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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
93/117

爆弾転送

8 爆弾転送

『ピィーピィー』操作室内にアラームが鳴り、円盤が目的座標へ到着したことを告げる。


「7ケ国ともに最初の座標に到着した模様です。」

 阿蘇が他国の状況を告げる。


 円盤下部のカメラを起動してズームアップすると、市街地のほぼど真ん中に長方形の巨大な穴があけられている。

 穴の周囲はすでにコンクリートで固められており、先日まで甲高い音を響かせていた基礎用のくい打ちボーリングマシンはもう撤去されていて、地下空間にはコンクリート製の太い柱を作るための巨大な枠組みが作られ始めていた。


「幅百メートルで長さが2百メートルで深さが30メートルか・・・、確かに向こう側世界の核シェルターがあってもおかしくはない深さと言えるね。」

 現場に来て実際に工事現場を確認するのは初めての霧島博士が、円盤のカメラを通じてコントロール装置の測量機能を使用して工事現場の規模を測定する。


「では・・・、向こう側世界からこれらの施設を通じて移住してこようと計画していることで間違いないですね?」

 赤城が最終確認するかのように、霧島博士の顔をのぞき込む。


「まあ断定はできないが、現在建築中の施設を通じて移住してくる可能性は、極めて高いと言わざるを得ないという事だね・・・。」


 霧島博士はあくまでも推定であることは念を押して、可能性として評価している様子だ。

 俺としては、ほぼ100%決まりなのだが・・・。


「では、まず爆弾を送り込んでくれ・・・、警告して作業者やマシンを退避させてから行うように。

 ここで人的被害や器物破損など暴力行為は避けなければならない・・、安全を確保しながらも、それでも速やかに事を行うように。」


 赤城が被害を発生させずに爆弾を送り込めなどと、とんでもなく難しいことを要求してくる。


 だって・・・今だってアポなしだぞ・・・、そりゃあ正式に宣戦布告はしたと聞いてはいるが、首都圏の工事現場を攻撃しますなんてこと、言ってはいないはずだ・・・。

 さて、どうやるのがいいのか・・・?


「現場の穴の大きさから言って、円盤はぎりぎり中に入っていけないことはないだろう。

 爆弾を安全に降ろすためにも、できるだけ低空で転送した方がいいとは考えるが、それでも円盤が壁にこするようなことになってはまずい。


 地下空間には入らずに、地上すれすれまで降りる程度にした方がいいだろうね。

 そうすれば、スピーカーで警告することも可能だろう。」


 算段を検討していると、霧島博士がアドバイスしてくれる。

 まあそうだな・・・、できるだけ地上に近づいて行って、そこから避難するよう呼び掛けてみるか・・・。


「ようし、それではHに10を入力して、高度を下げたらすぐに警告を発して工事現場の作業員を追い出す。

 その後すぐに爆弾と次元移送装置を転送ビームで転送したら、すぐに高度5千に上昇した後、次の座標を入力し、Haはまた1万でHは5千として次へ移動する。」


 次の手順を指示したのちこちらも高度を下げて、円盤の下部スピーカーをONにして赤城にマイクを手渡す。


「日本国軍だ・・・本日、フィリピン行政府には正式に宣戦布告を通達した。

 ここは危険だから、すぐに避難してくれ・・・これから爆弾をそちらに転送する!」

 そうして赤城が大声で下の工事現場で働いている作業員に警告する・・・、が、誰も逃げようとしないな・・・?


「ああ・・・じゃ僕が英語で・・・、エクスキューズミー・・・!」

 見かねた阿蘇が英語で俺の持つコントロース装置のマイクに向かって呼びかけ始める。


 上空に浮いている円盤にも気づいたようで、すぐに作業員とハンドアームマシンたちが避難するのを確認すると爆弾と次元移送装置を1セット転送し、すぐに上昇する。

 そうして次の目的地へと向かう。


『チンコン、チンコン』予想通り、通信を受信したのでコントロール装置の通信機能をONにする。


「新倉山さん!1度ならずや2度までも・・・・大変なことをしてくれましたね・・・、爆弾を送り込むとは・・・これは全面戦争に発展もやむなしという事でよろしいわけですよね?」

