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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
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監視業務

6 監視業務

「緊急の招集で申し訳ない・・・集まってもらったのはほかでもないのだが、本日の植民地からの放送内容で新倉山君から提案があった。


 フィリピンに巨大な娯楽施設を建設して諸外国から観光客を誘致するという内容なんだが、他の植民地からの宣伝放送はどんな内容だったか報告してくれないか?」

 100インチ液晶の8分割された画面がすべて埋まると、すぐに赤城が本題に入る。


「はい・・・イタリアでもおそらく同様のようで、地下5階地上20階の巨大娯楽施設を作って観光客を誘致すると言っていました・・・、しかもローマ、ベネチア、ナポリなど昔からの観光地にです。


 別にそんな施設を新たに建築しなくても歴史的建造物も多いですから、観光客ならいくらでも呼び込めるはずなのですがね。」


「ギリシャでも同様です・・・。」

 次々と、植民地化された地域の宣伝放送内容が告げられる。


 やはりどの植民地でも巨大娯楽施設を建築中という事の様だ・・・、あからさまに行うことでスパイなどから報告を受けても怪しまれないようにする作戦だろうと、赤城が小声でささやく。

 やはり・・・、疑惑は確信に変わりつつあるようだ・・・。



「どう・・・?工事の進捗状況は?」

 阿蘇が無線機のマイク片手に、俺の持つコントロール装置の画面をのぞき込む。


「うーん・・・まだパワーショベルで地面を掘っている状況だからね・・・、そこそこ大きな敷地だから簡単には掘り進まないだろう。


 地下5階というと20mは掘るわけだろ?いや・・・基礎まで入れるともっとかな?それだとまだ1週間以上はかかるんじゃないかな?

 いくら最新の科学技術を持っていても、こういった土木工事のやり方はそんなに変わるもんじゃないだろう。


 トンネルなどを掘るときには、巨大な円盤の表面に工業用ダイヤモンドを埋め込んだ刃を大量につけて、回転させながら掘り進んでいく掘削マシンみたいなのを、使っていたみたいだけどね。

 海底トンネルなんかもそれを使って掘り進められるし、高速道路や新幹線用のトンネル工事も飛躍的に工期が短縮したなんて、特集番組が組まれていたりしたな。


 意外とトンネルとかダムとか巨大な施設って迫力があって、その工事現場とかが人気があるのだよね。

 だから、そういった番組が何度も放送されて、俺も見た記憶があるよ。」


 円盤を使いフィリピン上空千メートル地点で、バギオに作る巨大娯楽施設の工事現場を監視に来ている。

 この後、マニラとダバオの工事現場も確認予定だ。


「へえ・・・、地下を直接掘り進んでいく技術だね・・・?

 こっちでも地下鉄工事など地下を掘り進むことは行われているけど、いまだに削岩機を人が持って掘り進んでいくみたいだよ。


 僕は学生時代に地下鉄工事の現場でアルバイトをよくしたけど、あれは大変だよね・・・夏場でも地下は涼しいのはいいんだけど、湿っていて空気はよどんでいるし、1時間も作業したらもう疲れてしまって、交代で休憩所で休んだりしていたね。


 機械でできればどれだけいいかと何度も考えたよ・・・、山奥のトンネル工事などはダイナマイトを使って爆破していくみたいだけど、流石に街中の工事ではね・・・。


 でも・・・そうやって機械で穴を掘り進められるのであれば、こんな大げさな工事をしないで、秘密裏に穴をあけることもできたんじゃあないのかい?」

 阿蘇が素朴な疑問を投げかけてくる・・・。


「うーん・・・トンネル工事の機械っていうのはトンネルのサイズと同じ大きさだから、そんなに大きな装置をまず作って、それを地下に潜らせなければいけないわけだ。


 街中でそんなことをしたらそれだけで目立ってしまうよね・・・、例えば山奥の別地点で装置を潜らせたとしても・・・バギオは山間部だからまあ可能ではあると思うけどね・・・、それでも掘り進むのに結構な時間がかかるし、何より掘っていくときの振動とかは抑えられないと思うよ。


 大きな機械だからね・・・、それなりに地上も揺れるだろうから、怪しまれてしまうだろう。

 さらに掘り進むにつれて当然のことながら、その分土砂が出てくるわけだ・・・、隠し通すことは難しい。


 それよりも大っぴらに工事して、しかも観光客を呼び込みますよ・・・なんて宣伝しておいた方が、はるかに怪しまれないで済むと思ったんだろうね・・・。」


 大っぴらにしてしまう事で怪しまれないようにするというのは赤城からの受け売りだが、確かに俺も納得している。

 だがしかし、大きな体の割に事務方を自称している阿蘇の底知れぬ体力に関して不思議に感じていたのだが、どうやら学生時代のバイトなどで鍛え上げられたのかもしれないな。


「そうか・・・やはりこの工事現場が、一番怪しいという事になるか・・・。

 そうなると・・・あと1週間後くらいには向こう側の世界から、移送してくる人が出始めるという事になるね。」

 阿蘇が真剣な表情で頷く。


「どうだろうかね・・・霧島博士の推測では、恐らく娯楽施設のビルが完成してから、更に観光客が増えてきてから・・・、それからだろうと言っていただろ?

