表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
ポンコツ姉妹と異世界旅!
2/88

ちょろい妹

「クロさーん!リリちゃーん!休憩!ちょっと休憩しましょう!」

「いいですよ」

「お姉ちゃんまた~?これで3回目だよ?」

「ごめんねリリちゃん。お姉ちゃん足が痛くて」

「それならしょうがないけど…」

「ルル様はずっとお城の中に閉じ込められていたから。こうなることは仕方のないことだ」


 土魔法で地面に穴を作り、その中に水魔法で冷たい水を入れる。ついでに土魔法で椅子も作る。


「ルル様。ここに座って足を冷やしてください。少しは痛みが和らぎます」

「ありがとう!クロさん!」


 椅子に座って満面の笑顔で足を揺らすルル様。

 そんな姉を羨ましそうに見るリリ。


「…あたしにも作ってよ!」

「いいよ。対面に椅子を作るからルル様と一緒に使うといい」

「気が利くじゃない!」


 2人の素足をさりげなく鑑賞しながらこれからのことを考える。

 リリが来てしまった以上、王国は私たちを捜索しているだろう。補足されるのは時間の問題…


 まぁそれ以前にルル様がダウンしてしまうほうが早い気もするが…

 どこかに集落でもあればいいのだけど、あいにく私はこの近くの地理に疎い。


「この近くに人が住んでいるところがどこにあるかわかりますか?」

「ごめんなさい…わからないです」

「全く知らないわ!」

「自信満々に言うことじゃないからね。リリ」


 今夜は野宿だ。


「それにしてもあんた。魔法なんて使うのね。私の国で使ったらバカにされるわよ」

「そこら辺は弁えている。身体強化の魔法しか使っていなかったから絡まれたことはない」

「ふ~ん。身体強化の魔法ならオッケーね!」


 それも立派な魔法なんだが…王国の基準は謎だ。


「それで、どこに向かってるのよ?私たちは?」

「とりあえず北。海をルル様に見せたい」

「ふーん。海って見たことないわ」

「私も!」

「王都にいたらそりゃ見れないさ」


 ノウ・キングダムは世界の中心地に位置しているため海は無い。

 ちなみに…南に行けば人間国、西に獣人国、東に魔族の国がある。そして北一帯は海が広がっており、魚人が住んでいるらしい。私も行ったことがない。

 それぞれの国にそれぞれの種族が住んでいるわけだが、ノウ・キングダムだけは力さえあれば種族は問わないというフリーダムな国なので多種多様な種族が住んでいる。


 ルル様は海という単語を聞いても想像がつかない様で首を傾げている。


「海とは何なのですか?」

「今2人が浸かっている水ありますよね?」

「はい」

「うん」

「その水たまりが見渡す限り広がっているのが海です」

「水がたくさんあるんですね!」

「飲み放題ってこと?」

「それが飲めない。海水はしょっぱいから」

「どうしてしょっぱいのですか?」

「塩が多く含まれているからですね」

「ふーん。ま、とにかくそこに行くってことね!わかったわ!」


 がばっと立ち上がるリリ。

 2人に家から持ってきたコップで水を飲んでもらい、休憩を終えてまた歩く。




 歩き初めは3人とも同じペースなのだが、徐々にルル様の歩く速度が落ちていき、顔も下を向くようになる。


 だが何度も休憩するのは申し訳ないとでも思っているのか、今回は休みたいとは言いださない。

 しかし、足が痛いのに歩き続けるのは今後に支障が出るのでなんとかしないといけない。


「…よし。ルル様。おんぶします」

「え?」

「リリ。悪いけどこのリュック持ってもらえない?持って歩くと筋力がつくよ」

「え、そうなの?しょうがないから持ってあげる!」


 リリにリュックを渡し、ルル様の前で後ろ向きにしゃがみ手で背中に乗るよう指示する。


「その足でこれ以上歩くのはきついでしょうから。遠慮せず背中に乗ってください」

「そんな…悪いです」

「いいんですよ。私がしたくて言ってるんです」


 私はルル様の感触を楽しめる。ルル様は休憩できる。お互い良い事しかない。


「う~。でも~…」


 ルル様は恥ずかしそうにもじもじしている。

 まぁそうなるか。人と密着するのは度胸がいるだろうし。だがルル様は押しに弱いタイプ。押しまくればなんとかなる!


