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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
97/117

新入兵士

12 新入兵士

「では、始めっ」

『ビューンッ』赤城の号令とともに、目いっぱいのスピードで加速し相手のマシンめがけて突っ込んでいく。

 無論、マシンガンを放たれたら一巻の終わりだが、銃口を向けられた瞬間に反転しようとは考えている。


 しかし大抵の人間は、相手が思い切り突進して来たらまずぶつかる心配をする・・・、硬い外殻に守られたマシンと言えど、そのマシン同士の衝突・・・しかも高速での衝突となると、無事では済まないと思ってよけようとするはずだ。


『ヒュンッ』『ビュッ・・・ゴォッ』相手が右手側に躱そうとする瞬間、こちらもマシンを上方へ転回させる。

 そうしてすぐに小さなループで捻りを加えながら反転すると、相手の後方上側へと回りこむことが出来た。

『ガガガガガッ』恐らく目線を切ったので、こちらのマシンがどこへ行ったのかほんの一瞬だけど分からなくなったことだろう、中国側のマシンはペンキで真っ黄色になった。


「勝負ありっ」

 赤城が俺の勝ちを告げる・・・何とか勝てたが、もうこんな手は通用しないだろうな・・・。



 決勝戦はアメリカ代表選手との戦いだ・・・向こうも一撃でこれまでの対戦相手を粉砕してきた強者だ。


「始めっ」


『ヒュンッ』『ヒュンッ』『ビューンッ』『ビョーンッ』始まりを告げられた後、すぐに上昇してから大きく宙返りをして相手との間合いを一気に詰めようとしたら、向こうも反転してきたようで、ちょうど軌道が真正面となる。

『ガガガガガッ』『ガガガガガッ』すぐに少し左右にマシンを振りながら、マシンガンを放つと向こうもほぼ同時に撃ってきた。


『ビュンッ・・・ビューンッ』相手とすれ違った瞬間に旋回した後捻りを加えて反転し、相手の後方へ回り込もうとしたら、向こうも同様に反転したらしく、またもや正面を向いて対峙してしまった・・・、どうやら俺のマシン操作方法を研究している様子だ・・・、しかし、どうやって・・・?


 仕方がない・・・ちょっと卑怯だが・・・『ビュン・・・ビュー・・・』すぐに反転して敵に後ろを見せると、そのまま急上昇していく・・・、『ビュー・・・』向こうのマシンは俺が逃げるのを見てチャンスと感じたのだろう、俺の後方に貼りついたまま上昇を始める・・・。


 戦闘範囲は牧場として整備された範囲内という制限はあったが、とりわけ高さに関しては制限がなかったので、急上昇をした後方向転換して太陽に向かってなおも上昇する。


『ビュー・・』向こうも追いかけ始めるが、太陽と重なってしまうと照準が合わせにくいので、少し横方向へ展開して照準を合わせようとする。

『ガガガガッ』右方向へ展開した相手マシン中央に、黄色のペンキがぶち当たる。


「勝負ありっ」

 赤城がまたまた俺の勝ちを告げる。


 太陽に重なって飛ぶときに俺は180度マシンを回転させてバックで上昇していたのだ・・・、ほぼ完全な球体のマシンのため、前後の区別は銃口が向いている方か反対側かの見極めだけだ。


 反転してバックになっていれば、そのまま相手を的にできるのだが、追ってきているときに銃口を向ければ、相手にも伝わって避けられてしまうので、少し横へ逸れてくれるのを待っていたのだ。


 目線が切れた瞬間を狙って銃口を向けて射撃したのだ・・・、我ながらよくこれだけちまちまと姑息なやり方を思いつくものだと感心した・・・、それだけ相手が強敵だったという事だ。

 本当に・・・、あと何年どころか来年には危ない・・・。



「えー勝利できた国もできなかった国も、更に訓練を重ねて技術向上を目指し、また次回の大会への参加をお願いいたします。

 では、ささやかではありますが、宴席を用意しておりますので、歓談の上ご堪能ください。」


 最後は農場からいただいてきたブランド肉とブランド野菜に、ブランド米を使ったバーベキューパーティが催された。

 マシンを動かすのも、こういったスポーツ的な利用であれば、本当に素晴らしいことだと思う。


「オー・・・、新倉山さん・・ワンダフル・・、あなたはやっぱりすごい・・・天才だ。」

 パーティが始まったとたん、すぐにアメリカチームの代表者がやってきて賞賛してくれた。


「いやあ・・・、とんでもない・・・、運がよかっただけさ・・・。」

 謙遜でもなんでもない・・・、芝生には競技に使用したマシンを降ろしておいたが、俺の操作していたマシンにもいくつもの小さな黄色の点がついているのが見える・・・。


 つまり相手のペイント弾のほとんどがマシンをかすめて行っていたので、ほんの少しでも左右に振れていれば、直撃を食らっていたという事だ・・・、今回勝利したが半分以上は運がよかったと言える。


