新たな動き
14 新たな動き
大雪君が来てからの数週間は、午前中はマシンコントロールの訓練を行い、午後は物資の補給で担当地域を回ることの繰り返しとなった。
それでも大雪君の上達ぶりはすさまじく、模擬戦では円盤の人工知能のコントロールでは複数台相手にしてもすぐに決着がついてしまうので、俺が操作するマシンとの空中戦となった。
何とか一日の長で、俺が有利に展開はできているようだが・・・。
『ウーウーウー』模擬戦を繰り広げているときのグラウンドにサイレンが鳴り響く。
「なんだなんだ・・・いったいどうした?」
「はい・・・はい・・・、分かりました。」
無線機に問いかけていた阿蘇が、マイクを置く。
「これから赤城大佐が部隊とともに出てくるから、彼らを乗せてフィリピンへ向かって欲しいそうだ。
今日の午後の予定は・・・キャンセルだね。」
阿蘇が俺と大雪君に向かって告げる・・・、今日の午後からは九州の隠し農場に資材を届ける予定だったな。
それよりも今日は週末で明日からは久々の休みという事で、土日の連休をもらったはずではなかったのか?
ううむ・・・大雪君の配属祝いの予定が・・・どうなってしまうのか・・・?
すぐにマシンを引き揚げ、赤城と霧島博士と一緒に百名ほどの部隊がグラウンドに出てきたので、転送ビームで引き揚げる。
「どうやら、フィリピンほかの植民地で動きがあった様子だ。」
すぐに操作室へやってきた赤城が、厳しい表情で告げる。
「動きってどんなことですか?まさか駐留部隊が攻撃されたなんて・・・。」
阿蘇が不安そうに尋ねる・・・いくら武装していたにしても、人間対マシンでははなから勝ち目はないことはわかり切っている。
なにせ、その圧倒的武力差により、数年間毎日のように市場から物資を強奪され続けていたわけだからな。
「いや・・・・そうではない、巨大な建造物を作り始めたという事の様だ、しかも全ての植民地で同時に行われている。
何を作っているのかは不明だが・・・、これが生体の次元移送に関する事であれば防がなければならない。
それを確認しに現地へ向かう。」
赤城の表情はかなりこわばっている様子だ・・・それはそうだろう、このまま全面戦争状態に入ることも十分に考えられるのだ・・・。
なにせ生体の次元移送が安全に行えることが分かれば、向こう側の世界からこちら側へ人を送り続け、本格的な支配がはじまるからだ・・・、もうリモートによる操作ではなく直接的に派兵してくるわけだ。
しかも圧倒的な科学技術とともに・・・これは脅威だ・・・。
「建造物というのが、建物自体を指すのか兵器なのかもわかってはいない。
ただ単に巨大なドームを建造し始めたという事で、その中で何が行われているのか、植民地の行政府でも把握しかねているという事の様だ。
内部公開をお願いしたところ、本日内部を案内してくれるという返事が来て、行政府から世界政府側も兵士や科学者を派遣して一緒に確認してほしいとの申し出があったという事だね。」
マイコントロール装置をかかえて、手持無沙汰にしている霧島博士が続ける。
先ほどまでマシンの訓練をしていたため、操作室の前席には阿蘇と大雪君がそれぞれカードスロットを操作パネルに差し込んだまま着席していて、その脇にコントロール装置をかかえた俺が立っているという構図だ。
「あっ・・・ああ、申し訳ありません、ちょっと訓練中だったもので・・、我々は後席に下がります。」
状況に気づいた阿蘇がカードスロットを外して席を立ち、大雪君にも促す。
「あっ、失礼いたしました。」
大雪君はすぐにカードスロットを外すと、操作室後方にある補助席に腰かけた。
操作パネル前にあるいわゆる操作席は4席しかないのだが、操作室後方の壁にあるハンドルを押し下げると、補助席が出てくることを発見したのだ。
補助席は5席あり、操作室の定員は9名という事の様だ。
しかし操作用のUSBカードの長さが足りず、2名しか着席した状態でカードスロットを使うことはできないので、飛行中は依然として2名しかコントロール装置が使えないという不自由な状況だ。
それもこれも4台ものコントロール装置があるからであり、他国のようにコントロール装置が1台きりしかなければ、そのようなことすら思いつかないのだろうが・・・。
「じゃあ、これからフィリピンへ向かいます。」
いつものように俺と霧島博士が前席に座り、収容した部隊が客席のシートに着席したことを阿蘇が無線で確認し、座標を入力して出発する。
『ピーピーピー』軽いGを感じた後、アラームが目的地到着を告げる。
「あれですかね・・・。」
それは巨大なテント小屋というか、ドーム状の建物だった。
しかも総合娯楽施設として建設が始まったばかりの建物のすぐ隣の駐車場として確保されていたと思われる、広い敷地に作られているようだ。
「うーん・・・、駐車場を立体駐車場にして駐車台数を増やすつもりなのですかね・・・。」
それほど狭い敷地とも思えないのだが、それでも全世界からの来客を見込むと言っていたのだから、高層ビルとそれに見合った駐車スペースは必要となるのかもしれない。
「いやそうではないだろう・・・、駐車施設であれば建設時に雨よけのドームなど必要ないはずだ。
もともと屋外施設だからね・・・、コンクリートが乾く間は雨が困るが、今の時期は雨季という訳ではないからそれほど雨が多いわけではないし、ドーム状の覆いなどはかえって邪魔になるだろう。
そうではなく内部が濡れては困るいわゆる精密機械というか、電装装置のようなものを作っているのではないのかね。」
霧島博士が、上空からコントロール装置を通してみた状況の解説を行ってくれる。
装置って・・・ドームの大きさから言っても縦横150から200メートルはありそうですけど・・・?
