宣戦布告
7 宣戦布告
「おはよう・・・。」
「ああ、お早う・・・、一体どうしたんだい?」
翌朝出勤したら日本国軍本部ビルの入り口に阿蘇が立っていた・・・誰かの、お迎えか・・・?
そういえばビルの雰囲気がいつもと違う・・・入り口から奥へ向かう廊下には軍服姿でいかつい顔をした人たちで溢れているではないか・・・。
「ああ、どうやら今日は直接地下の研究所へ向かうらしいよ・・・。」
阿蘇が小さな声で俺に告げる・・・ふうむ・・どうしたというのだ?何か新しい動きでもあったのだろうか?
「赤城参謀が到着いたしました・・・。」
ビルの外に直接黒いセダンが横付けされ、誰かが大声で来客を告げる・・・、いや来客ではないか・・・。
「すまない・・・、総理大臣からの許可を直接もらってきた。
これで名実ともに戦争状態に入る。」
赤城がビルに入ってくるなり、周囲のいかにも軍人らしき人たちに告げる。
『おおっそうですか・・・』『いよいよ・・・』それぞれ握りこぶしに力を込め、小さくうなずいている様子がうかがえる。
何だって・・・?戦争状態って・・・?向こう側世界から宣戦布告と受け止めると円盤を奪取したときにいわれているから、すでに戦争状態と俺は認識していたのだが、実はまだそうではなかったのか?
なんだかわけがわからないが阿蘇が呼ぶので一緒に廊下を歩いていき、突き当りの隠しエレベーターに赤城たちとともに乗り込む・・・、いつもと違い多くの軍人が一緒に乗り込んできた。
大学の講堂のような会議室には、すでに多くの軍人たちで溢れかえっていた・・・、円盤奪取の特攻作戦の説明会の時よりもはるかに多く、恐らく百人は超えているだろう。
阿蘇とともに後方の空き席に座る。
「あー・・・本日は急な招集となってしまいすまなかった・・・、まさか各植民地の建築現場の進捗がこれほど急ピッチで行われるとは予想していなかったのだ・・・、申し訳ない。」
赤城がそう言って頭を下げる。
ふうむ・・・やはりフィリピンなど各植民地での工事の進捗のあまりの速さに、予想が追い付いていかなかったのだろう・・・、毎日現場を監視している俺の目にも、あの進み方は脅威に映った・・・、流石マシンの力はすごいと感心していたくらいだ。
「だがしかし、ようやく国会を通過して向こう側世界の支配を受けている植民地奪還のための作戦が敢行されることとなった。
以前の円盤奪取作戦とは異なり他国へ攻め込むことになるため、宣戦布告を行ってからの作戦となる。
そのため自警団は日本国軍に組み込まれ、国軍として作戦に当たることになる。」
続けて赤城が、自警団が日本国軍に編入されると説明する・・・そういえばはるか前、この世界に来たばかりのころにそんな話を聞いたなー・・・。
「赤城参謀は日本国軍の大佐となり、今回作戦の直接指揮をとられることになる。」
会議室前方の壇上に立つ赤城の横に1人の軍人がやってきて、赤城が大佐になったというか戻ったといった方がいいのか・・・、を紹介してから小走りに隅の方へ戻っていった。
「えー改めて、今回作戦の指揮を執る赤城だ・・・。
今回も前回同様・・・、決死の作戦になる。
だが、うまく展開できれば、戦闘も起らずに平和的に事態を鎮静化できる可能性もある作戦だ。
最悪の事態を想定して部隊には同行してもらうが、出番がない方がいいと思っていてくれ。
では、作戦の内容を説明する。
なお、この内容は隣の通信室を通じて、同様の作戦行動をとる7か国へ中継されている。
では霧島博士・・・お願いいたします。」
赤城が壇上からスーツの上に白衣を着こんだ中年男性を呼び寄せる。
「おはようございます、霧島です・・・。
今回作戦はこの、高性能爆弾を地下施設に転送ビームを用いて送り込みます。
爆弾には衝撃や人感などの各種センサーを付けて置き、何者かが近づくと爆発するようにしておきます。
そうして誰も地下施設に近づけないようにしてしまうわけです。
