台風を見るとやたらテンションが上がる子どもいるよね
船を止めて前方の大嵐を確認しているとリトルリバーズが後方からやってくる。
「あんたたち止まりなさーい!」
「悪いことは言わないから!」
「その先は危ないの~」
「分かってるわよそんなことくらい」
リトルリバーズがボートを私たちの後ろにつけ、一生懸命説得してくる。根はいい子たちなんだよね。
「リトルリバーズのみんなはこの大嵐を知っているの?」
「「「「「知ってるよ」」」」」
「でも波が激しくて近づけもしないよ」
「私たちのボートなんてすぐに壊れちゃうよな」
「姉ちゃんたちのボートだっておんなじだよ」
「でもですね…この中にお宝が眠っているかもしれないんです!」
「「「「「ほんと!?」」」」」
ルル様のお宝発言を聞いて目の色を変えたリトルリバーズが後ろでこそこそと作戦会議を開いている。
私たちも嵐を抜ける方法を考えないと。
「結果魔法でボート全体を囲みながら進むのはどうでしょう?」
「そうですねぇ。私も嵐までは何とか出来ませんしぃ」
「スフィルクスさんを呼びますか?」
「そうですね…私の結界が万が一破られるといけないので…お願いします」
「わかりました!スフィルクスさん!どうか来てください!」
ルル様が手をかざすと掌に幾何学の紋様が現れる。すると空中にスフィルクスさんが出現した。美人の顔に獅子の体。鷲の翼と相変わらずのビジュアルだ。
そんな突然現れたインパクト抜群の魔物を見てリトルリバーズが恐慌状態になる。
「うわああああ!なんかすごいの来たーー!?!?」
「怪物だ!」
「やだーーー!死にたくないーー!」
「だからここに近づきたくなかったんだよーー!」
『む。失礼な小娘たちだな。喰ってやろうか?ん?』
「「「「「「ごめんなさいいいい!なんでもしますからーーー!」」」」」
泣いてスフィルクスさんたちに謝るリトルリバーズ。まぁあんな強面に脅されたらおもらしもしてしまうだろう。
『ふむ。まあよい。それでルルよ。我を呼び出したのはなぜかな?」
「あの嵐を越えたくてですね。スフィルクスさんの結界魔法で何とかならないかなーと思いまして!」
『あれか』
「スフィルクスさんでも無理ですか?」
『我を誰だと思っている。嵐を越えるなど造作もないことだ』
自信満々にスフィルクスさんが答える。このままスフィルクスさんに任せておけば何も問題はないのだろう。
だけど…すべてをスフィルクスさんに任せるのは…嫌だ。私だって力になりたい。
「スフィルクスさん」
『なんだ』
「私も結界魔法を使えるよう訓練してきました。私にも手伝わせてください」
「ふむ…」
スフィルクスさんが私をじっと見つめる。ただ見られているだけなのに緊張して息が止まる。
『…いいだろう。ではこのボートはお主に任せる。我は残りの5艇のおもりをすることにしよう』
「え?リトルリバーズも行くの?」
『む…?この者たちは仲間ではないのか?』
「ちがいま…」
「「「「「仲間です!」」」」」」
否定しようとするとリトルリバーズの全員が即座に肯定してきた。どうやら会話の流れでスフィルクスさんが私たちの味方であること。嵐を越えることができることを察したようだ。小癪にも仲がいいアピールを一生懸命している。
「最近は毎日一緒にいるの!」
「楽しく波乗りで遊んだりしてるんだ!」
「仲良くさせてもらってるの!」
『ふむ…こう言ってはいるがいいのか?連れて行っても』
うーん…連れていくメリットは皆無なんだけどなー。
「私たち友達!」
「違うけど」
『違うと言っているが』
「お願いします!お宝を一目見たいだけなの!」
「「「「「お願いします」」」」」
5人が頭を下げてくる。ルル様もなぜか頭を下げている。
「わかった。いいよ」
「ほんと⁉️」
「いいのぉ?クロネさん」
「はい。その代わり条件があるけどいい?」
全員コクコクコクと頷く。
「お宝を探すのに協力すること」
「お安い御用だよ!」
「そして、お宝は私たちに譲る事」
「「「「「ええええええ!!!」」」」」
全員ブーブー文句を言ってきてうるさい。
「わかったわかった。財宝とかなら少し分け前をあげる。でも、一つしかないアイテムとかの場合は私たちがもらう。これでいい?」
「うーん…しょうがないなぁ」
「連れてかないよ?」
「「「「「それで大丈夫です!」」」」」
「ん。それじゃ行こうか」
『話は纏まったようだな。では我は結界を展開する。汝も展開せよ」
「わかりました」
スフィルクスさんがリトルリバーズのボート5艇に結界魔法をかける。私もスフィルクスさんの結界を参考にしつつボートに結界を張る。
ボートを包み込むような丸い透明な結界。風も、雨も、雷さえも。決して通してはならない。
私の想像しうる最高強度の結界を作る。
魔力を使いすぎて少しふらついてしまう。
「クロさん!大丈夫ですか!?」
「ええ。問題ないです」
「なかなかの結界ですぅ。この結界なら何とかなるでしょう」
