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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第7章
87/117

Kirishima

2 Kirishima

「これが再生した基板を写真にとって拡大したものだ。

 基盤の配線パターンは、もちろん元の基盤の残骸をつなぎ合わせて学生たちにパターンを写してもらい、銅をプリントした基板をエッチングして作成した。


 元の配線を再現しているのは間違いがない・・・というより再現性が高すぎたというのか、余計な・・・いや余計ではないわけだな・・・、実際の配線パターンとは関係のない部分まで忠実に写し取ってくれていた。


 まあ、通常であれば組み付けるトランジスタ名を書いたり、電気信号図を記載したりするのだが、中には設計者のサインを入れたりする場合もあるわけだ・・・・、よほど革新的な技術を取り入れた場合など、その基盤の通称と設計者名を入れたりするのは、こちら側世界でもあることだ。


 巨大円盤の補修部品の基盤にも設計者のサインが入っていた・・・、それがこれだ・・・。」

 天井からつるされたスクリーンに、映写機からいくつもの文字が映し出される。


「活字体ではなくて筆記体のようですが、maとかKとかアルファベットのように見えますね・・・。」

 阿蘇がひっくり返ったり縦になっていたりする文字列を、首を傾げたりして読み取っていく。


「これらは、それぞれ別々の基盤残骸から見つかったもので、ある共通の文字列を表している。

 基盤のパターン通りに組み合わせるとこうなる。」

 そうして1列に並べられた文字列が映し出される・・・。


『あっ・・・Kirishima・・・』俺と阿蘇が同時に読み上げ、そうして息をのむ・・・。


「そうだ・・・Kirishimaと読める・・・、ちなみに私が書いた筆記体のサインと筆跡鑑定を頼んだら、90%以上の確率で同一人物のものだと言われたよ、間違いない・・・向こうの世界の私が巨大円盤の設計者だ。」

 霧島博士はそういうと、傍らの椅子にそのまま腰を下ろしうつむいた。


 無理もない・・・娘さんが襲われて殺されなければならなかった理由と、その根本原因を作った向こう側世界の首謀者たちを見つけ出すというのが霧島博士が協力してくれる第一の理由なのだが、その首謀者の中に、霧島博士(もちろん向こう側世界のだが・・・)がいる可能性が高いということになってしまったのだ。


「いっいやあでも・・・、分かりませんよ別人の霧島さんかもしれませんし・・・。


 何より俺は向こうの世界で霧島博士のことは知りませんでしたよ・・・、こちら側世界の霧島博士は未知なる侵略者の魔の手からこちら側世界を救うための数々の功績を立てていらっしゃって有名ですが、向こう側世界ではそのような報道がされたことはありません。


 ですから、全くの別人という事も考えられますよ。」

 とりあえず俺は、本当に向こう側世界で霧島博士に関する報道など聞いたことがないので、そのことを強調しておく。


 もし仮にこちら側世界の霧島博士並みにすごい人だったらノーベル賞とかもらっていたり、少なくとも候補として毎年騒がれていたりしていたのではないだろうか?


「いや・・・所詮私は数学者だからね・・・、物理学も面白そうなテーマがあれば研究はするが、基本的には数式を解くのが本業だ。


 世界中各地に潜んでいた強奪マシン基地の場所の特定だって、様々なデータから統計手法を用いて導き出したものだし、核爆弾だって核分裂するための臨界点など数学的に計算して設計したものだ。

 無論、秘密裏に実験は行ったがね。


 だから普段は地味な研究をしているわけだ・・・とりわけ平和な世の中では私などの名前が表に出てくることは少ないだろう。

 特に、この間新倉山君が言っていたように、巨大円盤や強奪マシンなど、向こう側世界ですら一般的な技術ではなかったという事だから、その設計者の名前が表に出ることはなかったはずだ。


 だがまあ・・・円盤がこちら側世界に登場し始めたころの私は、まだ中学生程度だったはずだから、もしかすると私の父親かもしれないがね・・・。」

 霧島博士は、椅子に腰かけたまま力なくため息をつく。


 そうかもしれないし、あるいは霧島博士本人で、生まれた時代が異なる可能性だってあるわけだ。

 俺の場合はたまたま同じ時期に生まれついていたわけだが、向こう側世界とこちら側世界の人口差を考えると、同じ人物だとしても生まれる時期は異なる場合の方が多いと考えた方がいいだろう。


「そうだとしても・・・そうだとしてもですよ・・・、霧島博士は向こう側世界の役に立つため・・・、つまりは食糧難を解決するためにやむなく活動しているのだと考えます。


 いえ・・・輸送機として巨大円盤の設計は行ったけど、もしかするとその円盤を他次元の食糧強奪のために使われるとは、考えてもいなかった可能性だってあるはずです。

 決して霧島博士自身が首謀者の一員だとは、考えないでください!」


 阿蘇がその大きな体からひときわ大きな声を発する。

 そうだ・・・巨大円盤の基盤に霧島博士のサインが入っていたからと言って、霧島博士がこちら側世界からの強奪を推進したとは限らないのだ・・、無理やり協力させられた可能性だってあるはずだしね。


 また、首謀者だとしても・・・やはりそれなりの理由があるはずだ・・・、まあ、誰も好き好んで他次元から強奪しようなんて考えるわけはないよな・・・、だから、その理由を突き詰めていけば、仕方がない面は必ずあるのだろう。


 だからと言って強奪を認めてしまうのではなく、やはり首謀者は裁判などにかけてそれなりの処罰が必要とは考えるが・・・。

 ううむ・・・首謀者像がある程度浮かび上がると、それなりの事情を察してしまうのは、やはり知り合いならではのことだろうか・・・?


