衛星処理
12 衛星処理
「じゃあ、安全のために4名だけこの部屋に残って、残りは移送された倉庫で待機してもらうことにするか?
無重力状態になるだろうから、様々な装置が並んでいる制御室内では座席についてシートベルトをしていないと危険だ。
残りは、倉庫内で横になったまま耐えていてもらうしかないだろうね。」
霧島博士がパネルの前の席について、シートベルトを自ら掛けながら話す。
「ああ、それなら客室のように席が設けてある部屋が途中にありましたから、そこで待機させましょう。
おい、新倉山君と阿蘇と私が一緒に残るから、残りのメンバーは座席のあった部屋に行ってシートベルトを締めて待機していてくれ。
阿蘇は、霧島博士と新倉山君からこれからの操縦方法を聞きながら、他国の円盤に説明してやってくれ。」
赤城がすぐに指示を出す。
『はい、分かりました。』
筑波たち他メンバーたちは、通路へ出て行った。
俺が前席の霧島博士の隣に腰かけ、後方に阿蘇と赤城が着席してシートベルトを装着する。
「じゃあ、行くぞ・・・まずは静止衛星軌道にまで一気に上昇する。
Hに36000と入力してからさらに0を三つ・・・、そうしてエンターだね?」
霧島博士が、マイコントロール装置に入力してから俺の方をちらりと横目で見るので、静止なんとかなんて何のことかよくわからないがとりあえず頷いておく。
行き先座標を入力してから、エンターキーの操作自体は間違いではないからだ。
すると、エレベーターで上昇するときのような軽いG(先ほどの移動の際のGよりは少し強め・・・)を一瞬味わったかと思ったら、すぐに体がふわりと・・・、シートベルトをしているので浮き上がることはなかったが、体重がなくなったかのような感覚に包まれる。
「ふうむ・・・恐らくこれが前部モニターで・・・、これがレーダー・・・と。」
霧島博士は、コックピット型の操作画面を扱ったことがあるかのように、次々とプログラムを起動していく。
俺なんか臆病者だから、何か下手な操作をしてフリーズさせてしまったり、元の状態に戻せなくなったりしてはいけないと、アイコンに触るにもそのプログラム名から機能を推察して、それが無理ならファイルの所在を確認してファイルと一緒に取扱説明書のテキストファイルが添付されていないか確認してからでないと起動しない。
少なくともヘルプファイルが独立していれば、ヘルプだけ起動させてどのような機能があるのかとか、操作方法の概略を理解してからでないと、本体プログラムを起動させること自体に戸惑いがあるのだが、霧島博士は怖いもの知らずというか・・・、誤った操作をして成層圏で乗客を放出するなんて操作だけはしないことを祈る。
まあ、倉庫には誰もいないはずだから、いいとは思うのだが・・・。
「おお映ったぞ・・・阿蘇君よ・・・、前方モニターのスイッチは操作画面右下の緑色の黒板のような四角のマークだと伝えてくれ。
矢印をスイッチのところに合わせると、フロントモニターと表示されるからそれをクリック。
さらに右クリックするとライトサイドモニターと表示されるからそれもクリック・・・、さらに右クリックすると・・、と繰り返して前後左右4方のモニターを起動させるように指示をしてくれ。
それとレーダーは・・・何だろうな・・・、まさにレーダーのようなパラボラアンテナの図だな。
矢印を合わせると、スキャナーと表示されるから、それをクリック。
右クリックすると、これまた方向が指定できるが、ここでも全方位を指定するよう指示してくれ。」
霧島博士が新人操縦者に、円盤の操作方法をレクチャーするかのように、手順を指示していく。
俺もそれを聞きながら、言われた通りに操作画面上のボタンをクリックしていく。
すると背後に気配が・・・、振り返ると巨大な熊・・・、ではなく後席に座っているはずの阿蘇が、ベルトを緩めたのか、身を乗り出して俺の背中越しに俺のコントロール装置のモニターを、のぞき見しているようだ。
仕方がないので体を傾けてモニターを見やすくしてやり、ゆっくりと霧島博士の言われた通りボタン操作を行ってやると、それを見ながら阿蘇が一生懸命無線機のマイクに向かって説明していっているようだ。
「私の予想では、この高度に攻撃衛星とやらを配置しているはずだ。
なにせ周回軌道を取れば多方面を攻撃可能ではあるが、衛星が回ってくるまでの時間は攻撃ができないわけだからね。
静止軌道で常にターゲットを狙える状態にしておくのが一番効率的だ。
何十機も配備するのであればいいが、最小限で済ますにはこの軌道が一番だろう。
ほうらヒットした・・・、WLHが22×25×21と表示されているから、20メートル四方より少し大きめの直方体だね。
核ミサイルを装備することは可能だろうと考える。
他の国の円盤は上がってきたのかね?
