VS秘宝の守護聖獣
私とリリ、トトちゃんの3人で秘宝を守る魔物、麒麟と戦うことになった。
スフィルクスさんが助言をしてくれる。
『戦う前に申しておこう。奴を人間どもの尺度で測るならばAランク。それも上位に位置する魔物だ。努々気を付けることだ』
「…わかりました」
「腕が鳴るわね」
Aランクの魔物…私が未だ勝ったことのない格上だ。初めてスフィルクスさんと出会ったときは戦ったら絶対負けると思った。初めてキングオクトパスとクイーンクラーケンと対峙したときは為す術もなく負けた。
今回はどうだろう?少なくとも絶望感はない。後ろに頼りになる味方がいるおかげだろうか。
「近づかないと始まらないし、行くわよ?」
「うん」
一歩ずつリリが麒麟に近づく。
じっとこちらを見ていた麒麟が10メートルほど近づいたところですくっと立ち上がった。
リリがピクッと止まったが、覚悟を決めて再び距離を詰めていく。
「………」
誰もが息を止めてリリの動向を見守る。
そしてリリと麒麟の距離が5メートルを切ったところで麒麟が動いた。
「………」
「な……」
前足を上げた麒麟の全身から光が迸る。
スフィルクスさんが言っていた雷を操る能力はこれか。
雷が止む気配はない。戦闘中でも常時帯電しているのだとしたらかなり厄介だ。
「…触ったらビリビリするのかしら?」
「これでは近づくことが出来ませんぞ…」
肉弾戦主体のリリとは相性最悪だ。パンチを当てても自分にもダメージが入る。
だけどアタッカーのリリが何も出来ないのでは勝ち目がない。対策を立てなければ。
「接近戦は厳しそうだね」
「ならばこれなら!」
トトちゃんがクナイを無数に投げる。
しかしその全てが雷に撃ち落とされる。
「なな!」
「接近戦も飛び道具もダメか…」
厄介な相手だ。
雷には何が有効なんだろう?日本にいた時の記憶を思い出せ。
確か絶縁体は電気を通さないんだっけ…?でも肝心の絶縁体が何か思い出せない!!もっと真剣に勉強しておけばよかった…
えーと他には…
電気タイプの攻撃は地面タイプに効果がなかったはず(ゲーム知識)。つまり、土魔法が有効かも…?
「土魔法は効果抜群かも」
「そうなの?」
「多分…きっと?」
「ハッキリしないわね!とりあえず試せばいいじゃない。…そうだ!私の手を土で覆ってよ!ビリビリしなくなるかもしれないわ!」
リリが両手を差し出してくる。素手よりは遥かにマシだろう。土のグローブ風にすればいいのかな?
リリの手を握り土魔法を発動する。雷が手に届かないように密度を高めるイメージで。
魔力を流し込み、想像通りのボクシングで使われているような形の土グローブが完成した。リリもシャドーボクシングをしながらご満悦だ。
「へぇ…結構いい感じじゃない!試してくるわ!」
「あ!通用するかはわからないから!」
リリが麒麟めがけて突進していく。
麒麟がそれに反応し周囲に雷を落とす。かなりの広範囲攻撃で近づくことができない。
近づこうとしたリリの目の前に雷が落ち、出鼻を挫かれてしまった。
「くっそー。攻めづらいわね!」
「皆さん苦戦してますねぇ」
『雷撃は見てから回避できるような甘い攻撃ではない。それに一撃でも貰えば動きが止まり追撃が来るであろう。だから玉砕覚悟も難しい。容易には突破できんな』
「さすがはAランククラスの魔物ですね!何かいい方法はないのでしょうか?」
『なぜわからないのか疑問なのだが…お前たちはこの島に来るときにどうやってきた?それさえ思い出せば答えは出るだろう』
「この島にですか?えーと。嵐が凄かったのでクロさんに結界魔法で船を守ってもらって…そっか!クロさんの結界魔法は雷も防いでいました!クロさーーん!結界魔法を使ってくださいーーー!」
ルル様に言われてハッとする。どうして思いつかなかった私?この島に来る前に雷を防げたじゃないか! 絶縁体とか難しいことを考える必要はなかったのか。
「リリ!トトちゃん!結界魔法を張るから雷は気にしないで攻めて!」
「なるほどね!」
「わかりましたぞ!」
リリとトトちゃんの周囲に結界魔法を展開する。動きをなるべく阻害しないように身体の表面上を覆うバリアのようなイメージで結界を作る。また、船と同じように二重結界にすることで強度も増した。これでどうだ…?
リリとトトちゃんが自身に結界が展開されたことを確認して前に出る。今回も麒麟はそれを確認してから広範囲に雷撃を落とすが…2人の頭上に落ちた雷は結界に触れて霧散する。よし!自然の雷より威力が低いのかヒビも入ってない!これならいける!
