登場!リトルリバーズ!
「あ、今日もあの子たち来た」
「懲りないですなぁ」
「宝の地図をおとなしく渡しなさーい!」
「「「「わたせーー!」」」」
航海は順調に進んでいた。
だけど一つ問題がある。現在私たちのボートの周りを囲んでいるロリっ子たちだ。
彼女たちは自称海の警護団で、リトルリバーズと名乗っている5人組の女の子集団。
1人用のボートに乗り、5艇ともスプレーでもかけたのか色が違う。日曜朝にやっていた戦隊ものよろしく赤・青・黄・青・ピンクとバリエーション豊かだ。
彼女たちには運悪く初日から遭遇してしまい…「見ない顔だ!」「何が目的だ!」「海の平和は私たちが守るの!」「争いごとはやめましょう!」等々矢継ぎ早に言われ、正直者のルル様が「宝の地図の場所に向かっています!」と答えた途端5人の目の色が変わり、以来しつこく毎日絡まれている。
「渡さないとどうなるかわかってるんだろうなー!」
「どうなるの?」
「え?えーと…酷いことになるんだぞ!」
「酷いことって?」
「え?………」
「………」
「………」
よわっ!言いあい弱いよリトルリバーズ!でも見た目も全員幼いし、年相応の語彙力なのか。
「ミツキさん。やっちゃってください」
「もういいのですかぁ?」
「はい」
ミツキさんがいつものようにボートの後ろに立つ。それを見てどよめくリトルリバーズ。
「な!またお前か!」
「やめて!あれは本当に危ないから!」
「溺れちゃうの!」
「…ちょっと楽しいけど」
「余計なこと言わないのフット!」
「ごめんなさいねぇ。これに懲りたら私たちにもう関わらないでねぇ。【大水波】」
「「「「「ぎゃあああああああ!!!!」」」」」
私たちが乗っているボートを中心に大波が5人を襲い、船を囲んでいたこともあって別々の方向に流されていき…姿が見えなくなる。
「今日は5人とも転覆しなかったですな」
「あの子たちも波に乗るのが上手くなってきたわね!」
「彼女たちのようにわかりやすければ対処もしやすいのですけどねぇ」
「そうですね」
ミツキさんの言うようにもう一つ問題があるのだった。
私たちが出航してからずっと後方から追いかけてくる船がいる。
私は気付かなかったのだが(というか今も全く見えないけど)、ミツキさんとトトちゃんは最初から気づいていたようだ。ミツキさんはともかくトトちゃんも犬の獣人だけあって動体視力が非常に高い。
ただ、この追いかけてくる船は私たちにちょっかいを掛けてくるでもなく、ずっと一定の距離を保って追いかけてきているので何が目的なのかわからない。私たちの仮定では、優勝賞品が宝の地図だと知っていた誰かが追いかけてきていて、最終的に横取りしに来るのではないかという結論になった。
だから裏を返せば私たちがお宝を見つけるまでは何もしてこない可能性が高い。よって目先の脅威はリトルリバーズだけだ。
とは言っても彼女たちは別に強いわけでもなく鬱陶しいだけだけど。1人用ボートに乗っているため機動力は高いけど戦闘能力は高くなさそうだ。毎回ミツキさんに為す術もなく撃退されているし。ちなみに彼女たちが近づくと魚が逃げてしまうので釣りを楽しみにしている面々からは不評だ。
そんなこんなで邪魔は多少されるけど比較的順調に海の旅を満喫し、着実にお宝に近づくことが出来ていた。そろそろ地図の距離的に辿り着いてもいいくらいには進んでいる。
「地図上ではもう少し先ですか?」
「そうですね…もうそろそろだと思います」
コンパスを見て方角を確認しつつルル様に応える。
目的地は港から見てまっすぐ北東に向かうと着くようだけど、波は南西に向かって流れている。つまりただ流されるだけでは決してたどり着けない場所にあるのだ。そのためこまめに方角を確認しながら航海をする必要があった。
また波に逆らって移動するため速度がどうしても落ちてしまう。泳いでいくよりは断然速いが。
「何か影が見えますぞ!」
「だんだん大きくなってますね」
「おわ!何よあれ!」
地図と睨めっこしているとトトちゃんが水面から何かが出てくるのを発見した。
全員で確認すると牛のような魔物だった。海なのに牛が?その魔物を見てミツキさんが教えてくれる。
