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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
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地下実験

4 地下実験

 そんなこんなで、それからの約1ケ月間はというもの、やはり休みなしで近隣諸国の隠し農場への資材搬入などに従事した。

 ひと段落着いたという事でようやく休みが取れることになり、朋美の休みに合わせて休暇とした。


 それで千葉の海岸へ行って潮干狩りしたり、海鮮丼を食べたりと・・・久しぶりに家族サービスができた。

 こっちでは潮干狩りのための入漁料さえ払えば後は取り放題という事なので、阿蘇と赤城参謀はもちろん霧島博士及び研究員たち用に朋美と2人でアサリやシジミ、ハマグリなど、大量に掘り返して土産にした。



「いっいいのかい?こんなにもらっちゃって・・・。」

 阿蘇が小さなポリバケツいっぱいのアサリを見て、うれしそうな笑顔を見せる。


「いつもお世話になっているから、せめても・・・という事さ。

 赤城参謀たちの分もちゃんと確保してあるから、これは阿蘇用だ。

 すでに砂抜きしてあるから、今夜にでも酒蒸しにでもして、つまみにしてくれ。」


 スーパーで小さなポリバケツを購入して、それごと土産にしたのだ・・・この方が砂抜きしたまま塩水につけて置けるので、面倒がない。

 その後、赤城参謀と霧島研究室にも土産を持っていく。


 霧島研究室には10Lバケツでアサリを持ち込んだので、大変喜ばれた・・・。

「おおありがとう・・・早速、女子研究員にアサリの炊き込みご飯でも作るようお願いしてみるよ。


 それで・・・休暇明けで申し訳ないのだが、今日は深夜勤務をお願いしたい。

 あのキューブの正体が分かったので、地下基地での実験を試みる。

 ハンドアームマシンも持っていく必要性があるのだが、頼めるかね?」


 霧島博士が土産の詰まったバケツを女性研究員に手渡すと、彼女は一人では持ち切れずに応援を呼んで男性研究員2人で奥へと持って行った。


「キューブの正体・・・、キューブってフィリピンで出会ったスパイに手渡されたキューブですよね?

 この間ICチップ用のカードリーダーで情報が読み取れることが分かった・・・、あれはいったい何だったのですか?」

 そういえばあれから1ケ月・・・そろそろ進捗状況は・・・、と思っていたところだ。


「あの時に画像情報で円錐形の物体の図面が出て来ただろ?あれは移送器の図面だと分かった。

 そうして、あのキューブは移送器のコントロール用の部品だな・・・、移送器を使って物質を次元間移送するわけだが移送先の次元や移送のための手順などがプログラミングされている。


 あのキューブは移送器の下部に取り付けられるようになっているようだ・・・、今までにも移送器は分解して内部構造など研究していたのだが、その部分だけはブラックボックス化されていて、分解する手順が分からずに制御機構とだけは判明していたのだが、そのままにされていた。


 今回制御機構の詳細図面が手に入ったので、分解して所持している移送器のキューブも取り外すことが出来た。

 そのキューブのプログラムを比較すると、異なる行が多数発見された・・・、恐らく物質を分解再生する手順の部分だと推定しているが、それによりどんな効果があるのかわからん。


 だから、それを実験しようという訳だ・・・、それには向こう側世界との接点である地下基地が最適なわけだ。」

 霧島博士が、新しいおもちゃを手に入れた子供のように、目をキラキラと輝かせながら話しかけてくる。


「はあ・・・ですが、次元移送装置は4個セットのはずですよ。

 異なるプログラムが書かれたキューブは一つしかありませんよね?


 それだと動かないんじゃあないですか?いや動いたとしてもひとつだけ違うプログラムで動作させたら、正常な移送は行われないと思いますよ。」


 実験の目的はわかったのだが、それには資材が足りていない・・・、まさかフィリピンに潜伏しているスパイにお願いして、残り3個のキューブを取り寄せようとでもしているのだろうか?


「ああ・・・それは大丈夫だ・・・、あのカードリーダーは、書き込みもできるって最初に説明してもらったよね?

