ポンコツVSスライム
主要キャラが女の子しかいないラノベがあってもいいじゃない第二弾。
よろしくお願いいたします。
「見てくださいクロさん!ぷよぷよした何かがいます!」
「あれはスライムですね。ルル様」
「あれがスライムですか!初めて見ました!」
「攻撃力もなく、魔物の中でも最弱です。初戦の相手にはうってつけでしょう。ルル様。この木の棒でサクッと倒してきてください」
「え!?私がですか!?」
「ルル様頑張って!」
「わ、わかりました!」
私の名前は黒音。ルル様の護衛をしている。
そしてスライムに向かって木の棒を一生懸命振っている女性はノウ・キングダムの第3王女であるルルフレール・ランペルジュ様だ。
スライム相手に全力なのは素晴らしいのだが…残念なことに棒を振る時、目を瞑る癖があるためスライムにはかすりもしていない。相変わらずのポンコツである。「えいや!えいや!」という掛け声は非常にかわいいのだが。
ノウ・キングダムとはこの異世界【レインスマルブ】を支配している王国のことだ。
その武力は世界一なのだが、魔法の使えるこの世界にも関わらず兵隊全員が武闘派。魔法は邪道という理念を持っている国なのである。
そんな国の第3王女として生まれたルル様は…王国に似つかわしくない可憐な少女であった。
筋力もまるでなく、勝負事は苦手。逆に何ができるの?と質問したくなるくらいに不器用。かわいいもの好き等々。力が全てである王国の王女としてはダメダメであった。
当然、民からの評判も最悪。メイド連中には馬鹿にされ、ほとんどの家族から邪魔者扱いをされていたルル様。
だけど…彼女は本当にかわいいのだ。この脳k…ノウ・キングダム以外の場所ではアイドルになれること間違いなしの容姿をしている。
しかし、彼女は誰からも期待されず、悲しい人生を歩んできた。
そんなルル様を見て、私は彼女と王国を出ていく決意をしたのだった。
そして現在。
王国を出たすぐ近くにある森の中で…私たちはスライム相手に実に5分以上を費やしていた。
「ルル様!もっと前!右右!そこそこ!」
「ここ!?ここですか!?えいえい!」
別にスイカ割りをしているわけでも目隠しをしているわけでもないのにこの体たらくである。
「ルル様!スライムの前でしゃがんで!」
「こ、こうですか?」
「それなら当たるでしょう。木の棒であとは叩くだけです。目は瞑らないでください」
「わかりました!…………」
「どうして攻撃しないですか?」
棒を持ち上げたまま振り下ろさないルル様。
じっとスライムを見つめている。
「クロさん」
「はい」
「よく見たらこのスライム。かわいいのです」
「はぁ」
「だから、叩くなんてこと!私には出来ません!」
なん…だと…
スライム一匹退治できないのに、この先旅を続けられるの…?
だがかわいいので許してしまう。
「しょうがないですね。そのスライムは逃がしてあげましょう」
「わぁ!ありがとうございます!スライムさん。もう見つかったらだめですよ?よしよし…え?」
「どうしました?」
「クロさん!大変です!」
おもむろに立ち上がり私のほうにずいっと近づいてくるルル様。
谷間が見えてつい視線がそちらに向かってしまう。自分の胸が小さいせいか…ルル様の胸が羨ましすぎてツラい。
「この私に!ダメダメな私のステータスに新しいスキルが!」
「おめでとうございますルル様」
よほど嬉しかったのか、私の肩を掴んで前後にひたすら揺するルル様。
ゆさゆさゆさゆさゆさゆさ……………………いや長いよ!?