『ほう…』
ミツキさんが結界に触り太鼓判を押してくれる。スフィルクスさんも何も言ってこないのでたぶん大丈夫なのだろう。
「それでは進みます。みんな覚悟はいい?」
「はい!」
「早くいきましょ」
「この嵐の中お宝を探すのは大変そうですぞ」
みんな暢気だなぁ。私の結界が不安じゃないのだろうか?…期待に応えないとな。
レバーを前に倒し波が荒れ、ゴロゴロと雷が鳴る危険海域を進んでいく。後ろからリトルリバーズもついてくる。結界はうまく機能してくれている。
「おお!波はありますが、風や雨はしっかり結界が守ってくれていますぞ」
「さすがはクロさんです!」
「でも視界が悪いわね」
「コンパスも機能しないから慎重に進もう」
この嵐のせいだろうか。コンパスを確認すると針がぐるぐると回っていて方角が全く分からない。
それに嵐の中は暗い。雷の光だけが煌き、轟轟と風の音が周囲を覆い不安を掻き立ててくる。しかし、この悪天候の中でもリトルリバーズは楽しそうにボートで遊んでいる。子どもって台風とか見るとなぜかテンション高いよね。
「すげー!この結界すげー!」
「全然風も感じなーい!たのしー!」
「波たかーい!」
「あんなに離れても大丈夫なのですか?」
『視界内にいれば問題なかろう』
リトルリバーズはスフィルクスさんに任せておいて大丈夫そうだ。私は自分のことに集中しよう。問題は雷が直撃した時に結界が壊れないかどうか…
光った直後に音が鳴り響き周囲に水しぶきが上がる。雷の距離が近い証拠だ。また、そこかしこで水と風が合わさった小さな竜巻が直進の邪魔をしているので迂回しながら進む。結界を維持しつつ繊細な動きを要求される運転は疲れるが、察してくれたトトちゃんが運転を申し出てくれる。
私はそれを笑顔で拒否する。
「せめて運転だけでも代わりますぞ」
「トトちゃんは方向音痴だからダメ」
「!?」
「ミツキさーん!代わってくださーい!」
「はいはーい」
これまでの航海でトトちゃんはかなりの方向音痴だと発覚したのだ。夜の運転を代わってもらった時に逆方向…つまり街に戻っていた時もある。何度もコンパスを確認してねと念を押したにも関わらずだ。
思えば初めて私たちと出会った時も南に向かっていましたぞ!と自信満々に言っていた(私たちは北にいた)。
普段あまりポンコツっぷりを発揮しないトトちゃん唯一のポンコツポイントかもしれない。
だから私やミツキさんが起きているときは運転を代わってもらっているけど、夜や緊急事態の時にはトトちゃんに運転を任せてはいけない。
そんな方向音痴である自覚症状がないトトちゃんは運転の申し出を断られて大層驚いているがしょうがないことなのだ。
固まっているトトちゃんを押しのけて来てくれたミツキさんに運転席を譲り、私は結界の維持に集中する。
その私の横にルル様とリリが近づいてくる。
「すごい天候ですね。でもクロさんの魔法を信じてるので怖くありません!」
「段々雷が近づいてきているわよクロネ。そろそろ直撃してもおかしくないわ」
「わかった。集中する」
リリの話を聞いて念のため結界の内側にもう一つ結界を張ることにした。倍の魔力を消費することになるけど、結界を破られて船が壊れることだけは阻止しなければいけない。いくら泳げるといっても限度があるのだ。この視界不良で大荒れの海で無事でいられる保証なんかない。
そう思い結界を二重にした直後に雷が落ちてきた。
「きゃっ!」
「く…あっぶな」
「よくやったわクロネ!船は無事よ!」
船の真上を直撃した雷は外側の結界にひびを入れて霧散した。すぐに結界を修復する。
「今の雷を防げるなら怖いものはないわね!」
「そうですねぇ。竜巻にぶつからない限りは大丈夫でしょう」
「ミツキさんフラグを立てないでください!」
「全速前進よーそろぉー!」
ミツキさんが竜巻に突っ込まないか戦々恐々としていたけど…その後も何とか無事に進むことができた。そしてついに前方に何かが見える。
「何かありますねぇ」
「それよりもやけに明るいわね」
「まだ嵐を突破するには早すぎる気もしますが…」
「あれって島ですよ皆さん!島が見えます!」
ルル様が興奮気味に前を指さす。
徐々に視界が晴れ、島が見えてきた。
周囲は未だ嵐吹き荒れる中、その島の周りだけはまるで何事もないかのように穏やかな気候になっている。
「これは…台風の目というやつですかね」
「台風の目ですか?」
「はい。台風の中心地だけは風もなく穏やかな天気らしいです」
「へえ。つまりここは嵐の中心地かもしれないってことね!」
「その中心地に島があるとは…何とも不思議ですぞ」
「お宝のにおいがプンプンしますね!」
「上陸しますかぁ?」
「お願いします」
嵐の中心地に佇む島。外観は山のようだ。中心に向かうにつれ高度が上がっている。私がお宝を隠すならあの山の頂上だな。そう考えながら私たちは謎の島に上陸した。