「ニンハオ・・・新倉山さん・・・、あなたすごい・・勇気ある・・・。」

 すぐに中国代表もやってきた。


「いやあ、とんでもない・・・・。」


「おお、新倉山さーん・・・。」

 さらにフランス代表も・・・。


「さすがだねえ・・・、一気に人気者だ・・・。」

 俺と一緒に賄用の肉を炭火で焼いている阿蘇が、嬉しそうに笑顔を見せる。


「いやあ・・・、俺がすごいわけでもなんでもない。

 なにせ俺の子供のころからテレビゲームというかコンピューターゲームというものがあって、シューティングゲームなど簡単に誰でも遊べた。


 前にもいったかもしれないが、こちらの世界でメジャーなゲーム機であるピンボールマシンですら、コンピューターシミュレーションとして遊べたわけだ。

 そんな環境でずっと暮らしていれば、こういった電脳ゲームはうまくなるさ・・・、まあ、やっぱり好きでなければいけないけどね。


 コンピューターですらまだ一般的ではないこちら側の世界で、コントロール装置とマシンを与えられて、たったの3年間でここまで上達した、彼らの方がはるかにすごいよ。

 俺と同じ環境で過ごしていたら、俺なんか足元にも及ばないほどのゲーマーになっていたと思うよ・・・。」


 お世辞でもなんでもない、本当の気持ちを述べておく。

 模擬戦はあくまでも技能向上のために行われた教育訓練の一環でもあるため、優勝や準優勝もなく表彰式もなかった。


 それでも親睦会を兼ねたバーベキューパーティは盛り上がり、どのような旋回をすると相手の背後に回りやすいだの、俺が行った太陽を使っての相手の目くらまし作戦は参考になるだのと・・・、みんな今日の模擬戦の話に夢中になって酒も大いに進んだ・・・。


 ちなみに円盤で帰るときは座標を入力するだけなので、酔っぱらっていても飲酒運転にはならないと俺は思っている。

 全員の自宅の座標を入力して、全員を送り届けてから明日の朝迎えに来るよう円盤に設定した。



「本日は、配属になった新入部隊員を紹介する。

 徴兵されて日本国軍兵士となったのだが、異次元世界との本格的な戦争状態となったため、我々自警団も日本国軍に編入されたわけだ。


 そのため、日本国軍から新入兵士が配属されてきた。

 4月から研修期間を終えて配属となる・・・、配属先は・・・新倉山君と同じく円盤やマシンコントロールを行う、総務部施設係だ。


 じゃあ大雪、入ってきてくれ・・・。」

 翌朝、円盤で赤城たちも迎えに行きながら自警団事務所に出勤すると、赤城に会議室へ一緒に行くよう誘われ、そこで新入部隊員を紹介された。


「えっ・・・?」

 それはかつて俺が懇切丁寧にピンボールマシンの攻略法を伝授した、高校生の面影を残した青年そのものだった。

 まだ新しい軍服は、着こなしにちょっとぎこちなさを感じるほどの初々しさだ。


「だっ・・・大雪君・・・?アメリカで武者修行をしていたんじゃなかったのかい?」


 まさか大雪君が帰国していたとは・・・、朋美はそんなこと一言も言っていなかった・・・だが、今年の4月にはどうしても休みを取って空港へ行こうだの、その後も何度か休みを取ってほしいだのと朋美にせがまれていたなあ・・・、ようやく1日だけ休みをもらったが、あの時は潮干狩りに行った。


 あれは順二を遊びに連れていくことだと思っていたが、大雪君関連の用事もあったのかもしれない。


「お久しぶりです・・・。アメリカ留学というか武者修行は2年間で終了して、今年の4月から日本へ帰国するとともに、留学期間中免除になっていた兵役が来て、日本国軍に入隊しました。

 でも・・・それが目的で帰国したのです。」

 大雪君は目をキラキラと輝かしながら、笑顔で答える。


「それが目的って・・・?日本軍に入隊することがかい?」

 ううむ・・・まあ軍隊志望の子がいても不思議ではないのだが・・・、でも以前はそんなこと一言も・・・。


「いえ、まあ・・・兵役は日本男子の義務ですから、それを嫌がることもないのですが・・・、留学を辞めてまでわざわざ兵役に就くために帰国したのは、以前順三さんが僕のことをマシン操作者に推薦するって言っていたことを思い出したからです。


 あの時は僕がゲームの大会で好成績を残してアメリカへ武者修行に向かうことになってしまい頓挫したのでしょうが、今でもその役目につくことが出来るかどうかを、今年度の兵役を免除するかどうかの問い合わせをいただいたときに、逆に僕の方から確認させていただいたのです。


