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ゲームの達人  作者: 飛鳥 友
第6章
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後片付け

  13 後片付け

 翌日は1日休みなのだが朋美は休めないため、いつものように順二と一緒に園に行って、保父さん業務だ。

 夕方になって朋美が迎えに来て、3人で帰宅する。

 久しぶりに順二と一緒に湯につかり、疲れをいやしてから翌朝出勤だ。


 よく考えてみたら本日は日曜なのだが、そうはいっていられない事情があるようだ。

 事務所についたらすぐに円盤に乗船して出向くよう座標を手渡された。

 巨大な無線機を背負った阿蘇と2人で円盤に乗り込み座標を入力する。


 コントロール装置の4方モニターは前回起動してあるため、そのまま外の景色を眺めながらのフライト・・・、ずいぶんと北の方向へ飛んでいくのが分かる。

 やがて到着したのは、広大な牧草地だった。


「この牧場のすべての家畜を広場に集めるから、それを収容して指定場所まで搬送してほしいんだって。

 牛豚に羊や鶏、全て区別なく収容していいけど、暴れないように催眠ガスを必ず撒くようにって言われている。」


 無線機でやり取りをしている阿蘇が、指示を告げてくる。

 阿蘇も事情を聞かされないまま、出勤してすぐに円盤に乗せられたようだ。


「家畜の収容が終わったら、次は米や麦などの農作物を集めるから収容するようにって。

 これらは高品種だから種もみとして使いたいらしいね・・・・、家畜類もそうなんだろうね・・。

 最後に牧羊犬もかわいそうだから引き上げてやってくれって言っている。」


 そうか・・・ここは北海道の農地だな・・・、長野の牧場もそうだったが、恐らく地上班は断崖絶壁を乗り越えてやってきたのだろう。

 家畜にしても農作物にしても空輸する以外の方法はないわけだ。


「ううむそうか・・・、だがこの牧場のコントロールは奪ったわけじゃあないし・・・、向こう側の世界の支配下にあったはずだ・・・、ガードマシンの抵抗には会わなかったというのかい?

 犠牲者を出してまで奪取するようなものじゃあないだろう?いかに高品質の農作物とは言え・・・。」


 確かに残された家畜たちに未練がないことはない・・・、だが、奪い取るには犠牲者が出る危険性だってあったはずだ。

 本来ならまず俺が先に来て、マシンを操りガードマシンたちを粉砕してから、牧場に入っていくという順じゃあなかったのか?


「いやあ・・・僕も気になって聞いてみたら、下の連中が牧場についたときガードロボットなどには全く出くわさなかったといっている。

 代わりに、無線機やコントロール装置と思しき機械類が破壊されまくって黒煙を上げていたということだ。


 さらにガードマシンの自爆した破片もあったようだ。

 つまり、僕らに円盤を奪取されたことで、牧場基地を捨てたのだろう。


 下手に抵抗するより、向こう側の世界につながるような証拠品はまとめて破壊しつくしてしまった方がいいと判断したのだろう、抜け目ないよ。」

 隣の席に座る阿蘇が、傍らの無線機を操作しながら答える。


 そういえばこの無線機・・・、ずいぶんと大きいがスピーカーはついていないのだろうか?

 阿蘇は昨日もそうだったが、イヤホーンをしながら通信しているようだ。


 しかし、ずいぶんとあきらめのいい・・・、装置を破壊したのであれば、農場自体に火を放つぐらいした方がよかったのではないのか?

 まあ、わざわざ家畜の回収に来るとは思っていなかったのかもしれないな・・・、各地のシェルター位置を特定できるような無線装置とか・・・、そんなものがこちら側の手に渡ることだけを恐れたのだろう。


 実際それが目的だったのかもしれないが、ついでに家畜や農作物の回収作業も行っているというわけだ。


 それからの2週間というもの、東南アジア地域の各農場の家畜や種もみなどの回収が続いた・・・。

 どこの地域でもすでに設備は破壊しつくされて放棄されていたが、やはり高品種な農産物は回収を望まれる場合が多かった。


 その間、人が直接家畜の世話を行うことになったのだが、いかんせんどの農場も人跡未踏で訓練を受けた軍人以外近づくことができない自然の要害であるため、1日でも早い回収を望まれ、休む暇もなく早朝から夜遅くまで時差分も利用しながらフル稼働させられた。


 帰ることなくほぼ円盤の中にいづくめで、座標入力しての移動と荷下ろしまでは自動プログラムでできることが分かったので、そのわずかな時間だけが休憩で、他はほとんど不眠不休といった感じだった。