 それだとまだまだ・・・、これから基礎をうってコンクリート固めて、その上にビルを作り上げていくわけだからね・・・、まだまだ何ケ月も先になるんじゃあないかな・・・。


 確かに土がむき出しの工事現場じゃあ危険だし、理由はどうあれ新しい施設建築ともなれば、こうやって俺たちが監視することは想定しているだろう。

 そうなると何もない空間から突然人や荷物が出現・・・、なんてことになったらすぐに警報を鳴らされてしまう。


 だから、ある程度工事が進むまでは無理なんじゃあないかと俺も考えるけど、地下工事が終わったあたりから続々と移送してくるんじゃあないかと、俺は予想している。

 なにせ生きたまま移送可能であれば、すぐにでも移住したいと考えると俺は思う。


 いつ情勢が変わるかわからないわけだからね、植民地化された地域が植民地である内に、逃げてこようとすると思っている。」


 申し訳ないが、俺と霧島博士とは少し移住時期の予想が異なる・・・、阿蘇とはもっと異なるのだが・・・。

 移送が開始される時期に関しては、関係諸国とのテレビ会議でも議論されたが、3者3様というか様々な意見が出され、これといった確定的な時期予想には至らなかった。


 確かに霧島博士の予想時期が一番やりやすいとは考える・・・、なにせ移住してくるとなると、世界中の他の国々から様々な人種が10ケ国しかない植民地にやってくるわけだ。

 それをカムフラージュする目的で、観光客を呼ぶのだろうとも博士は予想している。


 世界中から観光客が押し寄せてきていれば、それに紛れて自由に行動できるというのだ。

 確かにそれは一理あると思うが、別に地下施設さえできてしまえば、そこへ移送してきて地下に潜んでいればいいというのが俺の考え方だ。


 要するに、これから百年以上は地上へ出られない世界には見切りをつけて、可能なうちに移住してしまおうという考え方だ。


 移送さえできてしまえば後は何とかなるだろうという考えで、施設が完成して観光客が来るまで地上は歩けなくても、どうせ地下にとどまっているのだから、どちらの世界にいても同じだと思うのではないか?


 移送してきてしまえば後は情勢が変わろうが何しようが、どこかに逃げ隠れてしまう・・・、それこそ脱出用の円盤なども準備しておく・・・、としておけばいいので可能性が高いと俺は主張している。

 なにせ何事もなければ観光客が来てから地下施設から地上へ出ればいいのだ・・・、先に来ておけば万一の時の選択肢が増えるわけだ。


 さらにもっと極端なのは、阿蘇の主張する地下まで掘り進めたら、すぐに移送してきてしまうという予想だ。

 ちょっとあり得ないと思っていたのだが、突貫工事で夜も行われるという触れ込みなので、夜間工事にでも紛れて移送してきてしまう・・・、もちろん工事作業者のような服装をしてくるわけだ。


 1ケ所でも穴を深く掘っておいて、そこだけ誰も立ち入らないような区域にしておけば、そこへ移送することは可能ではないかと、阿蘇が画期的な提案をした。

 そうすれば工事期間内でも続々と人が移送してこられるわけで、俺の予想よりもはるかに早く移住計画が完了するという訳だ。


 確かにあり得ないとは言わない・・・、だからこそ、こんなに早い時期から現場の監視のお役目が回ってきたという訳だ。

 円盤は8機しかないから、10ケ所の植民地をローテーションして回ることになった。


 だが・・・こんなことをいつまで続けていくのか・・・、赤城が言うにはこういった監視業務はある程度向こう側の自制を促す目的もあるという事の様だ。

 監視を続けている限り、すぐの移送は難しいと考えさせ時期を遅らせる・・・、つまり工事がある程度進んで施設の形ができてからでないと、まず無理と考えさせる目的があるというのだ。


 向こう側の世界が移住してくることを予想していると考えていようがいまいが、監視されている中でおかしな動きはしないだろうという想定だ。

 下手な行動をして移住をほのめかすことにでもなったら大変なので、慎むだろうという考えだ。


 だがしかし・・・、その後はどうするのか・・・?

