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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
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霧島博士

9霧島博士

 マシンは急降下して深く掘られた工事現場の中へと入り、爆弾脇へと進む。

「そんなことはさせませんよ・・・植民地の危機です・・・、ガードしてください!」

 所長が叫ぶと、現場の上方から2台のガードマシンが飛んできた。


「2台のガードマシン相手は無理だろ?ハンドアームマシンは僕が操作して何とか逃げまくっておくから、君はすぐにガードマシンを起動させて、現場へ飛んでくれ。」

 すぐに阿蘇が前に出てきて、自分のコントロールマシンのカードをスロットに接続する。


 大丈夫かと思いながらも他にいい案が浮かばないので、阿蘇のユーザーネームにハンドアームマシンのコントロールを移すと、すぐに円盤内のガードマシンを起動させて工事現場へ向かわせる。


『ヒュンッヒュンッ』『ガガガガッ』『ガガガガガガッ』降下中にカメラで確認すると2台のガードマシンからの攻撃を、ハンドアームマシンが逃げ回っている。

 へえ、うまいものだ・・・とか感心しながらさらに加速する。


『ガガガガガッ』『ガガガガッ』『ヒュンッヒュンッ』1台のマシンはハンドアームマシンの後方につくと、すぐに数発マシンガンで攻撃してから反転し、もう一度ハンドアームマシンを新たな軌道で追い始める。

 もう一台のガードマシンは、ほぼハンドアームマシンと同じ航路を進みながら、時折マシンガンで攻撃を仕掛けているようだ。


 阿蘇のコントロールがうまいのか、マシンガンで攻撃される瞬間に急旋回するため的を絞らせないというか、何とか破壊されずに逃げ続けている様子だ。

 すぐにハンドアームマシンと同じ軌道で追い続けているマシンの動きを予想し、その少し前方めがけてマシンガンを発射。


『ガガガガッ』『ヒュッ・・ヒュンッ』突然の予期せぬ攻撃に戸惑ったのか一瞬マシンの動きが止まり、躊躇した後に反転した・・・『ガガガガガッ』『ドッガーンッ』しかしその先には反転先を予想した俺のガードマシンが待ち構えていた・・、一撃で敵ガードマシンを粉砕した。


『がガガッ』『ヒュンッ』さああと1台と思ったとたんに、後ろから攻撃された・・・危うく避けたが危なかった・・・。


 反転して敵の後方へ回り込むつもりだったが逆に後ろに疲れてしまう・・・、どんな操作しているんだ?とか考えながら『ヒュンッ』今度は鋭角に反転してその後大きく弧を描くように上空を大きく回って、先ほどの地点の反対側に回り込む・・・が、敵ガードマシンはもうそこにはいない。


『がガガッ』危ない危ない・・・一瞬遅れていたら直撃を食らっている所だった、辛くも敵攻撃をかわし、今度は急上昇急降下を繰り返し、そこから横方向へ移動して回り込む・・・が、またもや敵マシンが見当たらない。


『ガゴッ』すると左後方で大きな接触音が・・・、反射的にガードマシンを180度回転させてそのままマシンガンを発射する。

『ガガガガガッ』『ドッゴォーンッ』ドンピシャのタイミングでそっぽを向いたガードマシンに直撃し破壊できた。


「やっぱりすごいねえ・・・。」

 阿蘇が左のハンドアームが破壊されてブラブラになったマシンを操縦しながら近寄ってくる。


「ああ・・・、君が助けてくれたのかい?」

 その姿を見る限り・・・、やったことは想像がつく。


「いやあ・・・君が狙われていたようだから、すぐ近くだったし体当たりしてみようかと・・・、うまくいってよかったよ。

 1台目はうまく仕留められたけど、一度バックを取られるとなかなか反撃できないだろ?


 僕のマシンに注意が向いていないと思ったからやってみたけど、上手くいってほっとしたよ。」

 俺のすぐ目の前で中腰になってコントロール装置を操作していた阿蘇が、照れくさそうに頭を掻く。


 やはりそうか・・・以前東京基地の中でマシン操作の練習を繰り返したのだが、阿蘇はなかなか上達しなかった・・、不器用と思っていたのだが、どうやら東京基地が狭すぎたのだろうな・・・。


 阿蘇はすぐ高速飛行にしたがるものだから・・・・狭い東京基地ではすぐに壁に激突してしまったのだ・・・、この工事現場は十分に広いので、高速派の阿蘇にはうってつけと言えるのだろう・・・。


「それはそうと、そのアームで無停電電源装置のスイッチを操作できるかい?」

 ううむ・・・、もう1台ハンドアームマシンを降ろさなければならないか?


