ポンコツ姉妹の大食い対決!
大食い大会がもうすぐスタートする。参加者10人が横一列に設けられている椅子に座り、開始を今か今かと待っている状態だ。
ルル様は一番右端の席になったので、私はその横で控えている。一応私はルル様の護衛だからね。忘れがちだけど。
そんな参加者でもないのに会場の脇で佇んでいる私に司会の魚人が問いかけてくる。魚人のアイドルというだけあって可愛い。見た目はほとんど人間で、違いは尾ひれがちょこんとついていることと肌の色が緑色であることくらいか。
「あの~?あなたはどうしてそこにいるんですか?」
「お気になさらないでください」
「ええ~…まぁ参加者の邪魔をしないのならばいいのですけれども~。こほん。では改めましてルールを説明します!!ルールはいたってシンプル!制限時間以内に一番多く食べていた参加者が優勝だーー!!」
「「「「「わあああああああああああ!!!!」」」」」
「制限時間20分!気になる料理は~!?じゃじゃん!キングオクトパスを使った〈たこ焼き〉だーーー!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「たこ焼きですか。ルル様。リリ。熱いものは平気ですか?」
「へっちゃらです!得意種目です!」
「あたしも熱いのは平気ね!」
おバカだから熱さとか感じないのだろう。たぶん。
しかしたこ焼きか。普通なら熱くて食べるのに時間がどうしてもかかってしまう食べ物だけど、このフードファイターたちはどれくらいのペースで食べるのだろうか?ちょっと予想がつかない。
私なら10個食べられればいいほうだな…と考えているとリリの横にいる参加者が馬鹿にするような目で私たちを見ていることに気づく。白身の魚人だ。
「なんですか?」
「ここはお前たちみたいな女子供が来ていい場所じゃねえ!そもそも、魚人と人間じゃ勝負になんねえんだよ!!」
「なんですって!?」
「その証拠を見せてやる!おい!誰かたこ焼き持ってきてくれ!」
「おっとぉ!?何やら参加者同士で揉めているようです!まだ私の説明の途中だったのですが!面白そうなのでやらせときましょう!誰かあの参加者にたこ焼き持ってきてあげて~」
私たちにいちゃもんを付けてきた魚人の前に8個入りのたこ焼きが置かれる。
「そのたこ焼きは食べた数にカウントしませんがいいうお?」
「構わねえよ。見てろ小娘ども。魚人はこんなこともできるんだぜ!」
「おおっと!なんとジャイアント白身魚選手!8個イッキぐいだぁ!」
「口が人間よりも大きいからあんなことも出来るうおね」
「「「おおお」」」
「はふはふ…ほうふぁ…!…………ぐわぁ…!」
「おっとお!?ジャイアント白身魚選手の顔がみるみる赤くなり倒れてしまったぞお!解説の魚ちゃん!これはどういうことなのでしょうか!?」
「1個食べただけでもたこ焼きは熱い食べ物。それを8個同時に食べるということは口の中の熱量も8倍ということうお!魚人はただでさえ熱に弱い種族うお。おそらく熱さに耐え切れなくてぶっ倒れてしまったうお」
「なるほど!つまりこの大会。ただたくさん食べられるだけではだめだということですね!誰か担架持ってきてくださーい!」
「いきなり参加者が一人減ったのですぞ」
「チャンスだねぇ。頑張れー!ルルさーん!リリちゃーん!」
もしかして魚人っておバカなのだろうか?たこ焼きイッキ食いとか凄いことをしようとしたものだ。
担架に運ばれていくジャイアント白身魚を冷めた目で見ていると次はその隣にいた女性の魚人が話しかけてきた。化粧が濃い。
「ふん。あんな小物を倒したくらいでいい気になるんじゃあないよ!優勝はこの私に決まっているのだからね!ふぁっふぁっふぁ!」
「誰ぇ!?」
「おっとお!?あれは数多くの大食い大会に参加し優勝しているギャルソイだあああ!」
