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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
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講習会

11 講習会

「じゃあ、一旦戻って交代要員を乗せてまた来よう。」

 赤城の指示で、そのまま日本へと戻る。


 まあ円盤に乗れる・・・というか客室のシート数にも限りがあるから、交代要員までは運んでこられなかったからな・・・急いで日本国軍司令本部へ戻り、交代要員を乗せてフィリピンの工事現場へ運び入れる。

 同じことが各植民地で、ほぼ同時に行われているはずだ。


「これで、どうやら勝機が見えてきましたね・・・。」

 珍しく阿蘇が強気の発言だ。


「まあ、まだ何とも言えんな・・・向こうの所長さんだったかが言っていたように、こちら側に送り込んである攻撃兵器が、どのようなものが残っているかという事だな・・・。


 強奪マシンを操作不能にして勝ち誇っていたら巨大円盤が出現したように、さらなる強力な兵器を出現させられたら、またもや振り出し・・・いやそれ以下になってしまう。


 今までは植民地化した国や地域だけで十分な生活が賄えることと、そこを通じて移住してくればいいと考えていたのだろうから、極力こちら側世界との摩擦は避けたかったはずだ。

 なにせ、いずれは同じ星のもとで暮らすわけだからな・・・、あまり過激なことは避けなければならない。


 ところがそう考えて甘い顔を見せていたらつけあがってきたという訳だな・・・、向こう側世界の怒りは計り知れないものがあるだろう。


 移住が許されない状況になってくると、どのような報復手段に出ようとするのか、本当にそら恐ろしくなってくる・・・、向こう側世界の底が知れない状況だからな・・・、なにせ向こう側世界にも霧島博士が本当に存在するという事が分かったわけだし・・・。


 しかも向こう側世界の侵略行為の中心的存在・・という事の様だ・・・、まあ本人の意思かどうかは別にしてではあるが・・・。」

 赤城が、自分の前方の席に座る霧島博士に少し気を使いながらも、強大な敵の正体に恐れをなす。


「ああ・・・まさか次元の向こう側世界の私が、あのような恐ろしい装置を設計したとは・・・本当に信じられんことだ。


 だが、自分であればどのように考えるかを自問自答して、移送器やこの円盤の原理を解明するとともに、これから使用されるであろう新兵器に関しても、ある程度の予測を立ててみるよ。

 うまくいけば対抗手段を検討できるかもしれないからね。


 本当に、ご迷惑をおかけする・・・。」

 霧島博士は、申しわけなさそうにうつむき気味に答える。


「いえ・・・あくまでも向こう側世界の霧島博士という事ですからね・・・、それに先ほどの話しぶりから察するとやむにやまれず・・・といった感じ・・ですからね・・・、世界規模の食料危機に直面して致し方なく・・・といった緊急避難的な考えをもっていたのではないかと・・・。」


 あっさりと自分を首謀者の一人と認めてしまうし、本当に悪気がない・・・いや悪いと思って反省しているのか?

 よくはわからないが、それほど悪い人だという印象は受けなかった。


「本当にそうですよ・・・なにもこちら側の霧島博士が、反省なさることでは決してないですよ。

 じゃあ、俺たちは軍司令部で降ろしてもらうよ。


 君たちは悪いが、引き続き各国の隠し農場への資材運び業務に戻ってくれ。

 並行して植民地へ送り込んだ部隊への食料や医薬品など物資補給を行う必要性はあるが、今までのように毎日の監視業務とはならないから少しは余裕ができるはずだ。」


 交代要員を送り込んだ後、赤城がうれしいことを言ってくれる。

 これで、少しは休みが取れるようになるという事だ・・・。


「そういえば・・・せっかく無線機を持ってきているし、各円盤とつながるわけだから悪いが阿蘇・・・、円盤の操作者たちにマシンの操作に関する講習会を呼び掛けてくれないか?


 向こう側世界と加工貿易をしていた当初は、世界中を各国の加工状況を監査して回ったり、忙しかったこともあってコントロール装置を配布したままで、ろくに操作手順の説明もしていない。


 コントロール装置のヘルプ集などからある程度読み取って操作などの練習をしているだろうが、今更ながらだがマシンの操作手順をある程度詳しく説明したい。

 今後植民地化された国や地域との関係で、先ほどのようにマシンとの戦闘になる場面も十分に考えられる。


 そうしてそれは俺たちだけとは限らないわけだから、他の円盤に付属のマシンもそれなりに戦闘に参加できるよう、練習しておくことは必要と考えるからね。

 模擬戦など含めて大々的に講習会を行おう。」


 マシン操作など、コントロール装置の台数が少ないことからあきらめていたのだが、先ほど阿蘇のマシン操作を見ていて、十分に戦える技術を身に着けさえすれば個々の円盤のマシンでも対抗できるのではないかと思いついたのだ。


