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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
ポンコツ姉妹と異世界旅!
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追跡者編 その② ボクだって馬が欲しい!

 ワシの名前はガンド。現在はアラタという異世界の少年…少女?(アラタの世界では男の娘というらしい)と旅をしておる。


 目的地は広大な海があると言われておる北の街で、すでに半分程進んでおる。そして中間地点であるノウキングダムでアラタ用の馬を買うことになった。いつまでもワシの後ろに乗って旅をすることが気に食わないらしい。


「へぇ~。ここがノウキングダム…この世界で一番強い国だっけ?」

「そうじゃな。魔法を嫌い、力こそが全てという理念を持った国じゃ。魔法を撃っても気にせず突撃してくる兵士たちは恐ろしいものがあるのう」

「マッスル至上主義的な?」

「実力さえあればどんな輩でも受け入れるというのも特徴的な国じゃな。じゃから人間国とは違い多様な文化が育まれておる」

「じいさんの弟子の黒音もここで暮らしてたんだろ?」

「そうじゃのう。それがお姫様を誘拐してどこかに逃亡するとは…そんな子じゃなかった気がするのじゃがな」

「ふーん。ま、実力が全てってとこは気に入った。それで、馬はどこで売ってるんだろ?」

「現地の者に直接聞いてみるのが早かろう」


 偶然通りすがった若者に尋ねると唾を吐き捨てられた。な…なぜじゃ…

 その次も、その次もワシのことを睨まれたり無視されたりで誰も質問に答えてはくれない。


「あ~。じいさん見た目どう見ても魔法使いだもんなぁ。この国の人は魔法使い嫌いなんだろ?」

「そういうことか。じゃがここまでとは…仕方ない。ワシは離れておるからアラタが道を聞いてきてくれ」

「しょうがないなぁ~」


 アラタが反対側から歩いて来たタンクトップで筋肉ムキムキの男に話しかける。


「あのぅ。ちょっと質問してもいいですか~?」

「…弱そうなやつに興味はない。ではな」

「あ!ちょっと!?…は?なんじゃそりゃ」

「この国ではそんなナヨナヨした話しかけ方ではダメなようじゃな」

「マジか…ボクの常識が通用しないだと?」

「普通に話しかけてみればよかろう。強気でな」

「そうすっか」


 普段通りのアラタの話し方だとすぐに教えてくれた。その後目的地まで行く。


「ここかぁ。牧場臭くてやだな。匂いが移る前にさっさと買おう。ごめんくださーい」

「はいよ。馬を買いに来たのかい?」

「そうじゃ」

「げ。魔法使いじゃないか…はぁ…めんど…」

「そんな面と向かって邪険にせんでも…一応客じゃぞ?」

「もうじいさんここにいる間だけでも服変えてよ。めんどくさいから」

「く…仕方がないのう」

「それでどの馬を買う?5頭の中から好きな馬を選んでくれ」

「どれどれ~?」


 馬を確認する。どれもこれも我が愛馬ガルドの一回りも二回りもでかい。あと全員睨みを利かせてこちらを見ている。この国では馬もこんななのか…


 別の場所でもいいんじゃ?と思ったがアラタはここで買う気のようじゃった。一頭一頭近づいて目を見て確認している。そして一番最後の白馬としばらく見つめ合い、離れる。


「決めた。あの白馬で」

「はいよ。金貨100枚だ」

「は!?たっか!もっと安くしてくれよ」

「駄目だな。これでも少ないくらいだ。あいつが嫌そうにしてないからこの値段で売ってやると言っているんだ」

「あいつって?」

「お前が選んだ馬さ」

「へえ~。そんなことわかるんだ」

「この仕事を何年も続けているとな。馬にも感情や知性がある。気に入らない奴に買われる馬は態度に出るものなのさ」

「ふ~ん。…じゃあそれでいいや。じいさん支払いよろしく」

「結局ワシが払うのか…」


 まぁアラタが金貨100枚など持っているはずもないしの…

 手持ちから金貨を支払う。国を出ていくときに全財産を持ってきておってよかった…


「毎度。クソじじいは二度とこの店に来ないでくれ」

「だからワシお客様!お金払った!」


 馬を貰い出ていくときに塩を撒かれたが気にしないことにした。でもお気に入りのとんがり帽子だけは被るのをやめた。ぐすん。


「もうこの国を離れようぞ…精神的にくるものがある」

「しょうがないなぁ~。ま、ボクも乗馬の練習したいからちょうどいいけどさ」


 この国はワシには合わん。クロネは大丈夫だったのじゃろうか?もしかしたらクロネもワシと同じような境遇になり、腹いせに王女を誘拐したのかもしれんな。


 それはともかく、アラタに乗馬を教えなければ。

 ノウキングダムから少し離れた草原で特訓をする。


「よろしくじいさん」

「うむ。まずは心構えじゃ」

「そっから?」

「大事なことじゃ。いいか?絶対に怖がってはいかんぞ?これが大前提じゃ。恐怖は馬にも伝染するのでな。常にリラックスして乗るのじゃ」

「はいよ」

「あと姿勢も重要じゃ。お主は常に姿勢がいいから問題はないじゃろうが、常に胸を張って、遠くを見るようにな。あと体重は左右均等になるようにうまくバランスを取るように」

「うんうん」

「乗り方は…いつも乗っているからわかるな?動かし方も」

「どんだけじいさんの後ろで見てたと思ってるんだよ?楽勝楽勝」

「では早速乗ってみるか」

「待ってました!よっと」

「あ!こら!」

「ヒヒーン!!」


 アラタが突然馬に飛び乗ったので当然のように馬が暴れ出す。

 アラタが落馬してしまう!