「ギャルソイ!今回は負けねえぜ!そんな小娘どもに構ってないで俺を見ろ!」
「誰だよ!」
「今度はマックススズキがギャルソイに宣戦布告だぁ!会場も盛り上がってまいりました!」
「ギャルソイとマックススズキは数多くの大会で競い合っているライバルうお!」
「私も忘れてもらっちゃ困るわよ!」
「まだいんのかい!」
「あれは~!?最近頭角を現してきたアンジェラサトウだぁ!去年の大食い王決定戦 爆食メス魚最強決定戦で優勝した猛者だぁ!」
「去年もやってんのかい!」
有名な大食い選手多いな!ルル様とリリは果たしてこの強者たちに勝つことが出来るのだろうか…?ルル様には期待していないけどリリなら勝てるかもと密かに思っていたけど難しくなってきたかもしれない。
どうやら観客もギャルソイ、マックススズキ、アンジェラサトウの誰かが優勝すると思っているようだ。注意すべきはこの3人か。
「そしてたこ焼きを提供してくださるのは北の街の有名店!ワタカ屋さんです!」
「ふわっとした食感でダシの味がしっかりする大人気のお店うお」
「ダシの匂いが最高ですねー!」
司会の横で次々と焼きあがっていくたこ焼き。ダシの匂いが反対側にいる私たちにまで届く。
「いい匂いですね!」
「もうなんでもいいから早く食べたいわ!」
「ルル選手とリリ選手はすでに臨戦態勢のようだ!他の選手も目を光らせています!ではそろそろ始めましょうか!全員の目の前にたこ焼きが置かれたらスタートです。食べ終わったら手を挙げてくださいね。すぐに追加を補充するので」
「水が欲しい時も言って欲しいうお」
お店の従業員の方がたこ焼きを持ってきてくれる。シンプルなたこ焼きだ。おいしそう。
ルル様は姑息にも誰にも気づかれないようにこっそりふーふーしている。
参加者全員の目の前にたこ焼きが置かれ、あとは司会の開始の合図を待つばかりとなる。
司会のうっちーが立ち上がり開始の合図を出す。
「さぁ!それでは始めましょう!キングオクトパスのたこ焼き大食い大会!開始いいい!」
「「「「「うおおおおおお!!!!!」」」」」
参加者がたこ焼きに手を伸ばし始める。しかし全員想像以上の熱さに苦戦しているようだ。ただ一人こっそり冷ましていたルル様を除いて。
「やはりたこ焼きの熱さは大きな障害となっているようだ!…おっとお!?その中でルル選手はパクパクたこ焼きを食べているぞ~!1個、2個…速い速い!早くもおかわりを要求している~!」
「はふはふ。イケます!イケますよ!」
「ルル様。のどに詰まらせないように気を付けてくださいね」
「はひ!」
「さぁ!ルル選手が1歩リードで始まった今大会。このままルル選手が逃げ切るのか?それともほかの選手の追い上げがあるのか!他の選手も徐々に食べるペースが上がってきております!」
「熱さは段々慣れてくるものうお。今回の大会は制限時間が長いので、胃袋の大きさも勝敗を分けるうお」
魚ちゃんの言う通り制限時間が20分となかなか長い。ルル様とリリはここ数日あまり物を食べていないので胃も縮小しているだろう。実は大食いをする前にご飯を食べないことは胃が縮小するので戦いで不利になることが多いらしい。
知ってはいたけどルル様がご飯を我慢している姿が可愛らしくてつい言い出せなかったのだが…
その証拠にルル様はたこ焼き10個目にしてすでに苦しそうな表情を見せている。はぁ…写真に収めたい…魔法で念写とか覚えられないのかな…
「さぁさぁ!ここでマックススズキ選手とリリ選手がついにルル選手を捉えたぁ!ルル選手12個!マックススズキ選手とリリ選手は13個目に入っております!」
「やるじゃねえか小娘ぇ!」
「ふふん!あたしはまだまだ余裕よ」
「俺だってこんなもんじゃねえ!そろそろたこ焼きの熱さにも口が慣れてきたからなぁ!」
「おっとお!マックススズキ選手!なんとここで2個食いだぁ!」
