
聞くとスフィルクスさんとルル様は契約をしたことにより魂の繋がりがあり、術者であるルルの状況がなんとなくわかるらしい。それで魔法を練習していることを知ったスフィルクスさんが念話で伝えたいことがあり声をかけたとのこと。
その内容は…ルル様は魔法を使うことが出来ないだろうというスフィルクスさんの見解だった。
正確に言うとテイム魔法以外の魔法が使用不可能ではないかと言っていた。
なぜか?それはテイムの魔法に魔法の容量を全て使ってしまっているから。
私の予想通り常人がスフィルクスさんと契約、ましてや召喚することなど到底不可能らしい。にもかかわらずルル様が平気な顔で出来ているのは他のすべての魔法を犠牲にしてテイムの魔法を極めているからなのだとか。
それが本人の意志なのか、はたまた偶然なのかは不明だが…そうでもしない限りスフィルクスさんを召喚することはできないらしい。
つまり、ルル様がいましている魔法の練習は無意味なものだ。それよりはこれから多くの魔物をテイムすることが仲間の手助けに繋がる。そうスフィルクスさんは締めくくり念話が切れた。
スフィルクスさんの声が聞こえなくなった後、しばらく沈黙が続いた。そして絞り出すようにルル様が声を出す。
「私は…魔法を使うことが出来ない…?」
「そう…みたいですね」
「そっかぁ…そんな気はしてましたけどね…」
「ルル様…」
「だってあれだけ練習したのに、火の玉1つ出せないんですよ?スフィルクスさんにきっぱり言われて納得できましたよ!あはは…」
口に出して笑ってはいるけど表情は固く、今にも泣きそうだ。そんなルル様を強く抱きしめる。
「ルル様にはテイムという誰にも真似することのできない素晴らしい力があるじゃないですか」
「でもそれじゃあ今までと変わらないです…皆に守ってもらうだけの役立たずなんです。せめて少しでも魔法が使えれば私だってすぐに何か出来るかもしれないのに…」
「ルル様。私の仕事を奪わないでください」
「え?」
少し身体を離し、ルル様の目をしっかり見つめながら言う。
「テイムなんて凄い力を持っている上に魔法まで使われたら…それこそ私がいる意味が無くなってしまいます。私はルル様の為に魔法を使うことが何よりも幸せなんです。それを奪おうとするとは何事ですか!!」
「ええ!?この人急にキレ始めました!?」
「私の生きがいを取らないでください!それに、ルル様の分まで私が魔法を使います。だからルル様は私の分までテイムの力を磨いてください。私たちはいつまでも一緒なんですから役割分担ですよ。役割分担」
「…いつまでも一緒にいてくれるんですか?私と?」
「そうですよ。いやですか?」
「いえ!不束者ですがよろしくお願いします!」
「ルル様。不束者の意味知ってます?」
「いえ。知りません!」
「気のとどかない人、太くて丈夫な人って意味ですよ。…ふふ」
「どーゆーことですかー!」
「このおっぱいかな?太いのはこのおっぱいのせいでしょうか?」
「ぎゃー!揉まないでください!」
「うるっさいわねーーー!!!眠れないから静かにしなさい!!!」
「「ごめんなさい」」
眠っていたリリにお叱りを受けた私たちは素直に謝り黙った。
でも騒いだおかげかルル様も冷静になれたようで、先程までの悲壮感はもうない。
「クロさん。ありがとうございます。私は…私にしかできないことを。頑張ります」
「はい。ルル様が出来ないことは私がやります。2人で1人みたいなものです」
「2人で1人…ですか。ふふ。いい言葉ですね。クロさんが傍にいてくれて私は幸せ者です。…今日はもう寝ますね」
「はい。おやすみなさい」
ルル様がリリにもう一度謝りながら、その横ですやすや眠るのを見て一息つく。
ルル様はポンコツで不束者だけど…私が初めて好きになった女の子だ。いつまでも笑っていて欲しい。