その後、施設の屋根工事だけは雨水の侵入を防ぐために行わせるつもりですが、以降は立ち入り禁止とします。
監視として当面は1小隊を常駐させる予定となっています。」
いつものように霧島博士が登壇すると、天井からスクリーンが降りてきて映写が始まり、そこにはいかにも爆弾然とした鉄砲の玉をどこまでも巨大に拡大した様な鉄の塊が映し出される。
「この爆弾はダイナマイト500キロの威力を持ち、核弾頭ほどではありませんが、ビルなら2つや3つ破壊してしまうほどの威力です。
ですがハンドアームマシンが2台もいれば持ち上げられるほどの重さですので、簡単に排除されてしまいます。
それなのでセンサーを付けて、何かが近づいてくれば自動的に爆発するようにして設置するわけです。」
霧島博士が、取り付けるセンサー部品に映像を切り替えて説明する。
「そのセンサーというのはどこで開発したのですか?」
前の方の席で年配の男性が手をあげて質問をする・・・、確かにこちら側の世界にそんな高性能センサーがあったとは初耳だ・・。
「いえ、向こう側世界のものです・・・先日、キューブの解析をしていた時に移送器の図面を手に入れることが出来、その内部構造を知ることが出来て、移送器内の各種センサーの機能や取り付け位置が分かったのです。
それらを利用させていただきました・・、単純に対象物からの距離を測定する位置センサーのほかにも、モーションセンサーや温度センサーなどもありました。
それらを取り出して制御装置とともにつけてあります・・・、何せ移送器は隠し農場地下からも発見されておりまして、世界規模でも相当数になり分解解析が容易となっていますからね。」
霧島博士が嬉しそうに笑みを浮かべる。
そうなのだ・・・隠し農場の施設を確認していた調査隊が、ひょんなことから地下施設を発見した。
農場の床に地下からの換気口を見つけたのがきっかけだった。
排水溝とも思えたのだが、山奥の施設なので下水処理場などはついていない。
家畜のふんなどはたい肥にするため落ち葉などとまとめて管理されていたので、異様に感じて調査したらしい。
1m角の細長いダクトのようなものを辿っていくと、地下30メートル地点に次元移送装置や通信機などが並んでいる施設が見つかったのだ。
農場の一部に地下への搬入口もカムフラージュされており、地上へのエレベーターも見つかった。
恐らく円盤で強奪した物資をこの地下施設を通じて次元移送していたのだろう・・・、隠し農場であれば地上施設で移送してもよかったのではとも考えたのだが、農場が発見された時のことを考え、地下施設も作っておいたのだろうと推定している。(おかげで、向こう側世界の地上が核汚染されても使えていたわけだ。)
強奪基地を破壊されてしまった以降は隠し農場から物資を移送していたのだろう・・、道理で近くに移送基地など見つからなかったはずだ。
地上の備品類などはマシンを含めて爆破したのだが地下施設は見つからないと踏んだのか・・・、若しくはこんな不便な土地にある農場など使用しないであろうから、いずれ再利用可能と予想していたのか、破壊されずにどこの国でも残っていたようだ。
2重3重に安全策を取り、更に各所に移送元を確保しておくというやり方はさすがだと、赤城がうなっていたほどだ。
だがしかし、こちらでは貴重なブランド作物や肉を育てていた農場だ。
そのまま放置しないで利用する目的があったからこそ、詳細に施設の確認を行っていたわけだ。
そうして、もう少しで日本でも3ケ所の隠し農場への行き来のための専用道路が開通する・・・、全て舗装された道路というのだから、力の掛け方が半端ない。
おかげで次元移送装置が各地点で2セットずつ見つかり、解析に回しても十分な数を確保できたのだった。
霧島博士はそれらの部品を利用して、これから様々なアイテムを作成していくと言っていたのだが、これがその最初のアイテムと言えるだろう。
「軍隊が駐在するようになった後に、強奪マシンが出てきた場合はどう対処しますか?
