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ポンコツお姫様姉妹と巡る異世界譚  作者: 綿あめ真
ポンコツ姉妹と異世界旅!
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ポンコツ王女様との旅の先には…    

 異世界に召喚された当初は毎日考えていたこと。地球に、日本に戻る手立てはあるのか?それとも私はこの世界で生きていくしかないのか?

 魔法を教えてくれたおじいちゃんには残念ながら不可能だと言われた。


 それから何年かこの世界で過ごし、生活にも慣れてからはあまり考えなくなってきたけど、何か質問を考えた時に真っ先に出てきた思いがこれだった。地球に戻れる方法が知りたい。


『ほう。そなたはこの世界の住人ではなかったか』

「はい」

「知らなかったわ」

「初耳ですぞ」

「別に隠していたわけじゃないんだけどね」

『ふむ。なるほどな。ではその問いに答えよう』


 スフィルクスさんの返答次第ではこの世界に骨を埋める覚悟をしよう。


『召喚の魔法があるように、送還の魔法もある。だが、その難易度は天と地ほどの差がある。簡単に言えば…召喚の魔法は条件に合った適当なものをただ術者の手元に転移させるだけだが、送還の魔法は特定のものを特定のポイントに転移させる必要がある。これが存外難しい。また、転移先が離れていれば離れているほど術者の処理能力が要求されるし消費する魔力も増加する。ましてや異世界ともなると…現代の貧弱な魔法使いでは例え世界中の魔法使いが協力したとしても送還の魔法は失敗に終わるだろう』

「そう…ですか」


 予想はしていたけど…やっぱり出来ないのか。まぁ元々日本に友達いなかったし?親とも仲悪かったしいいんだけどね。はぁ…あとでルル様に慰めてもらお…


『まだ話は終わってはいないぞ?』


 スフィルクスさんが私を見てニヤリと笑う。え?まだ続きあるんですか?


『人間では無理だろう。だが、我のような超常の存在が複数いれば…我なら術者として転移を成功させる自信はあるし、我以上の魔力持ちもこの世界のどこかにいるだろうから魔力の問題は解決されるだろう。…結論を述べよう。ルルが我のような存在と数多く契約し、協力すれば…くっくっく。そなたを地球に送還することも可能だろうよ』

「………」


 ルル様がスフィルクスさんクラスの魔物をたくさんテイムすれば地球に帰ることもできる…?

 想像してみよう。ルル様がスフィルクスさんのような魔物を10体ほど背後に従えている姿を。


「…無理そう!」

「なんでですか!わかりませんよ!」


 そんなことが出来るならもうポンコツって馬鹿にできない。

 でも…うん。ルル様となら、そういうことも出来るかもしれないってことは頭の片隅で覚えておいてもいいかもしれない。


 少しだけ出てきた希望を噛みしめていると、横にいるルル様が不安そうな顔で見つめてくる。


「クロさんは、ご出身の世界に帰りたいので…しょうか…」


 送還の魔法が成功するということはこの世界から消えるということ。つまりはルル様と離れ離れになるということだ。


「…この世界に来たときはいつも戻りたいと思っていました。でもルル様と会って、リリやトトちゃんとも知り会えて。今は毎日がすごく楽しいです。だから…よくわからないですね。実際戻れるかもしれないって時になったら改めて考えます。そもそも、どうせルル様無理そうですし…」

