次の目的地は…?
「それでは気を付けて帰れよ」
「はい!麒麟さんもお元気で!」
お宝の確認をした私たちは街に戻ることになった。
島を覆うように発生していた雷雲はなく、青空が広がっている。どうやら大嵐は麒麟が創り出していたもので解除も可能とのこと。自然現象を作り出すことが出来るなんてとんでもない魔物だ。普通に話してるし。もしかしたら戦っているときもかなり手加減してくれていたのかもしれない。
さて。街に戻ったら何をしようか?当面の海を見るという目的も達成できたし、新しい目標を考えないと。
人間国には戻りたくないし、ノウキングダムも帰ると面倒くさそうだ。となると西の獣人国か東の魔族領か…
そう考えているとスフィルクスさんに話しかけられる。
『汝…名前を聞いてもいいか?』
「私ですか?クロネです」
『クロネか。覚えておこう。人間にしては見所がある。今後もルルのことをよろしく頼む』
「はい。もちろんです」
『うむ。ではな。我は先に帰る』
「ええ!スフィルクスさん行っちゃうんですか!?」
『ああ。また何かあれば呼んでくれ。ではな』
スフィルクスさんが翼を広げ飛んで行ってしまう。私名前覚えられていなかったのか…まぁいいけど。
するとミツキさんも言いづらそうにおずおずと手を挙げる。
「私もお父様に呼ばれているので一度竜宮城に帰りますねぇ」
「ミツキさんもですか!」
「はい。何かあれば呼んでください。あ、無くても呼んでくださって結構ですけどぉ。みんなまたねぇ」
「さようなら」
「ありがとうございました!助かりました!」
ミツキさんが手を振りながら水の中に沈み姿が見えなくなる。
これでいつもの4人組に戻ってしまった。戦力的には大幅ダウンである。街に戻るだけだから問題はないと思うけど…
若干不安になりながら船に乗り込む。
「それじゃあ帰りますか」
「麒麟さーん!さようなら~!」
「ああ。入団する気になったらいつでもここに来い」
入団する気はないけど一応覚えておこう。
魔石に魔力を送り込んで船を発進させる。
私たちの横ではうっちーさんと魚ちゃんさんの船が併走していて、リトルリバーズがうっちーさんにしごかれている様子が見える。ちなみにリトルリバーズが乗っていたボートはうっちーさんの船に括り付けられている。
「いいかー!黒船海賊団に入りたいなら強くなければいけない!まずは腕立て伏せ100回だー!」
「「「「「100!?」」」」」
「無理です!」
「10回も出来ないのに…」
「私1回も出来ない…」
「つべこべ言わなーい!はじめー!」
「「「「「ひいいいいい!!!」」」」」
なかなかスパルタだなうっちーさん。私も見習わなければ。
運転をトトちゃんに任せてルル様の近くに移動する。ルル様の肩を掴んでニッコリ。
「せっかくなのでルル様も腕立て伏せしましょうか」
「なぜですか!?」
「だって今回の旅でルル様全く活躍してませんし。ポンコツっぷりもあまり見れませんでしたので」
「スフィルクスさんを呼んだじゃないですか!」
「つべこべ言わないで始めてください」
「突然のスパルタ!?」
文句を言いながらもやってくれるルル様。ただし一回も出来ない。
「仕方ないですね。膝は地面に付けてもいいですよ」
「こうですか?」
「その体制で上下に10回動いてみてください」
「あ、これならいけそうです」
数を数えながら腕立て伏せもどき?をするルル様。何度も土下座している人みたいだけど…腕立て伏せが出来ない人を出来るようにするにはどうすればいいのだろうか?
