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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
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マニラ

  14 マニラ

「じゃあ、出発しますよ。」

「ああ、出してくれ。」


 赤城が俺の問いかけに俺の隣のシートに着席したまま頷く。

 すぐに俺は円盤を出発させる・・・といっても、フィリピン、マニラの座標を入力して、エンターキーを押すだけだ。


 たったそれだけで、この巨大な円盤は、ほんのわずかな加速度によるGを感じさせるだけで、ほとんど音もなく飛行してくれる。

 今回は高度5万メートルの上空を経由してのフライトだ・・・、対外交渉を続けても代表者との面会の承諾が得られないため、赤城が直接交渉だといってアポなし突撃訪問となったのだ。


 もちろん敵意がないことを示すため、白旗を円盤下部に括り付けてはいるが、まあ効果には期待が持てないと赤城も言っていたくらいだから、下手をすればこれが原因で向こう側世界の植民地と全面戦争なんてこともありうるわけなので、慎重に行動しなければならない。


「ピィーピィー・・・」

 すぐに目的座標に近づいたアラームが鳴り響く。


「ううむ・・・早いな・・・、まだ30分ほどしか経過していない。

 一体時速何キロで飛んでいるのだ?」


 赤城が、円盤のあまりのスピードに目をむく。

 確かに、強奪マシンに比べても数倍は速いスピードだ、恐らくマッハいくつかなのだろうが、今度霧島博士に聞いてみるとするか。


 10000、9990,9980・・・・、高度計の数値が瞬く間に減少していく。

 すでに目的座標に到着して、高度を下げているようだ。


「あまり低空だと危険なので、高度は200メートルを指定しました。

 恐らく、このくらいの高さなら転送ビームは有効だと思います。

 3人を降ろしたら、円盤はすぐに高高度へ飛び上がりますので、危険を察知したらすぐに呼び寄せてくださいね。」


 後席の阿蘇と横の赤城に念を押して告げる。

 俺もコントロール装置とマシンを連れて一緒に行くと言ったら、円盤を操縦する奴がいなくなるから、残れと命令されたのだ。


 仕方ないので霧島博士の研究所の学生とか、あるいは自警団員とかを連れてくるよう進言したのだが、大人数で行くとかえって刺激するから、最少人数で行って群衆の中にうまく紛れ込んだうえで、一般人の話を聞きたいのだといって通訳の自警団員を一人連れただけで、降りると言い張る。


 まさに潜入捜査だ・・・これで、民衆が向こう側の世界を支持していたら、どうするつもりなのだろうと少し不安になる。


「じゃあ、倉庫へ行ってください。」

 円盤が高度200メートルに近づいてきたので、倉庫に行って降りる準備をしていただく。


「ピッピッピッ・・・」

 円盤が目的座標に到着したことを告げるアラームが鳴るとすぐに、転送ボタンを押す。


 すると円盤下部が開き、透明なチューブの中を上下するエレベーターのように、3人はそのまま速いスピードで地上まで降りていくのがモニターで確認できる。


 円盤に収容するときはおおよその個体群の大きさと重さを指定するため、吸い込まれるかのように無常力状態でふわふわと円盤に収容されるのだが、降ろすときは倉庫内で個別にスキャンするため、姿勢も立ったままで転送されるようだ。


『ブロロロロロ・・・ププーププー、ガヤガヤガヤガヤ』すぐにモニターの通信スイッチを入れると、都会の喧騒の風景が映し出される・・・、こちら側の世界とは違うどちらかというと俺がいた向こう側の近代ビル群の印象だ。

 阿蘇が持っているコントロール装置から中継されている映像で、地上に降り立ったことが分かったので、すぐに円盤を成層圏まで上昇させる。


 しかし受信する映像を見る限り、3人が降り立ったのはどうも交差点のど真ん中のようだ・・・、というか交差点真ん中のロータリー部分に降り立ったようだ。


 降下地点を円盤に選定させて、それなりに安全な地点(降下時にぶつかりそうな人や車がいない場所)を表示させて、その中で一番適しているような場所に降り立ったのだが、そりゃあロータリーなら人も車もいないわな・・・、だが、そこから通りへ抜けるのが一苦労しそうだ。


『プププププー・・・キッキィー』赤城を先頭にクラクションが鳴らされる中、車道を突っ切って向こう側の歩道へと駆け抜けようとすると、当然のことながらロータリーを回ってきた車に衝突しそうになり急ブレーキがかかる。