「ああ・・うん・・・、右ハンドは動くみたいだから何とかなりそうだよ。」

 阿蘇がハンドアームマシンを無停電電源装置のところへもっていく。


 さて・・・爆弾を起動させなければならないのか・・・?コントロール装置で起爆スイッチを入り切りできるって言っていたな・・・、さあどうしようか・・・困り果てて赤城の顔を見ると・・・ウインクを返された。

 ううむ・・・、まあ起爆しないでおこう・・・。


「じゃあ、電源スイッチを入れるよ。」

 次元移送装置の電源プラグがつながっている無停電電源装置のスイッチを、阿蘇がハンドアームマシンを操作して、ハンドアームの人差し指で押す。


『カチッ』なんて音が円盤まで聞こえるはずはないのだが、瞬時に巨大爆弾が消失・・・いや、しない・・・爆弾は次元移送装置の枠に囲まれた中に未だに滞在している・・・、おかしい無停電電源装置のバッテリーは満タンのはずだ・・・、ガードマシンを動かしてコントロール装置画面に映し出しても、フル充電表示でしかも電源供給が開始されている。


「爆弾は送れたかね・・・?送れなかったのじゃあないのかね・・・?

 ハンドアームマシンを送って、施設の中を映し出してくれ。」


 コントロール装置のスピーカーから向こう側世界の声が聞こえてくる・・・ううむ、次元移送装置の故障を予言していたのか?

 そうして工事現場上方から今度はハンドアームマシンが飛んできた。


「戦う意思はないから攻撃しないでくれ・・・確認したいだけだ・・・。」

 すぐに向こう側から攻撃しないよう申し入れをされる。


「やはりな・・・この工事現場の座標に、我々側のフィリピンの核シェルターはありはせん。

 地下鉄などの地下空間すらないはずだから、土で埋まっているだろう。


 そのようなところに物質を移送できないから、次元移送器はまず移送先に送付物を出現させられる十分な空間があるかどうかの確認を行う・・・、ビームの圧力で空間が確保できるか移送時の出力変動を見ているのだが、どれだけパワーをあげても向こう側に到達できないと判断すると移送を中止するわけだ・・・。


 指先ほどの小さなものであれば、岩盤や地下深くで高圧縮されていなければ、移送ビームの圧力が高いので送ることは可能だが、大きなものは無理だ。

 次元移送器というものは次元間の空間を入れ替えるのではなく、一方的にエネルギー収束ビームで物質を送り付けるだけのものだからね。


 物質で詰まっている空間に別な物質を送り込むと、そこの物質とおかしな化学変化を起こしたり、物理的混乱を生じさせる恐れがあるため、あらかじめ確認することにしている、いわゆる安全装置だ。

 起爆スイッチを入れて送ろうとしなかったのが幸いしたようだね。」


 ハンドアームマシンで爆弾が送られていないことを確認したのか、先ほどの声が次元移送装置の原理を説明してくれる・・・ふうむ・・・、まず移送先を確認するのか・・・、まあそうだよね・・・送れなかったら困るよね。


「どうやらここにシェルターはなく、仮にうまく巨大ビルが作れた場合、同じ座標に地下空間を向こう側の世界でも作って、そこを経由して人々を移住させて来ようと計画したのだろう。


 こちら側の世界に地下空間を作ったように、非常に小さな移送器を最初に送りつけて、移送先の土砂をその後移送させ続け、ある程度空間が出来たら少し大きめの移送器を送る・・、という事を繰り返していけば大きな地下空間を作ることは可能だからね。


 次元間だけではなく、同一次元内でも移送可能なのを忘れていたね・・・。」

 赤城が悔しそうに唇をかむ・・・霧島博士が懸念していたのは、このことか・・・。

 それにしても・・・、やはり用心深い・・・。


「あっあなたは・・・、霧島博士・・ですか?」

 思わず口を突いて出てしまう・・・。


「新倉山さん?あなた霧島博士をご存知でしたか・・・?」

 すぐに所長の驚いたようなハイトーンボイスが・・・。


「いえ、そうではなくて・・・。」

 まさかこっちにも同じく霧島博士が・・・とは言い出しにくい・・・しまったな・・・。


「はっはっはっ・・・、恐らく円盤とか隠し農場の機材の制御基盤のパターンに書かれている、私のサインでも見つけたのだろう。

 学生たちが私が設計した基板を作成するときは、嬉しそうに私のサインを転写していましたからね。


 最近は基板自体が小さくなってしまってサインなど記載するスペースすらなくなってしまったのだが・・・、昔の基盤にはそういったある程度の遊び心が含まれていたよね・・・。