 すぐにコントロール装置から懐かしい声が聞こえてくる・・・。


「所長・・・お久しぶりです・・・、ちょっと忙しいので大変申し訳ありませんが、しばらくお待ちください。

 こちらから呼びかけますから、それまで待っていていただけませんか?恐らくあと10分か15分くらいです。

 その間、転送した爆弾には触らない方がいいですよ・・・、モーションセンサーとかいろいろとついているようですから、近寄っただけでも爆発します。


 作業員の方たちも危険なので、退避していただくようお願いいたします・・・マシンも近づけないでください、マシンには特に強く反応して爆発するようにしてあるみたいです。」

 一方的に話した後、通話機能のスイッチを切る。


 円盤はすでに次の目的地マニラについているので、ここでも高度を落として阿蘇に警告を発してもらい、作業員を避難させてから爆弾と次元移送装置を送り込む。


 それから次のダバオにも同様に爆弾を送り込んだ・・・、不思議とマシンなどによる抵抗は起こらなかった。

 まあ、マシンを近づけると爆発すると言っているわけだから、普通は近づかないわな・・・。


「お待たせいたしました、すみませんちょっと忙しかったものですから。」

 3ケ所の工事現場に爆弾を送り込んだ後、マニラ上空へ戻り通信機のスイッチを入れる。


 各国の進捗状況は阿蘇のところに続々と入ってきている様子だが、どのみち2ケ国は後になるため、全てが同時に終わらなくてもいいのだ・・・、まずは代表して我々が向こう側の世界と交渉に入る。


「あなたの忙しいと言っていたのは、植民地の娯楽施設建築現場に爆弾を転送することですか?

 フィリピンのみならずイタリアやギリシャなど、各植民地に高性能爆弾を送り届けているようですね。


 我々は平和的に物事を解決しようと考え、先の農場襲撃の件は不問といたしました。

 既に主たる使用をやめていた円盤を奪取された件も問題視しないこととして、以前と変わらないお付き合いをさせていただいていたのに、一体何が不満なのでしょうか?


 これ以上の暴挙を働きますと、こちらからもそれなりの報復措置を行わざるを得なくなってしまいますが、よろしいのでしょうか?」

 通信を回復させた途端に、所長からお叱りの言葉が・・・相当にお怒りの様子だ。


「もともと平和的な交渉やお願いで始まったことではなく、次元を超えての強奪行為・・・最初は巨大円盤によって家畜や農作物などの強奪を行い、それでは間に合わなくなると各地の市場から直接食料をマシンにより強奪実施・・・、と本当に非道な行為の連続でしたよね。


 今更、少しばかりの期間平和的な姿勢を見せたところで、そちら側世界の信頼が向上するという事はないようですよ。


 とりあえず先ほどの質問にお答えいたしますが・・・、植民地化された諸国から報告が行っているはずですが、世界政府は植民地化された国々と次元の向こう側のそちら側世界に対して、宣戦布告をしたはずです。

 日本からはフィリピン国政府に通達をいたしました。」


 とりあえず、長年行われてきた強奪行為が正当化されてはいないという事を伝えておく。

 なにせこちらからは、まだ爆弾を転送しただけで爆発はさせていない・・・、1人も犠牲者は出していないのだ。

 それから宣戦布告を行ってから攻め込んだことを重ねて強調しておく。


「今更になって、過去のことを蒸し返すおつもりですか?

 それだったら世界規模の核攻撃を行いこちら側世界のほとんどの人々の命を奪った、そちら側の行為をどうお考えですか?


 いまだに核の放射能の影響が残り、地上へ出ることは許されない状態なのですよ。」

 やはり向こう側の世界が死の世界となった、世界規模の核攻撃をついてきた。


「でもそれの元々の原因も、そちら側の世界がこちら側の世界へ何も断らずに強奪行為を繰り返していたからであって、その反撃としての行為であるのですから、俺としては正当防衛ではないかと考えていますよ。」

 事の発端は全て向こう側に世界にあるのだから、その反撃に対して文句を言う資格などないと俺は思っている。


「だとしてもですよ・・・思わぬ反撃にあい、こちら側の世界だってそちらの世界で生きている人たちのことを考えるようになったわけです・・、そうして我々の犯したことについて反省したわけです。

 だからこそ、そちら側世界からの反撃に対する報復攻撃は、以降の離島攻撃に対するごく一部のみとしました。


 我々が生活するための物資の強奪は継続させていただきましたが、マシンの制御を妨害され捕縛されて以降は、こちらの立場を明確にして、そちら側世界との通商関係構築に乗り出したわけです。


