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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
ポンコツ姉妹と異世界旅!
22/88

私たちと契約して、一緒に旅に出ようよ!

 空になった御膳を見ながら思う。

 一体この竜宮城に来て何日が経過しただろうか…?

 1週間までは数えていたが、ある日数え忘れてしまってから一切考えなくなってしまった。


 どこかで区切りを付けないと本格的に帰りづらくなってしまう。またミツキさんに反対されるだろうけど、ここは心を鬼にして帰ろう。


 食後の談笑をしている4人のところに行き、帰る旨を伝える。


「ミツキさん。私たちはもう帰ります!このままだと本格的に居候になってしまいます」

「…もう少しだけ。もう少しだけいてください」

「ミツキさん…」


 やっぱりミツキさんは帰ってほしく無いようだ。

 ここ数日で分かったことだがミツキさんは身内以外の知り合いがいないらしく、友達と呼べるような人は私たち以外にはいないとのことだった。


 何かいい解決策はないのだろうか?

 そういえば…スフィルクスさんがルル様と契約したことで、呼びかければいつでも助太刀に来てくれると言っていた。


 つまり、ルル様とミツキさんが契約すれば、竜宮城を離れてもいつでも会えるのではないだろうか。そのことを全員に伝える。


「私がルルさんと契約するのですかぁ?」

「いい考えだと思いますぞ」

「そうね。あたしも国に戻って女王にならないといけないからずっとここにはいられないし、いいんじゃない?」

「ミツキさん!お願いします!私と契約してください!」


 4人で詰め寄ると困った顔をしておろおろしだすミツキさん。

 そりゃ突然私たちと契約してよ!とか言われても困惑するのは当たり前だ。

 

 そう客観的に自分たちの発言を顧みて引いていると突然部屋中に聞いたことのない声が聞こえてきた。


『私からもお願いしよう。ミツキと契約してやってくれ』

「お父様!?」

「ミツキさんのお父さんですか?」


 男性の声だ。ミツキさんの反応から察するにこの声の主が水龍神?


『ここ数日様子を見させてもらったが、君たちにならミツキを任せられると判断した。ミツキよ。この者たちと地上の世界を直接見てみなさい。陸地ではどのような種族が暮らし、どのような文化があるのか…自分で見て、調べてみることも修行の1つなのだから』

「お父様」


 どうやら水龍神はルル様とミツキさんが契約することに賛成のようだ。

 ミツキさんは外の世界に興味があるようで顔を上気させている。


「私、陸地を見てみたいです!そしてみんなともっと遊びたい!」

「わかりました!こちらこそよろしくお願いします!ミツキさん。手を出してください」

「こうですか?」


 ルル様とミツキさんの手が重なり合う。すると手が光りだし、スフィルクスさんの時とはまた違った模様がルル様の手の甲に浮き出る。青い龍の模様だ。


「契約は出来たようですね」

「はい!ミツキさんと繋がっている感覚があります!」

『ミツキと契約したことで、君たちには水龍神の加護が付いたことだろう。今後は水中でも地上と同等に活動できるし、水魔法にも補正が掛かるようになる』


 おお。思わぬ副産物が。水中でも自由に動けるようになるのは嬉しい能力だ。でもそれはルル様だけなのかな?そう考えていると水龍神が情報を付け足してくれる。


『この加護はテイマーの仲間にも適用される』

「「「おお」」」


 私の水魔法にも補正が掛かるのか。ありがたい。


『そしてこれは土産だ。好きなものを持っていくがいい』


 そう水龍神が言うと、床に大中小の箱が突然出現した。

 それを見てミツキさんが補足説明をしてくれる。


「これは竜宮城を訪れた人に渡している玉手箱ですねぇ。どれか一つ選んでください」

「当然大きいのね!」


 リリが大きい箱を手に取る。


「そして箱を渡した後に必ずこう言わなければいけません。【その箱は決して無闇に開けてはいけません】と」

「お土産なのに開けちゃダメなの?」

「そうみたいですねぇ。私も渡したことがないので中に何が入っているのかわからないのですけどぉ…」

「リリ。その箱は私が厳重に預かるね」

「いいわよ」


 リリから箱を受け取ってマジックバッグに入れる。

 竜宮城の玉手箱と言えば、箱の中を開けると歳を取ってしまうというのが有名だ。日本の童話なのでこの箱がそうとは言い切れないけど、開けてはダメだと言うのなら空けないでおこう。


『それではミツキ。皆さんを陸地まで送ってあげなさい』

「はい。お父様」

『皆さん。ミツキのことをこれからもよろしくお願いします』

「任せてください!」

「わかりました」

「ではついてきてください」


 各々水龍神に挨拶をしてミツキさんについていく。神様なのにずいぶん丁寧に接してくれたなぁ。

 



 玄関に到着しミツキさんが扉を開ける。

 外は深海なので水が入ってくると思い身構えてしまったけど、結界のようなもので水が入ってくることを防いでいるようだった。


 そしてミツキさんが私たち4人を背中に乗せられそうなほどの巨大な大亀に変身する。


『それでは皆さん。私の背中に乗ってください』

「わかりました!」


 全員背中に乗り、ミツキさんが水を止めている結界に向かってよちよちと歩き出す。

 結界はミツキさんを弾くことなく素通りし、私たちは深海の海を大亀に乗って進む。


「ぶこぶこぶこぶこ!」

「ぶくぶくぶくぶく!」


 ルル様とリリが何を言っているのかはわからないけど感動していることはわかる。私も同じだからだ。


 海の中なのに息苦しさを感じない。まるで地上にいるみたいだ。水の抵抗もほとんどない。しかも海の生物たちは大亀の正体がわかっているからなのか、たくさんの魚たちが私たちの周りを泳ぎ、追走してくる。水が綺麗なこともあって神秘的な光景だ。