「8…9…10!ふはぁ。私もやればできるんです!」
「おめでとうございますルル様。これから毎日続けましょう。きっと普通の腕立て伏せが出来る日が来ますよ」
「鬼ですか!?」
ルル様の目標→腕立て伏せ1回。
さて。そんなことより今後の予定を決めなくては。まだ港に着くまでかなり時間が掛かるし、せっかくだからこの空いた時間を有意義に使おう。
「ということで、みんなはどこに行きたい?」
「何がということなのかわからないけど…あたしはそろそろ国に帰りたいわね。みんなあたしのことを心配しているでしょうし」
「ええー」
「なによ?文句あるの?」
「あるよ」
ルル様が国に戻るのはまだ早い。もう少し人生を楽しんでほしいところだ。
ルル様も国に戻ると聞いて顔が険しくなっている。隠そうとはしているけど。
「私はもう少し異世界を旅してみたい。それにあの筋肉が全てみたいな雰囲気嫌いだし。魔法使いの私には居心地が悪い」
「いい国なのに。それならあんたはどこに行きたいのよ」
「そうだな…魔族領は怖いし、消去法で獣人国かな?エルフの里とかってないの?」
「獣人国ですか…トトちゃんは行ったことないのですか?」
「拙はノウキングダムで生まれたので獣人国のことはさっぱりですぞ」
「そうなんだ」
てっきり獣人国で暮らしたことがあるものだと決めつけていた。
でも思い返してみれば…ノウキングダムはいろんな種族が暮らしていたような気がする。あまり外に出たことが無かったから詳しいことは覚えていないけど。
人間国とは違ってノウキングダムはリザードマンやらドワーフやエルフやらが暮らしていて…ザ・異世界だった。
ルル様を邪険にするムカつく国ではあるけど、たくさんの種族がきちんと共存できているという点ではいい国なのかもしれない。
「それで、エルフの国ってあるのかな?」
「知らないわね。エルフはいるからどこかにはあると思うけど」
「私も知りません!」
「拙は知っていますぞ」
「そっか。やっぱ誰も知らな…ん?トトちゃん知ってるの?」
「はいですぞ」
てっきり誰も知らないと思ったけど意外なことにトトちゃんがエルフの国に行ったことがあるという。
詳しい経緯を聞いてみると、以前親から買い物を頼まれたときに迷子になり、偶然エルフの村に迷い込んでしまったらしい。
なぜ買い物を頼まれて国を出てしまったのか非常に突っ込みたいところだけど…まぁそんな偶然が重なり暫くエルフの村でお世話になったようだ。
「ノウキングダムから近いってことかな?」
「そうですな。お世話になったエルフの話ではノウキングダムと獣人国の丁度中間地点にある森に結界を張っているそうですぞ」
「…結構遠そうだな!」
「結界ですか?」
「はいですぞ。悪意ある者を迷わせる結界だそうで、囚われた人は永遠に森の中から出ることが出来なくなるそうですな」
「なにそれこわい」
恐ろしいなエルフ。でも結界にそんな使い方もあるのか。ちょっと勉強になった。
「ところで、エルフってどういう存在なのかな?私のエルフに対するイメージは長寿で、考え方が偏屈で森から絶対出ようとしないって種族なんだけど」
「あたしの国にいるエルフは確かに長寿だけど、別に普通よ」
「私は全くわかりません!」
「拙は少し一緒にいましたが…変わった人たちでしたな…」
どうやらエルフと接したことのあるトトちゃんは当時のことを思い出しているのか微妙な顔をしている。
「どう変わってたの?」
「クロネ殿の言う通り、エルフはかなりの長寿のようですぞ」
「うん」
「だから彼女たちは暇を持て余しているといいますか…常に刺激的なことを探しているのですぞ」
「へえ」
「もちろん全員がそうではなくて、拙を保護してくれたエルフはとても優しかったのですが。あとは…そうですな。魔法が得意らしいですぞ。でも現代では魔法があまり使われていませんから…仕方なく森で集落を作って暮らしているらしいですな」
なるほど。世界の覇権を握っているのは魔法が嫌いなノウキングダムだから村を作り別の場所で暮らしていると。
「でもノウキングダムにもエルフはいるんだよね」
「いるわよ。あたしの専属メイドで弓の技術が高いエルフがいるわ」
そうだ。魔法のほかにも弓が得意って聞いたことある。
それにしてもリリには専属メイドなんているのか。ルル様はそんなメイド一人もいなかったのに…これが格差か。
まぁそこは置いておいて、エルフは魔法と弓が得意な種族と。人を迷わせる結界を作れることからも結構レベルが高いのかもしれない。発想力も。もし可能なら魔法を教わりたい。
「私はエルフの里に行ってみたいかな。魔法について勉強してみたいし」
「ふ~ん。あたしはどこでもいいけど」
「私もエルフの里に行ってみたいです!トトちゃんはどうですか?」
「そうですな。いいですぞ。以前のお礼もしたいですし」
「じゃあ次の目的地はエルフの里ってことでいいかな?」
「いいですね!楽しみです!」
「いいわよ。でもそれが終わったら一度国に帰りましょ」
「拙も問題ないですぞ」
3人の了承を貰ったので次の目的地はエルフの里に決まった。トトちゃんの話を聞く限り性格は私の想像とは違うようだけど、話は通じそうだ。私のスキルアップになればいいのだけど…とにかく行ってみないことにはわからないかな。
その日の夜。
リリとトトちゃんはご飯を食べてすぐに寝てしまった。でも意外なことにルル様はまだ起きていて、私のことをチラチラ見ながら何か言いたげだ。
「ルル様?寝ないのですか?」
「えーとー。ちょっとクロさんに相談がありましてー」
視線をきょろきょろさせながら挙動不審のルル様。
「なんですか?」
「あのですね。最近の私ってみんなの後ろに隠れて何もしていなかったじゃないですか…」
「いつも通りですね」
「そうなんですけど!そうなんですけどぉ!そんな自分が情けなくてですね…」
「ほう。それで?」
「クロさん!私に魔法を教えてください!」
「え?」
ルル様が魔法を覚えたがっている…だと…?