「むー!そんなことないですよぉ!」


 ぽかぽか叩いてくるルル様を見ながら考える。どちらを決断するにせよ、ルル様にきちんと納得してもらえるようにその時はしっかり想いを伝えよう。


「スフィルクスさん。たくさん教えてくださってありがとうございます」

『うむ。それと、そなたらは海を見に行きたいと最初に申していたな』

「はい!」

『どれ。我が連れて行ってやろう。特別に背中に乗せてやる』

「いいのですか?」

『契約したからな。特別だぞ?』


 思いがけないスフィルクスさんの提案。私が考えていたよりも早く目的地に着きそうだ。ルル様が落っこちないかが不安だけど…


 こうして私たちはほどなくして海を見られることになるのだった。





………………





「そこで、老師ガンドよ。そなたにはクロネの捜索を頼みたいのだ」

「…なるほどのう」

「おお!やってくれるか」

「…いいだろう」


 ワシの名前はガンド。人間国で魔法使いを名乗っておる。

 現在は歳を取ったこともあり、城で後輩の育成に専念している只の老いぼれじゃが、その弟子の1人の捜索を国王に頼まれた。


 事の発端はこうじゃ。

 先日、世界最強と言われている王国、ノウキングダムの兵隊が大量に人間国へ押し寄せてきた。


 理由はノウキングダムの第4王女リリフレール・ランペルジュをワシの弟子のクロネが誘拐したからだという。


 危うく戦争に発展しかけたが国王が必死に否定し、人間国も総力を挙げてクロネと第4王女の捜索に尽力するということで話は纏まった。


 あのままあちらさんが話を聞かずに攻め込んでおったら…人間国はひとたまりもなかっただろう。それだけの兵力であった。


 よもやあそこまでの兵力を一点に集中してくるとはのう…

 ノウキングダムは確かに強いが、地理的には世界の中央に位置しているため全方位を他国に囲まれている状態ともいえる。

 そんな状況でどこか一点に戦力を集中させてしまうと、他の国から攻撃を受けてしまうことを考えれば多くの兵を一か所に送り込むことは出来ないはずなのじゃが(他国にとってもノウキングダムの存在は脅威なので隙があれば攻めたいとどこも考えている)…流石は王国軍。裏をかいてくるのがうまい。




 そこで話が初めに戻るのじゃが、人間国はクロネと王女の捜索をしなければならなくなったのでワシに話が来たのじゃな。


 人間国としては老師ガンドを派遣したとして面目が立つ。わしはこう見えて名前だけは有名じゃからな。そして国王と宰相としては口うるさいワシを遠ざけられるというわけじゃ。


 最近は魔族領と戦争をしようと画策しておるようじゃし…血を流し国土を増やしてそれが何になるというのか…ワシにはわからん。


「王よ」

「な、なんだ?」

「長旅になるじゃろうて、馬を一頭欲しいのじゃが」

「おお!最高級の馬を用意しよう。では。よろしく頼むぞ」

「ではな」


 王室を後にする。

 この国はきな臭くなりそうだし、ちょうどいいかもしれんのう。




 クロネの顔を思い出す。わしが育てた最後の弟子。とは言っても教えたことなどほとんどないがな。魔法の扱いは天才的。発想力もある。教えたことと言えばこの世界の歴史や地理くらいか。


 …そういえば北にある海の話をしたときは珍しく目を輝かせておったのう。この国に彼女を連れ戻す気など更々ないが、また会いたいのも事実。いるとは限らんが、とりあえずは海を目指してみるかのう。




 それから数日後。旅の準備をし、馬も貰った。ワシと同じように老齢の馬じゃ。

 見送りはいない。ふん。厄介者がいなくなって今頃せいせいしておるじゃろうな。


 今後の相棒になるであろう馬を撫でる。


「よろしく頼むぞ」

「…ヒヒーン」


 名前を付けなくてはな。先は長い。道中じっくり考えてあげるとしよう。

 北に続く門を潜り人間国を後にする。


 すると、門の陰から一人の少女…いや少年が現れた。


「なぁじいさん。あんたクロネってやつに会いに行くんだって?」

「…そうじゃな」

「だったらさ。ボクも連れて行ってよ。ボクもそいつに会いたいんだ」


 ワシたちの進路を塞ぎながら笑顔で提案してくる少年。この子の名前はアラタ。クロネと同じく多数の魔法使いを犠牲にして異世界から召喚した者の1人で、クロネと同等の才能と評価されている少年だ。


「理由を聞いていいかのう」

「まだ会ったことないけどさぁ。名前からして同じ国の出身だと思うんだよねえ。それにさ。召喚された人間で最強なのはボクだって証明したいんだ」


 屈託なく笑うアラタ。クロネは最強だのなんだのは絶対に興味がないと思うのじゃが…

 しばし考える。多大な犠牲を払って人間国は異世界の住人を召喚することを決断した。世界の覇権を取るために。いや、人間だけの世界にしたいがために。


 しかし結果は多くの異世界人が召喚に払った代償に見合う力を持ち合わせてはいなかった。唯一その片鱗を見せたのは目の前にいるアラタと、今から会いに行くクロネだけだ。だがクロネは人間国から姿を消し、アラタもワシが連れ出せばいなくなることになる。


 つまり実質、人間国は優秀な魔法使いを犠牲にしたにも関わらず成果0になるということじゃ。


 これで少しはおとなしくなって、戦争やら召喚やらと騒ぐことがなくなればいい…

 そう考えてワシはアラタを連れて行くことに決めた。


「いいじゃろう。ワシの後ろに乗るがいい」

「そうこなくっちゃ!」


 こうしてワシとアラタの…長い旅が始まった。


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