「しかもほとんど噛んでいないのかペースが全く落ちていないうお。単純に速さが2倍うお」
「14!16!おかわりだぁ!一気にマックススズキ選手が他の選手を突き放しにかかるぅ!」
「ルル様!ルル様も2個同時に食べましょう!じゃないと負けちゃいますよ!」
「ええ!?無理ですよ!?私のお口はそんなに大きくないです!それにそんなことをしたら味わって食べることが出来なくなりますよ!」
「何を甘ったれたことを言っているんですかルル様!大食いでは味わって食べようとか美味しくいただこうとかそんなふざけた考えは不要なんです」
「ふざけた考え!?」
「この20分間で勝者と敗者が決まるのです。ルル様は負けたいのですか?」
「それは…この日のために頑張ってきたので負けたくはないですけど…」
「では口を開けてください」
「ほうですか?…むが!ふが!」
「おっとお!?なんとルル選手の傍に控えていた女性がルル選手の口の中に強引にたこ焼きを入れ始めたぞぉ!?ルル選手涙目です!大丈夫なのでしょうか!?」
「あっふあふいれふ!」
「もぐもぐしない!飲み込んでルル様!たこ焼きは飲み物!」
「ちはいまふよ!?」
ルル様リスみたいにほっぺた膨らませて…可愛いなぁ…
リリがこちらを見て引いている気がするけどこれも愛なのだ。ルル様には勝負事で勝ってもらいたいのだ!
「さぁただいまの順位を見てみましょう!マックススズキ選手が30個で大幅リード!その後にリリ選手が25個と猛追。アンジェラサトウ選手とルル選手が20個。ギャルソイ選手は開始から全くペースが変わらず18個となっています!」
「まだまだ制限時間は半分も残っているうお。どの選手も優勝の可能性はあるうお」
もう残り時間半分なのか…見ている側としては気楽だけれど、参加者にとっての体感時間はそれ以上なのだろう。苦しそうにしている者、手が止まってしまっている者、自分のペースを掴めずに目に涙をため込んでいる者 (ルル)など様々だ。
しかしその中でもやはり3人の優勝候補者たちは実力が違うのか…その目は爛々と輝き食べる手は止まらず。まさに歴戦の勇者のそれだ。
そしてその中に割って入る存在もまたいた。
「さぁやはり大食い対決は実力差がどうしてもついてしまう!下馬評通りマックススズキ、ギャルソイ、アンジェラサトウ!勝負はこの3人に絞られる…と会場の誰もが予想していたことでしょう!しかし蓋を開けてみればぁ!?なんと現在トップは無名のリリ選手!この3人を抑えてのトップ!いったい何者なんだぁ!?」
「「「「「うおおおおお!!」」」」」
「誰なんだあの子は!?」
「知らねえな。初めて見た」
「あれだよ。観光しに来たかわいい子の集団がいるって聞いたことあるぞ」
「ああそれだ。隣のルルって子も一緒だな」
「あの小さい身体の中にどうしてあんなにたこ焼きが入るんだ…?」
「これは…新しい時代の幕開けじゃ…」
「「「「「リーリ!リーリ!リーリ!」」」」」
「おっとお!会場からリリコールが入りましたぁ!それを受けてリリ選手のペースが上がるぅ!会場の熱気もうなぎのぼりだ!」
「ふふ~ん。やっぱりあたしはどこにいても目立ってしまうようね!」
「くっ…小娘だと油断していたぜ…本当の敵はこいつだった…」
「おっとぉマックススズキ選手ここでダウーン!記録は50個!」
「リリ選手と競り合って無理をしてしまったうお。マラソンと同じで自分のリズムが大食いでは大事うお」
「これでリリ選手が独走か…!?いいやそうは問屋が卸しません!試合開始から自分のペースを貫き、徐々に速さを上げて虎視眈々と優勝を狙っている者が1人いたぞ!」
「ギャルソイだ!ギャルソイが仕掛けてきたぞ!」
「ギャルソイが両手食いだぁ!速い速い!その目はリリ選手しか見ておりません!どうやら勝負はこの2人の対決になりそうだぁ!」
「残り時間は1分うお。リリ選手60個。ギャルソイ選手56個うお」