「ああいいね・・・分かったよ。呼びかけておいて、講習会や模擬戦の日程はおいおい各国と詰めていくことにしよう。」

 阿蘇もうれしそうに笑顔で無線機に向かって呼びかける。


「植民地の今後の対応次第ではあるが・・・、我々に協力してくれるようになれば半導体部品など供給してくれるようになるかもしれない・・・そうなれば設計は無理だが、部品配置など完全コピーしてコントロール装置を作り上げることも不可能ではないだろう。

 そのためマシン操作などレクチャーしてくれるのはありがたいね。」


 霧島博士が今後の展望を述べる・・・、ううむ・・・確かに植民地の住民の協力が得られるようになれば、コントロール装置の量産も可能となるだろう。

 そうなってくれれば、一気に形成をこちらに傾けさせることも夢ではない。


 今回の作戦は目論見違いもあり(俺の提案であり、大変申し訳なく思っている・・・)、半分成功半分失敗といったところだが、それでも植民地化された地域の住民たちを代表する行政府が、向こう側世界からの移住に対して反対の姿勢を見せてくれたことはありがたい。


 植民地化された地域に、世界政府側から部隊を駐在させることが出来たことは大きいと考える。

 さらに本当に巨大娯楽施設を建設して観光客を呼び寄せるのであれば、それは世界政府と植民地化された国や地域との新たな交流であり、それを通して関係改善をしていければいいのだ。

 未来は明るい・・・希望が見えてきた。



「じゃあ模擬戦を行う前に、注意事項を2つ3つ。

 ガードマシンのマシンガンもレーザー砲も実弾は入っていない。

 マシンガンはペイント弾でレーザー砲は出力を最小に絞っている。


 レーザー光線の波長に反応する塗料をマシン表面に塗り付けてあるから、こちらも当たれば変色する。

 ガンカメラなどで着弾の有無を判定する方法もあるが、こちらの方がより実践的だし、目で見て分かるからわかりやすいだろう。


 いくら模擬弾とはいえ、マシン自体のパワーはそのままだし、スピードも制限は加えない。

 そのためマシン同士の衝突や周りの山肌への接触などは、マシンが破壊される危険性があるので十分に気を付けていただきたい。


 さらに地上にいる動物へは絶対に発射しないように・・・、いかにペンキでも生身の体では死んでしまう恐れがあるため、白熱化するバトルで熱くなっても厳守する事。

 まあ注意事項なんてものはそんな程度だな・・・、要するに相手のマシン中央にペンキで色を付ければ勝ちというシンプルルールだ。


 円盤を奪取してガードマシン及びハンドアームマシンがある程度確保されてからは、各国ともにマシン操作の練習は続けていると思っているし、本日の講習会の状況を見ても十分に熟練していると考えている。

 その成果をここで、いかんなく発揮していただきたい。」


 雲一つない晴天のもと、赤城が無線機のマイクを持って激励のコメントを発する。


 ここは北海道の旧隠し農場跡地・・・、北海道に2ケ所あるうちの1ケ所の農場だったのだが、あまりにも市街地から遠すぎて、とても道路整備などのインフラ構築は無理という事となり、農場としての利用は困難として放置されたままとなっている場所だ。


 この農地で飼育されていた家畜と作物は、もう一つの比較的人の生活圏に近い農場に集約されることとなった。

 家畜に関しても作物に関しても、恐らくその土地の気候風土に合わせて最適な品種に改良していると想定され、他地域での飼育や栽培は見送られた。


 それでも山肌の一区画の原生林は整備されており、農場としての体裁は保っているので、急きょハンドアームマシンを使って雑草の刈り取りを行い、マシンの講習会会場として使うことになったのだ。

 8機の巨大円盤が整列して浮いている風景は、山間部の盆地然としたなかで異様な光景とも言える。


 全員が円盤内の操作室からマシンを操って講習などを行っていたので、はたから見れば誰が何をやっているのか、まったくわからなかっただろう・・・完全な山の中なので、はたから見る人もいないのだが・・・。


 午前中はマシンの旋回方法や銃撃のタイミングなど、中級レベルの講習を予定していたのだが、どこの国でも十分な技術を備えているようで不要となり、上級レベルの模擬戦が早々と開催されることとなった。


 コントロール装置を配布した後も、俺たちは休むことなく世界各国を回って食肉加工の監査などを行っていたのだが、他国ではそのような活動もなく、マシンの操作技術取得に専念できたわけだ。

 円盤奪取してからは、おそらく同様に忙しかったとは考えるが、こちらはもう何年もマシン操作から離れて、植民地のフィリピン関係で2度ほどマシンの戦闘を行った程度である。


