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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
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娯楽施設建設

5 娯楽施設建設

「と、いう事はもしかして・・・?」


「そうだ・・・、向こう側世界からこちら側世界へ移住してこようと計画しているのではないかと考えている。

 だから巨大円盤を奪われても世界各地の隠し農場を奪われても、報復措置をしている暇などないのだ。

 下手に刺激して植民地化した地域と世界政府間との全面戦争となってしまうと、移住してくるのが難しくなってしまうからね。」

 赤城がショッキングなことを告げる。


「そ・・・そんなことを考えて・・・。」


 30年以上前から次元を超えて強奪を繰り返していた俺が元いた世界。


 圧倒的科学力の差をもって正体を明かさずに巨大円盤や強奪マシンを駆使して、こちら側世界から搾取し続けていた・・・、こちら側世界からの反撃にあい核攻撃により世界中の大半の人々が犠牲になってしまったが、それでもその強奪行為を主導していた首謀者たちが、のうのうと生き残っていることは今でも腹立たしい。


 しかし、いくら生き延びているとはいえ、地下深い核シェルターという密閉空間で、また、恐らく生きている間には地上へ出ることは叶わず、一生を閉鎖空間で終えるのはある意味天罰だと俺は自分の気持ちを抑えていた。


 ところが彼らは新たな次元移送装置を開発し、こちら側世界へ移住してこようと画策している・・・、しかも植民地化された国や地域へ移住してくるのであるから、それはもう大手を振って堂々と・・・だ。

 こんなことが許されるのだろうか?


「まあ、まだ推測の域を出てはいない・・・移送器側の能力ではなく、分解と再構築時間の安定性が生体での次元間移送に影響してくるとなると・・・、新倉山君の時にはたまたまそれが合致したという事が言えるかもしれんのだがね。


 まずは実験だ・・・スイッチを入れてくれたまえ・・・。」

 そうか・・・、俺の時にはたまたま・・・。


「はい・・・。」

 女性研究員が電源スイッチを入れる・・・と、すぐにマウスを入れた檻ごと消滅する。


「どうだ・・・、ズームしてみて・・・。」

 霧島博士が、ビデオカメラのモニターを食い入るように見つめる。

 俺もハンドアームマシンを操作して、送り込んだ檻の中の様子を見ようと目を凝らす。


「あれ・・・、動かないですね・・・。」

 先ほどまで元気に動きまくっていた5匹のマウスは、ハンドアームマシンで照明を当ててもピクリとも動かない。


「ううむ・・・だめか・・・、いや・・・ちょっと待て・・・、あ・・・あそこ・・・、真ん中の一匹だけ・・・。」

 霧島博士が言う通り、5匹のうちの真ん中にいるマウスの左後ろ足がぴくぴくと動き始めた。


「痙攣か何かですかね・・・、ちょっと拡大してみましょう。」

 コントロール装置でズームアップしてみると、目を閉じて仰向けになったまま、左の後ろ脚だけがぴくぴくと動き続けている。


「ああ、止まった・・・恐らく生体反応であることに間違いはないだろう。

 ようし、もう一度やってみよう。」

 霧島博士は移送器の電源を研究員に切ってもらうと、枠の中にマウスが入った檻をもう一度置いた。


「いや・・・ちょっと待ってください・・・、実験を続けるのはちょっとまずいですよ・・・。」

 突然、阿蘇が次元移送装置に寄って行って、電源プラグを引き抜く。


「あちっ・・・コンセントがすごく熱くなっています・・・、さっき移送器に通電したときに煙のようなものが見えましたからね。

 これ以上の実験は危険です。」

 阿蘇が実験の継続は危険と指摘する。


「どれどれ・・・、なるほど手ではもてないくらいプラグが熱を持っているね。

 過負荷でオーバーロードしたのか、あるいは耐圧以上の電源を必要としたのか・・・、どちらにしても正常な動作ではないという事の様だ。


 新プログラムに古い移送器がついて行っていないことが原因だろう、本日はここまでの様だね・・・。

 だがまあ、移送器の改善をすれば生き物の移送も夢ではないという事が想定できた。

 向こう側世界でも同様の実験をして、移送器の改善を検討していることだろう。


 ううむ・・・移住を阻止するべきか・・・、あるいは移住させた後で、こちら側世界の法律に照らし合わせて裁判するのがいいのか・・。」

 霧島博士は次元移送装置のコンセントをつまむと、残念そうにつぶやき実験終了を告げ、撤収となった。



「おはよう・・・、昨日はずいぶんと遅くに帰ってきたみたいね。

 何か問題でもあった?まさか、アサリのお土産をつまみに朝まで飲んでいたなんて事じゃあないわよね?」


 昨晩というかもう今日になってからだが、遅くに帰ってきた後、泥だらけの体を洗ってから、朋美たちを起こしては申し訳ないのでソファで寝ていたら、いつの間にか朋美は起きて朝食の支度をしていた。