「怖かったですが大丈夫そうですな!」
「反撃開始よ!トト!」
「承知!」
トトちゃんが忍者刀を、リリが土のグローブを携えながら走る。麒麟は雷攻撃が効かないとみて一度退くようだ。
かなり素早い動きで後ろへと下がるが2人のほうが速く、至近距離まで近づくことに成功する。
「…グルル」
「やっとあたしのターンね!く・ら・えええええ!!」
「っ!?」
予想以上の衝撃だったのだろう。リリに殴りつけられた麒麟は大きく目を見開いている。
素手でさえリリの破壊力は莫大なのだ。それに加えて今回は土のグローブを装備している為、更に攻撃力が上がっている。
しかしそのリリのパンチをもろに受けても倒れる気配がない。
だけど麒麟はリリが自分の脅威になると認識したようだ。今までの飄々とした態度とは打って変わり、リリのことを凝視している。
その一瞬の意識の切り替えを狙う影が。
「…!!」
「拙のことも忘れてもらっては困りますぞ」
トトちゃんが隙を突いて麒麟の首元に容赦ない一撃を入れるが…咄嗟に麒麟が首を引き一筋の線が入るだけになってしまった。だが、プシッと血が出ている。
2人の攻撃は確実にダメージを与えている。それに麒麟の体を纏っている雷も私の結界がうまく機能しているのかあまり効果を発揮していない様子。
「………」
麒麟が仕切り直しとばかりに大きく後退したので私たちも集まる。
「いけるわよ!負ける気がしないわ!」
「拙も同じ気持ちですぞ」
「私たちでもAランクの魔物に対抗できるんだ。このまま押し切ろう」
「ええ!」
「はいですぞ」
初めてAランクの魔物に勝てるかもしれない。2人が頷いてくれる。
気分が上がるが慢心せずに2人の結界を更に強め、念のため自分自身にも結界を張ってから麒麟を見ると…奴はすでに攻撃態勢に入っていた。
額にある角からバチバチと雷が爆ぜている。よく見ると体を纏っていた雷が消えてる…角に雷を集中させてる!?
「2人とも気を付けて。何かしてくるみたい」
「…!来たわ!避けなさい!」
「おわああああ!?」
全速力で私たちに向かってくる麒麟。
慌てて避けようとする。が、それよりも早く麒麟の角から巨大な雷が放たれそのまま私たちに向かってくる。速すぎて避けられない!
「う…あっ…!」
「くぅう………!」
「あばばば………」
「みんな!!」
「「「「「姉ちゃんたち!!大丈夫!!?」」」」」
しゅううううと地面が焼け焦げ煙が立つ。
私たちは…何とか生きているけど、3人とも身体が痺れて動かない。というか全身が痛い…もし自分にバリアを張ってなかったら…黒焦げになっていただろう。想像するだけでゾッとする。
そんな倒れてしまった私たち3人にゆっくりと近づいてくる麒麟。
このままじゃ…まずい…けど身体が…
その時、私たちと麒麟の間に割って入る女の子がいた。ルル様だ。
大きく手を広げ、私たちを守るように麒麟に声を張りあげるルル様。
「もう私たちの負けです!お願いします。見逃してください!」
「………」
「どうしても納得いかないのでしたら私をすきにしていいです!だから3人は助けてあげてください!」
「………」
「うう…どうすればいいのでしょう!?」
「ルル様…下がってください」
「クロさん…」
ルル様の後ろ姿を見て…動かなかった体が動いた。ルル様を強引に後ろへと引っ張り、代わりに私が前に出る。
私の魔力はまだまだたくさんある。すべてを使い切るような特大の土魔法をぶつければ…
そう考え魔力を練っていると、なんと麒麟が話しかけてきた。
「…もうよい。君たちは合格だ」
「…へ?」
この魔物喋れたんだ…
女性の凛々しい声で話しかけてきた麒麟はそう言うと光に包まれ、人間の姿になった。
白で統一された礼装に身を包んだ高身長のモデルのような体系で、額に特徴的な角が生えている。
「合格とは…?」
「宝箱を開ける資格があると言うことだよ。最後の私の攻撃を受けきるとは中々やる」
「はぁ…」
もう麒麟は戦闘を続ける気がないらしい。むしろ笑顔だ。
そんな急な展開をいち早く理解したのか、ルル様が笑顔で私たちに抱き着いてくる。
「やりましたね!お宝ゲットですよ!」
「痛い!お姉ちゃん痛いから!」
「今触られると体が…!」
「あ、ごめんなさい!」
「ともかく、お宝を開けてみましょうか」
「楽しみです!」
全員で黄金の宝箱の前まで移動する。麒麟もついてきて笑っている。
「それじゃあ開けるわよ」
「うん」
リリが宝箱の蓋を開ける。その中には…!?