そしていつか…この思いをぶつけよう。でも失敗はしたくないから最高のタイミングを見計らって…
やっぱり美味しい料理の場とか?でもせっかくの異世界なのだから非現実的な場で告白するのもアリかもしれない。
ルル様に飛行系の魔物をテイムしてもらって、夜の散歩中に告白とかどうだろうか?あるいはダンジョンの絶体絶命な状況で…それは死亡フラグになりそう。
そんな告白シチュエーションを考えていたらあっという間に夜が更けてしまった。
「みんな起きて。港に着いたよ」
「ふわぁ~。久しぶりの陸地ですね~」
「肉が食べたいわね!」
「船の上で寝ると腰が痛くなるのですなぁ…」
日が差し込むと港が見えてきたのでみんなを起こす。ルル様も気持ちの整理が出来たのかいつも通りだ。
「結局お姉ちゃんは魔法使えるようにならなかったようね!」
「リリ殿。もう少し言い方をですな」
「うぅ…でもいいんです!陸地に戻ったらたくさん魔物をテイムするんです!」
「じゃああれ捕まえてよ!ドラゴン!」
「それはちょっと…」
「リリ前も言ってたよね」
「そうよ。竜に乗って戦場を駆けまわるの!かっこいいでしょ?」
かっこいいかな?そもそも戦場には行きたくないよね。
そんなリリのドラゴントークに付き合いながらも港に停泊する。うっちーさんの船があったからその隣だ。
うっちーさんたちは途中まで一緒だったけど、向こうのほうが速くあっという間においていかれてしまった。今頃アイドルの仕事をしていることだろう。
4人で船を降り、揺れのない地面に違和感を覚えているとなんだか聞いたことがある声が聞こえてくる。
「はぁ~。海ってテレビでしか見たことなかったけど、こんな綺麗なんだ」
「ワシも初めて見るが、素晴らしいもんじゃな。遠出した甲斐があったのう」
「でもボク泳げないんだよね。水泳の授業とか休んでたし」
「そもそもお主の水着はどっちを使うんじゃ…」
「そりゃタンキニかパレオとか?」
「まぁ隠せるものがあるのならいいんじゃが…」
「あれ?おじいちゃん?」
「ん?…おお!クロネじゃないか!久しぶりじゃのう!」
「は?黒音?」
港には人間国にいた頃に魔法を教わったり、マジックバッグを譲ってくれたりしたおじいちゃんがいた。人間国からここまではかなり距離があるけどどうやってここまで来たのだろうか?
それにおじいちゃんの隣にはかわいらしい女の子が一緒にいる。なぜか私の名前がクロネだと知って驚いている様子だ。もしかしたら人間国にいた時に会ったことがある?私は覚えていないけど…
「クロネ?このあほみたいな恰好をしている爺は知り合いなの?」
「ちょ!初対面のくせに失礼すぎでしょ!この人は私に魔法を教えてくれたおじいちゃんだよ」
「はっ!やっぱり魔法使いなのね!ぺっ」
「どんだけ魔法使いが嫌いなの…」
「でもクロさんも魔法使いですよ?」
「クロネはそこら辺のしょぼい魔法使いとは違って面白い魔法を使うからいいのよ。でも普通の魔法使いは何人も集まって魔法を使うくせに弱いから嫌い」
「あほ…嫌い…」
「あっはっは!いいぞもっと言ってやれ!」
リリにボロカスに言われて落ち込んでいるおじいちゃんとその隣でリリのことを煽っている女の子。見たところ私と同い年くらいで黒髪のセミロング。腰には剣を差している。胸は無い。リリといい勝負かもしれない。
「あの。あなたは一体?」
「ボクかい?ボクの名前は新。よろしく黒音」
「アラタ…新?」
この世界では聞き覚えのない名前。でも日本では何度も聞いたことがある名前。
「そう。ボクも君と同じ異世界人さ。それで一つ提案なんだけど」
「異世界人…なんでしょうか?」
「ボクと戦ってよ」
「はい?」
「どっちが異世界人最強か決めよう!」
そう笑顔で言ってくる目の前の少女から殺気がビシビシ伝わってくる。
この子…いったい何なの…?




