王国の忍び、トト参上!ですぞ~!
夜。とある村の宿屋の一室にて私たちは王国からの追手と対峙していた。
追手の数は目の前に獣人の女の子1人。他はわからない。
こちらは寝起きの私と筋肉痛のルル様、追手から逃げてきたリリの3人。
「リリ。他にも追手はいる?」
「私が追われたのはあの子だけ…どうするの?逃げるなら早く逃げましょうよ」
「いや…ここで何とかする」
逃げようにもルル様が足手纏いすぎて振り切れないだろう。それならいっそこの場で打開したいのと…王国の情報をこの子から聞き出せたらベストだ。
相手の容姿を確認する。
背が低い犬型の獣人で、忍び装束のような服装。偵察が得意そうだ。
駄目元で話しかけてみる。何か情報が得られるかもしれない。
「あなたは一体何者ですか?」
「拙はトト!王国でリリ殿を捕まえた暁には報奨金を貰えるという発表があったのでこうしてリリフレール殿を捜索しに来たのですぞ!」
「あなた1人で?」
「その通りです!拙1人で捕まえればその分報奨金も手柄も独り占めできるのです!あと拙以外にも多くの王国民がリリフレール殿を探しておりますぞ~!」
…めっちゃしゃべってくれるこの子!
1聞いたら10返ってくるわ!
「どこを重点的に探しているとかは…さすがのトトちゃんにもわからないよね」
「もちろんわかっておりますぞ!多くの人は人間国周辺を捜索しています!なぜならリリフレール殿を連れ去ったと思われる人物が人間国出身らしいからです!…あなたも人間ですよね?もしかしてリリフレール殿を連れ去ったのはあなたですか?」
「違うよ」
「そうでござったか」
勝手についてきただけだよリリは。
でもなるほど。私が人間国出身ということは調べられているのか。しかし残念。私たちが向かっているのは人間国とは真逆の北。この子の言っていることが本当なら大多数の追手は見当違いの方向を探していることになる。これはおいしい。
「よくわかったよ。でもどうしてトトちゃんは北を探しに来たの?」
「拙も人間国を目指しておりましたぞ?」
ん?
「この村は王国の北側にあるんだけど…」
「なんと!?それは真ですかな!?」
「え…うん」
「また行き先を間違ってしまったのですぞ~!」
頭を抱えてしゃがみ込むトトちゃん。
あー…さっきから話していて何となく察してはいたけど…この子さてはポンコツだな?ポンコツの匂いがぷんぷんする。
南と北を間違えるって…真逆だよ!
「その方向音痴のせいで見つかっちゃったわけだけど…とりあえず立ち話もなんだからこっちきて座って話そうよ」
「いいですぞ!」
ベッドに手招きするとトコトコついてくるトトちゃん。リリも来てそのまま靴を脱ぎ、ベッドの上に4人で輪になり体育座りする私たち。
…私たち敵対関係だよね?そんなホイホイついてくるとお姉ちゃん心配になっちゃうよトトちゃん…
でもそんな残念少女を私は仲間に引き入れたいと考えている。
理由は3つ。
1、このまま私たちがトトちゃんから逃げることに成功したとしても私たちが北にいるという情報が王国に伝わってしまう。
2、彼女は1人で王国からこの村まで来ている。つまり森を一人で切り抜けてきたということ。これは彼女が優秀な証だ。そんなトトちゃんを仲間にすれば私の睡眠不足も解消される可能性が高い。
3、か わ い い
以上の理由から私は何とかしてトトちゃんを仲間にしたい。だけどその前に1つ確認しなければいけないことがある。その回答次第ではこのまま戦闘、もしくは逃走を視野に入れる。
私はチラッと、のほほんとした顔で状況についていけていない王女様を見てから質問する。
「トトちゃん。リリのことは知っているみたいだけど、こっちの女性は誰か知っている?」
「んー?申し訳ないが知らない顔ですぞ」
「この方は第三王女のルルフレール様だよ。その名前なら知っているよね」
「おお!噂のルルフレール殿でござったか!」
「そうそう。そのことを踏まえた上での質問なんだけど。トトちゃんはルル様を見てどう思った?」
「どうとは?」
「残念だなーとか胸でかくてかわいそうだなーとかアホっぽいなーとか」