 だから読み込んだ新しいプログラムで、所持していたキューブに書き込みしてみたら、うまく書き込めたよ。

 移送器はまだ予備があるから、プログラムを書き換えて新しいプログラムで4組セットを作ることが出来た。


 今日は新しいプログラムでの移送実験という訳だ。」

 霧島博士が自慢げに胸を張る・・・、ふうむ・・・それで1ケ月もかかったという訳だ。


 恐らくその間試行錯誤したのだろうな・・・、俺だってカードリーダーを用いてICチップのデータ書き換えする方法など知らないからな。

 書き込み用のプログラムがあるのだろうが、それをコントロール装置の中から見つけ出してインストールして手順を確認して・・・と、大変だっただろう。


「移送器はその性質上こちら側の世界に・・・、しかも我々の居住区に近い基地に置かざるを得なかったわけだ。

 そのため我々の手に落ちて分解されたとしても、その機構を解析したりできないように、主たる制御機構は非接触型の部品を組み込んであったわけだ。


 これにより我々は、あの装置が恐らく次元を超えて移送するための装置だろうと予測することはできたが、その原理や機構など解析不能だったからね。

 ブラックボックス化された制御機構を無理やりばらしたところで、解析は困難を極めたことだろう。


 まあこれも・・・向こう側世界のことをよく知っている新倉山君がいたという事が大きいのだがね・・・、そのおかげで解析のヒントが得られた。


 もしかすると、今現在植民地で作られている夢のような科学技術の結晶の製品・・・、家電や車にジェット飛行機などだがね・・、これらの制御機構にもこのようなキューブが入っていて、万一植民地が反旗を翻して独立を企てたとしても、以降は生産を続けられないようにしているのかもしれない。


 電子部品等をこちらから供給して、向こう側世界でキューブを制作していれば、こちらでは装置の外側しか作ることはできず、キューブがなければ動かないという事になってしまうわけだ。


 まあ、そのくらいのことは考えて当然だと言える・・。

 ああっと・・・土産ありがとう・・・、早速今晩にでも頂くよ。」


 するとそこへ赤城がやってきて、現在の植民地の状況予測を説明してくれる。

 出向いたときに赤城がいなかったので、秘書の女の子に伝言と手渡しをお願いしたのだ。


 ほぼオートメーション化された工場で生産し、一番重要な制御系は独立していて向こう側世界からの供給では、いくら工場をこちら側世界に作ったとしても、向こう側世界のサポートがなければ生産継続は困難という事だ・・・、ううむ流石・・・。


「いえいえ、どういたしまして・・・、朋美もよろしくと言っておりました。


 それよりも・・・最重要部品を握られているから、植民地化された地域の人たちは独立を望まないのでしょうかね?

 独立したら、以前の暮らしに戻ってしまうことを恐れて・・・。」


 赤城に朋美からの言葉を伝えておく・・・、朋美からよろしくといっておけば、また近々休みがもらえるだろうという腹づもりの様だ。


「まあ・・・一部の学識あるものが見れば、仕組みを理解していたかもしれないがね・・・、まあ一般的にはほぼ自動化された工場では、独立したら維持継続は難しいだろうという考えからだろうね。

 それと・・・、やはり向こう側の進んだ科学技術というものに心酔している輩もいることだろう。


 だがまあ、キューブの情報は読み出しも書き込みも可能と分かったわけだ。

 制御機構だけを別設計すれば、独立した後でも植民地の工場を維持継続できる可能性が出てきたのだから、大きな成果と言えるね。」

 赤城も霧島博士の研究成果に、大満足の様子だ。


「じゃあ、まあ、本日深夜の勤務を改めてお願いする。

 本日の予定はキャンセルしておいたから、昼時間のうちに仮眠しておくといい。

 戻るついでに、阿蘇にも伝えておいてくれ。」


「了解しました。」

 地下の研究室を後にして、今度は5階まで階段で上がっていく。


 どうせなら5階と地下の直通のエレベーターにしてくれればよかったのにと、今になって思う。

 そうして事務所に居残った阿蘇に深夜勤務であることを告げ、午前中は手が開いたので、今までの勤務のレポートをまとめて片付けて、午後になってから仮眠をとった。



「じゃあ、始めてくれ。」

 霧島博士が指示を出すと、女性研究員が次元移送装置のコンセントが差し込まれた無停電電源のスイッチをONにする。


 すると一瞬で次元移送装置で囲まれた四角の中に置いてあった、無停電電源装置やハンドアームマシンなどが消滅する。

 向こう側世界へ送り込まれたのだ。


「じゃあ、送り込んだ小型の移送器の電源スイッチを入れてくれ。」

 霧島博士が再度指示を出すと、女性研究員が手持ちの装置のスイッチを入れる。


「おお・・・映りました・・・、感度は良好です・・・。

 では、向こう側に送っておいた次元移送装置の電源を交換しますね。」


 コントロール装置のモニターに映し出される映像を確認しながら、ハンドアームマシンを操作して次元移送装置のコンセントを前回使用した無停電電源装置から外し、今回運び入れた無停電電源装置に切り替える。