恐らく向こう側世界の人間が操作するので、円盤の人工知能のコントロールでは対抗できないと思いますよ。」
軍隊を駐在させる場合は当然のことながらセンサーは停止させるのだろうし、爆弾だって回収しておかなければ駐在する軍が嫌がるだろう。
そんなところをマシンに襲い掛かられてしまったなら・・・、仮に爆弾を置いてあったとしても、味方を巻き込んでまで爆発させられないだろう。
自動コントロールのマシンなどは、大きな防御力にはならないのだ。
「爆弾の周りに移送器を配置し、ハンドアームマシンとともに向こう側の世界に送り込んでおくのです。
センサーは生かしておいて、誰かが近づいてきたり、あるいはこちらからの電波が途切れたら爆発するようにしておきます。
本当に工事現場地下の座標に向こう側世界の核シェルターがあるのであれば、恐らくこれで詰みとなるでしょう・・・、向こう側世界はのど元に剣を突き付けられた形になり、降伏しか道は残されておりません。」
霧島博士がにやりと笑う。
確かに向こう側世界の窓口ともいえる植民地とした地域の核シェルター・・・隠し農場も使えなくなった今は、そこから向こう側世界の各地に食料物資を分配しているのだろう。
そこを叩かれ爆弾を送り込まれては、万事休すとなる・・・ううむいい作戦だ。
だがしかし、霧島博士が本当に向こう側世界の核シェルターがあればと言っていた点が気になるな・・・。
ほかにどんな可能性が考えられるのだろうか・・・?
本当にただの娯楽施設を建築して、観光客を呼び集めるという事も想定しているのだろうか?
「では、これより作戦を開始する。
今回も世界同時進行で行う必要性がある・・・、まったくの同時とは言わないまでも、向こう側世界に対応する暇を与えないくらいに素早く進める必要性があるという事だ。
敵施設を乗っ取った後に監視を行う3小隊はここに残り、まずは霧島博士と新倉山君と阿蘇は先に行って円盤を待機させておいてくれ。」
赤城の指示に従い、まず先に席を立ち地上へ向かうよう指示された。
「おお・・・やっぱり筑波も来ていたか・・・、君も現地駐在部隊の一員だね?」
会議室前方にいる霧島博士と合流するために前へ歩いていくと、途中ひときわがっしりした体格の男のところで阿蘇が立ち止まった。
やはり・・・というか・・・、こういった場面ではおなじみの男・・・筑波だ。
「ああ・・・、第2小隊の小隊長を任命された。
それで・・だな・・・、新倉山・・・とかいったな?
お前の円盤操作に俺たち3小隊・・・いや世界の他の地域の小隊の命も全てかかっているわけだ。
そうしてこの世界の命運もな・・・、命を預けるからには、しっかり頼むぞ!」
会いたくはなかった奴に・・・とか思っていたのだが、なぜか励まされてしまった。
しかも命を預けるとまで言われてしまった・・・知っているはずの名前を知らなかったふりまでして・・・いったいどうしたわけだ?