 まさか人が渡ってくるとは考えていないだろうから、かなり危険と考えていたら・・・、後続車両もすぐに反応して赤城たちはスムーズに歩道まで渡ることができた。


 阿蘇から送られてくる映像を見ると、どの車もドライバーは驚いた表情で眼をしばたたせているが、見ると運転席にはハンドルなどがついていない・・・(左ハンドルかと思ったが、どちら側の席にもハンドルのようなものが見当たらない・・・)、中には眠っていて突然の急ブレーキで驚いて目を覚ましたドライバーがいるほどだ。


 そうか・・・自動運転車か・・・、もうそんなところまで技術革新が行われているという事のようだ・・・・、俺がいた世界では自動運転技術はほぼ確立しているとは言っていたが、実際に事故が起きた時の責任区分など法整備の問題があり、まだ普及はしていなかった。


 それほど車の普及していないこちら側の世界で、しかも植民地であれば、法整備の問題もなく実用化可能というわけだろう。


「すいませーん・・・、ちょっとお話よろしいですか?」

 歩道側に何とか移動して、赤城がすかさず歩行者の一人を捕まえて話しかけようとする。(もちろん、通訳が間に立って話しかけている)


「世界政府側の国々では自国に飛来していた巨大円盤の捕獲に成功し、向こう側世界との通商を断つことに成功しました。

 ついで、植民地化された地域の開放を実施しようとしておりますが、皆さんはすぐに植民地支配から逃れて、世界政府に復帰したいですよね?」


 報道管制で一般市民には他国の情勢など伝わっていないと考えているのだろう、赤城が一般市民の意見を聞こうとインタビューして回るつもりのようだ。


「ああ・・・馬鹿なことをやったものだ・・・、どうしてせっかく手に入れた優れた文明との通商を断ってしまったのか、我々には理解できないね。

 さらに向こう側の世界の指導の下で暮らさないかと誘ってくれているのに、どこの国も反応を示さない。


 あれは一部の世界政府参加国が、向こう側世界に下るのを引き留めているだけだろ?

 しかも民意を全く反映させようともしないで・・・、どこの国でも国民に問いかけるべきだ、どちらの世界で生活したいのかという事をね・・・、そうすればおのずと答えが見えてくる。


 なにせ俺たちが夢に描いていた・・・いやそれ以上の技術が舞い込んでくるのだからね。

 工場の仕事はほとんどが自動化されているし、農業や漁業・林業だってそうだ・・・まさに夢のような生活さ・・・。


 それを断って、わざわざ体を使って汗水たらして・・・、そうしてわずかばかりの糧を得る生活を選択する奴らの気持ちが理解できないね・・・、と言っています。」

 通訳が、赤城の問いかけにこたえてくれた、若い男性の言葉を訳してくれる。


「ああそうですか・・・、ではあなたはどうですか?」

 赤城はめげずにすぐ次に歩いてきた、今度は若い女性に話しかける。


「私は・・・田舎の貧しい農家の次女として生まれて・・・、毎日朝から2キロも離れた井戸まで水くみに行かされ、畑に水やりをした後、弟たちの面倒を見なければなりませんでした。


 そのため学校も満足に行っていません・・・、ところが向こう側世界の指導の下、一家で町中に越してきて父と母は工場の仕事につき、私も弟たちも学校へ通うことができるようになりました。

 何より、蛇口をひねれば安全な飲み水が出てくる夢のような生活に、大満足しています。


 もう、昔の生活に戻るつもりはありません・・・、と言っています。」

 次の若い学生の答えも、ほぼ同様の内容だった・・・。


「では、あなたは・・・」

 赤城はまだあきらめずに次々と通行人を捕まえてはインタビューを繰り返していくが、どの人も現在の生活に満足していて、植民地で十分という答えを返してくる。


『ドンッ』「ソーリー・・・」中には忙しいのか、インタビューを無視して阿蘇にぶつかりながら逃げるように立ち去っていく人も・・・・、どうも世界政府側の印象はよくない様子だ。