 当初、その食料に毒物を混入させてきた国々に関しては攻撃して植民地化致しましたが、今ではそこに住む人々に感謝されているくらいですよ。

 我々の科学力によって便利な社会生活を送ることが出来て、夢のようだと喜んでいるのですよ。」


 所長が現状の植民地事情を主張してくる・・・、確かに直接確認しても向こう側の世界を悪くいう人たちはほとんどいなかった。


「植民地化する段階で、その国の9割がたの人々を犠牲にしておいて、感謝されているもないと考えますよ。


 さらに・・・、今度は移送器を改良して生きたまま次元間移送ができるようになったようですね。

 娯楽施設建築などと銘打って観光客を多数受け入れておいてから次元移送してくれば、雑多な人種がいたとしても怪しまれないで済みますからね。


 そのための施設の建築を許すわけにはいきませんよ。」

 返答に困っていると、俺の後方から赤城がコントロール装置に向かって話しだした。


「えっ・・・。」

 そのまま所長が絶句する・・・。


「ほう・・・向こう側の世界には相当に頭の回転がいいやつがいるようだね・・・、あのスパイが持ち出したキューブを解析して、生体移送技術を推定するとは大したものだ・・・。」

『パチパチパチパチ・・・』お褒めの言葉の後に拍手するような音が・・・・、


「ちょっと・・博士・・・、敵を褒めるなんて不謹慎ですよ・・・。」

 所長の囁き声が伝わってくる。


「前にも言ったはずですが、次元移送器を使っての移送は物質のみに限られ、生体には適しておりません。

 そのため我々はこの地下シェルターから逃げられなくて、困っているわけですからね。

 移送できるものならとっくに行っていますよ。」

 所長は、生体の次元間移送をないものとしようと必死の様子だ。


「そうでしょうかね・・・あのキューブは移送器用の新たなプログラムですよね・・・、改良した装置に取り付ければ生体も移送できるという・・・、そうしてある程度のめどがついたから、植民地に巨大な地下施設を作って、そこを経由してこちら側世界へ移住してこようと計画しているのではないのですか?


 その移住を許すまじと、その施設に爆弾を転送させていただいた次第です・・・、これのどこが問題でしょうか?」

 所長のもみ消しをものともせず、なおも赤城が続ける。


「はっはっはっ・・・そうですか・・、こちら側からの移住は許さんという事のようですな・・・。」

 先ほどの声がなぜか嬉しそうに、抑揚の効いた感じで答えてくれる。


「ちょっと博士・・・そんなことを言ってしまったら・・・。」


「まあまあ・・・ばれてしまっているようだから、言いつくろっても無駄だよ・・・。」

 所長の苦言をものともせずに、生体移送を認めてしまった。


「移住を許さないという事ではなくて、長年にわたって行ってきた暴挙を主導した責任者をきちんと明確にして、正式な裁判によってその罪を認めさせ、罰を受けさせること。


 何も知らずに、ただその強奪によって得た食料物資の供給を受けていただけの人たちに関しては、移住先を限定して受け入れてもいいとは考えております。

 まずは首謀者を引き渡していただかない限りは、それは叶いませんがね・・・。


 また今回の地下施設は、そちら側世界の各植民地である国の地下シェルター施設と同じ座標に位置しているのではないかと推察しております。

 そこに爆弾を転送することにより、そちら側世界への食料物資移送の妨害ができているのではないかと想定しておりますが、違いますかね?


 何だったら高性能爆弾の周りには移送器を配置してありますから、その移送器を使って起爆した爆弾を次元移送してみましょうか?」

 さらに赤城は、恐ろしいことを平然と言ってのける。


 爆弾を向こう側世界に送りつけるのは向こう側世界への交渉が進み、監視のための部隊を送る場面になってからではなかったのか?

 あくまでも脅しのためだけであって、爆弾を爆発させることなど絶対にしないはずだった。


「新倉山君・・・、ハンドアームマシンを降ろして移送器の電源のスイッチを入れてくれ。」

 そうして赤城が恐ろしいことを命じてくる。


「はい・・・。」

 だが命令は絶対だ・・・逆らうこともできないので、とりあえずハンドアームマシンを円盤下部から降ろして工事現場へ向かわせる。



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