 じゃがアラタは暴れる馬の上で上手くバランスを取り、それどころか片手を離し、頭を撫でて落ちつかせようとしておった。


「落ち着け。ヴァルキリー。これが今後のボクの乗り方だ。覚えておくれよ」

「ブルル…」

「マジか」


 驚きで思わずアラタの口癖が移ってしまったわい。

 暴れる馬の上で冷静に宥めて落ち着かせよった。


「や、やるではないか。走らせ方はわかるか?」

「足でトンって叩くんでしょ?」

「軽くじゃぞ。それが馬にとっての走る合図となる。止まる時は手綱を引いてな」

「うん」

「ではゆっくり進んでみるとするかの」


 ワシも愛馬のガルドに乗りアラタの横につく。

 アラタは姿勢もまっすぐ伸ばし視線も遠くを見ておる。馬も落ち着いておりゆっくりとアラタの指示に従っている。初めてにしては上出来すぎるの。まぁここ数か月ワシの後ろで馬には乗っておったからこれくらいはできるものなのかもしれないのう。


「その馬の名前はヴァルキリーにしたのか?」

「そうだよ。かっこいいでしょ?」

「どのような意味なのじゃ?」

「戦乙女って意味だよ。ボクにピッタリでしょ?」

「お主は男じゃろ…」


 何を言っとるんだこいつは…


 それからも特に問題なくアラタは騎乗している。初日とはとても思えん安定ぶりじゃ。

 旅を始めて数日はお尻が痛いだの疲れるだの車がいい?だの散々文句を言っておったがそれも今はない。


 それにこの草原ではスライムやゴブリンのような最弱の魔物しか出んこともあって馬も安心しておるようじゃ。


 そうしてアラタの乗馬技術の高さもあってかその日は予想以上に進むことが出来た。それから夜になり、野営の準備をする。ワシらは焚き火の前で食事をし、2頭の馬は少し離れたところで草を食べておる。


「どうじゃった?1人での乗馬は」

「やっぱ見る景色が違って楽しいよ。じいさんの背中を見続けることに限界を感じてたからちょうどいい。あとなんだろう…世界が広がるイメージ?」

「楽しんでおるのならいい。馬は乗り手の感情を読むことが出来るらしいからのう。良い感情を持つことは騎乗をする上で重要じゃ」

「ふ~ん。ま、これからは今までよりも早く進むことが出来るし、ガルドの負担も減るし、良い事尽くめだよね。あ、金貨はボクが稼いでいつか返すから覚えておいてよ」

「期待しないで待っておこう」


 アラタの言う通り、今までは老馬であるガルドに負担を掛けすぎていた。その為かなりスピードを落としていたが、これからはその心配もなくなるだろう。


 その日の夜は時間を掛けてアラタに乗馬に関するコツやワシの経験を話して聞かせた。




 そして翌朝。

 寝ているアラタを起こしに行く。しかし昨日は凄かったのう。

 アラタは見た目こそ女の格好をする変わり者じゃが戦闘技術はピカイチ。魔法も使えて乗馬も一日でモノにするなどスペックはかなり高い。万能タイプといったところか。魔法特化のクロネとどちらが強いのか…まぁそれは知らなくてもよいことか。


「アラタよ。もう起きるのじゃ。朝ご飯を食べるぞ」

「別に急ぐ旅でもないんだからゆっくり寝かせてよ…それに朝ご飯は食べたくないって何度言えばわかるんだよ…」

「駄目じゃ。三食しっかり食べんといつか身体を壊すぞ。若いのじゃから今のうちから気にしておけ」

「うるさいなぁ…まったく…」


 文句を言いながらゆっくりと起き上がるアラタ。この愚痴愚痴文句を言うのをやめればちっとはかわいげが出るんじゃがのう。


「ほれ。朝食じゃ」

「…パンは要らない。スープだけでいい」

「全く。まぁ何も口に入れんよりはマシか」


 寝起きのアラタはとにかく機嫌が悪く面倒くさいことこの上ない。それにもう一つ問題があった。それは出発するための準備が異様に長いことじゃ。


「アラタよ。もう行くぞ」

「ちょっと待ってよ。もう少しで髪型がいい感じになるから」

「これから先は草原を駆けるのじゃから髪なんてすぐに乱れるし、それに誰に出会うわけでもないのじゃからそんなに細かく手入れをせずともよいではないか」


 こやつはやれ髪がキマらないだのやれこーでねーとがどうだの、やたらと身だしなみに気を遣う。街ではそれでいいかもしれんが、旅の道中もずっとこの調子じゃ。意味が分からん。


「あのさぁ。何度も言うけど、誰に見られるとか見られないとかは関係ないの!自分のことが可愛いと思えればそれでいいんだ。それが僕にとって大事なことなんだから邪魔しないでよね」

「それならもう少し早く起きんかい。人を待たせることはいけないことじゃろう」

「それは…うん。ごめんなさい。でも起きられないんだよ!どうしても!わかってても!」


 まったく…ちょっとこやつのことを評価した途端これじゃ。先が思いやられるわい。


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