 なにせ施設がある程度でき上ってしまえば・・・、地下施設がある程度できて地上施設工事にかかってしまえば、地下は監視できなくなってしまうわけだからな・・・、そうなったときにちょっと中を見せてくださいとお邪魔するわけにもいかないだろう。


 まさか工事現場に入っていく人と出てくる人を毎日カウントするわけにもいかないだろうし、仮にカウントして出てくる人の方がはるかに多いとなったとしても、それを主張したところでどうにもならないだろう。

 監視が抑制力になるにしても、それでももう3ケ月もすれば基礎工事は終わるだろうから、そうなったらどうするのだろうか・・・?


 工事現場ではパワーショベルが土を掘り起こしては傍らのベルトコンベアーにのせ、コンベアーが土を地上のダンプの荷台に運び上げている。


 さらに穴の周囲ではボーリングマシンの高いポールが立っていて、地下深くにある硬い岩盤まで杭を打ち込んでいる様子が、はっきりとわかる。

 このまま何もできずに手をこまねいていれば、工事はどんどんと進んでいってしまうだけだ・・・。



「お帰りー・・・、今日もビルの建築工事現場の監視業務?」

 アパートへ帰るなり、朋美がいつものように台所から声をかけてくる。


「ああ・・・今日もフィリピンの工事現場の監視の後は、ベトナムの隠し農場へ道路の建築資材を届けて回ったよ。」

 あれから1ケ月・・・、毎日の業務がほぼ定例化されてきた。

 午前中はフィリピンの娯楽施設建築現場の監視業務で、午後は各国の隠し農場へ建築資材を届けるという業務だ。


 当初は上空高く雲間に紛れて監視していたのだが、抑止効果という事を言われてからは、晴天でも堂々と低空から監視を続けていた・・・、領空侵犯どころか都市部への侵入であるにもかかわらず、不思議と植民地からも向こう側世界からも苦情が寄せられることはなかった。

 娯楽施設以外の目的はないという事をアピールしたいのだろうと、赤城がほくそえんでいた。


 どこの国でも道路整備事業は急ピッチで進められ8割がた完成しているので、隠し農場への資材搬入に関しては、あと1ケ月もかからずに業務終了となる予定だ。


「ふうん・・そうなると、当面休みは無理ね・・・。」

 朋美が煮物の味見をしながら、残念そうにうつむく。


「まあそうだね・・・でも隠し農場のサポートもあと少しだし、何よりフィリピンの娯楽施設工事は予想外に進捗が早いから、あと1ケ月もすれば暇になるんじゃないかな・・・、地上施設工事に取り掛かってしまえば円盤での監視業務は意味がなくなるからね。」

 とりあえず、少しは明るそうな展望を説明しておく。


 そうなのだ、3ケ月はかかるだろうと予想していた巨大ビルの建築現場なのだが、穴を掘ってボーリングが終わると、それ以降は驚くほどのスピードで工事が進められた。

 ハンドアームマシンが工事資材をもって現場を飛び回り、更に実際の工事に従事し始めたのだ。


 鉄骨を運んで組み上げたり、コンクリートを運んで流し込んだり・・・、力作業なども楽々こなす。

 何より人と違って宙に浮けるから足場をいちいちくみ上げる必要性がない・・・、その分広々とした空間内で自由に飛び回って工事を始めた。


 恐らく人が操作しているのだろうが、交代制で24時間休みなく工事するものだから、工期は俺の予想の半分以下・・・、恐らくあと半月もかからずに地下施設工事は終わるだろうと予想されている。


 すでに地下部分の外壁や内部の柱などは完成していて、地下5階部分の天井工事がもうじき始まるとの予想だ。

 よそで作られたコンクリート製の天井ブロックを運んできてセットするだけだから、明日か明後日には恐らく地下5階は見えなくなるだろうと、霧島博士も予想している。


「分かったわ・・・、じゃあ後1ケ月は辛抱しなくちゃねえ・・・。

 順二もパパが遊びに連れて行ってくれるの楽しみでしょ?」

 朋美が、台所で足元にまとわりついている順二に振り返る。


 順二は基本的に家にいるときには、俺よりも朋美にくっついていることがほとんどだ。

 台所仕事をしているときは危ないので順二を離しておいた方がいいのだが、順二が泣き叫ぶので揚げ物などの本当に危険な場合以外はあきらめている。


 まあ、順二が生まれた当初から忙しくて、長期間家を空けることが多かったからな・・・。

 それでもこの間連れて行った潮干狩りは楽しかったらしく、以降もアサリさんアサリさんと何かあればつぶやいている・・・、そんなに貝に興味があるのなら今度は水族館にでも連れて行ってやろうと計画している。


「じゃあ、明日もまた・・・工事現場で監視ね・・・?」

 朋美は少しがっかりしたように肩を落とす・・・、もうおなじみの行動だ・・・。


「ああ、そうなるだろうね・・・。」

 両手を合わせながら小さく頭を下げておく・・・本当に申し訳ない・・・。

 ところが、そんな俺の思惑が大きく外れることになってしまった。



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