一体どれだけ巨大な装置なのか???
まさか小さな装置を大量にという事でもないだろうし・・・、それだったらこんな目立つようなドームで囲わなくて、普通の工場内でうまく製作するはずだ。
「じゃあ部隊と一緒に降ろしてくれ・・・、コントロール装置は・・・そうだな、私のものだけでいいだろう。
あまり何台も所有しているところを見せない方がいいだろうからね。」
霧島博士が席を立ち倉庫へと向かうようだ。
「いえ・・・霧島博士は向こう側世界にも霧島博士がいるという事のようですから、表には出ない方がいいでしょう・・・、阿蘇は各国の円盤との連絡で残った方がいいから・・・大雪・・・・一緒に来てくれ。
代表して我々が建物内部に入るから、他の地域はいつものように上空待機しておくように言ってくれたまえ・・・、コントロール装置の台数を探られたり、持ったまま捕らえられても困るからね。
内部にマシンでも待機されていては困るから、悪いがガードマシンも一緒に降ろしてくれ。
部隊は建物の外側で待機させる予定だ。」
「はいっ分かりました。」
赤城の指示によりすぐに大雪君が補助席から立ち上がる。
「じゃあ大雪君・・・、早くもデビュー戦というかお役目だ。
俺と一緒にガードマシンで赤城大佐たちの警護を行う・・・いいね?」
模擬戦の様子を見る限り、人が操作しているマシン相手だって十分に戦えるはずだ。
すぐに2台のガードマシンを起動させて1台は大雪君のコントロールに振り分けると、大雪君は赤城とともに倉庫へ向かった。
まず赤城たちが倉庫に入ったのを確認してから、派遣部隊とともに転送ビームで彼らを地上へ降ろし、大雪君のマシンとともに赤城の真上にマシンを配置する。
もちろん模擬戦に使用していたペイント弾ではなく、実弾を装填したマシンを選択している。
「では・・・、散開・・・。」
赤城が指示をすると、百名ほどの部隊員が数メートル間隔で大きなドーム状の建物を取り囲むように配置される。
「では・・・、まいりましょう。」
待ち受けていた行政府の役人と思しき数人のメンバーと共に、赤城たちがドーム状建屋の入り口を開けて中へ入っていこうとすると、中からものすごい風圧とともに風が・・・。
遅れじとマシンを操作して、マシンを風よけ用に先頭を進ませ幅2メートルほどの両開きのドアを通過させる。
どうやら風船のように内圧を高めてドーム天井を浮かせる方式の様だ。
確かに、この方式だと工場周囲部分を作ってしまえば、屋根の設置期間は大幅に短縮可能だ。
『ギューンッ』『ギュイーンッ』『バチバチバチバチッ』入った先は、まさしく工場の中だった・・・、遥か天井の高いドームの中では、ハンドアームロボットがせわしなく動き回り、至る所で溶接や切削の火花が散っている。
「なんだこれは・・・、乗り物?」
赤城が見上げるほどの巨大な建造物を眺めながらつぶやく・・・、マシンをコントロールしてみる限りでは、銀色に輝く金属製の骨組みに、パネルを貼り付けている所の様子だが、区分けされた中には座席が配置されている場所もあり、確かに人を乗せる乗り物のように感じられる。
『ようこそいらっしゃいました・・・。』
どこからか、ドーム内に声が響き渡る。
「うん?」
赤城がきょろきょろと周囲を見回すが、飛び回っているマシンのほかには、赤城たち以外の人影は見当たらない。
『ここは我々世界側の工場ではありますが、生産優先でモニターなど準備しておりませんもので、いつも通りに声だけで勘弁していただきます。
我々の円盤工場へようこそ。』
聞きなれた声が、ドーム内に響き渡っているようだ。
マシンで上方をうかがうと、ドーム天井部分に巨大なスピーカーが吊られている様子だ。
「円盤・・・工場・・・ですか?」
赤城が、突然の言葉に事態を飲み込めないでいるようだ。
それはそうだろう・・・、なぜ今更円盤なのか・・・?