「あれはシーバッファローですねぇ」
「海の牛ですか」
「はい。個体ではDランク程の強さですぅ」
「個体では?」
「この子は団体で行動することが多いので出てきたのは偵察の1頭だと思いますぅ」
「つまり?」
「私たちの戦力を確認に来たのではないかとぉ」
「あ。また潜りました」
シーバッファローが海の中に消えていく。
「ちなみに団体だとBランク相当まで強さが跳ね上がりますぅ」
「あの~。たくさん黒い影が見えるんですけど…」
「どうやら私たちのことを弱いと判断したようですねぇ」
「クロネ殿!逃げましょう!」
「わかってる!」
周囲にどんどん影が増えていき、水色だった海の色が黒に染まっていく。
全速力で移動し、追ってくる黒い影を確認する。どうやら簡単には逃がしてくれないようだ。
「トトちゃん。運転代わってもらってもいい?」
「いいですぞ」
トトちゃんに運転してもらい、私はボートの後ろに移動する。
今回の旅では魔物が出た時、積極的に私が戦闘に参加するようにしている。
私はまだまだ弱い。Aランクの魔物には太刀打ちが出来ないことが証明されたので、少しでも強くなりたかった。ルル様を守るためにも。
最近は水魔法のエキスパートであるミツキさんがいるので水魔法中心で戦っている。
海に出現する魔物は水魔法に耐性があるようで打たれ強いが好都合だ。何度も魔法の練習ができるから。それにミツキさんとルル様が契約しているおかげで水魔法の威力にパーティ効果で補正が掛かっていて、明らかに威力が上がっていることが実感できている。
「【ウォーターボール】!」
「当たりましたよクロさん!」
「どんどんぶつけなさいクロネ!」
「言われなくても」
顔を出してくるシーバッファローから順番に、もぐらたたきの要領で魔法を当てていく。
「こんな魔法を在りますよぉ。【ウォーターランス】」
「ブモおオオおお!」
ミツキさんが水の槍を撃ち出し、一体を倒す。
「この魔法のほうが威力は高いです。相手の数が多いので一撃一殺で頑張りましょう」
「わかりました。【ウォーターランス】!」
ミツキさんが出した水の槍を頭の中でイメージし、威力に見合う魔力を流し込み具現化する。
発動した魔法は魔物に当たりはしたが倒すことはできなかった。もっと魔力を練るべきだったか。
「魔力の消費が多いですね」
「…いきなり出来るとは思っていませんでしたぁ。クロネさんは才能がありますよぉ」
「ありがとうございます」
才能があっても必要な場面で使いこなせないと意味がない。
これからも魔法を真剣に学ばなければ。
「ふぅ。なんとか引いてくれたようですねぇ」
「大群になるとBランクまで跳ね上がる理由がわかりました…」
シーバッファローの群れとはかれこれ数時間戦い続けることになった。なんせ数が多く、倒しても倒しても湧き出てくるので精神面での戦いでもあった。
しかし長時間戦い続けたおかげで魔法の精度を上げることが出来た。
一体倒せるギリギリの魔力量を見極めて必要以上に魔力を使わないようにするいい練習に。
「倒したシーバッファローはどうしましょう?」
「食べられるの?」
「美味しいですよぉ。竜宮城でも何度か皆さんにお出ししていましたよ」
「そうだったのね!ならみんなで手分けして集めましょ!」
「さんせーい!」
一旦船を止め、そこら中にぷかぷか浮いている魔物を集めることに。私はかなり消耗していたので船に残り、集めてもらったシーバッファローをマジックバッグに詰めていく役を任された。
皆が裸になり次々と海に飛び出していく。北の街に来た当初は私以外誰も泳いだことが無かったのに今ではスイスイ泳げるようになっている。その中でも一番速く、力持ちのリリがテキパキと私のもとに次々と運んでくる。
「はいクロネ」
「ん」
「リリちゃーん!手伝ってくださーい!重くて運べませーん!」
「全くしょうがないお姉ちゃんね!ちょっと待ってなさい!」
一人使えない子がいたけどかなりの量の食糧を手に入れることが出来た。しばらくは牛ステーキが楽しめそう。
早速その日の夕食に火魔法で焼いて出してみた。
「肉汁がたっぷりですね!」
「霜降り牛…みたいですね」