まさかリリがここまで大食いだとは。よく食べる子だとは思っていたけどあれが限界ではなかったのか。
ちなみにルル様は22個食べた辺りでピタリと動かなり、一点を見つめ始めたので心配になり肩を揺らしてあげると吐いた。
「まさかあなたがここまでやるとは思わなかったわ。ふぁっふぁっふぁ!」
「ふふん。あたしは勝負事で負けることが大嫌いなの。だから勝つ。どんな勝負でもね!」
「おっとぉ!?リリ選手も両手食いだぁ!あくまでリードさせる気はないということか!追いつき始めたギャルソイ選手と互角の速さになっていくぅ!」
「残り時間はもうほとんどないうお。このままだとリリ選手の勝ちうお!」
「く…まだそんな余力があるなんて!こうなったら…!」
「ギャルソイ選手が最後の賭けに出た!8個全てを口に入れるぅ~~!」
「リリ選手62個、ギャルソイ選手64個。制限時間以内に飲み込めば逆転うお!」
「ぱくぱく。やるじゃない!でも完璧に勝つ!それがあたしよ!おかわり!」
「リリ選手ここでまさかの追加だ!そして1個ずつすごい速さでたこ焼きが消えていく…!これはもはや一度も噛んでいないぞ!あの大きなたこ焼きを一飲みだぁ~!魚人も真っ青の神業~!」
カンカンカーン!
試合終了の音が鳴り響く。
「試合終了~!結果は~!?ギャルソイ選手64個!リリ選手72個で………リリ選手の優勝だああ!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」
「まさかのダークホースリリ選手!中盤から終盤まで圧倒的な強さを見せつけての勝利!解説の魚ちゃんから見てどうでしたでしょうか?」
「新しい時代の幕開けを予感させる素晴らしい大会だったうお」
「ありがとうございます!みなさん!今大会を戦い抜いた選手に拍手をお願いします」
「「「「パチパチパチパチ」」」」
まさかリリが勝ってしまうとは。正直予想してなかった。お腹をさすって満足げにしているリリに話しかける。
「リリってそんなに食べれたんだね。知らなかったよ」
「普段はこんなに食べられないわよ?でもあたし3日ご飯抜いたから。3日分食べられるのは当然でしょ?」
「え?」
「え?」
???どういう理屈?
人間の身体ってそういう仕様じゃないと思うけど…思い込みって恐ろしい…
そんな恐ろしい会話をしていると司会のうっちーが巻物を持ってこちらにやってくる。
「それではこのまま授与式に移ってしまいましょう!優勝者のリリ選手!前に出てきてください!」
「来たわよ!」
「優勝おめでとうございます!一言コメントお願いします!」
「みんなの応援嬉しかったわ!それにたこ焼きも美味しかったし最高の気分よ!」
「はい。素晴らしいコメントと戦いをありがとうございます。今回の優勝賞品はこの巻物です!中身は見てからのお楽しみ!」
「受け取ってあげる!」
「はい。では今大会はこれにて終了としまーす!次回もみんな応援よろしくね!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「司会は魚人アイドルのうっちーと?」
「解説の魚ちゃんでお送りしたうお」
「それではみんな、またねー!」
うっちーと魚ちゃんが会場からいなくなり、集まっていた観客もパラパラといなくなっていく。
その後観客に紛れていたトトちゃんとミツキさんと合流して気になる優勝賞品をみんなで確認する。
「凄かったですなぁ。流石リリ殿ですぞ!」
「ふふん。ありがと」
「ルル様は大丈夫ですか?」
「はい。出すもの出したらスッキリしました!」
「…」
「それで、巻物の中身は何なのでしょうかぁ?」
「開けてみるわね」
「なになに?海賊バーソロミュー・ロジャーズの宝の地図?」
巻物の中には北の街と海の地図が描かれていて、海のある一点にドクロと×印が記されていた。