「ああ・・ありがとう・・・、向こう側世界の私が考え付いたことということで、更に思考を凝らせて円盤の補修体制を構築していくよう早急に推進するつもりだ。


 それで・・・、君たち・・・というか新倉山君を呼び寄せたのは、もう一つの理由があるのだ。

 これを見てくれないか?」

 霧島博士はUSBケーブルが付いた四角い箱を、奥の棚から持ってきた。


「この装置も・・・爆発の影響でほぼバラバラになっていたものを組み立てたものだ・・・、といっても中身の部品まではまだ見つけていないがね。


 この箱には少しくぼみがあって、そこにONと書いてあるのだが、スイッチのONとOFFにしては突起もないし、しかもこの外装は硬質プラスチックだから、硬くてかなり力を入れても押し込めない。


 ONと書いてあるのでふと思いついたのだが、フィリピンのスパイが持っていたキューブだが、それがちょうど乗るサイズなわけだ・・・、だがキューブをこの上に置いてみても何も起こらない・・・。

 それもそのはず、この箱は中身が入っていないからね。


 君はこの箱の使い方がわかるかね?」

 霧島博士が、定期入れよりも一回り大きめの扁平な箱を見せてくれる。


 がれきの中から見つけたという言葉通り、箱はつぎはぎだらけだがしっかりと接着しているようで、手に持っても形が崩れることはない。

 短辺側中央からケーブルがでているが、その先はUSB端子がついているので、パソコンに接続することはほぼ間違いがないだろう。


「これは・・カードリーダーではないですかね?」

 俺がその箱を受け取って眺めた限り、思い浮かぶのはその一点だけだ。


「カードリーダーというと・・・、地下基地から持ち帰ったケーブル類など備品から見つかった、磁気カードの読み取り機のことかね?

 どこにも読み取りヘッドのようなものが見当たらんのだが?」

 霧島博士が、俺の手からその箱を取り上げると、再度裏面なども確認しながら問いかけてくる。


「はい・・・俺も詳しい原理は知りませんが、カード側にICチップというものが埋め込んであって、磁気カードのようなヘッドがなくても情報を読み取れるようです。


 磁気カードだと一種のテープレコーダのようなもので、その長さ分しかデータは記録できないため、カード情報など照合用に複雑化しようにもできないという事で、ICチップに大きなデータを入れて暗号化してセキュリティ性をあげたわけですね。


 ICチップの容量にもよりますが、磁気カードの何万倍ものデータを入れられるという事で、個人情報を入れたICカードを国民全員に配って、住民票や戸籍謄本の発行の際の手続き簡略化などを計ろうとする動きもあったくらいです。


 たしか読み取り機の上に置くというか、かざすだけでデータが読み取れたはずですよ・・・、電車に乗る定期券などもカード化されていて、改札にかざすというかタッチするだけで通過できました。

 ケータイ電話などにも同様なICチップが入っていて、各種カードの役割を果たしていましたからね。


 持ち帰った中にも磁気カードを読み取るリーダーもありましたが、ICチップを読み取る方のリーダーもあったはずですよ・・・、カードリーダー群として分類しておきましたからわかるはずです。」


 少し大きさは異なるが恐らくカードリーダーの類だろう・・・、確かにどこにも読み取りヘッドはついていないし、接続端子を刺すソケットもない。


「おおそうか・・・おい君・・・、地下基地から持ち帰ったケーブル類を大至急持ってきてはくれないか?

 円盤との接続ケーブルも入っていたから、忘れずにこちらに持ってきたはずだ・・・、すまんが探してくれ。」


「はい分かりました。」

 霧島博士はすぐに若い研究員を捕まえて、カードリーダーを探してくるよう依頼する。


 そうか・・・もしかするとあのキューブは特殊なカードリーダーで情報を読み取るのかもしれないな・・・、なにせどこにも接続子などついてはいなかったからな、俺が気づかなければならなかったな・・・ううむ反省。


「これでしょうか?」

 若い女性の研究員が、すぐにプラスチックコンテナを3つほど抱えて持ってくる。

 透明のコンテナには雑多にケーブル類が入っているのが透けて見える。

 