「ルル様。もう止めて」
「あ!ごめんなさい」
「それで、どんなスキルですか?攻撃がかすりもしないので情けの【命中補正】ですか?それとも無駄に体力を消耗したので【持久力増加】ですか?」
「違いますぅ!なんとじゃじゃん!【テイム】です!」
「…レアスキルじゃないですか」
「本当ですか!?嬉しいです!」
【テイム】とは、魔物を捕まえることが出来るスキルだ。捕まえた魔物は使役することもできる。だが、テイムのスキルを持つ者は滅多にいない。正真正銘レアスキルだ。
ルル様は思うところがあったのか、胸に手を当てて目を瞑っている。
「…ルル様。あなたはやっぱり無能の役立たずなんかではないですよ。自分の意志で外に出て、あなたの優しい心のおかげで新しい力を手に入れることが出来たのですから。もっと自分に自信を持っていいんです」
「…うん。ありがとう。クロさん」
本当によかった。ルル様の本当の笑顔を初めて見ることができた。
そんな良い雰囲気をぶち壊す甲高い声が。
「やあああっと見つけたわよ!この誘拐犯!」
「ん?」
「あ!リリちゃん!」
ビシッと私に向かって指を指す少女。
彼女の名前はリリフレール・ランペルジュ。ルル様の双子の妹だ。
双子だが…すべてがルル様とは正反対な女の子である。
ルル様のステータスを全て吸い取ったと言われるほどの高ステ。
力こそすべてだという思考は王国の王女らしく、戦いにおいては負け知らず。難しいことは考えない。
言い方を変えれば脳筋残念少女である。
ただし王国にとっては期待の人材であり(王国の首脳は全員が脳筋)、第4王女という肩書もあることで民からの人気も高い。胸は私以上に無い。
だが疑問に思うことがある。私たちがこっそり王国を脱出してからまだ幾分も経っていないにも関わらず、もう追手が来るのは流石におかしい。それに仮に私たちが居なくなったとすぐに気づいたとしても…国のお偉いさんたちは無視するだろう。ましてや国の重要人物であるリリを単独で追わせるなんて以ての外だ。ここから導き出される答えは…
「ルル様。まさかリリに教えたのですか?」
「えーと。はい。リリちゃんにだけは知らせようと思って、手紙を残して置きました!」
「そうですか。他には誰にも教えてないですよね?」
「はい。リリちゃんしか知らないと思います」
「なら問題ないです」
「あたしを無視して話を進めないでよ!私も混ぜなさい!」
リリから視線を外して2人で会話をしていたことが気に食わなかったのか、ぷんすか怒りながらこちらに詰め寄ってくる。
「それで?リリは何をしに来たの?」
「お姉ちゃんを連れ戻しに来たに決まってるでしょ!てゆーか!リリ様でしょーが!!」
「ルル様。ここはしっかりとあの脳筋ヒステリックガールに想いを伝えましょう」
「のうき…なんて?悪い意味の言葉!?」
「リリちゃん…手紙にも書いたけれど、私は旅に出るわ。でもいつかきっと戻ってくるから!心配しないで」
「心配するよ!お姉ちゃん何も出来ないのに!私がいないとダメダメじゃん!その女も信用できないし。お城に帰ろうよ」
リリがルル様の腕を掴んでぐいぐいと引っ張る。
本来ならルル様はその手を掴んで首をゆっくり横に振る…みたいなことをやりたいようだが、ずるずる引きずられまくっている。
「リリちゃん!ちょっと止まって。今から話すからお姉ちゃんを引っ張らないで」
「なに?」
「私ね。外に出て、スキルを覚えたの!何にもない私だけど、旅を続けるうちに、もしかしたら弱い自分を変えられるかもしれないの」
「お姉ちゃんがスキルを?どんな?」
「テイムです!」
「テイムって…なに?」
「魔物を捕獲し、使役することが出来るスキルだよ。かなり貴重」
「しえきってなによ!」
「使役とは…例えば捕まえた魔物に戦ってもらったり、身を守ってもらったり、要は働いてもらうことかな」
「へえ。ドラゴンも使役できるの!?」
「極めれば可能だね」
「確かにすごいスキルね…それで何か捕まえたの?お姉ちゃん」
「それがね!聞いて!この子を捕まえたの!スライムのラムちゃん!」
ルル様の後ろにずっとついていたスライムのラムを手の平に載せ、満面の笑顔で妹に見せるルル様。
だが悲しいかな。そんなルル様とラムちゃんを交互に見て、冷たい一言を放つ妹。
「ざこじゃん」
「え…」
「お姉ちゃん。せめてタイガーウルフくらい捕まえてから自慢してよね」
「…クロさーーーーん!うわーーーーーん!」
「リリ!あのルル様が偶然にもテイムに成功したんだからとりあえず褒めるのが常識でしょうが!ルル様に謝って!」
「ご、ごめんなさい!」
「まったく。それで話を戻すけど、私たちはリリが何と言おうが国に帰る気はないよ」
「…むー」
リリは頬を膨らませるだけで帰る気配はない。
そりゃそうだ。国を一人で飛び出してくるくらいには姉のことが心配なのだ。
思えば…私がルル様の護衛の仕事をするようになってから唯一ルル様に話しかけてくれていたのはこの子だけだった。
「…決めたわ!」
「「?」」
「私も一緒に旅する!」
「え?」
「リリちゃんも!?やったぁ!」
「待って待って。そんな簡単に決めていい事じゃない。しばらく帰る予定はないんだから、そんな長旅に国の人気者のリリは連れては行けない」
「いいの!あたしが行くって決めたんだから従いなさいよ!」
「クロさん。私からもお願いします。リリちゃんと一緒に旅をしたいのです」
いや、そんなこと言われても。
私とルル様だけならともかくリリちゃんまでいたら王国の奴らは血眼になって探そうとするだろう。それは正直困る。困るんだけど…
「「じーーー…」」
「はぁ。まったく。わかりました!3人で行きましょう!」
「「やったぁ!」」
考え方によっては…リリを連れて行くのはアリ?
というわけで。私は双子のポンコツお姫様と3人で異世界中を旅することになるのだった。
ラム「(3人と1匹の旅…だろ?)」