 すると、入隊後すぐにでも任務につけるというご返事を頂いたものですから、急きょ帰国したという訳です。

 もうピンボールマシンの時代ではありません、コントロール装置を使ってマシンを操作する方が、よほど技量を必要とします。


 アメリカでもイギリスでもフランス・ロシアでも・・・、お隣の中国でもゲームのチャンピオンはみなこぞって国軍に入り、マシンコントロールの役務についているようです。


 アメリカの世界チャンピオンが優先的にコントロール装置を与えられて、マシン操作の訓練を開始したという事は聞いていたのですが、今年からは本格的に国軍に入隊してマシンコントロールに専念すると聞きましたもので、僕も遅れまいと帰国する決意をしました。


 何より、今世界の人たちのためになることですからね。」

 大雪君が少し恥ずかしそうに頭を掻く・・・、まあ言ってしまえばコントロール装置を用いて、ゲーム感覚でマシン操作をするという事なので、ちょっと公には言いづらいことではあろう。


 だが、そのようなことが世界中・・・というかコントロール装置が配布された国だけではあるが・・・、で行われているという訳か・・・、道理で模擬戦でのマシンコントロールが半端なかったわけだ。


 ゲーム好きが競ってやっているとは思っていたが、まさかその国のチャンピオンや世界チャンピオンまでもが参加していたとは・・・、本当に来年は俺の地位も危ういと言えるだろう。


「強力な武器を持つマシンを操作して、異次元世界の敵と戦うという役目は日本でも注目されていて、自警団のみならず徴兵された新人兵士たち全員のあこがれの任務と言えるだろう。

 多くのコントロール装置所有の国々では、どこも5名ほどのチームを組んで、1台のコントロール装置を共有化して訓練しているようだ。


 まあ、どこの国でも地下基地さえ見つかれば、コントロール装置の増加は見込めるわけだから、それを見越してのチーム編成と言うわけだな。


 日本では複数のコントロール装置を所有しているが、新倉山君は絶対に外せないし、阿蘇は作戦行動中での新倉山君の手順を他国代表者に伝える役目を負っているために必須だ。


 霧島博士が持つコントロール装置は研究のために必要だし、そうなると残るは予備として保持している1台という事になるわけだが、この1台を5人のチームに供給するというのが初期の計画だった。

 徴兵された新人兵士たちにアンケートを取り、希望者の中から選抜試験を研修がてら行っていた。


 もちろん希望者が多くて、各国軍基地ごとに霧島博士が作成したコントローラーを用いて捕獲したマシン操作の訓練を行い、上達の早い者たち10名を選抜した。


 当然その中のメンバーに大雪君も含まれていたわけだ・・・問い合わせを受けたときに、選抜メンバーに加えることはできるが、その後は実力次第という事で承知しておいてもらったからね。

 その中からさらに5名に絞ろうとしたのだが・・・、大雪君の能力が特に秀でていたので、急きょ計画変更して彼1名に決定した。


 他の4名の能力があまりに乏しくて彼だけになったのではない、十分に優れた技術を身に着けていたのだが、彼が突出していたわけだ・・・、たったの3ケ月間だけの・・・しかも一人1日1時間程度の練習で、もうすでにマシンで空中戦を戦えるくらいの実力を有している。


 1人にコントロール装置が与えられることにより、チームよりもさらに触れる機会が多くなり、より技術の向上が望めるという算段だ。」

 赤城が、3年前よりも一回りは体が大きくなった大雪君を前に押し出す。


「へえ・・そりゃあ凄いや・・・、僕なんか3年間の間に何十時間も練習を積んだけど、いまだに東京基地の壁にマシンをこすってしまうくらいだからね。


 この間模擬戦に出てくる各国代表者のマシン操作技術が、あまりにも凄すぎてビビってしまった。

 新倉山君はいるし、更に君が加わってくれれば、日本のトップは揺るがないで済みそうだね。」

 阿蘇がうれしそうな笑顔を見せる。


 いや、君の場合は決してマシン操作が下手なわけではない・・・、単にスピードを出したがるので、狭い東京基地の中での訓練に向いていないだけだ・・・と俺は思っている。

 とはいっても複数のコントロール装置の存在を公にはできないために、マシンの操作練習を外で大っぴらに行うことはできないのだが・・・。


 何にしても・・・、頼もしい仲間が入ってきてくれたわけだ。

 なにせピンボールマシンの技術だって、最初はもちろん俺が指導をしていたわけだが、途中から大雪君の技術は俺をはるかに凌駕していた。


 決して俺が年寄りで現役引退をして若き戦士を育てていた・・・とかいうわけではなく、どのみち俺はピンボールマシンのチャンピオンになるつもりなど毛頭なかったわけではあるが、それでも手を抜いてゲームを行ったことなど一度もない。

 大雪君の才能というか伸びしろが、俺よりはるかに優っていたという事なのだ。



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