「彼も・・・君のことがだんだんと分かってきたのだろう・・・この間特攻作戦に同行したし、その後も占拠した円盤で各地域を飛び回っていたことも聞いているだろうからね。
君がこの世界のために必死になって貢献しているという事が、伝わったのだと思うよ。」
奴の態度を理解しかねて俺が首をかしげていると、阿蘇が小声で解説してくれる・・・、そうか・・・わだかまりが少しでも消えてくれたのなら、うれしいことだ。
「じゃあ、行きましょうか・・・。」
霧島博士と前方の出入り口から会議室を後にして、通路の先のエレベーターに向かう。
『チンッ』エレベーターを降りると日本国軍本部敷地内のグラウンドへ向かい、コントロール装置を用いて円盤を操作し、転送ビームを使って円盤に乗り込み、円盤内の倉庫から通路の一番奥にある操作室に行き、コントロール装置に操作盤から延びたUSBケーブルをつなぐと、シートに座りシートベルトをかける。
阿蘇は巨大な無線機が入ったリュックを操作室の奥から持ってきてシートの横に置き、霧島博士はマイコントロール装置からカード付きのケーブルを伸ばし、操作盤のスロットにカードを差し込む。
俺と阿蘇はこのところずっと円盤業務が続いているので、コントロール装置以外はすべて置きっぱなしなのだ。
そうして地上10mまで上昇させて待機していると・・・、軍司令部から続々と軍服姿の兵士が出てくる。
今回は作戦行動とはいっても、隠密作戦ではないので迷彩服ではなく軍服姿だ。
それぞれ3列に分割している部隊が、グラウンド中央に整列したのに合わせて転送ビームのスイッチを入れる・・・
兵士は意外と体格が似通っているのか、きれいに並んだ状態で円盤に収容された。
次に巨大な3つの円筒が運ばれてくる・・・高性能爆弾という奴だ・・・、こんなのが円盤の倉庫内で爆発したら、いくら何でも空中分解してしまうだろう。
『ガーッ』「3小隊とも収容完了で、客室で待機中だ。
続いて爆弾と移送器を収容してくれ。」
扉を開けて赤城が入ってきた・・・・、すでに円盤内のセキュリティは解除してあるので、もうパスワード信号とかは不要となっているからただの自動ドアだ。
「分かりました・・・、まずは次元移送装置を収容します。」
爆発すると恐ろしいので爆弾は最後に収容することにして、次元移送装置の個数を入力して収容する。
次元移送装置はデータベースに登録済みだったので、個数を入力するだけで収容してくれるから楽だ。
それから3つの高性能爆弾の大きさと重さを、教えてもらった通りに入力して収容する。
「爆弾の起爆装置とセンサーは全てコントロール装置で入り切りができるから、操作を誤らない限りは安全だ。
それよりも問題は移送器の方だね・・・、移送器の入り切りはリモートできるようには改造したのだが、有効範囲は10mほどでしかない。
円盤からだと操作できないかもしれない・・・、だから直接電源のスイッチを入り切りする必要性があるだろうね。」
霧島博士が心配そうにつぶやく。
「そうですか・・・それならハンドアームマシンを一緒に降ろしましょう・・・、どこの国も円盤付属のハンドアームマシンも手に入れているはずだから、操作できますよね?」
今回も8ケ国で同時に行う作戦だから、他でもできる方法を常に検討しなければならない。
無停電電源装置はコントロール装置を配布したときに添付したので、操作手順の説明は簡単だ。
「もしもし・・・準備してもらうことが一つ・・・。」
すぐに無線機を使って阿蘇が他国の円盤相手に連絡を始める。
「じゃあ、他国の準備はいいかな?」
「はい・・・・、7ケ国すべて出撃準備整いました。」
赤城の問いかけに阿蘇が笑顔で答える。
中には夜時間の国もあるだろうに・・・、大変だろうなあとは思うが・・・これもこの世界の開放のためだから仕方がない。
「では出発だ。」
「はい。」
赤城の指示を受けて入力を開始する。
「まずは一番近い座標の工事現場を目指す・・・、工事現場の座標を入力して、Haは10000と入れてHは5000とする。」
阿蘇に出撃手順を伝えると、阿蘇がその手順を無線機に向かって説明する。
Haというのは円盤が飛行中に取る高度のことのようで、Hが目的地に着いたときに位置する高度の様だ。
つまり1万メートルの高度で飛行し、目的座標の5千メートルへ向かうという事だ。