 そんな時間を忘れるくらい幻想的な光景を眺めているとミツキさんが浮上していく。どうやら到着したようだ。


 誰も人がいないことを確認してから上陸し、ミツキさんが変身を解いて元の女性の格好に戻る。


「…ふぅ。皆さんお疲れさまでしたぁ。海の世界はどうでしたか?」

「最高でした!」

「綺麗だったわね」

「忘れられない景色でしたなぁ」

「ミツキさんも陸地に来れるんですね」

「ええ。でもお父様から一人で陸に上がることは禁止されていたので今までは遠くから見ているだけでしたけどぉ」

「そうだったんですか。どうですか?陸に上がってみて」

「そうですねぇ。…空気に匂いがありますねぇ」


 言われてみれば海の中は匂いが無かった。でも地上は自然の匂いや生活の匂いがする。海に棲むミツキさんならではの着眼点だ。


 クンクン匂いを嗅いでいたミツキさんだが、遠くに魚人を発見するとびくりとして海の中まで戻ってしまう。そのまま顔だけ出して周囲を警戒しているミツキさん。そして魚人がこちらに近づいてくることを確認すると顔も隠してしまった。


「どうしたんですか?」

「身内以外の生物と話すことが怖くてぇ…あの!私一度帰りますね!何かあれば呼んでください!それではぁ!」

「え!?ミツキさん!?」


 本当にいなくなってしまった…ミツキさん人見知りだったんだ。

 そして入れ違いで魚人が話しかけてくる。


「あんた達ひょっとして…数週間前に行方不明になった観光客じゃないか!?」

「あ。そうかもしれません」

「本当か!ついてきてくれ!みんな心配してたんだ!」


 私たちの顔を確認してから走って向かってきた魚人は嬉しそうに手招きしてくる。


 街の人からすれば、私たちはAランクの魔物を退治しに行きそのまま行方不明になっていたのだった。数時間しか街には滞在してなかったが、私たちを目撃していた人はいるだろうし、船長さんにも顔は覚えられていたのだろう。




 魚人についていき、街の中で行方不明の観光客が見つかったぞ!と叫ぶとわらわらと魚人たちが集まってきて無事でよかったとか、どうやって生き延びたんだ?等々全方向から声を掛けられる。もしミツキさんがこの場に居たら失神してしまっていただろう。


 その中には私たちを船に乗せてくれた船長さんもいて、泣きながら謝ってくれた。こちらこそ無謀にも船に乗ってしまって申し訳ありませんでした…


「君たちの忠告を聞いて引き返せばよかったと何度も後悔したよ。しかし生きていてくれて本当によかった」

「いえ。私たちのほうこそ無理を言ってしまって申し訳なかったです」

「船長さん。キングオクトパスとクイーンクラーケンはどうなったのでしょうか?」

「ああ…君たちは知らないのか…」


 ルル様がキングオクトパスとクイーンクラーケンの名前を出した途端周囲がどんよりした空気になる。


「あの後討伐に向かった集団は壊滅してね。船も大量に壊されたんだ。君たち以外は魚人だったから泳いで帰ってこられたけどね…」

「それだけじゃねえ。あいつらはあの一件以来調子に乗って街の近くまで出没するようになっちまったんだ。おかげで漁にも出られやしねえ」

「だな。困ったもんだぜ全く…」


 そう言い俯いてしまう周りの魚人たち。

 そうか…まだあの件は片付いていなかったのか。それどころか話を聞く限り状況は悪化しているようだ。


 それでも魚人たちは私たちの無事を祝ってくれて、これも持っていけ、あれも持っていけとたくさん食べ物を頂いた。




 宿を取り、頂き物で食事を取っていると何やら考え事をしていたルル様が突然立ち上がる。


「どうしたんですかルル様?」

「ちょっとミツキさんを呼んでみます!」

「今ですか?」

「はい。むむむ~…ミツキさん。出てきてください!」


 ルル様が右手を掲げると手の甲から青い龍の模様が浮かび上がり、目の前にミツキさんが出現する。そのままミツキさんは素早い動きでテーブルの下に隠れる。


「…ふぅ。どうやら知らない人はいない様ですぅ」

「極度の人見知りすぎる…」

「それで、どうしたんですかぁ?早速呼び出してくれたことは嬉しいですけどぉ」

「実は相談があってお呼びしました!」


 ルル様がミツキさんの手を取って説明する。私たちが海に投げ出された原因である二体の魔物のことと、その魔物のせいで街の魚人たちが困っていることを。

 ミツキさんは真剣に話を聞いてくれている。


「…というわけで、ミツキさんの言葉で魚人さんたちに迷惑を掛けないようにキングオクトパスとクイーンクラーケンを説得してもらうことはできますか?」

「なるほどぉ。魔物の中には私の話を聞かないものもいますが、そこまで成長している魔物なら対話は可能でしょう。出来るかはわかりませんが、やるだけやってみましょう!」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 ルル様はずっと迷惑な魔物をどうにかする方法を考えていたのか。


 こうして私たちはミツキさんの協力のもと再びキングオクトパスとクイーンクラーケンに挑むことになるのだった。


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