「ああ・・・、恐らくこの中に・・・。」

 俺はコンテナのうちのカードリーダーと書かれたシールが張られたコンテナのふたを開けて、中身を探る。


「これですね・・・。」

 そうして携帯の充電ケース程度の大きさの厚みのある板状の先に、USBケーブルがつけられたものを取り出す。


 それからバッグの中からコントロール装置を取り出すと、すぐに起動させてUSBケーブルを差し込む。

 地下研究所に呼び出されたときには、常にコントロール装置を持ってくるよう心掛けている・・・何せ大抵の場合はコントロール装置の操作の仕方や、インストールされているソフトの使い方を聞かれるからだ。


「ちょっと大きさが異なりますが、キューブを乗せてみますか?」


 俺が気が付かなかった言い訳的にはなるが、キューブは通常のカードサイズよりは一辺がはるかに大きい。

 そのためリーダーに乗せても左右のガイドに乗り上げて浮いてしまう・・・が、カードリーダーの特性から言えば、この程度なら読み取れなくはないはずだ・・・たぶん・・・。


「あっ・・・何か出てきましたね・・・、テキストのようですよ・・・。

 へえ、プログラムか何かですかね・・・、文章というより何か命令文のようなものが続々と表示されてきます。

 うーん・・・各面ごとに何か情報が入っているようですね・・・、とりわけ暗号化されているようにも見えませんね。」


 カードリーダーの上にキューブを置くと、次々とコントロール装置にテキスト文字が表示されていく。

 やはりカードリーダーで読み取る情報だったようだ・・・、うかつだった・・・だがまあ、情報が伝わったのだから、犠牲になったスパイの方も浮かばれるだろう。


「分かった・・・悪いが、そのカードリーダーとキューブをこちらに貸してくれ・・・、データを記録する。」

 すぐに霧島博士がマイコントロール装置を持ってきたので、USB装置を停止して取り外し霧島博士に手渡す。


「ふうむ・・・、確かにそうだね・・・4面どころか6面全てに情報が書き込まれている。

 しかも、こちら側の面には何かの図面のようなものが記載されている・・・ううむ・・・この円錐形のものには見覚えがあるね・・・。」


 霧島博士が言う通り、コントロール装置に映し出された円錐形の図面は、恐らく次元移送装置のものだろう。

 どうしてそんなものの図面が今頃・・・?


「ふうむ・・・、一緒に入っていたプログラムに関しても解析を進めなければいけないね・・・、ありがとう、助かったよ。」

 霧島博士が満面の笑みを浮かべる。


 お役に立てて何よりだ・・・というか、今後はもっと色々な面から物事を見つめ返すよう心がけるべきと反省しきりだ。

 ICカードなども、あまりにも当たり前に使われていたので、特別意識して思い浮かべることはなかったわけだ・・・、その技術を情報の隠し場所として使われるとは・・・、考えてみればありなわけだ・・・。



「お帰り・・・どうだった?休みはもらえた?


 順二をどこへも連れて行ってあげていないから・・・・、私も久しぶりに週末が休みの番だし、千葉辺りにでもドライブして・・・、海産物でもたっぷり食べて・・・という計画なんだけど、どうかな?」

 アパートに帰るなり、朋美が休みの取得が叶ったかどうか確認してくる。


「いやそれが・・・就業時間中は赤城参謀に会うことはなく、終業間際に呼び出しを食らって行ったら出会うことはできたのだが・・・、とても休みのことなど切り出せる状況ではなかった・・・すまない。


 それよりも・・・フィリピンで出会ったスパイが渡してくれたキューブに収められていた情報を、取り出すことに成功したよ。

 俺もうっかりしていたんだが、非接触型のICチップ用のリーダーで読み出せることが分かった。


 といっても俺にはその原理を説明することはできないけれどね。

 これから読みだした情報を、霧島博士のグループが解析するところだ。」


 休みのことを言い出せなかったことを謝り、更に話題を変えるために今日のよかったことを報告する。

 スパイの件に関しては、朋美も命がけで手渡してくれたものを何とか活用しなければいけないと、何かあるたびに解析状況を気にしていたのだ。


「えー・・・じゃあ、順二と2人で電車で行かなければならないっていうの?

 電車じゃあ、園へのお土産もあまり買って帰ることが出来ないし・・・、何とかならないの?」

 朋美が悲しそうな顔で訴えかけてくる。


「うーん・・・、まあまだ3日あるから、明日にでももう一度交渉してみるよ。

 あのキューブの解析が進めば、向こう側の世界との交渉のための何か手立てが見つかるかもしれないから、ある程度のめどが立てば休みも取れるだろう。」


 とりあえず、確約はできないが明日もう一度交渉してみることを告げる。


 特攻作戦で巨大円盤を奪取してから、向こう側の世界との関係は戦争状態・・・、こちら側から宣戦布告したという解釈がされている。

 つまり現状は戦時下であり、俺たち自警団員は当たり前だが有給休暇も土日もなく、家にいるときにも緊急時はすぐに出動できるよう待機を命じられている。


 だが・・・向こう側世界からの報復はその気配すらも見えず、一般社会は通常と何ら変わらない生活をしている・・・、そのギャップがひずみとなっているのだ・・・。



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