 いかにも私が霧島だ・・・、巨大円盤の制御系や次元移送器の基本設計は私が行った。

 あなたたちが知りたがっている、次元を超えた強奪行為という暴挙の首謀者の一人と言えるだろうね。」

 すると・・・まさかの回答が・・・。


「きっ・・・霧島博士・・・、今そんなことおっしゃらなくても・・・。」

 所長の慌てたような声が聞こえてくる。


「ああ・・構わないよ・・・、いくら食糧危機にあえいで数十億の人々が苦しんでいようと、他の世界から強奪することには正当性を見いだせないのは百も承知している。


 私は罪深いことをしてしまった・・・、そうして今も人々の命を守るため、他の世界の人たちを苦しめようとしている・・・。」

 コントロール装置の向こうから、嘆き悲しむ声が・・・やはり霧島博士だ・・・。


「と・・・ともかく・・・、今回の行いは植民地への侵略行為ですよ。

 我々側の世界の植民地となった国々は、世界政府からは独立した国や地域という事を宣言してあるはずです。

 そこへ円盤を使って侵入したどころか、爆弾を置くとは・・・許されざる行為です。


 これはそちら側世界の法律に照らし合わせても、犯罪行為であると考えますが、いかがでしょうか?」

 すると業を煮やしたのか、所長が勢いよくまくし立ててきた・・・、これ以上霧島博士に話をされるとまずいという判断からだろう。


「そうですね・・・確かに独立した行政機関である植民地は、そちら側世界のいわゆる前線基地と言いますか属国と言いますか、支配下にあるわけです。

 そこへ我々が侵入するという事は、許されざる行為と言えます。


 ですが・・・我々の目的は植民地化された国々への攻撃でも破壊行為でも、ましてやその地域を独立させるための活動ですらありません。

 ただ単に、その地域へあなたたちそちら側世界の人々が、移住してくるのではないかという予測の元、その行為を阻むべく行動したわけです。


 つまり、我々の行為はあくまでも我々と戦争中であるはずの、あなたたちそちら側世界の人々に対しての妨害行為であり、十分な正当性を持っていると考えておりますよ。」

 すると、赤城が所長の問いかけに対して冷静に答える。


 確かに、こちらとしては植民地化された国や地域内で、高性能爆弾を爆発させるつもりなど毛頭なかったわけだ。

 あくまでも向こう側世界が建設中のビルの地下スペースを使って移住してくることを阻もうとしただけで、あわよければ、向こう側世界のシェルターが同じ座標上にあることを信じて、高性能爆弾を送り込めればいいと考えていただけだ。


 もちろん俺は爆弾を送り届けることが出来たとしても起爆するつもりは毛頭なかった、あくまでも脅しとして降伏させる目的で使おうと考えていたわけだ。


 食料物資供給の窓口となっている植民地のシェルターを捕虜にしてしまえば、もう向こう側世界に生き延びる術は降伏しかなくなるわけだ。

 そうなれば、ついに首謀者を明らかにすることを要求できる。


「そんなことをおっしゃっていますが・・・実際にこの施設の地下と同じ座標に、我々の世界の地下シェルターはなかったではないですか・・・、とんだお門違いの推測をした上に、そこで働く人々を危険にさらし、工事を妨害する行為をどう釈明されるおつもりですか?」

 なおも強気で所長が突っ込んでくる。


「そうとも言えないでしょう・・・先ほどそちらの霧島博士が認めたばかりですよ・・・、生体の次元間移送の可能性をね・・・、いかに植民地化された国や地域とはいえ、そちら側の世界から人々を移住させて自由に生活させるわけにはいかない・・・。


 これはそちら側世界とこちら側世界の戦争なのです・・・、いかにそちら側世界の支配下にある植民地と言えども、本当の意味での侵略行為に対しての防衛であるのだから、こちら側に正当性はあると判断しております。」

 すぐに赤城が反論する。


「まあそうだね・・・、自由の効かない地下シェルターでの厳しい生活の中で、食料物資の供給を植民地化された土地から受けるのは目をつぶるにしても、そこへ次元を超えて移住してくることは許さないという事だね。

 そうするにはまず非道な行為を行った首謀者を明確にして、正当な裁判の下罰を受けさせろと主張している訳だ。


 そうしない限りは、どんな手段を使っても妨害するという訳だ・・・、なるほど一理ある・・・。

 だがそれも・・・、次元移送器を使っての生体移送が安全で確実に行えるという事が前提となるわけだがね・・・。

 まあある程度目途は立っているのだが・・・、まだ実験段階であることは正直に申し上げておく。


 その上で一つお聞きしたい・・・植民地化された国や地域では今も復興の最中であり、各地で施設建築などインフラ整備が行われている。

 それらの工事すべてを中止しろと言われるわけかね?いかに植民地化されたとはいえ、そちら側世界の人々が暮らす地であり、その人々にも豊かに生活する権利があるはずだ。


 それらをすべて否定して、今のままのあるだけの施設で今後何年も何十年間も生活しろとおっしゃるわけかね?

 それとも建築に際して、いちいちあなたたちの世界政府とやらに建築申請を行って許可を頂くのかね?

 地下施設は備えていないかとか、深さは何メートル未満にしなければならないとかの、制限を設けるのかね?


 掘削マシンを今建造中で、完成次第高速道路のトンネルや地下鉄などの工事も始めようと計画しているのだが、それらの工事に対して全て妨害行為を行うのかね?」

 向こう側の霧島博士が穏やかな口調で、一つ一つ確認するかのように問いかけてきた。



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