「…本音を言いますと、もう少し今日は進んでおきたいのです。ですがルル様の状態は芳しくない。だからこの方法しかないんです!さぁ!さぁさぁ!」

「こいつ目が血走ってるんだけど…キモイんだけど」


 うるさい貧乳!(ブーメラン)


「わかりました…!し、失礼します」


 ルル様が意を決して私の背中に身体を預ける。

 うん。…うん。


「では行きます。しっかり掴まってください」

「はい」

「冷静を装ってるのがよりキモイんだけど」

「だからだあってなさいチビ助」

「はぁ!?」

「おっと心の声が」

「あ、あんたそんなこと考えてたの!?信じらんない!」

「走りますよルル様!」

「え…きゃああああああ!」

「待てこの…あほーーーー!ばかーーーー!」


 その日は追いかけっこのおかげでだいぶ距離を稼ぐことが出来た。

 結果オーライである。


「はぁ…はぁ…あんた見かけによらずやるわね…」

「はぁ…はぁ…はぁ…リリも」

「当然よ!あたしは毎日走り込みしてるんだからね!」

「そうなんだ」


 こっそり身体強化の魔法を使ってなければ追いつかれてボコボコにされていただろう。

 だが何とかあほの子がなぜ追いかけっこをしているのか忘れてしまうまで逃げ切ることが出来た。




 走っている間にすっかり日は沈み、辺りが暗くなる。

 そろそろ野宿する場所を決めなければならない。


 開けていて平らな場所を探す。本来なら木陰や日陰にテントを設営したほうが直射日光や夜露から守ってくれるためそちらのほうがいいのだが、この世界では魔物が出るから視線はなるべく遮りたくない。


 丁度見晴らしの良い場所を見つけたのでそこで止まる。


「今日はここで寝ましょう」

「はい!」

「わかったわ」

「ルル様。ゆっくり降りてください」

「うん。ありがとうクロさん!よいしょ」


 ふぅ。おんぶは思ったより疲れるな。


「リリ。リュックありがと」

「私がいてよかったでしょ?」

「うん。助かった」

「ふふん♪はいどうぞ」


 リリからリュックを受け取って中に入っているテントを出す。

 実はこのリュック。マジックバッグと言い、重量制限はあるものの見た目よりもかなり多く物が入る。だから旅に必要なものはほとんどこの中に入っている。


 2人が興味深そうにテントを見る。


「今日は初夜なので私がテントを設営します。ですが明日は2人に設営してもらうのでしっかり見ておいてください」

「わかりました!」

「あたしたちこれでも王女なんだけど?そんなあたしたちにやれっていうの?」

「リリ。なんでも人にやらせるだらけた王女と、自分で何でもできるしっかり者の王女。どっちがかっこいい?」

「何でもできるしっかり者の王女に決まってるでしょ!」

「それなら、テントの設営くらい自分で出来る王女のほうがかっこいいってことになる。頭のいいリリならこのくらいわかるよね?」

「当然でしょ!」

「それじゃあ明日は任せた」

「任せなさい!」


 よし。


「では説明します。まずはこのテントを広げて地面に置く」

「「ふんふん」」

「見てもらえれば分かりますが、対角線上に穴が開いてるのでここにポールを通します」

「「ふんふん」」

「で、テントの四隅についているピンをさっき通したポールに差し込むと…」

「おお!」

「おっきくなりました!」

「あとは簡単。ピンと張れたのを確認してから風で飛ばされないように杭で固定して完成です」


 簡易型のテントなので誰でもすぐに作ることが出来る。


「簡単そうね!」

「明日はよろしく頼みます」

「頑張ります!」


 これで一応寝床は確保できた。

 そのことに安心したのか、3人のお腹の音が鳴る。


「…う~」

「あはは」

「そういえば朝から何も食べてなかったですね。魔物が出れば食料にできたんだけど…すみません。缶詰で我慢してください」

「明日は食べられそうなキノコとか草を取りながら歩きましょう!」

「しょうがないわねぇ」


 リュックから缶詰を取り出して2人に渡す。

 …食事については完全に自分のミスだ。ルル様との旅に浮かれて食べ物のことを完全に失念していた。


 その日の食事は寂しかったが、明日はちゃんとした食べ物をお出ししようと心に決める。


 それでも量はあったのでとりあえず満腹感はあった。

 ルル様とリリもお腹が膨れたせいか目が開かなくなってきている。


「ふわぁぁ…今日は色々あって疲れたわ。もう寝てもいいかしら?」

「私もぐっすり眠れそうです~」

「ちょっと待って。お風呂には入ってもらいます」

「「え?」」


 何を驚いた顔をしているのだろうか?

 私は前世の生活習慣のせいか、毎日風呂に入らないと気持ちがどうしても落ち着かない。

 そしてできれば一緒にいる人にもお風呂に入ってほしい。


「ク、クロさん?」

「こんなところでどうやってお風呂入れってのよ?」

「すぐに用意するから」


 そうして私はリュックからドラム缶を引っ張り出すのだった…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