 よく考えたら奪取した円盤は8機だけだから、世界中の国々の隠し農場の家畜や農産物をたったの8機で回収して回るのだ。

 1機当たりの割当ては相当にきついはずだから、仕方がないか・・・相手は生ものだしな・・・。



 そんなこんなで、向こう側の世界から解放された喜びを味わうこともなく、働きづめの毎日を過ごしようやく日本に帰ってきた。


『カチャッ』「ただいまー・・・。」

『ダダダダッ』「パーパ・・、お土産ー・・・」

 帰宅と同時に、やはり土産物目当てのわが子が、駆け寄ってくる。


「あら、お帰りなさい・・・、今回も長かったわね・・・。」


 まさか休みの翌日からすぐに長期出張とは聞かされていなかった・・自警団業務なので内容を明かさずに当日任務というのはよくあることではあるが・・・ので、何も断らずに2週間も開けていたことにあきれているのか、怒りはしていないが、機嫌もよくはなさそうだ・・・。


「ああ申し訳ない・・・世界中の円盤を破壊したものだから、各国にあるはずの隠し農場を向こうの世界が放棄したため、その家畜や農作物を回収して回っていた。


 人がまともに行けるような場所に作られていないため円盤でないと運べないし、かといって生き物だから誰かが世話をしなければならないし・・・、一応各国の軍隊が出向いて家畜の世話などしていてくれたのだが、やはり急がされてしまって、ほとんど休みも取れずにひたすら働かされていた。


 はいこれ・・・、土産というほどのことはないけど、農場の牛肉と豚肉と鶏肉に米までもらってきた。

 家畜たちは種牛や母牛、母豚など・・・、高品質の肉質を保つために特別管理されるらしい。

 米や麦も種もみとして管理され、野菜ももちろんその種を大事に利用するという事だ。


 そんな貴重なものを運んだわけだから、せめてもという事で、毎日の食材だけは隠し農場でとれた米や肉で調理した料理を差し入れてくれた。

 そうして大量の手土産も持たせてくれた。

 円盤には冷蔵庫もあったから、ちょうどよかったよ・・・。」


 行くときは長期出張などとは聞いていなかったので、コントロール装置以外はほぼ手ぶらだったのだが、帰りは大き目のスーツケースいっぱいに肉や米のほかに野菜まで詰め込んできた。

 各国の農家さんの感謝のしるしだ・・・。


「へえ・・・ありがたいわねえ・・・、なにせ、お肉なんて今や高級ブランド化してしまって、もうあたしたちなんかには手が届かないくらい高いのよ・・・。

 いつももらってばかりで申し訳ないから、園にもおすそ分けしようかしら・・・、ねえ、いいでしょ?」

 朋美がスーツケースの中身を冷蔵庫に移しながら笑顔を見せる。


「もちろんだよ・・・、園の子供たちは育ち盛りだし、たくさん持って行ってあげるといい。」

 2週間の間まったく連絡も取れなかったので、こんなことで機嫌が直ってくれるのなら、本当にありがたい。


「じゃあ、明日からはまたお休みでしょ・・・、また順二と一緒に園に行く?」


「いやあそれが・・・非常事態という事で、当分の間休みは取れそうもないんだよ・・・。

 明日も朝から出勤さ・・・なにせ、向こう側の世界の植民地を開放する仕事が残っているからね。

 ごめん・・・。」

 申し訳ないので、両手を合わせて拝むようにして、お詫びする。


「ああそうね・・・植民地の宣伝CM・・・未だに毎日放送されているものね・・・。

 うちの病院でも世界中の円盤を破壊したり乗っ取ったりして、向こう側の世界の強力な兵器はなくなったって言っても、信じない人がほとんどよ。


 なにせ、今もまだ向こう側の世界の管理下にならないか、勧誘を続けているものね・・・。」

 朋美がため息交じりに教えてくれる。


 そうなのだ・・・2週間の過酷な業務を終えて自警団本部に帰ってきて報告を終えた後に、衝撃の話を告げられた。


-----------

「なんですって?

 フィリピンもイタリアもギリシャも、植民地支配から独立する気はないと返事をしてきたのですか?


 いったいどうして・・・円盤による支配はもうなくなっているし、更に近代国家として生まれ変わったことを継続したいのであれば、もはや各地域にその技術の結晶の工場があるのだから、それを引き継いでいけば今の生活は維持できるはずではないですか、隠し農場の家畜や作物を回収して回ったとようにね。


 ハンドアームマシンなどのガードマシンが何百台いたとしても、円盤の敵ではないと思いますよ。

 十分に戦えるはずです。」


 俺は、円盤で植民地化された地域に攻め込むつもりは毛頭ないが、独立を宣言した後でガードロボットによる粛清が予想されるから、ガードロボット退治のために出動するのは構わないと考えている。

 また、ガードロボット同士の戦闘が始まるのだと理解はしているつもりだ。


「いや・・・どうもそんなことではないらしい。

 確かに近代化された工場は大部分が自動化されていて、現地の人間が携わるのはごく一部だけだから、向こう側の世界の指導がなければ、工場を動かすのは難しいことが予想される。


 それでも霧島博士たち世界中の科学者たちに集合していただき、向こう側の世界の先端技術を解析してもらうことは可能と考えている。

 なにせ現物が目の前にあるわけだからね・・・、その原理まで深堀は難しくても、やり方の手順ぐらいはわかるだろうと予想している。


 ところが植民地の住民は今の生活に満足しているから、それを邪魔しないでくれと誰もが答えているようだ。

 これがどういうことかわかるかい?