「ああ・・土産はみんな喜んでいたよ・・・、ただ・・・食べるのは今晩だな・・・、昨晩は夜通しで実験していたからね。」


「ふうん・・・夜通しの実験・・・、で?うまく行ったの?」


「ああ・・・うまく行ったというか・・・、ある程度の予測はつくようになったけど、途中から装置の不具合で中止になって、再開は・・・まだめどが立っていない。」

 朋美には東京の地下基地のことは言っておくが、昨晩の実験内容はショッキングなので、今は話さないでおく。


「へえ・・・ジュンゾーも隠し農場へ人の送り迎えをしたり、夜通しの実験をしたりと忙しそうね。

 これだと次のお休みがいつなんて、とても予定が立たないわね・・・。」

 朋美はがっかりした様子でうつむく。


 彼女は病院勤めなので交代制での休みとなり、週末とか定休日とかのはっきりした休日はないのだが、それでも週に1日半は休みがある。

 俺の場合は自警団の事務仕事という事だったので、今までは土曜の半ドンと日曜休日という、週末休みと祝祭日休みが定着していたが、戦争中となりここ3ケ月でようやく1日休めただけとなっている。


 ここでさらに向こう側世界が移住を計画しているという事を告げると、ますます戦況がややこしくなり、当面休みなど取れそうもないことが明白なのだ。

 そんな心配をさせないためにも、とりあえずはっきりするまで黙っておくことにする。


「じゃあ、行ってくるよ。」

 夜通しの実験の後でも休むわけにはいかない・・、なにせ霧島博士たちはそのまま研究室に戻ると言っていたのだから。

 恐らく家に帰ったのは俺一人だけだろう・・・、まあアパートが東京地下基地に近いせいもあるのだが。



「おはよう・・・。」

 自警団事務所に出勤すると、目を真っ赤にはらせた阿蘇がすでに出勤していた。


 まあ、奴の場合は敷地内の寮に住んでいるわけだから、一旦帰って仮眠はできただろう。

 そう考えると、研究員たちも同様かな・・・?