「高級感が漂っていますぞ」
「もう食べていいの!?」
「いいよ」
「「「「「いただきまーす」」」」」
切り分けて口に運ぶ。歯で噛むとほどけるように肉が噛み切れる。そのままあっという間になくなってしまった。
「…おいしい」
「やわらかいですね」
「いくらでも食べられそうね…もぐもぐ…おかわり!」
「私も!」
「ルル様とリリは大食い大会以来よく食べますね」
「なんででしょう?」
「胃の許容量が増えたのかもしれませんね」
大食いタレントは日々食事の量を増やして胃を拡大しているらしい。
ルル様とリリが何度もお代わりをしてくれたので一頭丸々使い切ることが出来た。
それからお腹も膨れたので寝ることに。寝室のような立派な設備はこのボートにはないので床全域に布団を敷いてみんなで雑魚寝だ。ただ全員寝てしまうとボートがあらぬ方向に流されてしまうので、私とトトちゃんとミツキさんで交代しながら運転をする(ルル様とリリは…信用ならないのでやんわり断った)。
「それではお休みなさい」
「クロさん。運転お疲れ様です~」
「はい。ゆっくり寝てください」
「疲れたら起こしてくださいですぞ!クロネ殿」
「うん」
しばらくするとすやすやと眠りにつく声が後ろから聞こえてくる。
急に静かになったボートを一人運転する。こういうのも悪くない。私を信頼しきってぐっすり寝てくれるこのちょっと嬉しい気持ち。長距離移動で夜中に運転する世のお父さんはこんな気分なのだろうか。
辺りは意外に暗くない。月の輝きが水面に反射しているからだろうか。建物や木など明かりを遮るものがないからだろうか。周囲一帯に光り輝く水面が幻想的だ。
また動物や人が周囲にいないので、みんなの寝息とボートの稼働音以外の音がないことも心穏やかになる一つの要因かもしれない。
そんな素敵な夜をここ最近過ごしているせいか、心が澄んでいくのが自分でもわかる。今ならリリが無駄に偉そうにしていても、ルル様が食事中に私のほうを向いて話すせいで口の中の食べ物が飛んできても笑って許せる気がする。
そんな境地に至りながら夜が過ぎ…翌朝。
「ふわぁ…おはようございます…」
「おはようですぞぉ」
「みんなおはよう」
「クロネさん寝てないのですかぁ?今から寝てもいいですよぉ」
「そうですか?ありがとうございます」
ルル様のポンコツ妄想をしているとつい朝を迎えてしまった。
お言葉に甘えて少し仮眠を取ることにする。
「……クロさん!起きてください!」
「…ルル様。おはようございます」
「おはようございます。あの!見てください!」
「なんですか?」
ルル様に肩を揺すられて起きる。なんて幸せな起き方だろうか。
立ち上がり背伸びをしているとしきりに前を見るように言われたので確認する。前方には暗い雲が立ち込め、雨や雷まで鳴っている。周囲の波も高い。
「これは…嵐…ですか?」
「そうですねぇ。でもただの嵐ではないようなんですぅ」
「というと?」
「この嵐は動かない嵐なのよ!」
「動かない嵐?」
詳しく話を聞いてみる。
どうやら私が寝ている間に前方で嵐が見えたので急いで方向転換をした。しかし嵐は近づきも離れもしないので、これは変だということで調べたところ、目算で半径50キロくらいの大型嵐が常に同じ場所に滞在していることが分かったようだ。
それでここからが本題だが、もしかするとこの嵐の中にお宝があるのではないか?というのがミツキさんの意見らしい。
「この嵐は明らかに不自然ですぅ。それに地図の距離的に目的地へはとっくにたどり着いていてもおかしくありません。ここまででそれらしい場所が無かったことからも、可能性は高いと思いますぅ」
「あたしの直感も囁いているわ!お宝はこの嵐を越えた先にあるってね!」
「…ありえますね」
私もミツキさんの意見に賛成だ。大海賊のお宝なんだからこれくらいの試練はあってもいいような気がする。
「それじゃあ行きますか」
「嵐越えですね!」
「まてまてーー!」
「その先は危ないですよー!」
「悪いことは言わないから引き返すのーー!」
後ろからやかましい5人組の声が聞こえてくるが、私たちは嵐を突き進むことにした。