今から言う座標のターゲットをレーダーで捕捉するよう言ってみてくれ。
それができたら、4機ずつ2班に分かれて空の大掃除だ。」
おおそうか・・・攻撃衛星を見つけに来たというわけだ・・・、なにせいまだにどこの国もロケットを発射しようとしていないからな。
業を煮やしていたという事だろうな・・・、しかも敵円盤を奪い取って宣戦布告してしまったわけだから、核攻撃される危険性は増したわけだものな。
いくら向こう側の世界が核ミサイルは戦争状態に発展しても使用することはないといっていたとしても、最終的にどうなるかわからない。
所長も今回の行為を大変なことをしでかしたみたいに評していたし・・・、向こう側世界の報復措置はかなり厳しいものになることを覚悟しておく必要性があるというわけだ。
では、レーダーに表示される円盤に向けて攻撃を・・・、この円盤に積んである兵器は・・・高性能レーザー砲やミサイルなどち予想されるが・・・。
すぐに俺は、攻撃用武器のボタンがどこかに表示されていないか探して回る。
円盤の操作プログラムの中にきっとあるはずだが、もしなければタスクバーや、画面上になければその他のプログラムを表示させて探していくしかないのだが・・・。
「はい、7機すべての円盤が静止衛星軌道に達しました。
座標を指示しましたので、現在こちらに向かっているようです。」
阿蘇が俺の後方から他チームの状況を説明する。
「ふむそうか・・・おお、確かに2機はすでにレーダーの範囲内に入ってきたな。
他の5機もいずれやってくるわけだ。」
まずいな・・・・、他国の円盤が来る前に攻撃プログラムを見つけて、手順を説明できるくらいになっていなければ・・・焦る焦る・・・。
しかし、霧島博士のように検索能力に秀でていないのか、なかなか目的のスイッチやプログラムが見つからない。
まあそうだろうな・・・、レーザー砲やロケット砲のプログラムが常に画面上に出ていたら、ちょっとタッチを誤っただけで火器が発射されてしまうから、攻撃の許可を得てからプログラムを起動させるのだろう。
そうなると間違いなく別プログラムのはずだ・・、その他プログラムにそれらしい名称がないか順にみていく。
「新倉山君・・・四方のモニター画面を起動させると、操作画面上に前後左右および上下方向に向けて矢印が表示される。
これはここをクリックすると、行きたい方向へ円盤を向けられると解釈してもいいのかね?」
俺が必死でプログラムを探し回っていると、隣から質問が・・・・。
「はい・・・ああそうですね・・・、この円盤を動かすときは座標を直接入力してダイレクトにその場へ直行する方法と、前後左右のモニターを見ながら動かす方法の2つのやり方があるようですね。
モニター画面を起動させた状態では、マシンの操作とよく似ていますから、もしかすると・・・、ああやっぱりそうですね、テンキー及びシフトスペースキーで前後左右上下にも動かせるようです。」
とりあえず質問に答えなければ・・・、と思い少し操作してみて手順を説明する。
「そうか・・・おお、そろったようだな・・・、それでは4機ずつ四角形のフォーメーションを取るように指示してくれ。
下側の2機は腹を上に向けるように・・・、まあ無重力だからどちらが上もないのだがね・・、地球側をとりあえず下側としておく。
座標位置についてからの操作手順は、新倉山君から説明してやってくれ。」
すると霧島が奇妙なことを言い始めた。
編隊飛行でも始めるのか?まだ、攻撃プログラムが見つかっていないというのに・・・。
「まずは立ち上がっているモニターのプログラムをアクティブにする・・・、といっても円盤の外の景色が映し出されているモニターを触るだけだ・・・。
前後左右どれを触ってもいいが、触ったモニターが正面・・・、つまり前進する方向に設定されるようだから、まずは我々の円盤が映し出されているモニターをクリックしてみてくれ。」
まあ仕方がない・・・、まずは操作手順を分かりやすく説明していく。
攻撃することになったら、皆でプログラムを探そう。
「そうして4機ずつ別れたら、地球側の2機が反転して腹を上に向ける・・・。」
俺はそう言いながら、シフトを押しながらスペースキーと左キーを押して、円盤を反転させて見せる。
反転して髪の毛が逆立つかと思ったら、何も起こらない・・・無重力だから・・・。
「ではこのまま、目標である巨大衛星に向けて出発だ・・。