 前回実験の時にまだ電池残量は残っていたはずなのだが、念のために切り替えると言われた。


 無停電電源装置は前回の時に大量に移送させて予備も多いため、常に満タンに充電したものと実験の都度入れ替えていけばいいという考えの様だ。

 それと前回送ったビデオカメラの電源も交換して、こちらは場所を移動するように言われた。


「では、本日の実験用の移送器を並べるとしよう。

 ちょっと離して・・・同じようにポールを立てて4角形に並べる・・・。」


 霧島博士と女性研究員が、もう一組の次元移送装置を並べ始める。

 狭い地下空間であり助手が一人しか入れないため、阿蘇が手伝いを始めた。


「ではやってみようか・・・。

 まずはレンガや鉄の板など硬いものの移送実験だ。」

 新しいキューブのプログラムを組んだ方の移送器の4角枠の中に、レンガを一つと鉄や銅の金属の板を並べる。


「スイッチを入れます。」

 女性研究員が無停電電源のスイッチを入れると、瞬時にそれらが消え去る。


「おおー・・・、移送成功・・・ですかな?」

 赤城が、霧島博士が持つモニターをのぞき込む。


「そうですね・・・形の乱れなどもなく・・・、とりあえず次元移送できているようですから、正常動作と言えるでしょう。

 では次に野菜や果物、卵など生鮮食品を送ってみましょう。」


 女性研究員が次元移送装置の電源を切ってから、野菜や卵などを並べていく。

 今回は最初のころよりもずいぶんと詳細な移送実験をするようだ・・・、まあそれはそうだろう、所持していた次元移送装置は東京基地を奪取したときや、この地下基地から持ち寄ったものだ。


 つまり現役で使用していたものだから、移送できることは至極当然と考えられた。

 ところが今回は、別プログラムでの移送実験だ、そのプログラムの効果を含めて検証しなければならない。

 先ほど送り込んだレンガなどは邪魔になるので、ハンドアームマシンで少し除けておく。


「スイッチを入れます。」

 女性研究員が電源を入れると、またもや野菜や卵などが一瞬で消失する。


「おお・・・今回も成功のようだね・・・、新倉山君悪いが送り込んだ卵と野菜は、先ほど電源を付け替えた移送器の枠の中に運んで、それから電源を入れてくれ。

 ついでだから、交換した無停電電源も一緒に送ってくれ。」


 霧島博士に指示され、ハンドアームマシンで取り外した無停電電源装置を枠内に並べ、送ったばかりの卵とキャベツを電源の上に並べ、付け替えたばかりの電源を入れる。

 すると、少し離れた空間に卵とキャベツを乗せた無停電電源装置が出現する。


「ようし・・・キャベツはどうかな・・・放射能レベルは・・・、自然界のものとほぼ変わらず・・・。

 じゃあ、卵を割ってみよう・・・、よしっ・・・黄身も割れていないし問題ない。」


 送り返されたキャベツと卵を確認して、霧島博士は実験結果に満足している様子だ。

 確かに、プログラムが変わっても正常に次元移送できているようだ。


「では・・・本日のメインイベントというか、動物実験を始めよう。」

 霧島博士が、マウスが入った小さな檻をスイッチを切った次元移送装置の枠内にセットする。


「えっ・・・でも、生き物は送れないんじゃあ・・・?」


「ああ、そうだ・・・、今までの移送器で生き物は送れない・・・向こうの世界もそれは認めていた・・・、新倉山君の場合は例外としてね。


 私はあのキューブに記録されていたプログラムを解析した・・・といってもプログラム言語に関して私は素人だから何が書かれているかはわからなかったがね。

 それでもGOTOやendのような英語的表記や、+−/×などの四則記号からプログラム内容のおおよその見当をつけた。


 どうやら1から100まで分類するための繰り返しルーチンのような命令があって、その後それぞれを1から100で除してから10倍にしていると読み取れた。

 つまり1から100までばらばらだったものを、全て10に揃えようとしているのではないかと推察した。


 そうして移送器で分解生成するときのスピードが部位ごとに異なる・・・、移送しようとしているものの大きさにも影響されるのだろうが、その物質全ての部位を同じスピードで分解生成するという事は簡単ではないのだろうという憶測に至った。


 そのうえで、そのスピードを揃えようとしているのではないかと考えたわけだ。


 だが、どうしてそのような改善をしなければならないのか・・・、という事だね?今現在でも次元間での物資のやり取りは十分に行えているわけだからね。

 もしかすると、この時間が安定していれば生きたまま送ることが出来るのではないかと考えたわけだ・・・。


 なにせ人間でいうとその細胞の数は60兆にも上るわけだから、そのすべての細胞の分解生成のスピードをそろえる・・・という事を意識して行わないと、完全な形での移送は難しいのだろうね。」


 霧島博士が口元に笑みを浮かべる。

 そうか・・・何も変わり映えしない移送器のプログラムであるならば、スパイが命を懸けて伝えようとしたはずがない・・・、何か意味があるはずだと霧島博士は考えているわけだ。



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