 まさか無理やり向こう側の世界から独立させるわけにもいくまい・・・、なにせどこの国の住民にも選択の自由は保障されているわけだからね。


 つまり円盤を排除しても、植民地化された地域は戻ってはこないという事だ。

 だが、このままにしておくわけにもいかない・・・、なにせこのまま放っておいて、植民地化された地域が力をつけていくと、今度はそこから直接周りの国々を植民地化されてしまう危険性があるからだ。


 ガードマシンはすでに制作されているようだし、円盤だって作れるのは間違いがない。

 さらにマシンをコントロールできる人材は、向こう側の核シェルター内に多数いるわけだ。

 そう考えると、たったの8機の円盤を所有しただけで、勝ったつもりはできないという事が見えてくる。


 一つでも二つでも、植民地化された地域を独立させることができるよう、交渉していくしかない。

 逆に植民地化されてもいいから、進んだ科学文明の恩恵にあずかりたいという地域が、今後増えていくことは絶対に阻止しなければならない。


 もし1国でも向こう側の世界に下るような国が現れたら、恐らく雪崩式に後続する国が出て止まらなくなるだろう。

 それくらい、向こう側世界の文明は魅力的に映るのだ。


 悪いが明日から、順に回っていきたいので付き合ってくれ・・・。」

 赤城が非常に厳しい顔をしながら、明日以降の任務を告げる。

 これでまた当分は日本に戻ってこられないという事が明白だ・・・。

---------


「そうなると、また出張なのね・・・。

 困ったパパでちゅねー・・・、ちっとも家にいついてくれませんねー・・・。」

 朋美が順二を抱き上げて、悲しそうな顔をする。


 良かれと思って始めた自警団業務だが・・・、だんだんと負担が大きくなってきた。

 なにせ、世界の明日がかかってきそうな案件に、直接かかわっているのだ。

 人生の大半をぬくぬくと安穏とした日々しか過ごしてきていない俺にとって、あまりにも厳しい。


「まあでも、仕方がないわね・・・、この世界のために活動してくれているのだものね・・・。

 ジュンゾーにとっては向こう側の世界が指導する国でもどちらでもいいのかもしれないけれど、あたしにとってはそんな出会ったこともない人たちから指図されて働いていくのはごめんだわ。


 だから、向こう側の世界に支配されないよう活動してくれているのなら、文句は言いようがないものね。

 順二やあたしや園のことは心配せずに、頑張ってきて頂戴。」

 朋美がにっこりと笑顔を見せてくれる。


「いっ・・・いいのかい?」


「当たり前でしょ?ジュンゾーにしかできないことだから、ジュンゾーに頑張ってもらうしかないのよ。

 だから、こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


 朋美がそう言いながら少し頭を下げる。

 ありがたい・・・本当に・・・、流石我妻・・・というか・・・、朋美は最高だ。


「じゃあ、今日はゆっくり休んで・・・、せっかく持って帰ってきたのだから、ステーキにする?」

 朋美が、大きな肉の塊を持ち上げながら尋ねてくる。


「いやあ・・・、肉料理は毎日食べていたから・・・、今日は久しぶりに朋美の手料理が食べたい・・・。」


「でも・・・、今日はジュンゾーが帰ってくると思っていなかったから、園で作ってきたジャガイモの煮っ転がしと、ほうれんそうのお浸しくらいしかないのよ・・・。」

 朋美が申し訳なさそうに、鍋の中身を見せてくれる。


「ああ・・・、朋美の分しかないのであれば仕方がないね・・・。」


 ちょっとがっかりだが突然の帰宅だから仕方がないか・・・、なにせ寸前まで本当に帰れるかどうかわからなかったので、怖くて連絡もできなかった。

 どのみち、こちら側の世界では携帯電話は普及してないどころか、存在すらしていないから、働いている朋美に夕方連絡するのは至難の業だ。


「ああ・・・、量は・・・たくさんあるのよ・・・、なにせ3日分くらい確保してきたわけだから・・・、でも、ちょっと物足りないでしょ?」

 朋美が申し訳なさそうな顔をする。


「いやあ、そんなことは決してない・・・、朋美の手料理が一番さ。」

「そっ・・・そう?じゃあ、ご飯にする?」

 朋美が嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれる。



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