「じゃあ、今日は北海道の隠し農場に資材搬入だね・・・。」

 阿蘇が本日の主張先を、連絡ボードを見ながら読み上げる。


 工事用資材の搬送が円盤を用いて簡単に行えるという事が判明してから、隠し農場への道路整備が日本でも急ピッチで行われるようになった。

 農場側にも大量の資材と重機を搬入してから作業員も送り込み、以降は資材と食料の定期補給を行っている。


 1年程度は放置の予定だったようだが半年以内で農場再開と計画委変更された・・・、雪の季節到来前に移動手段を確保したい様子だ。


 まあこれも工事が終わるまでの辛抱だ・・・、先があるのであれば希望が持てる。

 北海道の中継場所に寄って資材をハンドアームマシンで詰め込むと、隠し農場へと搬入する。

 円盤にとってはさほど長距離とは言えないため、2ケ所回っても1時間とかからずに終わってしまった。


「午前中いっぱいかかると思っていたけど、意外と早いもんだね。

 10時前に帰ってきてしまった・・・、今日の午前中の予定はもうないからちょっとのんびりできるね。

 たまった業務を片付けられそうだな・・・。」

 自警団事務所に早めに戻ってこられたので、阿蘇も随分と嬉しそうだ。


<本日は、今建築中の巨大娯楽施設のご紹介をいたします。

 地下5階、地上30階のビルにはホテルにカジノ、更に温泉施設までも備えていて、更にバーチャルリアリティ

技術を用いた遊戯施設も多数設けられる予定です。


 他国との交易を絶っている地区ではありますが、世界政府側の国々からでも観光目的であれば受け入れることにいたしました。

 そのための空路や航路も近々確保する所存でございます。


 是非とも進んだ技術を実際にご体験いただいて、我々同様向こう側世界の技術供与を受けるよう、政府に働きかけをしてください。>


 応接のテレビから聞きなれたフレーズが流れていたので見に行くと、やはり植民地化された地域からの宣伝放送が流されていた。


「やれやれ・・・、ついに向こう側世界に従属するよう働きかけを要請してきたね。

 観光客を受け入れるとなると・・・、向こう側世界の科学力を体験した人たちが、向こうの世界の方がいいんじゃないかと主張し始めるかもしれない。


 そうなると大変だ・・・、向こう側世界に従属することを掲げる政党が出現したりしてね・・・。

 困ったことになりそうだね・・・。」


 阿蘇がテレビ画面を食い入るように見つめながらつぶやく。

 もはや、あからさまに従属を促してきたようだ・・・、ついに本性を現したというところか・・・。


「あっ、そうか・・・阿蘇、ちょっと一緒に来てくれ・・・。」

 突然ひらめいたので、すぐに阿蘇を連れて地下研究室へと向かう。


「おおどうした・・・?今日は北海道の隠し農場へ資材搬入の予定じゃあなかったのか?」

 地下60メートルの霧島研究室に行くと、そこにはやはり赤城の姿もあった。


「北海道の隠し農場へは資材搬入を終えています。

 それで、今朝の植民地からの宣伝放送で気になった点がありましたもので・・・。」

 すぐに用件を切り出す。


「ああ・・・フィリピンに娯楽施設を作るという計画だろ?こっちでもみんなで見たよ。


 マニラだけではなくバギオとダバオにも同じような施設を作るとなっていたな・・・、そうして諸外国から観光客を呼び寄せると・・・、確かにこれなら進んだ技術を輸出しなくても他国の人々に味わってもらえるし、うまくいけば近隣諸国を取り込んでいけるかもしれない。


 うまいことを考えたものだ・・・、流石だね。」

 赤城は腕を組んで何度もうなずきながら、さみしそうに笑った。


「それなんですが・・・、恐らく目的は違うと考えます。」

 あの放送の真の目的・・・それは・・・。


「ええっ・・・目的が違うって・・・?じゃあ、近隣諸国に向こう側世界への従属を促す目的ではなくて、ただの外貨稼ぎだとでもいうのかい?


 確かに隠し農場はすべて奪取してしまったし、種牛や種豚も手に入れたからブランド肉なんか今後は高くは売れなくなるだろうと予測して、今度は観光収入を得ようと考えているのかな?」

 すぐに阿蘇が食いついてきた。


「いや、そうではなくて、観光収入や娯楽施設もいずれは必要となるのだろうが、まず第一にあの場所に巨大施設を作ることが目的だと思う・・、つまり地下深くまで掘って作る巨大な施設をね。

 その目的は何だと思う?」


 俺がもう一度阿蘇に問いかける・・・、別にここで掛け合い漫才のようなことをしたくて阿蘇を誘ってきたわけではないのだが。


「ああそうか・・・、次元移送した先があそこになるというのだね?」

 霧島博士が頷きながら答える。


「そうです・・・、恐らく生きたまま次元移送できる目途はもう立っているのでしょう。

 ですが・・・、向こう側世界の地上世界には恐らくまだ残留放射能があるでしょうから、今いる核シェルターから移送してこなければならないわけです。


 なにせ世界中くまなく核の影響を受けたわけですからね・・・、その放射能のチリなど簡単に消えるわけはないでしょう。

 次元移送装置を置いた場所と同じ座標に移送されるわけですから移送先も地下のわけで、そうなるとその移送先に地下空間を作っておく必要性があるわけです。


 そのために巨大娯楽施設と銘打って建設を始めたんじゃないでしょうか・・・、こちら側にも地下施設があったらよかったのでしょうが、そう都合よくはいかないですからね。」

 俺が突然思いついた仮説を披露する。


「確かにそうだな・・・よし緊急通信だ・・・、他の植民地でも同様の動きをしていればビンゴという訳だね。

 そうしてその娯楽施設の建設場所に、向こう側世界の核シェルターがあるという訳だ・・・、ついに向こう側世界のしっぽを掴んだと言えるのかもしれないね。」


 赤城もいつになく興奮している様子だ。


 すぐに全員で巨大モニターがある通信室にいき、モニターを起動して通信機の電源を入れ、当直者に会議の招集を告げる。

 そのまま30分ほどで各地のメンバーが集合した。



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