「クロさんひどい!」
「初対面なので何とも言えないですなー」
「胸が大きいし運動してないから身体もぽっちゃりだけど嫌悪感ある?」
「クロさん?クロさん?実は私のこと嫌いですか?」
王国基準では胸が大きい=ブス。運動不足=なにしてんねん舐めとんのか?という評価になるが…
トトちゃんがルル様をじ~っと確認し、私に向き直る。
「…拙はよく背が小さいと馬鹿にされます。自分の努力ではどうすることもできないのに皆が馬鹿にしてくるのです。それは胸も同じことでしょう。だから拙は胸が大きいからという理由で相手を馬鹿にしたくはないのです。運動不足はこれから改善しましょうぞ!ルルフレール殿!」
「トトちゃん…!」
…王国出身者でこの考え方は稀有だ。普通ならルル様を馬鹿にするのだから。
だからこそ、私の心は決まった。
「…ルル様。リリ。ちょっと耳を貸してください」
「?」
「なによ」
「(私はトトちゃんを旅の仲間にしたいのですが。お2人の意見を聞きたいです)」
「(はぁ?この子を?)」
「(私は良いと思います!さっきトトちゃんのお話を聞いて、友達になりたいと思いました!)」
「(リリは?)」
「(まぁ2人がどうしてもって言うならいいけど…ちっちゃくてかわいいし…)」
「(よし決まり)」
「隠し事はいけないのですぞ~!」
「ごめんごめん。そういえば、トトちゃんはどうして報奨金が欲しいの?」
「お金も欲しいですが、一番は手柄を立ててお城で働きたいからですぞ!」
「ほほう」
「お城で国のために誠心誠意働きたいのです。なぜなら拙は忍びですからな!」
「つまり、今は仕えている人はいない?」
「いないですぞ」
「だったら…今日からリリに使えるのはどうかな?」
「なんですと!?」
ルル様には私がついているのでリリのお世話をしてほしいというのが本音。
「私たちはこうして旅をしてるんだけど、いずれは王国に帰るつもり。その時にお城で働けばいいし、一緒に旅をすることで主従関係が深まること間違いなし」
「主従関係!いい響きです!」
「うん。それにリリは次期女王候補だし、これほど仕えるに値するご主人様もいないと思う」
「良いこと言うわねクロエ!もっと褒めなさい!」
「むむむぅ…いきなりのことで頭が混乱しているですぞ~!」
「じっくり考えて。一緒に旅をするとなると長期間になるし」
トトちゃんにはきちんと納得して仲間に入ってもらいたい。これから一緒に行動するなら強引なことはしたくない。
「少し考える時間が欲しいですぞ」
「そうだよね。私たちは明日出発するからそれまでに決めてほしいんだけど…いいかな?」
「わかりましたぞ!」
「それじゃあ村で待ってるね」
「わかりましたぞ!では失礼!」
煙玉を投げていなくなるトトちゃん。迷惑だからやめてほしい。
「行っちゃいましたね」
「今日はもうすることもないですし、明日に備えて寝ましょう」
「また寝るのクロネ?よくそんなに寝られるわね」
私は寝だめできるタイプだから。
それから3人で同じベッドで寝て、翌朝。リリがいつの間にか反対方向を向いて寝ている。私の顔の近くにある足をどかして起き上がる。
「リリの寝相悪すぎでしょ」
「む~…おはよう…」
「おはようございます~」
「ルル様。筋肉痛は治まりましたか?」
「おかげさまで治りました!」
「それはよかったです。では着替えて朝食を食べに行きましょう」
3人で宿の1階にある食堂に向かう。するとなぜかトトちゃんがいた。
「あれ?どうしてトトちゃんが?」
「あの後同じ宿を取ったのですぞ~!」
「そうだったの。それでどうするか決めたのかしら?私に仕えるの?」
トトちゃんに視線が集中する。出来れば仲間になってほしいが…?
トトちゃんが笑顔で答える。
「是非リリフレール殿に仕えたいですぞ!」
「いい返事ね!気に入ったわ!私に精一杯仕えなさい!」
「よろしくお願いしますぞ!」
「ほ。よかった」
「よろしくね!トトちゃん!」
こうして私たちに新しい仲間が加わった。これで私の睡眠不足が解消されるはず…やったぜ。