他の4機はレーダー範囲を少し広げて、次なるターゲットを探して行ってくれ。
この地点から2方向に分かれてらせん状に地球外周を回り、静止軌道上にいる巨大衛星を全て向こう側の世界に送り返す。
いいね!」
おおそうか・・・、そういえば次元移送装置を円盤下部に結び付けるよう指示していたのだった。
それで4機ずつ1チームなのだ・・・、次元移送装置で攻撃衛星と思しき衛星はすべて送り返してしまうつもりなのだ。
これならわざわざ破壊せずとも、安全に処理できるというわけだ・・・、ごみも出ないしね。
阿蘇が指示通り説明し他の3機と呼吸を合わせながら、攻撃衛星を取り囲むようにして通り過ぎると、円盤後方に感知されていたはずの衛星の姿が消えうせる。
向こう側の世界へ移送されたという事だ。
これを延々と続け、地球外周の静止軌道上の衛星はすべて処理を終えた。
「じゃあ、戻るとするか・・・、もっと低い軌道上には、たくさんの衛星があることも分かっているがね・・・、流石に全部までは手が出ないから、今日のところはここまでにしよう。
まだまだ円盤を使ってやるべきことはたくさんあるからね。」
霧島博士の指示で、8機の円盤は各国の軍本部に着陸するよう、指示された。
地上5メートルくらいの高度を指定しておけば、そのまま動かないで宙に浮いているようだ。
この辺はマシンと同様の、原理の分からない浮力を有していると言える。
円盤の乗り降りは管理者IDで起動したコントロール装置があれば、外からでも電波が届きさえすれば可能なようで、遠隔操作ももう少し解析すれば可能となるだろうと、霧島博士は自信満々だ。
円盤のエネルギーは光子エンジンを核融合とやらで動かしているので、当面燃料補給の必要性はないらしいし、燃料供給の際は、海水をくみ上げるだけというお手軽さだ。
「じゃあ、まるまる5日間にわたる任務で疲れただろうから、明日は休日とする。
とりあえずの脅威である攻撃衛星と思しき衛星は処理済みなので、まあゆっくり休んでくれ。」
自警団基地のグラウンドに円盤を浮かばせておいたまま、ようやく解散となった。
長かった・・・、なにせ山登りで3日かかったわけだからな。
「お帰り・・・、無事帰ってこられたんだね、よかった・・・。」
アパートの部屋に帰ったら、朋美が涙を流して喜んでくれた。
『ダダダッ』「パーパ、お土産・・・。」
すぐに小さな影が駆け寄ってくる。
「おお・・・お土産は忘れたわけじゃないんだけど・・・、今回の任務は外国周りと違って山登りだったから、お土産はなしなんだよ・・・。」
順二の頭をなぜながら、両手を開いて何も持っていないことを見せる。
ううむ・・・あの着ぐるみがあれば、ぬいぐるみ替わりにはなったのかもしれないが・・・。
「こらこら・・・、パパの顔を見るたびにお土産をせびってはいけないでしょ!
パパが帰ってこられただけでも、ありがたいんだから感謝しなさい。」
すぐに朋美が、順二を叱りつける。
「まあまあ・・・諸外国巡り同様今回も数日家を空けたから、出張旅行だと思ったんだろう、仕方がないさ。
途中、危ない場面もなかったことはないけど、何とか切り抜けられたよ。
筑波ともあまりもめることがなかったしね・・・、赤城さんがいてくれたおかげだよ。」
あまり詳しく一部始終を話しても仕方がないので、とりあえずの顛末だけを説明しておく。
「へえ・・・赤城教官も一緒に作戦に・・・、じゃあ、もう傷は癒えたという事ね、よかったわ・・・。
世界中で円盤を奪取したり、できなかった円盤は爆破したという報道は、今日のお昼のニュースで流れたのよ。
国によってはけが人が出たようだけど、一人の犠牲者も出さずに作戦大成功だって言っていたから、安心はしていたんだけど、やっぱり顔を見ないことには気持ちが落ち着かなかったわ。」
キッチンに立つ朋美が、満面の笑みを浮かべる。
「ああそうだね・・・正確には奪取できなかったんじゃあなくて、しなかったといった方がいのかな・・・。
コントロール装置の数に限りがあったからね・・・、操作できない国の円盤は爆弾を送り込んだというわけさ。
まあこれで・・・高品質の食肉や最新ファッションの供給が止まってしまうから、一部の業者は軍部を訴えてくるかもしれないね・・・。」
そんなことになるはずもないのだが・・・、確かに高級ブランド化した肉の供給まで止まってしまうのは、ちょっと惜しい気持ちがある。