「円盤・・・というと、我々がそちら側世界から奪取した円盤を改良した、最新兵器という事でしょうか?
本格的にこちら側世界と戦争を始めるという、意思の表れですかね?」
少し動揺したようだが、赤城がとりあえずの疑問を投げかける。
『いえいえそうではありません・・・、皆さんがお持ちのものと全く同じバージョンの円盤を作成させていただきます・・・、我々は別に戦闘好きとか兵器マニアではありませんので、次々と最新兵器を開発していくといったわけではありません。
十分な効果が望める装置に関しては、長く使うこともあり得るのですよ。
最新兵器をあえて製作しないというのは、我々側からそちら側世界へ戦闘行為を仕掛けることは望んでいないという気持ちの表れでもあるのです。
あくまでも防衛のための施策として、円盤を制作し始めたところです。』
所長が赤城の質問に対して丁寧に答える・・・まるでこの質問を待っていたかのように。
「防衛のための手段とおっしゃいましたか?」
すぐに赤城がその答えに反応する。
『はいそうです、我々がそちら側世界に送り込んでいたマシンも円盤も大半は破壊され、一部はそちらの所有物となっております。
さらに抑止力として見込んでいた攻撃衛星をも、すべて処理されたと伺いました。
これではいつ何時、我々が確保した地域へそれら破壊兵器を用いて攻撃を仕掛け、征服してしまうかわからないではないですか・・・、そちら側世界には我々の世界でも腕利きのマシン操作のベテランも逃げ込んでおりますしね。
そうなる前に、我々の植民地を守るための施策を講じさせていただきます。
そちら側世界が有する兵器と同等か、それ以上を目指して円盤を制作している所です。
そちら側世界が奪取した円盤の数に関しては、こちらとしましても正確には把握してはおりませんが、複数台存在することは間違いございません・・・、それも2桁近い数が想定されております。
そのため、我々側世界の植民地で各1機の円盤を製作することといたしました。
勿論、あくまでも専守防衛に徹することをお約束いたします・・・ですが、今後あまりに頻繁に領空侵犯されるようなことになりますと、やむを得ず攻撃することもあり得ることはご承知おきください。』
所長の声がコントロール装置を通して伝わってくる・・・ううむ、10地域が植民地化しているから10機の円盤という事か・・・、数では負けるな・・・。
「あくまでも植民地の防衛とおっしゃいましたが、どうしてそのことを植民地の住民の方たちに説明せずに独断で製作を始められたのでしょうか?
これでは植民地で生活する住民たちは納得できないでしょう。」
赤城が行政府の役人たちの顔をちらりと眺めながら、天を仰ぎ質問する。
『そうですね・・・ですが直接円盤を製作すると申し出れば、兵器開発ですから恐らく反対されたでしょう。
植民地の方たちは元々そちら側世界の人々ですから、植民地から無理やり独立させられたとしても、さほど生活に困るわけではないでしょう。
ですが我々にとっては死活問題なのです・・・、そのため、まずは防衛兵器の製作は必須であることを示すため、ある程度形ができるまでは極秘の上独断で行わせていただきました・・・、その上で本日ご説明させていただいております。』
所長の声は動揺することなく淡々と告げる・・・、うーん言われてみればもっともな理屈ではある。
「専守防衛とおっしゃっていますが、各地域でそれぞれ円盤を1機までしか製作しないと約束できますか?
さらに積み込まれるマシンは何台製作されるおつもりですか?
こちら側にも複数台の円盤は確保されてはおりますが、コントロール装置の台数の関係から、操作できるマシンの数には限りがあります。
対するそちら側世界は・・・、もともとこれらの装置の所持者ですから当たり前なのですが、複数のコントロール装置を用いて、ガードマシンの軍団を操作することも可能なわけです。
いくら専守防衛とおっしゃられても軍事力にこれだけの差があれば・・・、防衛を論じられてもにわかには信じることはできません。
円盤が完成次第、近隣諸国へ侵攻を開始されても困るわけです・・・、なにせ、そちら側世界では植民地化された国や地域で製作される半導体製品や工業製品を用いて、破壊兵器をいくらでも製作する能力を有しているわけですからね。
我々は巨大円盤やマシンなどの一部を奪い取りはしましたが、それは脅威の存在を消し去りたいという願望からの行動です。」
赤城がさらに弁を振るう。
『まあそうですね・・・、どこまで行けば公平という事が言えるか難しいところですよね。
ですが・・・、我々としてもこのままにしては置けないのですよ・・。』
向こう側世界も一歩も引かない構えの様だ。
続く
向こう側世界が武力均等というお題目を掲げたうえで円盤製造を始めてしまいました。このまま、向こう側世界との破壊兵器同士での戦闘へと拡大していくのでしょうか?また、生体での次元移送はどうなったのか?向こう側世界の生き残りの人々が、次々と移住してきてしまうのか?こちら側世界は少数の向こう側世界の人々に支配されてしまうのか?