『ファンファンファンファン』そのうちにけたたましいサイレンが鳴って、真っ赤な回転灯が近づいてくるのが見えてきた。

 すわ、パトカーかと思ったら、なんとハンドアームマシンに回転灯を付けた、パトマシンのようだ。


「すぐに、ロータリーに逃げてください。」

 円盤を降下させながら、コントロール装置に呼び掛ける。


『ダダダダッ』『ププープッププ・・・キキィー』赤城たちは急いで道路に飛び出し、交差点中央のロータリーへと駆け込む。

 そうして何とか3人を無事回収することに成功すると、すぐに円盤を急上昇させる。


 やはり世界政府側の人間に対して警戒しているのだろう・・・、まあ当たり前か・・・なにせ、実際の戦闘は行われてはいないが、戦時下にあるわけだからな・・・・。



「でも、弱りましたね・・・、これでは植民地化された地域を開放するどころか、世界政府を離れて向こう側世界に下る国を増長するだけですよね。」


 阿蘇がコントロール装置に録画した映像を再生しながら、ため息をつく。

 植民地化された地域の住民たちの不満の声を集約して、解放運動を盛り立てようとしていたはずが、とんだ目論見違いになってしまったわけだ。


「ああ・・・、無理やり言わされているというような印象も受けなかった。

 確かに、植民地化された地域の住民たちは、現状の生活に満足しているという事のようだ。


 だが・・・新倉山君が以前言っていたように、あくまでも今の規模であるからという事は推定できる・・・、つまり向こう側の世界と通じている地域がまだ少なくて、しかもさんざん破壊されつくした後のごく一部の生き残りしかいないから、十分満足な生活が送れているのだと言える。


 これが、一国丸々向こう側世界に下った場合どうなるか・・・、そこに暮らす人々すべてに満足いく生活を与えられるかどうかというと・・・、やはり疑問符を付けざるを得ない。」

 赤城は今のインタビュー結果を真摯に受け止め、それでも特殊なケースであるのだとあくまでも分析をする。


「そうですね・・・、俺がいた世界では確かに文明は発達していましたが、それでも世界中の人々がその恩恵にあやかっていたわけではありません。

 なにせ食糧危機を迎えていて、他次元から強奪を繰り返していたくらいですからね・・・、どの国でも十分な食料事情であったわけではなく、深刻な飢餓を抱えている国や地域は多くありました。


 そういった地域は人口増加の歯止めが利かず、更に食糧事情を悪化させるといった負の連鎖を繰り返していたと記憶しています。


 つまり、向こう側世界の指導の下で進んだ文明の享受を受ければ、誰もが満足する生活を得られるという事ではありません・・・、まさにそれができなかったからこそ、こちら側世界から強奪を繰り返し反撃にあってほとんどの人々が犠牲になったのです。


 その点を冷静に考えれば、こちら側の世界のように文明の進み方は緩やかでも、食料に余裕がある生活の方がはるかに素晴らしいのだと分かるはずです。


 今はごく一部が参加しているだけだから、植民地化された地域はその恩恵にあずかっていられるだけでしょう。

 この辺りの真実をどうやって伝えていけばいいのか・・・。」


 赤城は俺の考えに同意見だから不満はないのだが・・・、だが具体的にどうすれば彼らの考え方を変えることができるのか、全く見当もつかない。


「あれ?ポケットに何か入っているな・・・。」

 突然阿蘇がジャンパーのポケットの中から、小さな紙片を取り出した。


「なんでしょうか?」

 阿蘇が赤城にその紙を渡す。

 そこには数字が羅列されているようだ・・・。


「うーん・・・座標のように感じるな、そういえば阿蘇にぶつかって逃げるように立ち去った通行人がいたな。

 我々を疎ましく感じているように見えたが、その人が入れていったのかもしれない。


 ちょっとこの座標を円盤に入力してみてくれないか?

 安全のために高度はそのままでいい。」

 赤城が紙を俺に手渡しながら指示をする。


「はい、分かりました。」


 座標を入力してエンターキーを押し円盤下部カメラを作動させると・・・、映ったのは郊外の里山的な場所の中の空き地のようだ。

 木々が途切れた隙間に、何か大きな布が敷かれているように見える。


「ふうむ・・・あれは世界政府の旗だ・・・、どうやらここに降りてこいと言っているようだね・・・。」

 赤城が映像を見ながらつぶやく。


「行ってみるか・・・。」


「分かりました、でも先ほどのようにパトマシンが出てきても困りますから、こちらもガードマシンをつけましょう、円盤の人工知能がコントロールするので、複数台起動できますよ。」

 安全のために、ガードマシンの護衛をつけることを進言する。


 俺がマシンをコントロールしてもいいのだが、それだと円盤の操作が緩慢になるし、危険な時に回収が遅れる可能性だってある。

 霧島博士を乗船させたときに分かったのだが、ガードマシンやハンドアームマシンはこの円盤の人工知能でコントロールできるらしい。


 もともとそういった機能で使っていたのを、各地の市場などから直接強奪するようになり、人工知能での制御だけでは追いつかなくなり、人による1台ずつのコントロールに切り替えていったのだろうと推定している。


 夜間の基地のガードは人工知能で自動コントロールしていたわけだからな。

 そのため、ガードする対象を登録しておくと、勝手に円盤がガードしてくれるのだ。

 さて・・・鬼が出るか蛇が出るか・・・、指定された座標に降り立ってみるとしよう。


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