 もちろん今回講習のためにとりわけ操作練習を行ったわけではない・・・、なにせ、そんな暇があれば休みをとれとの朋美の圧力が日に日に強くなってきているのだ。

 結局休みはとることはできなかったが、今月末には少し手が空くだろうと、赤城からようやくお許しが出たところだ。


「じゃあ、頑張ってくれ・・・君が優勝してくれなければ、今後の作戦行動のメインサポーターの担当国が変わってしまう恐れがあるからね、頼むよ。」

 いきなり阿蘇から葉っぱをかけられてしまう。


 模擬戦は当初阿蘇に参加させるつもりでいた・・・、別に俺は特別だとか言いたいわけではなく、あくまでも技術向上のための大会だから、俺よりも阿蘇が参加した方が成長が望めるのだからふさわしいとしていたのだ。


 そのためマシンの操作手順などの実習に関しては阿蘇も参加していたのだが、他メンバーのマシン操作技術があまりにも高すぎるため、阿蘇はしり込みして俺の出番と相成った。


 この前、敵マシンに体当たりして俺の窮地を救ってくれた操作を見る限り、全然いけていると俺は思っているのだが、とてもかなわないとすぐに参加NGを申し入れされてしまった。

 仕方がないので俺が参加することになったのだが、ここ数日も阿蘇の特訓だけで俺はまともにマシンに触ってはいない・・・。


 マシン操作に関しては、俺の経験は1年以上あるわけだが、コントロール装置を各国に配布してからの3年間というもの、俺は世界中の国々を訪問して回っていたため、マシン操作をすることなどほぼ皆無だった。

 たまに阿蘇がどうしても練習したいというときに見てやる程度で、俺自身の練習というか技能向上のための訓練など一切していない。


 それでもコンピューターゲームなど含めると十数年の経験(マシンのコントロールとは多少違うが・・・)はあるので確かに一番長い経験を持っているのだし、そのような目で見られているわけだ。

 このところ触っていないからなんて言い訳は通じないだろうな・・・。


「では・・・、はじめっ」

 牧場上空にてマシンが相対し、赤城がスタートの合図を出す。


 対戦相手はフランス代表・・・フランスでは5人のゲーム好きの軍人たちが交代でマシン操作の訓練を行い、そのうち最も秀でた選手を代表としてきたという事だ。

 もちろん円盤を取得してからは、円盤の人工知能でコントロールしたマシン相手に模擬戦を繰り返していたという事らしい・・・、初戦から強敵だ。


 対戦空域は牧場として整備された空間のみで、そこを外れてしまうと森林に生息する野生動物を脅かしたりする場合があるため、厳しく制限されることとなった。


『ヒュンッ』『ヒュンッ』『ガガガガガッ』お互いに反転しあって姿勢を戻そうとしたが、相手は大きく弧を描くように回り込んできて、俺の背後につくといきなり攻撃を仕掛けてきた。


『ヒュンッ・・・ビューンッ』すぐにかわして上昇すると、ループを描くようにして大きく旋回して相手の背後に回り込もうとするが、向こうの方が俺と同様に旋回して、俺の背後位置をキープしようとする。


『ガガガガガッ』『ヒュンッヒュンッ・・ヒュッ』仕方がないので、左右にランダムにジグザグ飛行しながら、的にならないよう逃げ回り、一旦急降下してから地面すれすれで急上昇し、そこから小さく横旋回して相手の側面側に何とか回り込むことが出来た。


『ピッ』照準を合わせレーザー砲の発射ボタンを押す。


「勝負あり・・・勝者・・・日本!」

 赤城が勝負ありを告げる・・・、相手のマシン中央部の塗料が黄色く変色している。

 俺のレーザー砲が照射された証拠だ・・・、ふう、危なかった・・・もう少しでやられるところだった。


「勝負あり・・・勝者・・・」

 模範試合とは言わないが、俺の第1試合を皮切りに続々と各国代表同士の模擬戦が進んでいく。


 どの試合も好試合というか・・・マシンのコントロール技術はすごい・・・、恐らく彼らだったら俺が受けた就職試験にも合格していただろう。

 こんなの、あと1年もたてば、恐らく俺なんかの技術では到底太刀打ちできない奴が出てくるのだろうな・・・、とか思うのだが・・・。


 阿蘇の言う通り、向こう側世界との戦闘行為においては、やはり未知なる技術に対抗しなければならないため、一応一日の長である俺がいる日本が主体となって作戦を練り、作戦行動自体でも都度細かな指示を出す、いわゆるメインサポーター役を務めることとなっている。


 だからこそ負けられないのだ・・、常にどんな状況下でも成功する最善の行動の指針を提案できるという事を実証し続けなければならない。

 ううむ・・・金メダルを義務付けられているお家芸の選手たちのプレッシャーが、今こそわかる気がする。


 2回戦というか準決勝は、中国の代表との戦いとなった。



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